先日、WOWOWで中山美穂の追悼として、岩井俊二監督の名作『Love Letter』が放送されていたので、久しぶりに録画して、じっくり観賞した。『Love Letter』は恐らく僕が一番好きな邦画ではないかと思うほど公開当時から大好きな作品で、この映画をきっかけに岩井俊二監督の映画にハマった記念すべき作品でもある。大好きな作品だけあって、昔からDVDも持っているのでいつでも観れるのだが、またじっくり中山美穂に浸りたいと思っていた矢先にWOWOWでの放送されたのはタイムリーであった。
『Love Letter』は1995年に公開された映画だが、小樽と神戸を舞台にした感動的なラブストーリー。公開当時僕は社会人3年目であったが、そのあまりにも切ない奇跡の物語に感動したことを今でも鮮明に覚えているし、当時中山美穂もその人気のピークに差し掛かっていたが、映画でのその演技力も高い評価を得て、映画自体も数々の映画賞などを総なめした。岩井俊二もこの作品で一躍有名監督の仲間入りを果たした出世作と言える。
物語はちょっと不思議なラブストーリーだが、この作品は後に1999年に日本映画公開が解禁となった後の韓国でも公開され、多くのアジア諸国でも大ヒットした作品。どこか韓国ドラマにある懐かしい哀愁が漂う、何とも美しい作品だが、韓国でも人気になるのが凄く良くわかる、独特の雰囲気を持つ映画だ。激しい感動作というよりは、ボディーブローのようにじわじわと感動が波のように押し寄せてくる・・。そして映画を観終わった後、静かな余韻が残る。そんな素敵な映画である。雪のシーンも多く、小樽の美しい風景も映画を見事に盛り立てる。
主演は中山美穂。しかも2役という作品なので、中山美穂ファンにとっては最高の作品だ。彼女のナチュラルな可愛らしさ、美しさが永遠に封印された彼女の最高傑作であると言える。
物語は同姓同名の藤井樹という男女にまつわる、ひょんな誤解から生じたラブストーリー。神戸に住む渡辺博子は、婚約者で山岳事故で亡くなった藤井樹の三回忌に参列したあと、彼の母・安代から彼の中学時代の卒業アルバムを見せてもらう。博子はそのアルバムに載っていた、彼が昔住んでいたという小樽の住所へ「お元気ですか」とあてのない手紙を出す。博子の手紙は、小樽の図書館職員で同姓同名の女性・藤井樹のもとに届く。樹は不審に思いながら返事を出すと、博子からも返事がくる。奇妙な文通を続けていたが、博子の友人・秋葉茂の問い合わせで事情が判明する。博子は樹に謝罪し、婚約者だった藤井のことをもっと知りたいと手紙を出す。
樹は藤井とクラスメイトだった中学時代の思い出を手紙に綴る。同姓同名の二人の藤井樹はクラスで囃し立てられ、図書委員にされてしまう。女子の樹は誰も借りない本ばかり借りるなどの風変わりな男子の藤井に戸惑う。博子から樹に学校を撮ってきてほしいとインスタントカメラが送られてくる。樹は久しぶりに母校を訪ね、図書委員の女子生徒たちから、図書カードに残る「藤井樹探しゲーム」が流行っていると聞かされる。
秋葉茂は博子を連れて、藤井樹が死んだ山のふもとの山小屋に泊まる。小樽の樹は風邪をこじらせて倒れる。樹の父親は救急車が間に合わず亡くなっていた。祖父の剛吉は吹雪の中、樹を背負って病院に運ぶ。樹は祖父とともに入院する。翌朝、秋葉は藤井が死んだ山に向かって「博子ちゃんは俺がもろたで」と叫ぶ。博子は「お元気ですか。私は元気です」と繰り返し呼びかけて号泣、ようやく藤井への思いを断ち切る。小樽の樹も病床からうわごとで「お元気ですか」とつぶやく。
小樽の樹は中学3年の正月に父親を亡くしたが、なぜか藤井が訪ねてきて図書室で借りた本を樹に預けて引っ越していった。博子は退院した樹に今までもらった手紙を「あなたの思い出だから」と送り返し、藤井は図書カードに樹の名前を書いていたのではないかと問う手紙を添える。樹の家に図書委員の女子生徒たちが訪ねてくる。藤井が樹に預けた本の図書カードの裏には、樹の似顔絵が描かれていた。樹は藤井の初恋に気付き照れながら涙ぐむ・・・。
図書カードの裏に描かれたクラスメイトの藤井樹の似顔絵・・・。男性の藤井樹は同姓同名のクラスメイト、藤井樹に実は恋をしていたということがラストで判明するという、何とも美しいラブストーリー。そしてその藤井樹に良く似た、渡辺博子と婚約したということがわかり、博子はちょっと複雑な思いもありながら、亡くなってしまった婚約者藤井樹への想いを断ち切ろうとする。雪山に向かって、“お元気ですか~。私は元気でーす!”と叫ぶ中山美穂のシーンは、映画史に残る名シーンである。小樽の藤井樹も、同級生の藤井樹の想いを大人になった今知ったことで照れ臭く思うのだが、藤井樹と渡辺博子という2人の女性にまつわるラブストーリーが交叉しあいながら紡がれ、感動が胸を打つ。何とも甘酸っぱくて、切ない純愛である。中学時代と現在の時空を行き来しながら、長年閉じられたままだった思い出のページが開かれていくという芸術的な物語展開の美しさは、さすが岩井俊二の妙である。
映画の個性豊かな共演陣にも触れておきたい。藤井樹(男性)の山岳部仲間で、渡辺博子に恋している秋葉役に豊川悦司。映画ではちょっとチャラい役柄で、例えば映画公開と同じ年に放送された、聴覚障害者の青年を演じたドラマ『愛していると言ってくれ』とは対照的なキャラクターであったが、亡くなった藤井樹との対比キャラとして上手く映画で描かれていたと思う。中学生時代の藤井樹(女性)を酒井美紀、藤井樹(男性)を柏原崇がそれぞれ好演。また他には若い頃の光石研や、懐かしいところでは、当時良くバラエティー番組でも見かけていた鈴木蘭々や篠原勝之なども出演。そして渡辺博子の母親を加賀まりこが演じている。
そして最後に、忘れてはならないのが美しい映画音楽。この映画のサントラをREMEDIOSが手掛けているが、当時はドラマ音楽に引っ張りだこであった。僕も『Love Letter』の音楽にすっかり魅了されてしまい、当時サントラCDを購入し、今でも大切に保管しているが、美しく切ない曲を聴くと、すぐに感動的な映画のシーンが浮かんで心が揺さぶられる。映画と音楽がマッチして見事な化学反応を引き起こした好例だと思う。REMEDIOSは、1996年に放送された本木雅弘、鶴田真由主演ドラマ『君と出逢ってから』もサントラを手掛けており、こちらもCDを購入して持っているが、このドラマも大好きな作品の一つである。
今回、久しぶりに『Love Letter』を見て、改めて色褪せない名作であり、時代を経ても変わらぬ感動作であることを再認識した。そしてこの映画を観るたびに、むしょうに小樽を訪れたくなってしまう。美しき中山美穂にも思いを馳せながら、これからもこの映画は邦画の名作として語り継がれていく作品ではないかと思う。