先日、中山美穂の追悼として、映画『Love Letter』を観賞したことで、同じ岩井俊二の監督作品である『ラストレター』が観たくなり、DVDを購入した。この映画は2020年に公開された作品で、当時もかなり気になっていた作品だが、うっかりシネコンで観そびれてしまい、そのままになってしまっていた。そして遅れること4年、ようやく今回観賞することが出来た。
キャスト陣は、松たか子、福山雅治、広瀬すず、森七菜、神木隆之介という何とも豪華な顔ぶれ。それぞれ主役を張れるような俳優陣の共演である。そして、『Love Letter』で主要キャストを演じた中山美穂と豊川悦司もチョイ役で出演しているのも嬉しい。まだたった4年前の作品ながら、広瀬すずもかなり若いし、この映画に出演した2020年以降大ブレイクを果たした森七菜もまだ初々しさが残り、更に主題歌まで担当しているのだ。
この映画は『Love Letter』をかなり意図的に意識した映画となっていることはタイトルからも明白。2018年に岩井俊二の原作小説版がまず出版され、その後映画化された。
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(あらすじ)
ある7月、宮城県白石市八幡町、岸辺野裕里(松たか子)の実家である遠野家では、姉の遠野未咲(広瀬すず)のお弔いが行われていた。44歳という若さでの病死に周囲からは悲しみの声が上がるが、彼女の本当の死因は自殺であった。お弔いが終わり、裕里は自身の子供たちを連れて自宅へ帰ろうとするが、娘の颯香(森七菜)は「夏休みだからしばらく従姉妹の鮎美と過ごす」と言い、実家に残ることになる。帰り際、未咲の娘である鮎美(広瀬すず(2役))から「母宛に高校の同窓会のお知らせが来ている」と相談された裕里は「自分から連絡しておく」とお知らせを受け取り、息子の瑛斗と共に自宅へ戻る。
同総会当日、姉の未咲が7月末に亡くなったと知らせるつもりで会場に行った裕里だったが、姉の同窓生たちから姉と間違われてしまう。姉は男女問わず人気者であったため人だかりができてしまい、とても否定できる雰囲気ではなくなったため訂正もせず姉として振る舞うことになった。当初の目的を果たせないまま一足先に会場を去り、疲れた顔でバスを待っていると、見知った顔である乙坂鏡史郎(福山雅治)が話しかけてきた。「話をしたかったので追いかけてきた」と鏡史郎は言い、飲みなおさないかと誘われるが、ここでも正体は明かさず連絡先だけを交換して別れる。その後、「25年間、ずっと愛していました」とのメッセージが届くが、「オバサンをからかわないでください」と返信する。
帰宅後、夫の宗二郎(庵野秀明)から同窓会の様子を訊かれ「姉に間違われたけれど訂正できずにスピーチまでさせられた」と話し、風呂へ入る。風呂の間、ダイニングテーブルに置いたスマホに鏡史郎からの通知が届き、文面を読んだ宗二郎は浮気だと誤解して風呂場で裕里を問い詰め、その拍子にスマホが湯船に沈んでしまう。スマホが使えない間に鏡史郎からの連絡が来ていたのではないかと考えた裕里は、「夫があなたからのメッセージで浮気を疑いスマホを壊されたので、もし何かメッセージを送っていても読めていない」と手紙を書き、自身の住所は書かずに未咲の名前で投函する。
裕里からの手紙に申し訳なくなった鏡史郎は「やはり僕のせいですかね?話し相手ならいつでも」と返事を書くが、宛先が判らないため高校の卒業アルバムに記してあった未咲の連絡先へと送る。その住所は未咲と裕里の実家であり、現在は裕里の父母と鮎美が暮らしている。訳も分からず鏡史郎からの手紙を受け取った鮎美と颯香は「自分たちが母(伯母)未咲に代わって返事を書こう」と企む。
その後、鏡史郎には裕里が書いた手紙と、鮎美・颯香の書いた手紙が届くようになる。未咲に成りすました彼女たちから「私とのことをどのくらい覚えていますか?」と聞かれた鏡史郎は、自身が高校三年次に転校してきたこと、一番席が近かったクラスメイトの男子に誘われ生物部に入部し、そこで後輩の裕里に出会ったこと、部活中裕里に「うちの姉は美人の生徒会長でいつも比べられている」と聞かされ、「(マスクの下の)顔を見たことが無い」と言ったら「写真を見ますか?」と自宅に誘われて昔のアルバムを見たこと、その後の帰り道で未咲に出会い、気を利かせた裕里が彼女のマスクを外したため初めて顔を認識し、一目惚れしたことを手紙にしたためる。
入院していたが無事退院した義母の昭子は、宗二郎・裕里宅で暫く静養することとなる。昭子から手紙の投函を頼まれた裕里は、宛先である男性宅に届けに行き、義母との話を聞く。昭子は同窓会の折に再会した高校時代の恩師・波止場正三に英語の手紙の添削をしてもらっていたのであった。義母への手紙の返事がないことを心配した裕里が理由を聞くと、ぎっくり腰を起こして倒れそうになった昭子の体を支えようとした際に手を痛め、動かすことができなくなったという。正三の手に巻かれた包帯を見た裕里は、怪我が治るまで代わりに添削を書くことにする。そして、鏡史郎への手紙もここで書くことにした裕里は、正三に許可をとり、正三の住所を連絡先として鏡史郎に教えるが、後日鏡史郎が正三宅にやってきてしまう。突然の訪問に焦る裕里に鏡史郎は、同窓会の時から自身が未咲ではなく裕里と判っていたと話す。そして本当の未咲の様子を訊かれた裕里は、7月末に自殺したことを伝える。実は鏡史郎は大学時代に未咲と付き合っていたが、その後未咲は駆け落ちするように阿藤と結婚していた。
遡ること高校時代、裕里は自身の気持ちを隠して鏡史郎の恋愛相談に乗っていたが、彼に頼まれた未咲宛のラブレターを当人に渡していなかった。
長年思い続けていた未咲が亡くなっていたことを知った鏡史郎は、自身と別れてからの未咲について調べるため、かつて未咲が阿藤と住んでいたアパートを訪ねると、阿藤の現在の連れ合いであるサカエ(中山美穂)に迎えられる。自身は未咲の知り合いだと話すと阿藤(豊川悦司)が待つ居酒屋へ案内され、数十年ぶりに彼と再会する。阿藤は未咲と鮎美への仕打ちを後悔するそぶりも見せないどころか、未咲が亡くなったことも知らずにいた。
後日、鏡史郎は廃校となった母校を訪ね、校舎内を撮影する。そして、偶然学校に遊びに来ていた鮎美と颯香を見かけて驚き、声をかける。鮎美は声をかけてきた男が母親の昔の恋人、鏡史郎だと分かり、自宅へ誘う。そこでやっと鏡史郎は未咲に再会し、線香をあげることができたのであった。
想いを遂げた鏡史郎は裕里の働く図書館を訪れ、東京へと戻り小説家として再出発することに決めたと告げる。別れ際、裕里は憧れの先輩であった鏡史郎と初めて握手を交わしたことで少女のように喜び、姉がモデルである彼の作品にサインを頼んだ。物語のラストで、鮎美はこれまで開ける気の起きなかった「母からの手紙」を開封する。
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この映画を観賞した感想だが、ひょんなきっかけから、亡くなってしまった人に手紙を出すことで不思議な文通が始まるという設定や、過去と現在を行ったり来たりしながら物語を紡いでいく構成、地方都市を舞台にしている点(『Love Letter』は小樽、『ラストレター』では宮城県白石市)、学校・校舎で写真を撮るシーンや、主人公が働く場所として図書館が登場する点などは、『Love Letter』にも共通している。また、中山美穂と豊悦も出演している点も、共通項を作ろうとする意図も伺える。
『ラストレター』は、『Love Letter』と比べてしまうと少し残念に思ってしまった点も多かったものの、岩井俊二らしさも随所に見られたのは良かった。まずは地方の美しい自然の景色を見事に捉えていたこと。この点は岩井監督作品に一貫して共通している点である。特に本作は岩井監督の地元でもある宮城県白石市ということもあり、活き活きとした描写は見事であった。また女性を描くのも実に上手い。松たか子もいい意味でちょっと素敵なおばさんぶりが見事であったし、広瀬すずと森七菜にいたってはとても瑞々しく撮られており、さすがと言わざるを得ない。また、福山演じる鏡史郎が、高校生の鮎美と颯香の2人と学校内で遭遇する場面などは実に美しく、印象的なシーンとなっていた。福山も本来のイケメンぶりをやや封印し、しがない小説家を上手く演じていた点も好感が持てた。
上記の通り、映画全体としては楽しめたが、やはり『Love Letter』の方が遥かに無駄のない、引き締まった映画であったと思うし、どうしてもプロットからすると『Love Letter』の二番煎じ感は否めない。『ラストレター』はやや全体的にちょっと凝り過ぎ&詰め込み過ぎた印象があり、最初から感動を置きに行ったように感じてしまった。
また幾つか違和感を覚えた設定などもあった。例えば、亡くなってしまった姉、物語の重要なきっかけとなる設定として、未咲の同窓会に妹の裕里が参加して姉に間違われてしまうという設定や(双子でもあるまいし、そんなことある?)、裕里と鮎美の両方から手紙が届く筈の鏡史郎だが、字体の違う未咲からそれぞれ届いていた筈の手紙に違和感を覚えなかったのか。また、後に鏡史郎が何故か実家ではなく、裕里が差出人住所として借りていた家を訪ねるくだりも、なんとなく違和感があり(実家からも手紙が来ていた筈だし、実家には高校時代にも訪れている筈なのに、なぜ実家を真っ先に訪れなかったのか・・・等々)、幾つか疑問に思うことがをあった。また、亡くなった未咲の大学生時代のエピソード(なぜ鏡史郎と未咲は結局結ばれなかったのか?)の説明がもう少しあった方が、よりしっくりきたような気もするが、あえてそうしたのかもしれない(物語の中では、豊悦が演じる阿藤が語ることでのみ大学時代の様子が少し伺えるが、詳細はわからずじまい)。また、今回はスマホが既に発達した環境の中で、如何に手紙で文通させるかというアイディアにも苦労が伺えるが、スマホが水没してしまうことで手紙を書きだすという設定となっている点も、スマホが実際なかった『Love Letter』が制作された時代と比較すると、やや無理矢理感があるのも否めない。
主演陣の中では、鏡史郎の高校時代を演じた神木の良さがやや活かされていないようにも感じてしまった点と、裕里の夫役を演じた庵野秀明もイマイチ違和感があり、これは配役ミスだったような気もした。もう少し他の適任だった役者がいたのではないかと思う。
映画としてはまずまず楽しめたし、岩井俊二の世界観を体感することが出来たのは良かった。また亡き中山美穂の出演作としても一見の価値がある映画であったと思う。しかし、やはり僕の中では岩井俊二をもってしても『Love Letter』の美しさ・繊細さを超える作品はなかなか無いということも改めて痛感した。でも、逆に『ラストレター』を通じて、『Love Letter』の素晴らしさをも再認識することが出来たという点では、とても貴重な映画であった。また少し時間を置いて再観賞したいと思う。