日本漫画史における金字塔として名高い、手塚治虫不朽の名作、『来るべき世界』。これは1951年に大阪の不二書房から刊行された上下巻2冊の書き下ろし単行本/SF漫画。『ロストワールド』、『メトロポリス』と並んで、手塚治虫の“初期SF3部作”と呼ばれる名作・大作漫画である。
現在では、オリジナルの初版本が数十万円もしてしまうような代物で、マニア・コレクターの間では垂涎もののレア本としては最高峰の1冊である。僕は小学生の頃に文庫本などで読んでいたが、後にこれまた結構貴重な復刻本などをコレクションとして持っている。何度読んでも名作であり、今読んでもワクワクする内容だが、1951年当時にこれを初めて手にした子供たちの衝撃は想像をはるかに超えるものだったと思う。
先日、なんとまたまた貴重な『来るべき世界』関連書物を2冊入手することが出来た。1冊はこちら1972年に筑摩書房から刊行された『少年漫画劇場シリーズ』の『来るべき世界』初版本。この『少年漫画劇場』というのは全12冊で当時出版されたもので、戦後の少年漫画などを代表する作品を取り上げたシリーズだ。その3巻目は『来るべき世界』だけを取り上げたものだった。実はこれ結構貴重なもので、オリジナルの1951年の単行本から数えて2番目に出版されたバージョンなので、市場ではかなりレアで入手困難なものだ。しかし、今回かなりキレイな状態で掘り出し物を神保町で見つけることに成功したのでラッキーである。
そしてもう1冊は、1994年に手塚プロダクションから直々に出版された『来るべき世界 構想ノート』である。帯に、“これは漫画にあらず、小説にあらず、構想ノート”と書いてあるが、手塚治虫が亡くなった後に手塚プロダクション内で、若き日の下書きノートが発見され、その中にあった『来るべき世界』執筆時の構想や下書きが描かれている貴重な資料を1冊の本に纏めたものである。後に更なる下書きノートの内容が公開・出版されているが、『来るべき世界』だけの構想を纏めてそのまま掲載している本書はかなり貴重な資料である。また、『来るべき世界』は、元々『ノア』というタイトルが付いていたこともこの構想ノートから確認出来るのも興味深い。
手塚治虫の『来るべき世界』は約300ページの長編漫画なのだが、実は元々1,000ページ以上あったものを、出版社からの要請で泣く泣く300ページに短縮したことは有名な話となっている。本書にたくさん掲載されているラフなスケッチなどを見ていると、改めて『来るべき世界』という作品の偉業と、手塚治虫の非凡な才能を痛感してしまう。ある意味手塚治虫は漫画家にとどまらず、その発想力・構想力はレオナルド・ダヴィンチにも通ずるものがあるのだ。
今回、新たに購入した2冊の貴重な本により、また久しぶりに『来るべき世界』の魅力に触れる良い機会となった。