徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

The Otherside of the Borderline 34

2014年10月17日 07時21分36秒 | Nosferatu Blood
「大丈夫、真っ先に滅びるのは爺さんだから。日本滅亡は見なくて済むぜ」
 その言葉に、老人がわずかに目を細める――吸血鬼の絆、精神支配に駆り立てられて、六人の噛まれ者ダンパイアが地面を蹴った。
「キャァァァァァッ!」 噛まれ者ダンパイアの一体が、奇声をあげながら横合いから襲ってきている。こいつが一番近い、そう判断してアルカードは右側方に踏み出した。
 右手から襲いかかってきていた噛まれ者ダンパイアの攻撃をひょいと躱し、すれ違いざまにリボルバーの銃剣で胴を薙ぐ――やはりステンレスでは脆いのか、切れ味は若干鈍りつつあった。
 だがそれはどうでもいい、どのみちこの状況を凌ぐぶんには問題無い。左手に持った長剣の鋒が、胴を薙がれた噛まれ者ダンパイアの胸を撃ち抜いている。アルカードは振り返り様に長剣を振り抜いて、串刺しにされたまま公害から大量の血を吐き散らしている噛まれ者ダンパイアの体を背後に放り投げた。
 遠心力で刀身からすっぽ抜けた噛まれ者ダンパイアの体が、背後から肉迫していた噛まれ者ダンパイアに向かって飛んでいく。
 そうすることで、仲間の体を投げつけられた噛まれ者ダンパイアは選択を迫られる――その隙に共斃れになる危険を冒して仲間の体を受け止めるか、躱して眼前の敵に対処するか。
 どのみち投げつけられた噛まれ者ダンパイアの肉体は、半秒を待たずして塵に還るだろう。だから、彼が取るべきは躱してアルカードに対処するという選択肢だった。
 だが、所詮は馬鹿不良の一団だ――仲間意識などある訳もないだろうが、さりとて正しい判断を一瞬にして下せるほどの知性の持ち合わせも無かった。仲間を投げつけられた噛まれ者ダンパイアには選択の機があったのにもかかわらず、迷ったばかりにゼロになった。
Aaaaaalieeeeeeeeeeee――アァァァァラァァァィィィィィィ――ッ!」
 咆哮とともに――アルカードは動きを止めた噛まれ者ダンパイアに肉薄し、心臓を狙って正確無比の速度の刺突を繰り出した。仲間の体が死角を作っていたために、噛まれ者ダンパイアにはなにをされたかも理解出来なかっただろう。
 一瞬の間と評してなお時間が有り余るほどの刹那の瞬間に繰り出された、迅雷のごとき速度の三連続の刺突。
 この長剣の持ち主には、なにをしたのかも理解出来なかったに違い無い。
 茨を象った鍔を持つ長剣の鋒が胴体を輪切りにされた噛まれ者ダンパイアの体を貫いて、彼を受け止めた噛まれ者ダンパイアの心臓を、頭を、喉笛を撃ち抜く。
 すでに胴体を輪斬りにされた噛まれ者ダンパイアの体はその衝撃で塵に還り、同時に彼の体を抱き止めた噛まれ者ダンパイアの体には異常が生じた――なんらかの霊的武装であることは予想していたが、突然噛まれ者ダンパイア体を突き破って腕ほどの太さのある荊の蔦が生い茂る。
 皮膚を突き破って体内から延びた鋭い棘を持つ荊が全身に絡みつき、最後には口蓋を突き破って大人の頭ほどもある巨大な純白の蕾が飛び出してきた。
 真っ白な薔薇の蕾は全身に張りめぐらせた根で噛まれ者ダンパイアの体内の血を吸い上げて真紅に染まり、やがて薔薇に似た巨大な花を咲かせた。
 おかしな武装だ――あまり意味があるとも思えないが。
 だが驚く間も無く、四人の噛まれ者ダンパイアが一斉に襲いかかってきている――時間差を空けると各個撃破されると判断したのか、彼らは四方に散開して同時に殺到してきた。
 無駄なことだ――それに視線も向けないままアルカードは小さく笑い、両手の武器を空中に投げ上げた。
 武器を棄てたことで調子づいた噛まれ者ダンパイアの群れが一斉に襲いかかり――しかしアルカードがその場で跳躍したために目標を失い、攻撃を空振りして互いに衝突する。
 そのころには、彼の体は地上十メートルほどの上空にある――かすかに笑い、彼は右手は腰のウエストポーチの裏側に隠したホルスターから、左手は脇に吊ったショルダー・ホルスターから、それぞれ黒く塗装されたX-FIVE自動拳銃を抜き放った。
 空中で体をひねり込んで、頭を下にして落下していく――彼は両手を伸ばして自動拳銃を据銃し、そのまま発砲した。
 概略照準連射ダブルタップの雨が、噛まれ者ダンパイアたちの頭上に降り注ぐ――妖魔たちが使っていたルーン文字の弾頭などとは比較にならないほどの強烈な対霊体攻撃力を持つ弾頭が、噛まれ者ダンパイアたちの頭部と心臓を一発ずつ撃ち抜いた。
 そもそも彼らの銃火器とアルカードの銃の弾薬の決定的な違いは、敵の体内で確実に停止するかどうかだ。彼らの銃の弾薬は対霊体殺傷能力こそアルカードの銃弾に及ばないものの、だがだからといって決して軽視出来るものではない――ただし、体内で弾頭が停止した場合のみだが。
 弾頭が体を貫通してしまうと、弾頭の帯びた魔力も物理的な運動エネルギーも体内でほとんど放出されない――聖堂騎士団がわざと貫通力の弱いセイフティー・スラッグを参考にして弾薬を開発したのはそのためだ。
 さらに言うと、魔力の放出媒体は彼自身の血液だ――つまるところ、銃弾というのは効率的に敵の体内に自分の血を送り込む手段にすぎない。
 そのために物理的距離の影響を受けるが、代わりに近距離での対霊体殺傷能力はルーン文字を刻んだだけの弾頭とは比べ物にならない。
 花が咲いたみたいにバタバタと放射状に倒れ込んだ四人の噛まれ者ダンパイアの中央に着地し――合計八個の空薬莢が周囲に落下してくる。射殺した噛まれ者ダンパイア四人の屍が即座に塵にならないということは、彼らを噛んだ上位個体である香坂の能力がそれなりに高いことを示している。示している、が――
 しようこともなし・・・・・・・・
 アルカードは唇をゆがめて笑いながら右手の、次いで左手で保持した自動拳銃の銃口から立ち昇る硝煙を息を吹きかけて吹き散らし、それぞれホルスターへと戻した。
 同時に右手を翳し――その手の中に、先ほど投げ上げたリボルバー拳銃が落ちてくる。
 あのおかしな荊の長剣は、背後一メートルほどの地点に落ちてきている。
 アルカードは後ろ向きに一歩踏み出して左足の踵を跳ね上げ、落下してきた荊の長剣を蹴り上げた――その場で左回りに転身し、再び上昇し始めた荊の長剣が上昇の最高点に達して静止したところで空中で掴み止める。彼はそのまま一回転して転身動作を止めると、頭上で旋廻させた荊の長剣の鋒を再びコンクリートに打ちつけた――同時に軽く手首を返して、荊の剣の刃を裏返す。
 次の瞬間、地面に倒れて細かな痙攣を繰り返していた四人の噛まれ者ダンパイアたちがそのときになってようやく霊体構造ストラクチャを完全に破壊されたのか、すさまじい絶叫をあげながら塵に変わって消滅した。
 軽く肩甲骨を寄せる様な仕草をしてから、アルカードは老人に視線を向けた。
「で?」 かすかな笑みの混じったその言葉に――香坂が無言で地面を蹴った。
 脳がそれを認識するよりも早く――アルカードはサイドステップして身を躱した。同時に老人が抜く手も見せずに繰り出した真っ赤な槍の穂先が、風斬り音とともに直前まで彼が立っていた空間を貫く。
「ほう、反応はなかなかええ様じゃな」 真紅の短鎗を引っ込めながら、老人が感心した様な口調でつぶやく。
「だが躱しきれなんだ様じゃのう、若いの」
 その言葉に、アルカードは頬に触れた。ひりつく様な痛みとぬるりとした感触とともに、赤黒い血が指先を濡らす。
「この鎗は紅華こうかというてのう。呪いを帯びた武具の一種じゃ。これで傷つけられた傷は、どんなに小さな傷でも血が止まらなくなる。止血剤も効かず自然凝固もせず、きれや指で圧迫する止血も効果が無い――わかるかの? 掠り傷でも失血死する原因になるということじゃ。血が止まらんということは、傷が治らんということでもあるしな――仮にここから無事に逃れても、失血死は免れぬ」
 なるほど――そこらで転がっている連中の出血が異常に多いのはそのためか。
 得心しているアルカードをよそに、老人がもう一本の短鎗を翳してみせる。
「こっちは黒禍こっかという。傷口周囲の組織を触れた瞬間に死滅させて、傷を再生出来なくする。呪いの効果を止めん限り、いかなる手段を以てしても再生出来ん」
「ふーん。で、呪いの止め方は?」
 どうせ使用者じじいを殺すとか、鎗を壊すとかそんなんだろ――と思いながら尋ねると、老人は存外あっさり答えてきた。
「この鎗を破壊しても効果は止まらん。この鎗は使用者の魔力の一部を呪いに変換して、対象に打ち込むための触媒じゃからな。この鎗の呪いを止めるには、傷つけたときの使用者がそう望むか、呪いを構築している使用者を殺すかして、呪いの魔力供給を絶たななければならん。つまりおまえさんのその傷は、儂を殺さんと治らんということじゃ」
 なんだ、簡単じゃないか。
 胸中でつぶやいて、アルカードはあらためて老人に向き直った。
「つまり爺さんを殺すまで血は止まらない、血が止まらないってことは組織の再建も始まらない、そういうことか。まああれだ、簡単な条件だな」
 言いながら、アルカードは身構えた。手にしたウォークライの銃口を老人に向けて、
「最後に美味しいところだけ持っていく予定だったが――まあ、いいか。この場にいる連中じゃおまえさんは殺せない様だしな、それに――本命と遊ぶ前の準備運動にはちょうどいいだろう」 そう言って、アルカードはウォークライの銃剣の鋒を老人に向けた。
「そういうわけだ――無駄話は終わりにして、そろそろサクッと逝っとくか、爺さん?」
 その言葉に、老人が目を細めるのが見えた。
「儂は冗談は好まんのじゃがの――そろそろで殺されても堪ったもんでもないしのう」
「俺もマッチョ爺相手にジョークを飛ばす趣味は無いさ――反応の面白い女の子が身近にいるから、そいつだけで十分だ」 すぐに顔を真っ赤にして怒るのが面白いんだ――胸中でつぶやいて、アルカードは唇をゆがめて笑った。
 その言葉が終わるか終らないかのうちに――老人が地面を蹴った。
 
   †
 
 アルカードと老人が対峙している工事現場から約二百三十メートル――大手出版社の十三階建ての本社ビルの屋上から、その光景を監視している三人の男女がいた。
 ひとりは艶やかな黒髪をショートカットにした、見た目二十歳くらいの女性だ――今はノーメックス難燃繊維製の黒いアサルトスーツに身を包んでいる。
 おそらく普通の女性らしく着飾って街を歩いていれば、きっと道を行く男たちの大半は彼女を視線で追うだろう。
 彼女の名はスイ――人間たちに混じって社会に適合して暮らしているときは、後藤翠夏と名乗っている。
 だが、今の彼女は帝国騎士のひとりとしてネメアたちのいる工事現場から約二百七十メートル離れた新聞社のビルの屋上でマットを敷き、そこに寝そべって馬鹿でかい対物狙撃銃アンチマテリアルのスコープを覗き込んでいた。
 スイが覗き込んでいるのは、二脚架でバーレットM82A1対物狙撃システムにマウントされたカール・ツァイス社製の十六倍固定式光学スコープだった。
 屋上で伏射プローンの姿勢を取っているため、邪魔になるアサルトベストとボディアーマーははずして脇に置いている。体の一部に感じるほどに使い慣れた・五〇口径の対物狙撃銃アンチマテリアルのバットストックが肩に食い込む感触が心地いい。マットの上で押し潰された胸の据わりが悪く、体の位置を直してから、彼女は魔術通信網に向かってささやいた。
「ヘキサ・ワン・ツーよりエクスロード――ネメアやアヤノ、トウマはまだ無事よ。ただ怪我が酷いから、急いで」
「エクスロード、了解した。現場の状況はどうなっている?」
 ネメアや自分の一族の無事が確認出来たからか、シンの声はいつもの冷静さを取り戻していた。
 シリウス――空社陽響の命令で、彼は今徒歩で現場へと移動している。
 通信を傍受していた限り、『正体不明アンノウン』の魔力の影響で術の『式』が正常に機能しないらしい――現場にいる『正体不明アンノウン』の魔力があまりにも強すぎて、数十区画に分割された結界と魔術通信網、さらには現場にいる騎士たちのサポートまで同時に行っている今の環では手が出せないのだ。
 スコープの接眼レンズには、老人と対峙する金髪の男の姿が映っている。パーティションが立ってはいるものの、彼女のいるビルからは角度があるのでパーティションの上から内部の様子が見えた。
 老人はこちらを向いていて、その顔には当然見覚えがあった。
「ヘキサ・ワン・ツーよりエクスロード。現場にはエクスレイ・スリーがいる。綺堂の一族の凶手――香坂隆次よ。それともうひとり――こっちはおそらく『正体不明アンノウン』。黒いジャケットを着た金髪の男。顔は見えないけど、キロネックスが片づけるはずだった喰屍鬼グールの群れを始末した、ヘキサ・ツーが確認した『正体不明アンノウン』と特徴が一致する」
 そう答えながらも、スイは眉をひそめた。
 あの男は何者だ?
 眼前に凶手――綺堂家を含む吸血種一族が擁する暗殺者が噛まれ者ダンパイア化した吸血鬼がいるというのに、いささかも怯んだ様子が無い。
 わざわざ乱入したくらいだから、ネメアやほかの騎士たちが一方的に押されていた光景を見ていなかったわけではないだろう。
 彼は先ほどネメアと香坂の戦闘に乱入し、残っていた一般人の吸血鬼ダンパイア十六人を信じられないくらい巨大なリボルバー拳銃とその銃身に取りつけた銃剣だけで皆殺しににしてのけた。
 ネメアとアサカ、カズオミのチームを壊滅状態に単独で壊滅状態に追い込んだ香坂と平然と対峙し、香坂の繰り出した、ネメアは反応すら出来なかった刺突をやすやすと躱してみせた。
 その事実ひとつとっても、相当な遣い手であることは間違い無い。おそらく彼女が据銃しているこのバーレットよりも大口径の銃だ、発射の反動はまともな人間なら両手で撃っても手首を骨折するだろう。
 だが、彼はそんな代物を片手で軽々と扱っている――銃全体を包む様な巨大な銃口炎が見えなかったら、子供向けのエアソフトガンと勘違いしていたかもしれない。
 しかも命中精度は極めて高い――反動を完璧に抑え込んでいるからこそ出来ることだ。少なくとも身体能力だけで論ずるならば、並みの騎士はおろか陽響を上回り、もしかするとシンにも匹敵するだろう。
 さらにそのあとの動きも尋常ではなかった。リボルバーの銃剣で、噛まれ者ダンパイアの胴体を一撃で輪切りにした挙句に背後の敵に投げつけ、さらにその体を死角に使ってもう一体を瞬時に二連続、もしかすると三連続の連続刺突で突き殺した。
 あまつさえ再び人間離れした跳躍を見せ、正確極まり無い射撃で残る噛まれ者ダンパイアを一掃している――その銃弾の破壊力も、騎士団の弾丸を数百発撃ち込んでも斃せない噛まれ者ダンパイアをたった二発で瞬時に塵に還すほどの強力なものだ。
 だが、どうやって入ってきたのだ?
 ベガ――空社環が構築した結界は、完全に外部から隔絶されている――出入りがある場合、術を制御する環が許可しない限り不可能なはずだ。
 先ほど結界が破られたと、環から全部署に向けた報告があった。結界が破られた地点からここまではそんなに離れていないし、キロネックスが処分するはずだった喰屍鬼グールの群れが、彼が現場に到着する前に近くで結界を破って入り込んだ『正体不明アンノウン』によってその場で殲滅されている。
 状況から考えると、あの黒いジャケットの男がそれをやった本人だと考えて間違い無さそうだが――目的こそわからないが、少なくとも彼女の同胞であるアヤノが噛まれ者ダンパイアどもの凌辱を受ける前に彼らの手から助けてくれたことには感謝すべきだろう。射撃位置の関係で仲間を巻き込むために発砲出来ない状況に歯噛みしていた彼女は、そのことに関して安堵の吐息をついた。
 もっとも、目的がわからない以上油断は出来ないが。
 何事か話していた老人と男が身構え――香坂が地面を蹴った。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« The Otherside of the Border... | トップ | The Otherside of the Border... »

コメントを投稿

Nosferatu Blood」カテゴリの最新記事