3月歌舞伎座の「元禄忠臣蔵」、2週に渡って通しで観てきました。
「元禄忠臣蔵」は真山青果の新歌舞伎で、「仮名手本忠臣蔵」とは違い、歴史上の人物の名前がそのまま使われており、口調も現代口調っぽいお芝居となってます。
真山青果は物語の最後である「大石最後の一日」から脚本を書き始め、合計10編なる大作を書きあげました。
なので通しでやるということはなかなかないのですが、3月はそのうちの6編を上演すると聞き、その時は松竹も思い切ったことをするなぁ、なんて思ってました。
というのも「元禄忠臣蔵」は台詞のやり取りや登場人物の心理描写や台詞に重きをおいているので、歌舞伎と言うよりどちらかというと演劇や大河ドラマのような雰囲気で、歌舞伎ならではの下座音楽や定式幕は使われませんし、ツケ打ちもありません。
また、松の廊下の刃傷、浅野内匠頭の切腹、吉良邸討ち入りの場面が無いのが特徴なので歌舞伎を観るのが初めての人や、うち入り場面を期待している人はちょっとびっくりするかもしれません。
かくいう私も仮名手本はいくつか観ていましたが、元禄忠臣蔵は「御浜御殿」しか観たことがなかったので、あまり好きじゃないかも、と思いながら観たのですが重厚で見応えのある人間ドラマとなっていて、歌舞伎役者の演技力の素晴らしさを充分堪能することができ、新歌舞伎の良さを改めて感じました。
歌舞伎座さよなら公演
三月大歌舞伎
平成21年3月2日(月)~26日(木)
元禄忠臣蔵
昼の部
江戸城の刃傷(えどじょうのにんじょう)
浅野内匠頭 梅 玉
多門伝八郎 彌十郎
戸沢下野守 進之介
片岡源五右衛門 松 江
稲垣対馬守 男女蔵
平川録太郎 亀 鶴
大久保権右衛門 桂 三
庄田下総守 由次郎
加藤越中守 萬次郎
田村右京太夫 我 當
最後の大評定(さいごのだいひょうじょう)
大石内蔵助 幸四郎
井関徳兵衛 歌 六
岡島八十右衛門 家 橘
磯貝十郎左衛門 高麗蔵
片岡源五右衛門 松 江
井関紋左衛門 種太郎
大石長男松之丞 巳之助
戸田権左衛門 錦 吾
堀部安兵衛 市 蔵
武林唯七 右之助
奥野将監 東 蔵
大石妻おりく 魁 春
御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)
徳川綱豊卿 仁左衛門
中臈お喜世 芝 雀
富森助右衛門 染五郎
中臈お古宇 宗之助
上臈浦尾 萬次郎
御祐筆江島 秀太郎
新井勘解由 富十郎
*****************************************************************
夜の部
南部坂雪の別れ(なんぶざかゆきのわかれ)
大石内蔵助 團十郎
羽倉斎宮 我 當
腰元おうめ 芝 雀
同 夜雨 高麗蔵
同 みゆき 宗之助
寺坂吉右衛門 松 江
堀部弥兵衛 家 橘
落合与右衛門 東 蔵
瑤泉院 芝 翫
仙石屋敷(せんごくやしき)
大石内蔵助 仁左衛門
吉田忠左衛門 彌十郎
磯貝十郎左衛門 染五郎
間十次郎 高麗蔵
富森助右衛門 男女蔵
大高源吾 亀 鶴
大石主税 巳之助
桑名武右衛門 錦 吾
鈴木源五右衛門 由次郎
堀部安兵衛 市 蔵
武林唯七 右之助
堀部弥兵衛 家 橘
仙石伯耆守 梅 玉
大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)
大石内蔵助 幸四郎
おみの 福 助
磯貝十郎左衛門 染五郎
富森助右衛門 男女蔵
細川内記 米 吉
久永内記 桂 三
吉田忠左衛門 彌十郎
堀部弥兵衛 家 橘
堀内伝右衛門 歌 六
荒木十左衛門 東 蔵
昼の部は梅玉演じる浅野匠頭が吉良上野介を切り付けた直後から始まります。
その日中に切腹の沙汰が下されますが、彌十郎演じる多門伝八郎が一人必死に反対し、なんとか助けようとするところに胸を打たれました。
罪状を潔く認めながらも吉良を仕留めることが出来なかった無念さを辞世の句に残し、家来である片岡源五右衛門と最後の対面を果たすシーンは涙なしには見れませんでした。
梅玉さん演じる浅野匠頭の風貌、佇まい、台詞運び、全て素晴らしかったです。
「最後の大評定」は赤穂丈の明け渡し前の話。
幸四郎の内蔵助は思慮深く、苦悩する様を見事に演じていました。
また真のリーダーであると藩士たちに認めさせるだけの存在感、重厚感があって良かったと思いました。
歌六演じる井関徳兵衛とその子の紋左衛門の死は悲しいものでしたが、内蔵助の仇討の決意がより固まったいいシーンでした。
御浜御殿綱豊卿は、大石内蔵助は出ず、次期将軍の徳川綱豊と、富森助右衛門の台詞の応酬がとにかく凄まじくて、目が離せませんでした。
仁左衛門さんと染五郎の息もつかせぬ腹の探り合い、どちらもお見事。
聡明で懐の大きい綱豊卿は仁左衛門さんの当たり役。政治に関心のない素振りをしていると思ったら、パッと眼光を鋭くさせたりするその演じ分けがほんとにかっこいい。
能装束もお似合いだし、綱豊卿は仁左衛門さん以外考えられない位です。
夜の部は「南部坂雪の別れ」、「仙石屋敷」「大石最後の一日」と重々しい演目が続きます。
見どころは何と言ってもそれぞれの演目の大石内蔵助を團十郎、仁左衛門、幸四郎が演じるところです。
「南部坂雪の別れ」の内蔵助はいつまでも仇討をしない、と周りに攻められますが、熱い思いを胸に秘め、ひたすら耐え抜く姿がさすが、と思わされました。
真っ白な雪が降り積もる中、瑤泉院と窓越しに最後の別れをするシーンは見ているこちらは今後の結末を知っているので余計に悲しかったです。
仙石屋敷は、討ち入り後に仙石屋敷に浪士が集められ、仇討の詳細を語るという演目。
広い座敷に赤穂四十七士が勢揃いするところで、舞台にこれほどの人数が上がることはあまり見ないので圧巻でした。
仙石伯耆守の尋問に対して一言一言じっくりと答えていく仁左衛門さんの内蔵助は、やっと本懐を遂げられた喜びの気持ちと、それまでの様々な苦労など、張り詰めていた想いを吐き出すように語るその演技は真に迫っていて、泣けて泣けてしょうがなかったです。
梅玉演じる仙石伯耆守の尋問も迫力があって良かったし、己之助演じる息子の主税もいじらしくて別れのシーンは泣けました。
大石最後の一日の大石は幸四郎。
切腹の沙汰が下される、まさにその一日の様子を描いています。
磯貝十郎左衛門の許婚のおみの(福助)が男装して現れ、内蔵助に十郎左衛門に一目会わせて欲しいと願い出ます。
危険を顧みず一途に十郎左衛門を思い続ける健気さに心打たれました。
幸四郎の大石は、揺るぎない強い意志を持ち続け、武士として立派にふるまい、潔く死を受け入れる、そういった心情を見事に演じきっていたと思います。
本当に魅力的な大石内蔵助で、こういう人物だからこそ、四十七士はついて行こうと決めたわけだし、今もなお忠臣蔵が私たちの心を揺さぶる作品なのだと納得できるものでした。
大石だけでなく、赤穂藩の人々、赤穂浪士に同情し、助けようとする幕府側の心情も丁寧に描かれていて、2週に渡りましたが、昼夜続けて観れたのが良かったな、と思います。
夜の部の3人の大石内蔵助、個人的には仙石屋敷の仁左衛門さんの大石が一番好きでしたけど、團十郎、幸四郎も甲乙つけがたく、素晴らしい配役だったと思いました。
1月から始まった歌舞伎座さよなら公演、いまのところ外れなしです。
来月は玉三郎・仁左衛門の吉田屋に、伽羅先代萩、藤十郎の曽根崎心中、どれもこれも楽しみです。
「元禄忠臣蔵」は真山青果の新歌舞伎で、「仮名手本忠臣蔵」とは違い、歴史上の人物の名前がそのまま使われており、口調も現代口調っぽいお芝居となってます。
真山青果は物語の最後である「大石最後の一日」から脚本を書き始め、合計10編なる大作を書きあげました。
なので通しでやるということはなかなかないのですが、3月はそのうちの6編を上演すると聞き、その時は松竹も思い切ったことをするなぁ、なんて思ってました。
というのも「元禄忠臣蔵」は台詞のやり取りや登場人物の心理描写や台詞に重きをおいているので、歌舞伎と言うよりどちらかというと演劇や大河ドラマのような雰囲気で、歌舞伎ならではの下座音楽や定式幕は使われませんし、ツケ打ちもありません。
また、松の廊下の刃傷、浅野内匠頭の切腹、吉良邸討ち入りの場面が無いのが特徴なので歌舞伎を観るのが初めての人や、うち入り場面を期待している人はちょっとびっくりするかもしれません。
かくいう私も仮名手本はいくつか観ていましたが、元禄忠臣蔵は「御浜御殿」しか観たことがなかったので、あまり好きじゃないかも、と思いながら観たのですが重厚で見応えのある人間ドラマとなっていて、歌舞伎役者の演技力の素晴らしさを充分堪能することができ、新歌舞伎の良さを改めて感じました。
歌舞伎座さよなら公演
三月大歌舞伎
平成21年3月2日(月)~26日(木)
元禄忠臣蔵
昼の部
江戸城の刃傷(えどじょうのにんじょう)
浅野内匠頭 梅 玉
多門伝八郎 彌十郎
戸沢下野守 進之介
片岡源五右衛門 松 江
稲垣対馬守 男女蔵
平川録太郎 亀 鶴
大久保権右衛門 桂 三
庄田下総守 由次郎
加藤越中守 萬次郎
田村右京太夫 我 當
最後の大評定(さいごのだいひょうじょう)
大石内蔵助 幸四郎
井関徳兵衛 歌 六
岡島八十右衛門 家 橘
磯貝十郎左衛門 高麗蔵
片岡源五右衛門 松 江
井関紋左衛門 種太郎
大石長男松之丞 巳之助
戸田権左衛門 錦 吾
堀部安兵衛 市 蔵
武林唯七 右之助
奥野将監 東 蔵
大石妻おりく 魁 春
御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)
徳川綱豊卿 仁左衛門
中臈お喜世 芝 雀
富森助右衛門 染五郎
中臈お古宇 宗之助
上臈浦尾 萬次郎
御祐筆江島 秀太郎
新井勘解由 富十郎
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夜の部
南部坂雪の別れ(なんぶざかゆきのわかれ)
大石内蔵助 團十郎
羽倉斎宮 我 當
腰元おうめ 芝 雀
同 夜雨 高麗蔵
同 みゆき 宗之助
寺坂吉右衛門 松 江
堀部弥兵衛 家 橘
落合与右衛門 東 蔵
瑤泉院 芝 翫
仙石屋敷(せんごくやしき)
大石内蔵助 仁左衛門
吉田忠左衛門 彌十郎
磯貝十郎左衛門 染五郎
間十次郎 高麗蔵
富森助右衛門 男女蔵
大高源吾 亀 鶴
大石主税 巳之助
桑名武右衛門 錦 吾
鈴木源五右衛門 由次郎
堀部安兵衛 市 蔵
武林唯七 右之助
堀部弥兵衛 家 橘
仙石伯耆守 梅 玉
大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)
大石内蔵助 幸四郎
おみの 福 助
磯貝十郎左衛門 染五郎
富森助右衛門 男女蔵
細川内記 米 吉
久永内記 桂 三
吉田忠左衛門 彌十郎
堀部弥兵衛 家 橘
堀内伝右衛門 歌 六
荒木十左衛門 東 蔵
昼の部は梅玉演じる浅野匠頭が吉良上野介を切り付けた直後から始まります。
その日中に切腹の沙汰が下されますが、彌十郎演じる多門伝八郎が一人必死に反対し、なんとか助けようとするところに胸を打たれました。
罪状を潔く認めながらも吉良を仕留めることが出来なかった無念さを辞世の句に残し、家来である片岡源五右衛門と最後の対面を果たすシーンは涙なしには見れませんでした。
梅玉さん演じる浅野匠頭の風貌、佇まい、台詞運び、全て素晴らしかったです。
「最後の大評定」は赤穂丈の明け渡し前の話。
幸四郎の内蔵助は思慮深く、苦悩する様を見事に演じていました。
また真のリーダーであると藩士たちに認めさせるだけの存在感、重厚感があって良かったと思いました。
歌六演じる井関徳兵衛とその子の紋左衛門の死は悲しいものでしたが、内蔵助の仇討の決意がより固まったいいシーンでした。
御浜御殿綱豊卿は、大石内蔵助は出ず、次期将軍の徳川綱豊と、富森助右衛門の台詞の応酬がとにかく凄まじくて、目が離せませんでした。
仁左衛門さんと染五郎の息もつかせぬ腹の探り合い、どちらもお見事。
聡明で懐の大きい綱豊卿は仁左衛門さんの当たり役。政治に関心のない素振りをしていると思ったら、パッと眼光を鋭くさせたりするその演じ分けがほんとにかっこいい。
能装束もお似合いだし、綱豊卿は仁左衛門さん以外考えられない位です。
夜の部は「南部坂雪の別れ」、「仙石屋敷」「大石最後の一日」と重々しい演目が続きます。
見どころは何と言ってもそれぞれの演目の大石内蔵助を團十郎、仁左衛門、幸四郎が演じるところです。
「南部坂雪の別れ」の内蔵助はいつまでも仇討をしない、と周りに攻められますが、熱い思いを胸に秘め、ひたすら耐え抜く姿がさすが、と思わされました。
真っ白な雪が降り積もる中、瑤泉院と窓越しに最後の別れをするシーンは見ているこちらは今後の結末を知っているので余計に悲しかったです。
仙石屋敷は、討ち入り後に仙石屋敷に浪士が集められ、仇討の詳細を語るという演目。
広い座敷に赤穂四十七士が勢揃いするところで、舞台にこれほどの人数が上がることはあまり見ないので圧巻でした。
仙石伯耆守の尋問に対して一言一言じっくりと答えていく仁左衛門さんの内蔵助は、やっと本懐を遂げられた喜びの気持ちと、それまでの様々な苦労など、張り詰めていた想いを吐き出すように語るその演技は真に迫っていて、泣けて泣けてしょうがなかったです。
梅玉演じる仙石伯耆守の尋問も迫力があって良かったし、己之助演じる息子の主税もいじらしくて別れのシーンは泣けました。
大石最後の一日の大石は幸四郎。
切腹の沙汰が下される、まさにその一日の様子を描いています。
磯貝十郎左衛門の許婚のおみの(福助)が男装して現れ、内蔵助に十郎左衛門に一目会わせて欲しいと願い出ます。
危険を顧みず一途に十郎左衛門を思い続ける健気さに心打たれました。
幸四郎の大石は、揺るぎない強い意志を持ち続け、武士として立派にふるまい、潔く死を受け入れる、そういった心情を見事に演じきっていたと思います。
本当に魅力的な大石内蔵助で、こういう人物だからこそ、四十七士はついて行こうと決めたわけだし、今もなお忠臣蔵が私たちの心を揺さぶる作品なのだと納得できるものでした。
大石だけでなく、赤穂藩の人々、赤穂浪士に同情し、助けようとする幕府側の心情も丁寧に描かれていて、2週に渡りましたが、昼夜続けて観れたのが良かったな、と思います。
夜の部の3人の大石内蔵助、個人的には仙石屋敷の仁左衛門さんの大石が一番好きでしたけど、團十郎、幸四郎も甲乙つけがたく、素晴らしい配役だったと思いました。
1月から始まった歌舞伎座さよなら公演、いまのところ外れなしです。
来月は玉三郎・仁左衛門の吉田屋に、伽羅先代萩、藤十郎の曽根崎心中、どれもこれも楽しみです。