一冊の歌集を遺し友逝けり茶色の和紙の和綴ぢ仕立ての
製本も和綴ぢも習ひ仕立てしとあとがきにあり夫君とともに
お名前は本名ですかと尋ねたり幾度か会ひしのちの初校に(坂楓さん)
はやばやとコスモスの咲く河川敷 小石のひとつひとつが熱い
「秘密基地植物園カフェ」三人でランチタイムに行きしは二回
「さみしいの」とよく言はれたりかはいらしい細く小さな身体でいつも
坂さんの歌には愛があふれてたカラスに注ぐ目もあたたかく
去年より陣地を拡げワルナスビ強き陽射しのなかに咲きをり
坂楓さんとともに学びし講座あり四条烏丸 地下の十字屋
白くつてコードの付いた補聴器の坂さんいつも一番前に
洛西の松尾園芸まで行きて花を愛でつつワッフル食べき
緑風に胸を広げて深呼吸「いいところだね」と坂さん言へり
「三人でカラオケ行こ」とふ約束の二か月のちにコロナが流行る
「きれいだね」と坂さんの声 美生さんの車から見る琵琶湖がひかる
聖堂に入ればふはり吹いてくる包み込まれるやうなそよ風
六月の第一日曜晴れの日に納骨のミサ執り行はる
一年がまたたく間に過ぎけふの日は坂楓さんのために祈る日
ご夫君のとなりにお骨は納められ恥ぢらひながら笑まふ坂さん
若き日のかはいい笑顔の遺影なり わたしたちにも向けられてゐし
カラス来て納骨の儀を見守りぬ愛してもらひしお礼のごとく
青空とみどりの風に包まれてマリア・テレジア神の御許に
坂楓さん 1929年~2022年
2022年3月に脳梗塞で倒れ、6月に召される
2023年6月4日 納骨のミサが執り行われた
昨年の6月と7月、そして今年の6月に10首ずつ詠み
「塔」に投稿した中から、21首を採ってもらいました。