先日紹介した原田マハの小説『一分間だけ』。この作品が2014年に台湾・日本の合作で映画化されていることを知り、小説がどのように映像化されたのかが気になってDVDを鑑賞した。
原作では東京の恵比寿と調布を舞台に物語が展開されるが、映画では舞台を台湾に移して描かれており、主演者も台湾の役者だ。その為か、物語自体は比較的原作を忠実に踏襲しているものの、やっぱり小説を読んだ時の印象とは違っていたが、これはこれでなかなか良くできていると思った。
原田マハの小説は、台湾でも人気があるようだ。台湾のスタッフ・キャストによって映画化されたというのもこう言った背景があったらしい。台湾映画はあまり観たことが無いので、今回台湾の俳優たちがなかなか魅力的だったことを知ることが出来たのは新たな発見であった。主演のファッション雑誌編集者ワンチェンを演じるのは、チャン・チュンニンという台湾の女優さん。どこか田中みな実と相田翔子を足して2で割ったようなルックス。そしてワンチェンの恋人ハオジェを演じるのはピーター・ホーという俳優。どこか小栗旬をマイルドにしたような顔だが、台湾ではかなりの人気俳優らしい。
ファッション雑誌の編集者という設定や、リラとの出会いにより、都会から郊外に引っ越す、ワンチェンとハオジェの別れなど基本的な設定は原作と同じではある。しかし、原作では主人公の藍と浩介がそれぞれ他のパートナーに心を惹かれてしまう様子などが丁寧に描かれているが、映画ではこの部分がかなり端折られている。ファッション雑誌社内での展開や、カリスマ編集長の北条恵子とのやり取りなどは原作の方が丁寧且つ、深い描写や主人公の機微が表現されていた。そして後半リラが癌にかかった後の展開も映画ではかなり短く、ここをもう少し丁寧に描いた方が、映画にもっと深みが出たような気がした。映画では時間が限られているので仕方ないが、ここはやっぱり原作の勝利である。
ゴールデン・リトリーバーのリラはとても上手く映像表現されていた。特にペットショップで最初にワンチェンが出会うシーンで、リラとハイタッチをする子犬のリラとのシーンはとても印象的で、最後リラが亡くなる寸前も必死にワンチェンとハイタッチして、そのハイタッチに力尽きるリラの描写が何とも悲しく、涙を誘う感動のシーンとなった。この点では映像として見ることが出来ただけでも映画を観た甲斐があった。しかし、全般的にはもっとリラと過ごす時間の描写に時間を割いて欲しかった。
原作を先に読むか、映画を先に観るかというのはいつも迷う部分はあるし、常に比較対象になる。原作も小説のみならず、漫画が原作となっている映画やドラマも実に多い。通常は丁寧に物語が紡がれる原作に軍配が上がるケースが多い気もするが、その原作がいかに映像表現されるかに大きな注目が集まったり、誰があの主人公のイメージを演じるのかにも大きな注目が集まり、期待と不安が常に付きまとうものだ。しかし、結果映画での描写・表現が原作での予想を超えて多くのファンを獲得するケースも多い。この『一分間だけ』も映画としてはまずまず楽しめたが、原作の感動からすると、“もう一頑張り”して欲しかったというのが正直な感想であったが、原作のことはあまり考えず、純粋に映画は映画として台湾を舞台にしたワンちゃんとの感動物語として観れば、それなりに楽しめる作品であったと思う。