Yuumi Sounds and Stories

シンギング・リン®️セラピスト「藍ゆうみ」のブログ。日々の覚え書き、童話も時々書いています💝

お話妖精ルーモと風さんイラン⑩

2020-05-10 14:12:00 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月10日(水)宵月の夜 イラン

カザフスタンの西側に大きな湖があります。世界一大きい湖カスピ海です。どのくらい大きいかというと日本と同じくらいなのだそうです。びっくりですね!そして、湖なのになぜ海というののかは、大昔は海につながっていたからだそうです。

風さんはカスピ海の上を渡り、ルーモをイランという国に連れて行ってくれました。イランはペルシャともいいます。

今夜ルーモがお話を聞くおうちには、腰の曲がったおばあちゃんと6歳くらいの女の子がおりました。女の子にはお母さんもお父さんもいませんでした。家族はおばあちゃんひとりでした。おばあちゃんは、腰は曲がっていましたが大変働き者で畑を耕して野菜を作り、飼っているヤギのお乳を搾り町へ売りに行ってお金に変えていました。そして、女の子を一生懸命育て可愛がっていました。

夜もおばあちゃんの楽しみは女の子にいろんなお話をすることでした。たくさん生きてきたのでたくさんのお話を知っていました。女の子のお気に入りのお話は、妖精が出てくるお話です。妖精と聞いてルーモも嬉しくなりました。だって、同じ妖精ですからね。そこで、ルーモはおばあちゃんが語るお話の中に入って行くことにしました。ルーモにはそんな事もできました。

~さて、そろそろお話をするよ。今日はお前の大好きな妖精パリーのお話にしようね。パリーに新しいお友達ができる話だよ。

昔、昔。イラン一高いダマーヴァンドの山には、白い翼を持った妖精がいた。名前はパリー。人のたどり着けない険しい山の中の、草花が咲き乱れる「ペリの園」に住んでいた。麝香(じゃこう)、紫檀、白檀、シトロンなどの香りを食べて暮らしているという、それは良い香りの美しい妖精だよ。

ある時、ダマーヴァンド山につむじ風が吹いた。その風に乗って東の国からルーモという妖精がやってきたんだ。この妖精は、お前くらいの小さな女の子でね。物語の中に自由に出入りできる力を持っている。それでおばあちゃんのこのお話にも入ってきたんだよ。(おばあちゃんは無意識にルーモをお話に登場させました)

パリーはいつも一人だったから可愛い妹ができたみたいでとても嬉しかった。パリーは白い鳥に姿を変えることができたから、ルーモを背中に乗せてイラン中の空を飛び回って案内したよ。

まずは、大都市テヘラン。空から見ると建物から漏れる明かりがキラキラととても綺麗だった。そこから美しいモスクの立ち並ぶタブリーズ。ブルーのタイルで敷き詰められたブルーモスクにルーモは一目ぼれしたよ。次には、サファビー朝の祖シェイフ・サフォーオッディーンや彼の子孫シャー・イスマイルの廟が残ってたくさんの人が訪れるアルダビル。ここで二人は温泉に入った。パリーは鳥の姿だったから、ルーモにも魔法をかけて可愛い白鳩にして二人で水浴びをしたんだ。そりゃ~、賑やかにとても楽しかった。

お次はタフテ・スレイマン遺跡とゼンダーネ・スレイマン遺跡さ。そこは古い遺跡が残り、火山の吹き出る穴を使った火の神様の祭壇もあるところさ。

最後にパリーは、ルーモをケルマンジャーに連れて行った。今から2500年も昔に栄えた都市の跡だよ。「ターク・イ・ブスタン洞窟」や、岸壁に残る美しいレリーフ「ダレイオス1世の記念碑ビストゥーン」を見せた。

ルーモはパリーの案内のお蔭で世界には歴史があるということを知ったのさ。世界は、今だけじゃない。たくさんの時間が積み重なってできたものだってことを学んだんだ。そして、すっかりこのイランが大好きになった。妖精パリーのことも大好きになった。パリーとルーモはダマーヴァンド山に帰り、また会うことを誓った。ルーモはもっとイランにいたかったし、パリーとも別れたくなかったけれど、まだ行かねばならない世界があったからね。さあ、お話を終わりにしよう。~

女の子はすでに眠っていました。おばあちゃんのお話はいつでも少しだけ6歳の女の子には難しいのです。だからすぐに眠くなってしまうのです。でも話をしたおばあちゃんも不思議といい気分でした。

ルーモはお話の中でパリーと友達になれて、とっても幸せでした。パリーにまた会いたいと思いましたが、そのためには、いつか再びここイランに訪れて、おばあちゃんが妖精パリーのお話をしてくれる時だけです。それはいつのことかわからないし、そんな素晴らしい瞬間に出会えるかは誰にもわかりません。この美しい出会いに心から「ありがとう」と思ったら、胸がキュンとしました。それは「せつなさ」でした。ルーモの心に「せつなさ」という感情が芽生えた旅でした。

きっとまたイランのこのおうちに来ようと思いました。お話をしてくれたおばあちゃんのほっぺに優しくさよならのキスをして、風さんのいるお空に戻りました。





お話妖精ルーモと風さんカザフスタン⑪

2020-05-09 14:13:56 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月11日(木)九夜月の夜 カザフスタン

妖精パリーと素敵な夜を過ごしたルーモは、次の夜の為に風さんとつむじ風に乗りました。
つむじ風は急スピードで、モンゴルの隣にあるカザフスタンという国に行きました。
遊牧民の末裔であるカザフ人。田舎では今でも牛や馬を放し飼いにしている家族も多いので、子供たちもたいていは馬を操れます。田舎では大家族が多く、子供でも自分より幼い弟妹や親戚の子供たちの面倒をよく見ます。

ルーモは子だくさんのおうちに来ました。お父さんお母さんは馬や牛の世話で夜も忙しくしています。子供たちの世話は、一番上のお姉さんの仕事でした。夜、なかなか寝ない小さな妹や弟を集めて、お姉さんがお話を始めます。お姉さんのお話はいつも同じでした。お姉さんはこのお話が好きでした。



~ほらほら、お話始めるわよ~~~!!!

カザフスタンの西にバルハシという湖がありま~す。

と話し始めると「またそのおはなし~?違うのがいい」
とすぐ下の妹が不満げに言いましたが、お姉さんは気にせずすまして話を続けます。

~バルハシ湖は西半分が淡水で、東半分が塩水という不思議な湖です。昔々、この地方は大金持ちの魔法使いバルハシが支配していました。バルハシにはイリという美しい娘がいて、それはそれは可愛がっておりました。そろそろイリも結婚相手を見つける歳になりました。あるときバルハシは、村中におふれを出しました。村の祭りの馬の競争で一番になった者に娘のイリをやると言ったのです。しかしイリには好きな人がいました。カラタルという貧しいけれど心根のまっすぐな青年でした。そして、カラタルもイリが好きでした。馬の競争でカラタルはがんばって一番になり、二人はこれで結婚ができると大喜びしました。

ところがバルハシは、カラタルには娘をやりたくなかったのです。カラタルが貧しかったからです。そして、この約束はなかったことにしてしまいました。とてもがっかりしたカラタルとイリは、バルハシが寝ているうちに二人で遠いところに逃げることにしました。次の朝、目が覚めて怒り狂ったバルハシは、魔人に姿を変えて2人を追いかけました。そして、二人を見つけ出し、とうとうイリとカラタルを川に変えてしまいました。

怒りがおさまり我に返ったバルハシは、娘を愛するあまり、自分がしてしまったことをひどく悔やみました。そして悲しみのあまり、川になったイリとカラタルの間に飛び込んで湖になりました。こうしてバルハシ湖ができたのです。やがて、大河のイリ川は西のバルハシ湖に流れこみ、カラタル川は東のバルハシ湖に流れこみました。イリとカラタルはバルハシ湖の中でやっと一緒になれたのでした。~

お姉さんはいっきに話し終えて、ほ~っとため息をつきました。妹や弟たちはみなうとうとと眠りについていました。お姉さんは窓から夜の空を眺めてもう一度大きくため息をつきました。お姉さんの吐くため息が、ルーモには少しピンク色で甘い香りがしました。

それは、「恋」のため息であることをルーモは感じ取りました。お姉さんもイリのように「好きな人」がいるのだな、と。

それが、恋というものだとわかった時、ルーモの胸はポッと柔らかなピンク色の光が灯りました。

ルーモはこれまでのお話で「感謝や寂しさ、勇気やせつなさ、嬉しさや恋の感情」を学び、むくむくと「心」が芽生えています。

風さんの心もまた、ルーモと共鳴し成長しています。
いつも少し高い空からルーモを見守る風さんは、勇敢に心を求め続けるルーモを愛しく思い始めていました。



お話妖精ルーモと風さんトルコ⑫

2020-05-08 14:14:40 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月12日(金)十日月の夜 トルコ

ルーモはトルコという国の町のあちこちで青いガラスの目玉をたくさんみかけました。これ、ナザール・ボンジュウという魔除けです。ナザール・ボンジュウは、人の幸せや成功を羨んだり妬んだりする邪悪な目から人を守ってくれます。例えば、新築の家や新車など、また産まれたばかりの赤ちゃんの服やベッドにも付けたりします。

赤ちゃん用の、とっても小さなナザール・ボンジュウ。トルコでは、お祝い事にはゴールドを贈る習慣がありますので、小さなゴールドとナザール・ボンジュウのセット。これを、可愛い赤ちゃんの服の肩のあたりか、枕やシーツにつけるのです。

ルーモが訪れたこのおうちには生まれたばかりの赤ちゃんがいました。ナザール・ボンジュウをどこにつけようかと新米のパパとママが楽しげに話し合っています。新米パパはもう60歳でした。普通なら孫がいるくらいの歳です。がんばって働いているうちに結婚せずに歳を取ってしまいました。でも素敵な若い奥さんと出会い、とても気が合って、歳など気にもせず、とても嬉しくて、とても愛し合っていましたから、生まれた子供も可愛くて仕方がないようです。

このおうちにはまだ赤ちゃんへのお話はないようね、とルーモは微笑んで、出産祝いの代わりに新米のパパとママに素敵な魔法をかけました。

「ルルリラルーモ、ルルララルーモ、赤ちゃんが6か月くらいになって、夜もよく眠るようになったら、毎晩パパとママが代わる代わる楽しいお話をしますように……」

ルーモがこの魔法をかけたパパとママとその子供は一生幸せに楽しく暮らすのでした。とても、幸運な一家です。

ルーモの魔法のお蔭か、おじいさん新米パパの心には若さの光が灯りました。
身体はおじいさんでも、赤ちゃんという新しい命が、おじいさんパパの心にどんな若者にも負けないくらいの若さをもたらしたのです。

ルーモには、人の心が見えます。
若くても歳を取っている心の人もいるし、どんなにお年寄りでもキラキラと輝くばかりの若さを持った心の人がいるのを知っています。男でも、心は女の人みたいに繊細で優しい人もいるし、女でも怖くて怪物みたいな人もいます。だから、ルーモは外見は、お祭りの出店で売っているお面のようなものだといつも思います。

でも赤ちゃんや子供だけは、心も外見も同じです。
大きくなるにつれて、人はいろんなお面をかぶってしまうのです。赤ちゃんや子供と一緒にいる大人はちょっとだけお面を外すこともルーモはうすうす気づいています。

光輝く赤ちゃんと愛し合う二人のもとを後にして、ゆらゆら空に上ると、風さんが雲の上で寝そべりながら月を見ていました。

風さんがぽつりと言いました。
「愛し合うって美しいね」
「あの家族のこと?」
「あぁ。」
十日月の月は、キラキラ優しく輝いていました。



お話妖精ルーモと風さんルーマニア⑬

2020-05-07 14:15:37 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月13日(土)宵月の夜 ルーマニア

風さんがいいました。
「次はこわーいドラキュラ伯爵のいるルーマニアに行ってみる?」
「こわいって何?ドラキュラ伯爵ってだあれ?」
「ルーモは怖い気持ちがまだわからないんだね?」

ルーモは、これまで【怖いお話】というものを聞いたことがありません。
だから、怖さや恐ろしさや冷や冷やするとかびっくりすると言ったことがわかりません。

もちろん、ドラキュラという名も始めて聞きました。

風さんは言いました。
「人間ってね、怖いお話が好きなんだ」
「こわい、こわいって言いながらすごく面白がるし、知りたがる。人間は変な生き物だよ」
ルーモには、よくわかりませんが、それも学んでみたくなりました。

風さんはひとっ跳びでドラキュラ城と呼ばれる「ブラン城」へとルーモを運びました。ルーモは初めて西洋のお城を見ました。そして、あまりに美しいのでびっくりして一目で好きになりました。こんな素敵なお城に住んでいる人が怖いはずがないと思いました。お部屋の中もとても素敵です。中世の戦いで使った鎧がたくさん飾ってあります。

その中でも一番立派な鎧がルーモに話しかけて来ました。
「どうだね?私が怖いかね?」
「ちっとも怖くなんかないわ。怖いということがわからないの。みんなは何を怖がっているの?」
ルーモが不思議がっているので、鎧は話し始めました。

~ここに来る人はドラキュラがここに住んでいたと思って怖がるんだがね、実はここにドラキュラは住んでいなかったのさ。それはただの作り話だ。そう、人はみな怖い話が好きなものだよ。

 ドラキュラ伝説は、その昔イギリスの作家が作ったお話でね、ドラキュラのモデルは15世紀のルーマニア、トランシルヴァニア地方の領主・ワラキア公ヴラド3世とされている。でも、共通するのはドラキュラという名前と、出身地がルーマニアという点だけ。

ただ、ヴラド3世は、戦争が当たり前だったその昔、多くの人を処刑したと伝えられて恐れられているんだ。でも、彼自身勇敢に戦い、捕虜になったこともある。少なくともルーマニアでは英雄とされているんだよ。

そこから作られた物語のドラキュラ伯爵は、自分が生きながらえるために人の血を吸って命を奪う怪物とされている。昼は眠っていて、夜起き出し、人を襲うんだ。そんな怪物をみんな恐れて怖がる。そして、たくさんのお話ができた。大体のお話は最後にドラキュラは胸に杭を打たれて退治されるんだ。~

死ぬことを知らないルーモには、怖さの感覚がわかりません。ルーモにわかったことは、人間は物語を創るのが大好きで、物語には様々なテーマがあり、その中に【怖いお話】というのがあるということでした。そして【怖い】理由は、どうやら【死ぬ】ということにつながっているようでした。そして、それを鎧さんに話してみました。

鎧は、ルーモの理解を聞くと城中に響くほどの大声をあげて笑いました。

「そうだ、その通り!!人の怖さのおおもとは、死だ。
死が、人々を恐れさせ、そして、怖い物語を作らせる。
人間はその物語の中で恐怖という鎖に永遠に繋がれる。

ルーモよ。生まれることも死ぬこともない妖精のルーモ。
幸運な、されど、進歩なき存在。
うはははははは…。」

鎧はそう行って立ち去り、大広間で美しいドレスを着たレディの幽霊と優雅にダンスを始めました。

鎧の言葉がルーモの胸に重りのように残りました。
「幸運な、されど、進歩なき存在」
その言葉がこだまのように響いて、ルーモは先ほどまで素敵だと思っていた古城を早く出て行きたくなりました。そう思った瞬間、風さんがルーモを高い雲の上まで吹き上げてくれました。

風さんは何も言わずにルーモを優しく包みましたが、その夜、ルーモは一睡もできないまま朝を迎えました。



お話妖精ルーモと風さんポーランド⑭

2020-05-06 14:16:31 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月14日(日)宵月の夜 ポーランド

どこからか美しい音が聞こえてきます。風さんがこれはピアノの音だと教えてくれました。少し昔、ショパンという偉大な音楽家がこの地にいたそうです。彼はたくさんの美しい曲を作りました。ショパンが亡くなってからもショパンの音楽が好きな人の気持ちが、この国の空にいつでもピアノのメロディーを響かせるのです。ルーモはピアノという楽器が弾いてみたいと思いました。



ルーモはショパンサロンのコンサートのお部屋に来ました。コンサートと聞くと、普通大きなホールだと思いますが、このショパンサロンのコンサートは小さな部屋で少人数のお客さんで行われます。ピアノとの距離が近く、ピアニストの息遣いまでが聞こえる距離で迫力があります。また、小さい部屋なので暖かく、寒いのが苦手な方にお勧めですが、今は夏なので大丈夫ですね。場所は観光地の新世界通りから徒歩で5分ぐらいです。マンションの3階の部屋になります。毎日午後7時半から行われるサロンコンサートで、グラスワインとお菓子が付きます。コンサート後はピアニストや他のお客さんとも話せる機会があり、素敵な思い出となりそうです。

ここでは、ルーモが見える人はいませんでした。音楽があったので人の心は寂しさや哀しみから放れて満たされていました。ピアノを弾くのは若い男性でした。ルーモはその人の後ろに立ってその人の指に合わせて自分も鍵盤をたたく気持ちになりました。その人の指は長くてきれいで、信じられないほど素早く動きました。

すべての曲があまりにも綺麗でルーモは嬉しくなりました。
題名だけは覚えようと頑張りました。

一つは「子犬のワルツ」
ルーモには子犬が天国からやってきて楽しく遊んでいるのが見えました。子犬と楽しくじゃれ合って幸せでとても無邪気な気持ちになりました。

次は「別れの曲」
この曲を聴いて、ルーモのこれまでの旅の別れ際を思い出しました。一瞬に近いわずかな出会いの中で心から仲良くなったと感じたのに、別れはすぐきました。そして、出会った人々とはもう二度と永遠に出会うことはないかもしれないのです。それを想ったら急に悲しくなりました。

そして、「英雄ポロネーズ」
この曲は勇敢な気持ちを通り越して、なぜか胸が張り詰めてとても悲しくなりました。闘いを前にした戦士の気持ちになったのです。自分は英雄になるために闘い、その先には死が待っているかもしれない。あとに残した母親や恋人や友の哀しみがこの曲には秘められています。ショパンはとても繊細で優しい人で闘いや英雄であることより、愛し合うことを望んでいたことが伝わってきました。

最後は「雨だれの前奏曲」
ルーモはこの曲を作ったショパンを恋しく思い、切なさの感情が湧いてきて、こんな気持ちは初めてでした。

音楽とは、不思議なものです。
人の心を嬉しくも楽しくも悲しくも勇ましくもします。そして、ルーモが感じたように誰かを恋しくもさせます。

人間の語る物語や奏でる音楽をたくさん体験して、ルーモに芽生えた人の心がさらに大きく柔らかに膨らみ始めていました。

ルーモは、はじめ6歳くらいの女の子に見えましたが、今は12~3歳くらいのお嬢さんに成長しています。風さんにはそれがわかっていました。




お話妖精ルーモと風さんドイツ⑮

2020-05-05 14:17:43 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月15日(月)宵月の夜 ドイツ

ドイツにはハーメルンという町があります。
とても有名な町で多くの旅人がここを訪れます。
それはこの町には、子供が大好きなお話「ハーメルンの笛吹男」という物語があるからです。ルーモもこのお話を知っていました。どこかのおうちでお母さんがこの絵本を子供に読んでいたのを聞いたことがあったからです。

お話のあらすじは、
~ハーメルンと言う豊かな町にネズミがたくさん増えて人々を困らせます。するとハーメルンという男がやってきてネズミ退治をしてあげようといいます。街の人は喜んで頼みました。ハーメルンが笛を吹くとたくさんのねずみがハーメルンについていき、ハーメルンはネズミたちを海に入れて溺れさせました。街からネズミが全くいなくなりました。ところが、町の人はハーメルンにご褒美の金貨をあげるのをやめてしまったのです。怒ったハーメルンは町中の子供たち全員をネズミにやったのと同じ方法でどこかに連れて行ってしまいました。~

ルーモはこのお話がよくわかりませんでした。
ハーメルンはどこからやってきた何者だったのか?
ご褒美の金貨をあげなかったのはなぜでしょう?
そして、130人もの子供は一晩でどこに行ってしまったのでしょう?

ルーモは【死】や【怖さ】を知らず、ましてや【疑う】ことを知らなかったのです。

風さんは、
「本当に130人もの子供が一晩でいなくなったことがあったんだ」
と話します。

そしてルーモをハーメルンの銅像の所に連れて行きました。
ルーモはハーメルンの銅像に話しかけました。
「あなたは何者なの?なぜ、子どもたちをどこかへ連れて行ってしまったの?」

ハーメルンの銅像は、大きく伸びをして
「おやおや、これはこれは、お話妖精のルーモ嬢。おうわさはかねがね!」
と大げさな挨拶をしました。
「わたしのような銅像に話しかけてくれて光栄に存じます。今いただいたご質問は、世界中の多くの人が聞きたいところでしょうな。ご想像にお任せします、と言っておきましょう」
ルーモは、
「街の人はなぜご褒美をくれなかったの?」

「おや?人間の醜さをまだ学んでないようだね。私がしたことは、お嬢さん。人間たちに教訓を与えたんですよ。人々が誠実に約束を守る大切さを教えた…というところ。お話には、そんな力もあるんだよ。たくさんの人間が自分のことばかり、金のことばかり、欲のことばかり、にならないようにね。この話が世界中の人に知られて、この世界はそれまでよりも平和な場所になったとは思いませんかい?」

風さんも言いました。
「お話とは、幸せで楽しい物語ばかりじゃない。そうじゃないお話が、聞く人を最後には幸せにすることがよくある」

幸せで楽しくて暖かくてホッとするお話をたくさん聞いてきたルーモでした。そう思ってハーメルンの銅像を見上げると、銅像は元あったように口をきくことはない硬いブロンズに戻っていました。

人間の醜さ・・・。その言葉がルーモを少しこわばらせました。
私も人間になったらその【醜さ】を持つのかな?

しんみりしているルーモを、風さんは良いところに連れて行ってくれました。ハーメルンのパン屋さんです。そこにはネズミ型のパンがたくさん売られていました。大きさは1匹10~12センチくらいです。これは飾りで食べることはできません。でもとても可愛いのでルーモは大喜びです。他にもハーメルンの街中にはねずみの飾りがたくさんあります。

ハーメルンの街の川にかかっている橋の上にも金色のねずみの像がありました。街中のお店の2階から下を見ている大きなねずみのぬいぐるみもいました。お店の看板にもねずみの像が立っていました。ルーモはすっかり元気になってネズミ探しに大喜びでした。




お話妖精ルーモと風さんイタリア⑯

2020-05-04 14:18:50 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月16日(火)十三夜の夜 イタリア

ルーモはイタリアに来るのが楽しみでした。
日本でよくお話を聞きに行ったおうちの女の子が、お父さんのお仕事でイタリアに引っ越したからです。イタリアに行くならその女の子のおうちにお邪魔しようと思っていました。風さんにそうお願いしました。

「きみがお話を聞いている時、ぼくはドゥオーモでも探検するとしよう!イタリアの芸術は大好きさ。では、良いお話を~」

と言って風さんは飛んでいきました。

女の子のおうちはフィレンツェにありました。フィレンツェは古い芸術の町です。その日の夜、久しぶりの再会にワクワクしていました。女の子に会った時ルーモは驚きました。なぜって、おかっぱ頭の女の子はもう女の子ではなく大人の女性だったからです。素敵な長い髪をえんじ色のリボンでしばっていました。ルーモは歳を取らないのですが、人間の子はすぐに大きくなってしまうのです。そして、前にお話を聞かせてくれたお母さんはもう白髪のおばあさんで、大きくなってしまった女の子は結婚をして小さな男の子のお母さんでした。お友達はその男の子におやすみ前のお話をしていたので、ルーモは不思議な気持ちでそのお話を聞きました。それはフィレンツェのちょっとおかしな小話でした。

~フィレンツェにはドゥオーモがたくさんあるでしょう?
ドゥオーモは教会の建物のこと。何度か見に行ったね。一つ一つデザインがユニークで美しいでしょ。鉄骨やコンクリートがなかった時代に、木の梁とレンガを積み上げて作ったのよ。すごいわね。

「今風さんが見に行ってるドゥオーモのことだ」
と、ルーモは興味津々でした。

昔むかし、ドゥオーモ広場のあたりはたくさん人が住んでいました。国が決めた大きなドゥオーモの建設が始まって、その周りの人々の家は壊され、土地の値段がとても上がりました。ビスケリ家はたくさんの大きな家を持つ大貴族だったので、土地の値段をつり上げる為になかなか立ち退きしようと頑張っていました。

ところが、誰かの意地悪でしょうか?ビスケリ家は火事になり、焼けてしまいました。その頃、火事を起こしてしまうとその人の土地はフィレンツェ共和国に没収される決まりがあったんだって。ビスケリ家は欲張ったために、家もなくなり、結局、一文無しになっちゃったの。それ以来、「まぬけな人」の事を「ビスケリ」と言うの。

女の子は、「ビスケリさん、可愛そう。私、欲張りしないよ」
ママは、女の子を「けちけち、ビスケリ、けちけち、ビスケリ」と言ってくすぐりました。

キャッキャッとした2人の笑い声は部屋の空気を明るくし、ルーモの心を楽しくさせました。

すると、お母さんは思いついたことを言いました。
「今、ママが子供の頃に聞いたお話を思い出したわ!ルーモっていうお話妖精が出てくるお話よ!まだ、あなたにしてあげたことなかったわね」
「お話妖精?わ~、楽しそう。してして!」
「これは、ママのママが私にしてくれた作り話。むかしむかし…」

ルーモがママのそばにいたので、ママは小さい頃のお話を思い出したのです。ルーモは嬉しくなりました。そして、ママのするお話の中に入って行きました。今夜のお話は一段と面白いお話になることでしょう。

ルーモは昔のお友達が可愛い息子に、寝る前のお話をしていることが嬉しくて嬉しくてなりませんでした。

そして、ルーモは今日聞いたお話を風さんにしてあげようと思いました。



お話妖精ルーモと風さんフランス⑰

2020-05-03 14:20:30 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月17日(水)小望月の夜 フランス

イタリアからフランスへはモンブランという山を越えました。そして、ルーモが行きたかったフランスの片田舎ツゥールーズへと風さんは運びます。遠い昔ルーモがまだ妖精という形を持たない精霊だったころキラキラした光になって、この地方の農村のヒース野原を駆け巡っていたのです。

フランスの昔話には、王さまや王女さま、魔法使いや魔女、精霊や妖精などが登場して洒落ていてにぎやかです。そして、どのお話もまずまずハッピーエンドであることが多いです。

今夜の寝る前のお話に聞きたい物語がありました。ルーモは今夜語るお母さんから魔法でそのお話を引き出すことにしました。そのお話は、『フランス妖精集』の中のお話です。この中は27の民話が「変身譚」「愛」「嫉妬」「試練」「不思議な動物」「妖精」「プシュケ神話」の7つのテーマに分かれています。その中でも好きなのは、テーマ「愛」のお話、「ヒース野原の魔女」です。

農家のおうちの可愛い姉妹が眠る前に、優しいお話好きのお母さんがベッドサイドに来てくれました。さあ、お話が始まります。

~ヒースは病気に効く植物です。ピンク色の小さな花がたくさん集まってそれは美しい花です。ヒースの野原は見事な景色。ここにはヒースを守る魔女が住んでいました。この魔女はヒースの花ようにとても美しかったのですが、自分がだんだんと年を取ることが嫌で嫌でたまりませんでした。若い頃はたおやかで優しく温かい魔女でしたが、最近は、自分の顔にシミやしわが寄るのを見るたびに冷たくいじわるな魔女になっていきました。

そんなところに5人の小人がヒースを取りにきました。小人たちには大好きな優しいおじいさんがいて、そのおじいさんがリウマチで苦しんでいたのです。ヒースはリウマチによく効くので摘んで薬にしようと考えたのです。

ところがヒースを取りに来た小人たちを見て、魔女は自分からヒースを盗んで自分をもっとを醜くさせようとしたと怒りました。そして、小人たちに「主を称える歌」を完成させるまで、ヒース野原で真夜中から夜明けまで踊り歌う呪いをかけました。魔女は小人たちが「主を称える歌」を完成させたら、神様が自分の美しさと若さを返してくれると思ったのです。

おじいさんには孫娘がいました。その少女はヒースの魔女が昔そうだったように美しく愛らしい少女でした。少女は、仲良しだった小人たちがいつまでも戻ってこないので、ヒース野原に探しに来ました。そこで小人たちが困りながら歌い踊り続けているのを見た少女は、小人たちが魔女の呪いにかかったことを知りました。

小人たちを助けるには、「主を称える歌」を完成させなければなりません。少女は、幾夜にも渡って歌の文句をつけ加えてあげることにしました。「主を称える歌」は歌詞がとても長く難しいのです。誰かが手伝わなければ小人たちは永遠に毎晩同じ文句を繰り返し歌い続けることになります。

少女は毎晩、家から聖書を持ちだし、ヒース野原にやってきては主を称える歌の歌詞を教えました。雨の夜も、風の夜も、凍えるように寒い晩も。幾晩続けたことでしょう。とうとう、やっと「主を称える歌」が完成しました。小人たちもがんばりました。長く難しい歌詞をすっかり覚えて美しいメロディにのせて朗々と歌えるようになったのです。その歌声はしっかりと魔女の耳に届いていました。

美しい歌詞の意味は、心の優しさ、美しさ、気高さ、深さ、温かさが神さまに一番に愛されると伝えていました。歌の美しさが、固く醜くなった魔女の心を柔らかくほどいていきました。外見の美しさを通り超えたとき、本物の美しさが現れてくることを知りました。そして、誰もが歳を取っていくことを悟りました。魔女の心は、もとの優しい氣高さを取り戻りました。

小人たちの呪いは解け、ヒース野原は以前にもまして美しく輝き出しました。おじいさんのリウマチはすでに魔女の魔法と小人たち、そして孫娘の愛の力で治っていました。少女はこの出来事で、立派な美しい女性に成長しました。

本当の愛や美しさとは、時として、あるがままを受け入れることなのだと、このお話は教えています。~

お母さんの語りは素晴らしいものでした。ルーモは感動してヒース野原の魔女に会いに行きました。このお話は人間が作ったものですが、作られたものは必ず世界のどこかに本当に存在するのです。ヒースの魔女は今は皺くちゃなおばあさんでしたが、どんなに美しく愛らしく健康な女性でも、若いうちは決して持つことのできない虹色と黄金のオーラを全身から放っていました。そして、魔女は全て世界に愛を与えることのできる立派な魔女になっていました。だから、神様からも存分に愛されていました。

ルーモはこんなに美しい女性を見たことがありませんでした。
魔女はやさしく微笑むとヒースの花々に溶けこんで一層の輝きを放ちました。



お話妖精ルーモと風さんスペイン⑱

2020-05-02 14:22:05 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月18日(木)十五夜の夜 スペイン

今日は、満月の夜です。ルーモはこの満月を、昔太陽の国と呼ばれ、世界中を支配するくらい強い国だったスペインの上空で眺めました。青い海と抜けるような空、情熱的で陽気で暖かい人々が暮らすスペイン。

風さんと寂しい田舎の草原の上を飛んでいると、どこからかメロディーとリズムが流れてきます。音の近くに寄っていきますと、掻き鳴らされるギターがふりしぼる東洋的旋律に乗って、女の人が激しい足踏みで踊っています。

ルーモは、汗をかきながら時に苦しそうな表情で懸命に踊る女の人から目が離せなくなりました。この音楽と踊りは、まさに一つの物語でした。ルーモはお話だけでなく、目の前で起こるこうした【踊り】といったストーリーにも入り込むことができました。ルーモはすっかり、自分が女の人になって踊っている感じになったのです。音楽も言葉と同じように、人々の喜びや怒り、哀しみや楽しさから生まれるものです。

そして、踊るルーモの心の中がとても熱くなりました。元気よりももっと強いもの、身体を突き動かすような、炎がすべてを燃やし尽くして灰になるような、洪水が木々をなぎ倒すような、そんな激しい力、破壊の力にも似ています。内側のその激しい力を全身全霊で外側に押し出すように踊ります。さらに、今まで感じたことのない、泣きたいような、怒りたいような、叫びたいような、笑いたいような、たくさんの気持ちが一気にあふれ出てきました。

その力をこの女の人は、おさえて身体のいろんなところに分散し、コントロールするので、ときおり苦しそうな表情になったりするのです。そして、とても美しく素敵な輝きがいろんな色を発しています。

男の人が奏でるギターと女の人は、一心同体となり一つの世界に結ばれて溶け込んでいました。とてもとても情熱的で幸せなひと時でした。

ルーモはギターと踊りの中に引き込まれていくうちに、そこに風さんも入ってきたことを感じました。風さんはいつもの風さんではなく熱く強い熱風でした。ルーモは熱風に巻き取られ、巻き上げられ、回転し、吹き上げられ地上に落ちそうになるところをまた掬い上げられて、波のように揉まれているような気持でした。言葉ではないけれどこんな幸せがあるのだな、と感じながらすべてを忘れていました。

この踊り、フラメンコといいます。昔から、家族や仲間同士でテーブルを囲んで、歌い、奏で、踊り楽しむという喜びが、今はこの国の伝統芸能となり世界中でも楽しまれています。

音がとまり、女の人の激しい息遣いがとまったようです。
気がつくとルーモは、雲の上に休んでいました。
ルーモの頬を優しくひんやりした風さんが撫でています。
ルーモは
「ふーっ。楽しかった。」といい、風さんも
「エキサイティング・・・」と笑いました。
「人間って素敵ね」
ルーモは頬を赤く染め、瞳はうるんでいました。



お話妖精ルーモと風さんエジプト⑲

2020-05-01 10:38:38 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月19日(金)十六夜 エジプト

風さんがどうしても行きたかった場所があります。それはエジプトのピラミッドでした。なぜかというとそこに自分のお友達がいたからです。ほとんどの風の精霊は世界中を吹き渡ることができますが、風さんのお友達は特別にピラミッドを守るお役目を持っていて、この辺りしか吹くことが出来ません。

荒々しい風や冷たい風やいじわるな風が吹いてきて、このピラミッドを傷つけたり壊したりしないように守らなければなりません。それでもピラミッドはずいぶん壊れてきています。とても大変なお役目です。なので、風さんはそのお友達のところに来ると世界中のお話をして喜ばせます。それをルーモにも手伝ってほしかったので風さんがお願いすると、ルーモは喜んでこれまでのお話をしてあげました。

昨夜のスペインの踊りや、この旅で耳にした音楽、ピアノや二胡の音をルーモの記憶から聞かせてあげました。すると、風さんのお友達は大喜びしました。

「なんて、温かい。この地上にまだそんな温かさがあるのか。きみのお話で心が温かくなったよ。ありがとう」と言ってお返しに、自分のお話をし始めました。

「私はピラミッドができてからずっとここにいていろんなことを見てきた。ピラミッドがどうやって作られたか、なんのために作られたのかも全部知っている。

作られたばかりのピラミッドやそこに住む人々はそれそれは美しかった。
あの頃のここは本当に光輝くような場所だった。けれど、ピラミッドとは時と共に変わっていく定め。朽ち果て行く構造。

形だけは残っているように見えるが、一番大切なものは当の昔に失われたので、本当は何も残っていない。ここは虚ろなのだ。

この遺産を人が見るとき、少しでもその人の目に本物が映る可能性があることを信じて。私は過去の遺物を守り続ける。そうして、人がその目に本物を取り戻す日が来る日を願っている。」

お友達のお話は、とても重く厳しい感じがしました。

そしてお友達は、ルーモをピラミッドのてっぺんに持ち上げてくれました。ピラミッドのてっぺんからはとても美しいけれど細くかぼそい光の線が宙へと伸びているのがわかりました。お友達は言いました。

「いつかきみのように世界の温かさや優しさを見てみたい」

風さんが言いいました。
「僕が世界のいろんなことを見聞きして君に伝えるさ。いつか、小さな光が大きな光になった時、一目散にやってきて君に知らせる。そしたら、やっと君はお役目を終えて僕と世界中を旅をするんだ」

お友達と風さんは、ピラミッドの、か細い、けれど、美しい光の線を辿りながら行けるところまで宙へ宙へと吹き上がっていきました。

ピラミッドって何なのでしょう?
私たちに何を物語って何千年もの間そこにあり続けるのでしょう?

ルーモにはあの巨大な建物がもうそのお役目を終わりにしたいと言っているように感じました。でも、それは多くの人が何かに気づかなくてはならなのかもしれません。風さんのお友達もピラミッドも可愛そうな気がしました。