今週末は、Amazon Prime Videoで芦川いづみの主演作、『青春を返せ』を観賞した。1963年に公開された日活映画で、この年は僕の好きな芦川いづみ作品の一つである『その人は遠く』や、『青い山脈』、『美しい暦』などが公開された年でもある。ちょうどこの頃の芦川いづみは、1958-1962年頃の旬をやや過ぎ始めた頃だが、大人の美しさという意味ではピークに達していた時期でもある。その意味で、この作品は前から気になっていたのだが、ちょっとテーマが地味だったので観るのが後回しにしていた作品だ。
しかし今回この映画を観て、後回しにしていたことを後悔してしまった。確かに地味なストーリーなのだが、芦川いづみ主演作としてはとても魅力満載で、見どころの多い作品であった。
まずは物語に触れておきたい。
須田家は父親を亡くし、長男・益夫(長門裕之)が一家の生活を支えていた。妹の敦子(芦川いづみ)は社会人一年生。兄妹は母を励ましながら将来に胸をはずませていた。 隣家の美子は益夫の恋人。笑いの渦がたえない平和な毎日。しかしそんなある日、未亡人殺人事件が起き、事件が発生した夜に仕事で顧客先の被害者宅に出入りした益夫が、殺人容疑で連行された。凶器についた指紋、付近の煙草屋と居酒屋の証言、服地にしみついた血液模様、そして事件発生後に益夫とすれ違ったという職人・高木の証言…万事が益夫に不利だった。「俺は犯人じゃない!」と泣き叫ぶ益夫を刑事は執拗に責めたて、自供を強要。調書をデッチ上げ、益夫に死刑の判決が下された。四年の歳月が流れ、敦子は兄の無実の罪を訴え上告したが、証拠不十分で棄却された。母は息子の死刑に絶望し、自殺してしまい、恋人だった美子も他の男性と結婚してしまう。「私がきっと兄さんを助け出してみせる!」堅く心に誓い証拠集めに奔走する敦子は、やがて煙草屋と居酒屋の証言には根拠のないことがわかるが…。
“間違われた男”プロット、冤罪事件を取り扱った刑事・裁判物語だが、全編モノクロで描かれていることで、更にシリアスで地味なトーンに支配された映画になっている。しかし、物語はとても丁寧に描かれて良く出来ていて、個人的には同じシリアストーンの『その壁を砕け』よりも、こちらの方が好みであったし、純粋に映画としてはこちらの方が面白いと感じた。
そして何よりも、本作の中の芦川いづみが何とも美しい! ため息の出る美しさである。
コートにマフラーを巻いて、短めのソックスを履く姿が普通っぽくて何とも愛おしく可愛いし、兄の無実を証明する為クラブやおでん屋で働きながら生計を立てる姿が何とも泣けてくるのだが、その切なさがまた美しさに拍車をかける。おでん屋でのエプロン姿も可愛いのだ。
時折、捜査が進展して希望が見える時に何とも可愛い笑顔を見せるので、全体的には暗い映画の中でも、芦川いづみの様々な喜怒哀楽の表情が思いっきり楽しめる作品に仕上がっている点も見逃せない。
兄の無罪を信じ、それを証明する為必死で証言や証拠を集める芦川いづみの孤軍奮闘と執念には思わず感動してしまったが、ラストで兄の無罪が証明されるものの、芦川いづみは交通事故が原因で兄との再会を果たしたところで息を引き取るというなんとも悲劇的で悲しいエンディングとなっているが、兄を始め、数名の人生を救うと言う、尊い役目を果たして物語は終わる。
共演陣は日活映画にお馴染みの長門裕之、芦田伸介、大滝秀治、そして後に芦川いづみと結婚する藤竜也など。それにしても、当時は藤竜也が本当に脇役で、しかも今回も真犯人の役だったりと、まだ良い役には恵まれていない頃で、既に日活のスター女優であった芦川いづみとの格差は確かにあったことが確認出来る。
地味な映画ではあるが、芦川いづみがメインキャストとしてフル主演している映画で、彼女の魅力を満喫出来る映画としてはかなり貴重、且つ感動的な“いづみ遺産“の一作であったと感じてしまった。『青春を返せ』は、これまで観た芦川いづみ作品の中でもトップ10に入り込む名作であった。本当に今回観て良かった~!