実家でレコードを聴ける環境になってからまたジャズのアルバムを良く聴いているが、先日、ついにジャズの名盤と言われる、マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』を購入した。かなり個人的なこじつけではあるが、ブルーが大好きな色である僕としては、この『Kind of Blue』というタイトルにも妙に惹かれてしまったのだ。
『Kind of Blue』は1959年にレコーディングされたアルバムだが、ジャズの帝王と言われるマイルス・デイヴィスの数あるアルバムの中でも最高傑作と呼ばれ、またジャズ界全体としても最高峰に到達したアルバムと言われているほどの名盤なのである。また、ジャズアルバムしては異例の世界累計1,000万枚を超えるセールスを積み上げてきたらしく、その意味でもモンスタージャズアルバムだ。
このアルバム、兎に角メンバーが素晴らしい。リーダーのマイルス・デイヴィスがトランペット。テナーサックスがジョン・コルトレーン、アルトサックスがキャノンボール・アダレイ、ベースがポール・チェンバース、ドラムはジミー・コブ。そしてピアノがウィントン・ケリーとビル・エヴァンス。いずれ劣らぬジャズ史に名を刻む大物ばかりが一同に集まって録音された、まさに“一期一会”、奇跡のジャズアルバムであり、ジャズ界のアベンジャーズが集結したみたいなアルバムなのである。
有名なエピソードだが、ビル・エヴァンスは白人のピアニストだった為、まだ白人と黒人の間での人種差別が激しかった当時は、逆に黒人がメインだったジャズの世界で白人は差別されていた。その為、ビルは他のバンドメンバーとの衝突が絶えず、マイルスはビルの才能に惚れて暫く一緒に組んでやっていたものの、最終的には解雇せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。そして新たな黒人のピアニストとして、ウィントンを迎え入れていた。
この『Kind of Blue』が録音された時、ビルは既に解雇された後で、メインピアニストは既にウィントンになっていた。よって、本来はウィントン中心でアルバム制作するべきだった。しかし、モードジャズを演奏したい構想を持っていたマイルスは、ウィントンのピアノに物足りなさを感じ、やっぱりビルに演奏して欲しいと彼を呼び戻し、このアルバムの全5曲中、4曲録音する形で起用したのだ。これにはウィントンもいい気はしなかった筈だ(結局、ウィントンは1曲だけ参加)。しかしさすが帝王のマイルスだ。バンドメンバーの間でも容赦なく切磋琢磨させることで、音楽のレベルを上げて、彼の理想の音楽を追求したのだ。
この『Kind of Blue』には、同じアルバムでも幾つかバージョンがあり、音質などにも違いがあるらしいが、今回入手したのは1959年10月以降に発売された、米国オリジナルステレオ盤(CS8163)である。中古の割にはそれなりに高価だが、米国オリジナルモノラル盤だと更にレアで価格が高騰するらしい。
『Kind of Blue』に収録されているのは下記5曲。どの曲も甲乙つけがたいくらいの名曲だが、個人的にはマイルスが肝いりで作曲した『So What』と、ミディアムバラード系で旋律が美しい『Blue in Green』が特にお気に入りだ。
- So What
- Freddie Freeloader
- Blue in Green
- All Blues
- Flamenco Sketches
『Kind of Blue』はスタンダードをある程度踏襲しながらもアグレッシブで、キレのある演奏を聴かせてくれるという意味で個人的にはとても爽快感のある、気持ちのいいアルバムだった。マイルスのトランペット、コルトレーンのサックス、そしてビルのピアノの絶妙な掛け合いが兎に角美しい。お互いに見事な阿吽の呼吸で、ライブのような臨場感や緩急を見事レコードに封じ込めている。素人の僕が聴いても純粋に心地良い音楽だし、そのテクニックみたいなものも感じることが出来る。
僕はそんなにジャズに詳しいわけではないのだが、何故かマイルス・デイヴィスの曲はとても好きだ。クラシックなスタンダードのジャズよりも、より自由で先進的なモダンジャズが好みらしい。マイルスの最高傑作と呼ばれる『Kind of Blue』は前から気になっていたのでレコードで聴いてみたくなり、今回購入したのだが、やっぱりレコードで聴いた方が味わい深い。このジャズ史に残る名盤に触れることが出来るのは何とも幸せなことである。
そして、先日ついにマイルス・デイヴィスのバイブルと言われるこちらの本、『マイルス・デイヴィス大事典』を購入してしまった。全アルバムの解説や、マイルスに関係する人物の解説などかなりマニアックで深い考察がされている本だ。この本を読んでいると益々他のマイルス・デイヴィスのアルバムに触れてみたくなったので、既に結構な沼にハマってしまった(笑)・・・。