僕が小学校低学年を過ごしたアメリカ西海岸で良く読んでいた、お気に入りの絵本があった。それは『Curious George』という、可愛いおさるさんのジョージと、主人の“黄色い帽子のおじさん”が主人公の絵本だ。日本では『ひとまねござる』、後に新シリーズとして『おさるのジョージ』として翻訳された。英語のタイトルからすると、『好奇心旺盛なジョージ』という意味になる。
原作者はハンス・アウグスト・レイとマーグレット・レイの夫妻によるもので、1941年に初めて出版された。第一作が出版されたのが、まさに太平洋戦争開戦の年という、歴史ある古い絵本だが、何度も何度も増版され続けているアメリカでは人気の定番絵本である。日本では『のらくろ』などの漫画が人気を博した頃でもある。
僕が初めてこの絵本を親に買って貰い、良く読んでいたのが恐らく小学1年生の6歳の頃ではないかと思う。もちろん、英語で読んでいたので、良い英語の勉強になったのではないかと思うが、とても深く印象に残っている絵本だ。
ハンスとマーガレット・レイ夫妻によるオリジナル作品は、1941年から1966年にかけて制作された以下記載の全7作品しかない。ハンス・レイの死後、この作品を原案にした『おさるのジョージ』シリーズが1998年より制作され、別のイラストレーターが手掛けたものが出回り、後にアニメ化などされているが、やっぱりオリジナルとはちょっと絵のタッチが違うこともあり、僕はやっぱり夫妻が手掛けたオリジナルの7作品が好きである。
Curious George (1941)
Curious George Takes a Job (1947)
Curious George Rides a Bike (1952)
Curious George Gets a Medal (1957)
Curious George Flies a Kite (1958)
Curious George Learns the Alphabet (1963)
Curious George Goes to the Hospital (1966)
黄色い帽子のおじさんが、アフリカで出会ったおさる。彼はそのおさるにジョージと名前をつけて、アメリカに連れて帰り、動物園に預けることにしたのだ。ジョージはアメリカまでの船旅でも、その好奇心からちょっとした事件を起こし、そしてアメリカに到着してからも、初めて見る都会で好奇心が止まらない。動物園に預けられた後も脱走してしまい、最終的には黄色い帽子のおじさんが家で飼うことになるのである。それからも人間界の様々な出来事を初めて経験しながら、好奇心から時にはちょっと失敗し、事件を起こして騒動に巻き込まれたりするが、黄色い帽子のおじさんの愛情をたっぷり受けながらいつも助けて貰い、次第に人間界にアジャストしていくという展開の物語。無邪気なジョージが巻き起こす物語が何とも可愛くて、ハラハラしながらも微笑ましくなってしまう、癒しの絵本である。昔の絵本だが、変な古さは感じない。良い絵本は普遍的なのである。絵のタッチもやっぱりオリジナルのジョージはとても可愛くてほっこりしてしまう。ジョージもデフォルメされ過ぎず、それでいて変にリアル過ぎず、可愛いおさるさんらしい秀逸なキャラクターデザインであり、とても良く描けていると思う。
僕は長年この『Curious George』が忘れられず、大人になってからこちらの『The Complete Adventures of Curious George』というオリジナル全7話が収録された全集をハードカバーの洋書・大型本で“大人買い”したが、30年以上経った今でも大切に保管している。
今でも時々むしょうに読みたくなった時はこの全集を引っ張り出してはチラチラと読み返しているが、やっぱり幼少の頃に読んだ絵本は長く、そして深く心に残っており、ちょっと大げさに言えば、どこか好奇心や倫理観みたいなものを『Curious George』で学んでいたような気もしてしまう。その意味では子供たちが幼少期にどんな絵本を読むかが人格形成における重要な役割を担っているということを、改めて思い知らされる。絵本を制作する際にはいつもこのことが脳裏をよぎるのだが、またこうして何年経っても振り返って楽しめる絵本というのは本当にプライスレスな存在である。