手術の傷のことが気にならなくなっているので、からだの調子はだいぶ戻ってきている。
Eが仕事に行っているあいだ、朝食をとって、Grisuと少しいちゃついて、洗濯機をまわしつつ、チェロの練習をし、お昼頃に散歩に出かけるというのが午前中の過ごし方。
ドイツに来てから、奇跡的にずっといい天気が続いている。
ベッドルームには日が入りにくく、部屋の空気を入れ換えてもなんとなくニオイが気になったので、かけ布団や枕をリビングで日に当てるようにしてみた。
ところが、枕を窓辺に置いて日に当てていたら、二重ガラスが熱くなって、「クッションの中綿が燃えて火事になるところだった!」と怒られた。
こちらは湿気が低いので、布団を干すという習慣が、そもそもないようなのだ。
Eは異常なくらい洗濯好きである。
洗濯さえすればすべて清潔になると思っているところがあり、洋服を買ってきても、洗濯しないと絶対に着ない。
電気代が高いと嘆いていながら、毎日ドラム式洗濯機と乾燥機を回している。

まあ、でも、色々助かった。
術後にここで療養できてホントに良かった。
春を告げる鳥がさえずる森をGrisuと歩きながら、ふと考えた。
パンデミックが起きた時から、自分自身に色々つらいことが起こって、やっとそこから抜け出したかなと思ったら、まだ、がんが待っていた。
でも、「泣き面に蜂」という感覚はない。
これまでの色々を乗り越えて、EとGrisuとオーストリアの家族というパートナーも得て、強くなった自分がいる。
これまで、充分準備を整えさせてもらってきたのだと感じた。
だから、きっとがんとの戦いには勝つ。
人生最悪と感じたあの数年間は、この戦いに勝つための準備期間だったのだ。
