8月1日(月)暁月の夜 日本
Lumo(るーも)…エスペラント語で「光」「光を当てる」「光を照らす」の意
エスペラント (Esperanto) とは、ルドヴィコ・ザメンホフとその弟子(協力者)が考案・整備した人工言語。
このお話は、ルーモという不思議な女の子が30日間で世界を旅するお話です。
ルーモは人間の女の子の姿をしています。ルーモがいつどこで生まれたかを知る人はいませんし、ルーモにもわかりません。
不思議な力を持っていて、人間はルーモのような存在を妖精と呼びます。
「どんな力かって?」
「それはね、誰かが素敵なお話を語るとき、そばに行ってそのお話を聞ける力です。ルーモの姿は人には見えないのです。そして、時にはその物語の中に入って行くこともできます。風の精や水の精、他の妖精ともお話しできますよ。少しは魔法も使えます」
ルーモはこの㋇、世界中がサマーホリディ―の一か月間で、子供たちがお母さんやお父さんに聞くおやすみ前のお話を聞く旅に出ようと決めました。
月が新月に近づこうとする8月1日「暁月」の夜、出発することに決めました。
ルーモがもともと住んでいる日本がスタート地点です。
ルーモは今、日本一高い山、富士山のてっぺんに立って願いを立てます。
呪文の言葉は、
「るるりらルーモ、るるららルーモ、世界中のたくさんのお話が聞きたい。このひと月、私を助けて、世界中のお話の場に連れてって」
するとかすかな唸り音が起こり、富士山の山肌をせり上がって白い龍が一匹が螺旋を描き勢いよくやってきました。
ルーモが目を丸くしてよく見ると龍ではなく小さな風の子、風の精霊でした。
「わー、龍かと思った。あなたが私の案内役なのかしら?」
「エッヘン、いつもはこの山で遊んでるんだけど、きみの願いに引き寄せられた。世界中のお話を聞きたいって?」
「うん。私が願えば、お話の場に行ける。でも世界はとっても広いでしょ。私一人では迷子になってしまう。あなたがきっと必要なのね」
「なるほど。ぼくこう見えてもイングランド生まれなのだ。世界もいろんなところに行ったよ。なんてったって風!だからね」
そういうと風の子は、ルーモをぐるりと取り巻き、空高く持ち上げました。
ルーモはまるで柔らかいスカーフに巻かれたようでうっとりとしました。
さあ、ルーモの旅の始まりです。
妖精ルーモと風の精霊の意識が重なった時、ルーモの願いが叶います。
気がつくと、ルーモはあるおうちのお布団にいる女の子のそばにいました。
ルーモの姿は人間には見えません。
4歳の女の子は、お母さんを待っていました。
ふすまの向こうでお母さんがお片づけをしている音がします。
お皿を洗う音、カーテンを閉める音、飼っているワンちゃんにご飯をあげる音。
女の子は、お母さんが早くお片づけを終えて来てくれるといいな、と待っているのです。
しばらくしてお母さんは、ふすまをそっと開けて中をのぞきました。
女の子は言いました。
「お母さん、お話聞かせて」
「はい、はい。」
お母さんは、からだ半分だけお布団に入ってくれました。そして、話し始めました。
女の子は、今日はどんなお話だろうとワクワクしています。
ルーモも嬉しくなりました。
子供のワクワクの気持ちがルーモに伝わると、ルーモには光が宿ります。
妖精ルーモの仕事は、この光を集めることでもありました。
ルーモの集める光は、人間の優しさです。
このお母さんは物語を創るのが上手いお母さんだったようです。
~昔、昔、あるところに、4匹の可愛い猫と1匹の賢い犬がいました。
この5匹は白いひげを生やしたおじいさんと一緒に住んでいました。
おじいさんはどの子もとても大切に可愛がっていました。おじいさんは独りぼっちでしたから、5匹がなによりのお友達でした。おじいさんと5匹はいつも一緒です。朝は、近くの畑にハーブを取りに行き、昼は、おうちから少し離れた川に魚釣りに行きます。おじいさんは夕食のためにみんなに一匹づつ魚を釣ります。おじいさんの分も入れて全部で6匹釣れたら帰ります。5匹はおじいさんのお仕事に遊びながら着いていきます。おじいさんはおうちに帰るとお魚をお料理します。お魚に塩と胡椒をかけ、畑で取ったハーブを添えてオーブンで焼きます。できあがったら、畑で採れたレモンをあつあつのお魚に絞ります。そして、おじいさんはみんなに一匹づつお魚をくれました。おじいさんはみんなの好みをちゃんと知っていましたので、ハーブが嫌いな子にはハーブなしで、レモンが大好きな子にはレモンをたっぷりと、骨が上手に食べられない子には骨をとり、少ししか食べられない子には少しだけ、たくさん食べられる子にはその分足して…、とこんな具合です。みんな、本当に幸せでした。
ある時、5匹は思いました。自分たちがどんなに幸せで、どんなに嬉しいかをおじいさんに伝えたいと。この国でその気持ちを伝える言葉は「ありがとう」だと、犬が言いました。
「でも、ぼくたちは人間の言葉がしゃべれないよ。どうしても、ワンとかニャーになっちゃうよ」
「どうしたらそのありがとうって言えるのかな?」
考えた末に、賢い犬が言いました。
「全部言うのは難しいけど、ぼくらは5匹。あ・り・が・と・う、も五つの音だよ。一人が一つの音を一生懸命練習して順番に言えばおじいさんにきっと伝わるよ」
それからみんなの練習が始まりました。
猫たちは「にゃあ」「りにゃ」「にゃが」「にゃっと」。犬は「わう」。
猫の「りにゃ」が一番難しく、次に難しいのは「にゃっと」でした。犬もワンと言うのを抑えて「ワウ」というのにてこずりました。でもみんなは頑張りました。この言葉を言った時のおじいさんの喜ぶ顔をどうしても見たかったからです。練習はひと月と半かかり、なんとかそれぞれが言えるようになって、それをつなげて言えるようにもなりました。
その日の晩、みんなはおじいさんの前に勢ぞろいしました。おじいさんがロッキングチェアにどっかりとくつろいでいる時です。賢い犬の合図で、「にゃありにゃにゃがにゃっとわう」。おじいさんは、目を丸くしてみんなを見ました。やはりよくわからないみたいです。みんなは、おじいさんがわかるまで何度も何度も繰り返しました。
おじいさんは、最初ごはんが欲しいのかと思いキッチンに行きご飯をあげました。それでもみんなが鳴くのをやめないので、おトイレに行きたいのかとおトイレのドアを開けました。それでも、みんなは鳴くのをやめないので外に出たいのかと思い玄関のドアを開けました。そして、やっと気づいたのです。みんなの目が「ありがとう」と言っているとわかったらからです。おじいさんの目に涙が光りました。
みんなはおじいさんに喜んでほしかったのに、おじいさんが泣いてしまったのでびっくりして慌てました。でも、賢い犬は知っていました。人間は心から喜んだとき涙を流すのだと。みんなにそう言ってあげたとき、みんなも少しだけ胸がきゅんとなって、みんなの眼にも涙がにじみました。でも、もうあとは眠くて眠くておじいさんのそばですやすやと眠ってしまったんですって。おじいさんはみんなのことを嬉しそうにながめながら、優しくゆっくりと何度もなでてあげましたとさ。おしまい。
お話が終わるか終わらないかの時には、女の子もルーモもすやすや寝息を立てて眠っていました。
素晴らしいお話でした。お母さん、おつかれさま!
全部見ていた風の精霊が、がんばったお母さんの頬に小さな優しい風をそよがせました。
キスをするようにね。