徒然なるままに修羅の旅路

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The Otherside of the Borderline 5

2014年10月13日 14時27分44秒 | Nosferatu Blood
 だがそれとは別に、『種』として根本から人間と異なる個体もいる――彼らは人間との交配は可能であるものの、遺伝子レベルで人間とは異なるためにその特徴を生まれつき持って生まれてくる。どうやってその能力を獲得したのかは不明だが、そういった吸血鬼を特にナハツェーラーと呼ぶ。
 所謂狼男も同様だ。
 人間の形態と直立二足歩行する獣の形態を使い分けることの出来る彼らの中には、魔術師の様な連中が人間をベースに改造したウェアビーストと呼ばれる変異種と、もともとそういう種であるライカンスロープの二種類が存在する。
 前者はゲノムの変異が大きすぎて繁殖能力を持たないが、後者は種族としての特徴を次世代に引き継いでいる。
 レイル・エルウッドが言っているのは、吸血鬼と狼男、それぞれについて後者の間――すなわちナハツェーラーとライカンスロープでの混血が起こっているという話だろう。
 どちらも人間との交配が可能である以上、あり得ないことではないが――実際に繁殖が可能なものなのだろうか?
「一応は、な――だがその連中がかかわりがあるのか?」
「その吸血鬼ナハツェーラーの一族が、貴方の住んでいる街の近くで小規模なコミュニティを形成して暮らしている。ごく少数の一族ではあるんだが、やはりその中にも派閥争いの様なものはある様でな――派閥間の主導権争いに敗れて叛逆を企てた連中が、自分たちの中で最強の個体をほかの吸血鬼に吸血させることで能力の底上げを図ったらしい」
「吸血鬼を吸血、ねえ――カーミラがドラキュラに血を吸われた前例はあるが。無茶苦茶するな――どういう変化が起こるかもわからないのに?」
 正直に言って、その発想はアルカードには理解しがたいものだった――別にドラキュラはカーミラを下位個体に加えるために血を吸ったわけではないだろうし、実際問題としてどんなふうな個体変異が起こるかわからないのだ。
 そもそも両方とも人間との交配が可能であるとはいえ、ともに人間ではないのだ――人間との異種間交配が可能であることと、ナハツェーラーとライカンスロープの異種間交配が可能であることはイコールではない。
 それにナハツェーラーやライカンスロープの性質は遺伝によって継承される以上、形質や表現形の優性劣性はあるのだ。そういった個体同士で交配して、うまく繁殖出来るものなのだろうか?
「なるほど、つまりこういうことか。ナハツェーラーに吸血鬼ヴァンパイアをけしかけて吸血させることで、両方の特徴を備えた吸血鬼にしよう、と」
 あほだそいつ――胸中でつぶやいて、アルカードは嘆息した。
 吸血鬼の因子――魔素は生体の内部に入り込むと、その肉体と霊体を変化させて身体能力の増幅とコンディションの調節を行う。しかし、それと同時に日光を浴びると代謝機能に異常をきたして肉体が分解消滅してしまう、人間の血液を摂取しないと数日以内に死んでしまうという弱点も附加してしまったのだ。
 ただ身体能力の補強の結果は、ベースになった個体の能力に左右される。乗じる数字が20であっても元の数字が10と20ではその積に大きな差が生じる様に、魔素による肉体の変化の度合いが同じであっても、実際の能力は本人の運動能力や体格・体力・技能等によって大きく左右されることになるのだ。
 では、もともと高い戦闘能力を持つナハツェーラーを、吸血鬼ヴァンパイアが噛んだらどうなるのか――
 それこそロイヤルクラシックをも上回るほどの戦闘能力を獲得するのか、それとも元の個体が人間ではないために魔素が有効に作用せず、吸血鬼のタフネスと弱点だけが附加されて運動能力自体はさほど変わりないのか――それは結果が出てみるまで想像すらつくまい。
「その通りだ。どういう変化が起こるか、連中は把握していなかった。諜報員の報告によると――実験は失敗したそうだ。すでに一族内部で二十人以上の死者が出てきているらしい。そのうちのいくつかは、本家が回収したが――そのうち数体の遺体が無くなっている。噛まれ者ダンパイアになったんだろうな」
「つまり、結果は思う様にならなかったが、実験そのものは成功したわけだ――言うことを聞いてくれなかっただけで」
「そういうことだ。最後の通信から一時間後、緊急事態に際する定時連絡が途切れた。この情報提供者は一族内部の人間だ――緊急事態に際してこちらに助けを求めてきたわけだが――すでに殺られたか、あるいは噛まれ者ダンパイアの仲間入りをした可能性が高い」
 その言葉に、アルカードは肺の奥から息を吐き出した。
「それで――最初の事態発生から、何時間経ってる?」
「すでに三十六時間が経っている。知っているかわからないが、貴方の住所の近くでもすでに犠牲者が出ている」
「わかってるよ――今朝、警官に車を止められた。ファクスはいい、それよりもふたつ確認したい。まずひとつ――その噛まれ者ダンパイアの上位個体はどうなった?」
「わからん。上位個体は弱った状態で生け捕りにされていたそうだ。もしかすると、吸血後に上位個体が死んで、ヴァンパイヤントになった可能性もある」
 アルカードはうなずいて、
「それともうひとつ。その一族の本拠地はどこにある?」
 
   †
 
「――ああ、そうだ。すべて予定通りに――否、彼女には知らせるな。これ以上悲報を伝えたところで仕方無いだろう。ターゲットが移動を始めたら再度連絡を――それ以外の定時連絡は三十分毎」
 そう告げて、彼は飾り気の無い携帯電話の終話ボタンを押した。
 否、それは携帯電話ではない――最近の携帯電話にありがちな、スタイリッシュさを重視した颯爽としたシルエットがどこにもない。
 だが詳細を観察する間も無く、彼はそれを内懐にしまいこんだ。
 不意に吹き抜けた夏の風に、背中まで伸ばされた絹糸の様な黒髪がふわりと揺れる。彫像の様に整った美貌の、一見女性と見紛うばかりの美青年だ。卸したての針金を思わせる艶やかな黒髪を翻し、彼は背後を振り返った。
「本当に来るつもりか、美音?」
 その言葉は、背後で使い慣れない超小型無線機をベルトのハーネスに取りつけようとしている少女に向けられたものだった。
「うん。だって、将也さんの強さがどの程度のものかわからないんだもの。怪我人がいっぱい出るかもしれないでしょ?」
 若い――ここは外見の印象通りに幼いと言ってしまおう、まだ成長期に入ったばかりといってもいい様なその少女は、若干舌足らずながらもはっきりとした口調でそう答えてきた。
「俺としては正直、あまり気が進まないんだけどな……」
 実際気乗りのしない口調で、青年はそんな返答を返した。
「大丈夫だよ。それよりさ、ねえねえひーちゃん。これどうやってつければいいの?」 結局自分で無線機をつけることを――約三十分間の悪戦苦闘の末に――あきらめたらしい少女のその言葉に、小さく溜め息をつく。それが周りに悟られない様にしながら、彼――空社陽響は少女のかたわらに歩み寄った。
 
   †
 
 アルカードは電話機を置くと、電子ロックつきのロッカーを開けた。
 そこには中世ヨーロッパの特徴を持った、傷だらけの甲冑が納められている――だが今回は用は無い。
 明確な標的の位置がわからないので、完全武装でそこらへんをうろつくわけにはいかないのだ。彼は手を伸ばして、ロッカーの内壁に吊られたSIGザウァーP226自動拳銃を手に取った。
 正確にはそれをベースにした、X-FIVE九ミリ自動拳銃だ――P226自動拳銃をベースにして改造が施されたその拳銃は、楔形のアイアンサイトにブラックテフロン加工が施され、グリップには掌に突き刺さりそうなほど鋭いチェッカーが切られている。競技用として開発された本来の目的とは、およそかけ離れた仕様だ――彼がこれを選んだ理由は、デコッキングレバーの代わりに手動式のセイフティーレバーがついていたからで、それ以上の意味は無い。
 レシーヴァーにはレールが切られて、シュアファイア製のLEDフラッシュライトシステムが取りつけられている。レーザーサイトが無いのは、ただ単に役に立たないからだ――動いている標的を狙うのにレーザーサイトを使うと、レーザーポインターの光点だけを追って視野狭窄を引き起こしやすい。訓練された特殊作戦部隊の兵士でも、人質救出作戦においてはレーザーサイトを避ける傾向にある――むしろ目がよければいいほど光点を目で追いやすいので、その意味では優秀な戦闘員ほど邪魔に感じやすい。
 ナイロンとカイデックス硬質樹脂で作られたホルスターに収められた二挺の自動拳銃を取り上げて、彼は一挺を左腰に、もう一挺を右脇に取りつけた。左腰に収めたものは秘匿性を考慮して、銃身の大部分がズボンの内側に収まる様になっている。
 一挺ずつ銃をホルスターから抜き出して、グリップの内側に弾倉を叩き込む。銃の弾倉に使われたスプリングは弾薬を装填したまま放置しておくと数日で駄目になってしまうので、定期的に弾薬を抜き出してテンションを維持しなければならない。この弾倉は昨日詰め直したものだ――フィーディング・リップから特殊な銀合金製の弾殻が見えている。
 セイフティー・スラッグという特殊な弾薬の構造を参考にして開発された、対吸血鬼用の特殊なフランビジリティー弾だ――銀合金製の弾殻の内側に、アルカード自身の血液を混入した有機水銀と純銀製の細かいベアリングが詰め込まれている。
 これが標的の体内に撃ち込まれると、銃弾は体内で展開して体内に細かいベアリングと水銀を撒き散らす。これらは銃弾の保持する運動エネルギーを、効果的に標的に伝播させる役割をする――それと同時に、水銀に混入された血液が、アルカードの魔力と共鳴して魔力を放出する。
 この魔力が水銀と銀のベアリングを通じて効果的に撒き散らされ、標的の魔力構造ストラクチャを破壊してしまうのだ――魔力の共鳴は物理的距離が近いほど反応が強くなるので、単純に近距離から撃ち込むほど殺傷力は大きくなる。
 もっとも、肉体を持つ敵であれば、魔力云々を抜きにしても衝撃伝播効率の高い構造と有機水銀の毒性によってそれなりの殺傷力――具体的には人間の胴体に命中すると即死するくらい――はあるのだが。
 スライドを引いて排莢口からカートリッジを一発薬室に押し込み、スライドを戻す――弾倉の装弾数は十九発だから、薬室の一発を合わせてこの銃には二十発の弾薬が装填されたことになる。
 もう一挺の銃も同様にして、ホルスターに戻す――サプレッサーを取りつけることが出来る特製の銃身を備えてはいるのだが、この状況ではあまり意味は無いのでやめにした。
 大量の遅燃性火薬によって高速で射出されるこの弾薬の初速は毎秒四百五十メートルを超えるので、サプレッサーそのものにはあまり意味は無い――マズルファイアを見えなくして、正確な射撃位置をわかりにくくするという意味では役に立つだろうが。
 吸血鬼同士の戦闘で間合いが極端に離れることはまず無いので、そもそもサプレッサーなどあまり役に立たないのだ――個体によっては反射能力で銃弾を捌いてしまうが、状況によってはそれなりに有効になる。
 グリップを握った手に力を込めて、フラッシュライトディヴァイスが作動することを確認してから、アルカードは二挺目の自動拳銃もホルスターに収めた。
 H&K MP5サブマシンガンは、今回は用は無い――市街戦が想定される以上、周辺被害を考慮すると邪魔にしかならない。
 コートも人目につくので、いつものジャケットを羽織る――転倒時用の装甲がついたモーターサイクルジャケットなら、ヘルメットでも持っていればそうそう怪しまれることは無い。
 部屋の電気を消して、廊下を歩いていく。夜の生き物であるアルカードにとっては暗闇はまったく苦にならないのだが、犬たちが夜中に目を覚ましたときのために廊下の照明は点けたままになっている――バスケットは陰になる位置に置いてあるから、別に眠れなくて困ることもあるまい。別に人間ほどには不自由しないだろうが、夜中に目を醒まして水を飲んだり、トイレを使うときのために、それでも光源は必要だろう。
 リビングを覗き込むと、仔犬たちの寝床になっているバスケットが見えた――まだ遊び足りなかったのか、ウドンとテンプラが床の上でじゃれあっている。ソバだけがすでに、バスケットの中で寝息を立てていた。それを見遣って小さく笑い、最初のころ彼女らの夜鳴きに苦労したことを思い出して苦笑してから、アルカードは頭を引っ込めた。

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