かなり前にもブログで取り上げたことがあるが、僕の大好きな画家の1人に、英国の画家マッケンジー・ソープがいる。
僕が最初にマッケンジー・ソープの作品に出会ったのは2000年頃、シリコンバレーに駐在していた時にサンフランシスコ北のギャラリーが多く集まるSausalitoという町のとあるギャラリーで発見したこちらの作品「Hope, Love and Joy」だった。この絵は、四角い体に、黒く小さな顔がちょこんと上に乗っている、黄、赤、青の3色の羊をモチーフにした作品で、本当に心を暖かくしてくれるようなその鮮やかな色使いと優しいタッチの作品で、実にポップ性も高い。この作品は限定版画でかなりサイズ的にも大型の作品だったのでやや高価ではあったが、一瞬でこの作品にほれ込んでしまい、即購入を決定しまうほど心を動かされてしまった。
その数年後、今度はサンノゼのギャラリーで購入したのが、「In Love」というこちらの可愛い作品。こちらは兄弟2人の可愛い子供(マッケンジーの2人の子供達を描いていると思われる)が大きな赤いハートの上で座っている作品で、強烈なインパクトに思わず一発で惹かれてしまい、衝動買いしてしまった。やはり限定版画だが、「Hope, Love and Joy」よりは小さい作品。
この2作品は、現在でも自宅の玄関と廊下に大切に飾られている、我が家の家宝である。彼の優しい色使いと、可愛い動物たち(牛や羊など)がベースとなっている作品は、実に心が和む。また、僕のイラスト制作においてこれまで大きなインスピレーションとなってきた。
上記『Hope, Love and joy』もそうだが、彼の作品には「羊」はしばしば登場する。羊はいわば彼のトレードマークの1つのになっているが、これ以外にも「Mother and Daughter」、「We are family」、「High on love」、「A good morning kiss」など、四角い体の羊が、「家族」又は「親子」の形で現れる作品が実に多い。その優しいタッチと暖かい色使いで表現する「暖かい家族」像は凄く心を和ませてくれる。ちょっと変わった”四角い羊”のモチーフは、社会の中で変わった存在であったマッケンジー自身を表しているものであると言われている。
マッケンジーの作品には『In Love』のように「赤いハート」も頻繁に登場するが、こちらも羊同様、彼のトレードマークの一つになっている。他にも「All is love」、「Riding with love」、「Sitting on love」(小型彫刻作品)など数多く存在する。作品のタイトルからもわかる通り、赤いハートは「愛」を表しているが、マッケンジーの繊細で暖かい色使いには本当に和まされる。
マッケンジー・ソープの作品集は2000年に出版された『From the Heart』と2007年に出版された『A Crossroads』など何冊か持っているが、前から欲しいと思っていたが入手出来ずにいた『The Message of Love』という作品集を購入することが出来た。これまで持っていた2冊はハードカバーの洋書で、それぞれアメリカで購入したものだったが、今回入手したのは日本で編集・出版されたもの。日本でマッケンジー・ソープ作品の総代理店を勤めている江夏画廊が企画・編集したものだ。
今回入手出来たのは、なんとマッケンジー・ソープの直筆サイン入りのものなので、恐らく江夏画廊に以前マッケンジー・ソープが来日した際、イベント等でサインしたものではないかと思われる。彼は親日家としても知られ、かなり頻繁に来日もしているようだ。僕も以前、江夏画廊はソープの作品展で訪れたことがあるが、まだ御本人にはお会い出来ずにいる。
他の作品集同様、この『The Message of Love』もマッケンジー・ソープの“羊”や“ハート”作品が満載で、可愛い子供たちと猫や犬の動物などが明るいパステルトーンで描かれており、見ているだけでほっこりしてしまう。
しかし、彼の作品には暗いトーンのものや、孤独感を感じるもの、顔の無い子供たちなどの絵も多い。これは生と死という人間における二面性を彼なりの解釈で捉えたものだが、根底にはマッケンジー・ソープの愛と平和に対する願いが込められているのだ。
マッケンジー・ソープは、幼い頃から”難読症”という読み書きが充分に出来ない障害を抱えており、その関係で学校でも勉強や試験がうまく出来ず苦労したらしい。ある程度大きくなってからは造船所で働き、暗い船底などを磨く仕事をしていたが(この頃の経験を後に絵にした作品も多い)、どうやらこれも長くは続かなかった模様。やがてこの仕事も解雇されることになり、仕事も無いどん底の状態も経験した。そんな時に彼の友人の薦めで美術学校に入学し、芸術の道に進むことになる。画家として成功するまでにはかなりの時間がかかったが、こうして彼は逆境を乗り越え、自分のハンデを成功に変えていったのである。今ではイギリスをはじめ、世界中でもブレイクしており、マドンナ、アンドレ・アガシ、エルトン・ジョン、イギリスのアン王女など、世界中のセレブからも愛される画家となり、すっかり有名になった。この”難読症”だが、程度の問題こそあれ、実は映画俳優、アーティストや芸能人に多く存在することがわかった。驚くことに、例えばトム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ、ジャッキー・チェン、クインティン・タランティーノ、古くはモーツアルト、ゴッホなども難読症を抱えていたらしいのだ。しかし、このような障害を持つ人は、特に右脳的・芸術的な才能が豊かな一面を持つことを痛感させられる。
自宅の壁で毎日無意識に見ているマッケンジー・ソープの絵なのだが、今回『The Message of Love』を入手出来たことで、また久しぶりに彼の過去の作品集なども見返す良い機会となった。