8月2日(火)晦日月の夜 ロシア
風の精霊に名前はありません。
でもルーモと仲良しの風の精霊は人間で言えば10歳くらいの男の子のようです。この旅は風さんとルーモの二人旅です。
ルーモは、風さんと相談しています。
「次はどこの国に行こうかな?」
風さんは言いました。
「今、空の高いところには南から北に吹く風がある。この南風に乗って北の国へ行ってみない?ロシアというちょっと寒いけれど素敵な国があるよ」
「ろ・し・あ、その国の名前好きだわ」
風さんはすぐさまルーモを空高く巻き上げました。空の高いところには柔らかで大きなベッドのような雲がルーモを迎えてくれました。南風は雲のベッドをロシアへと運びます。心地よく揺られているうち風が少し冷たくいじわるになったような気がして、ルーモはちょっとだけ身震いしました。風さんが言いました。
「もうすぐ着くよ」
小さなお部屋の小さなベッドの中に小さな男の子が横になっています。この子もやはりお母さんがおやすみ前に来てくれるのを待っていました。男の子は思っていました。
「今日はお母さん、お話をしてくれるかな?キスだけかな?それとも黙っていっちゃうかな?」
この子のおうちは貧しくてお母さんは毎日とても長く働かなくてはなりませんでした。だからいつも疲れていましたし、おやすみ前のお話はない時の方が多かったのです。でも、本当は優しいお母さんです。
男の子の部屋は飾りのない寂しい部屋でしたが、棚の上には女の子の顔のマトリョーシカ人形が乗っていました。やっとお母さんが男の子のほっぺにおやすみのキスをしにきました。そして、さっと行ってしまおうとしました。男の子は思い切って言いました。
「ママ、前にしてくれたマトリョーシカのお話して」
お母さんは、ため息をついて、
「ママももうくたくた、まだやらないとならないことがあるし、ママだって早く寝…た…」
ルーモがそばにいると、人は少しだけ優しい心を取り戻すことが出来ました。お母さんは、大きく息を吸ってゆっくりと息を吐き、口元にかすかに笑みを取り戻し、小さな椅子をベッドのそばに寄せて、
「わかった、短いお話だけどね」ニコッと笑って話し始めました。笑顔にまだあどけなさが残るお母さんでした。その日もお母さんはとても忙しかったし、ちょっと悲しいことがあったのですが、ルーモの力が本来のお母さんにさせてくれました。
~このマトリョーシカはね、あなたがママのおなかの中に来てくれた時に、おばあちゃんからもらったの。マトリョーシカは良い子が生まれるように守ってくれるの。それからいつでもママがあなたの素敵なママでいられるようにも導いてくれるのよ。ママは最近忙しくて善いママじゃなかったね。ごめんね。マトリョーシカの一番小さなお人形があなたの中の神様。とても大切な優しい心。神様に息を吹きかけて願い事をすると叶うのよ。さあ、今夜も素敵な願い事をして休みましょう。~
そう言ってママはマトリョーシカを開け、最後の一番小さなお人形を取り出し、男の子の目の前に出しました。
「さあ、願い事を考えて。ママと一緒に」
二人とも願い事を胸に目を閉じました。そして、1,2,3、でふっ~と息を吹きかけました。ママは男の子を見てニコッと笑いました。男の子は満足して目を閉じました。ママはマトリョーシカを元の場所に戻してお部屋を出ていきました。短いお話でしたが、男の子の胸は幸せで満たされていました。ママも久しぶりに男の子と気持ちが通じて幸せでした。そして、ルーモの心の中もあたたかい光がともり、初めて見たマトリョーシカ人形は忘れられない思い出になりました。
みんなの心も体もほんわり温かくなれたのは、風さんがちょっぴり南風の熱を持ってきてくれたのもあったみたいです。
風の精霊に名前はありません。
でもルーモと仲良しの風の精霊は人間で言えば10歳くらいの男の子のようです。この旅は風さんとルーモの二人旅です。
ルーモは、風さんと相談しています。
「次はどこの国に行こうかな?」
風さんは言いました。
「今、空の高いところには南から北に吹く風がある。この南風に乗って北の国へ行ってみない?ロシアというちょっと寒いけれど素敵な国があるよ」
「ろ・し・あ、その国の名前好きだわ」
風さんはすぐさまルーモを空高く巻き上げました。空の高いところには柔らかで大きなベッドのような雲がルーモを迎えてくれました。南風は雲のベッドをロシアへと運びます。心地よく揺られているうち風が少し冷たくいじわるになったような気がして、ルーモはちょっとだけ身震いしました。風さんが言いました。
「もうすぐ着くよ」
小さなお部屋の小さなベッドの中に小さな男の子が横になっています。この子もやはりお母さんがおやすみ前に来てくれるのを待っていました。男の子は思っていました。
「今日はお母さん、お話をしてくれるかな?キスだけかな?それとも黙っていっちゃうかな?」
この子のおうちは貧しくてお母さんは毎日とても長く働かなくてはなりませんでした。だからいつも疲れていましたし、おやすみ前のお話はない時の方が多かったのです。でも、本当は優しいお母さんです。
男の子の部屋は飾りのない寂しい部屋でしたが、棚の上には女の子の顔のマトリョーシカ人形が乗っていました。やっとお母さんが男の子のほっぺにおやすみのキスをしにきました。そして、さっと行ってしまおうとしました。男の子は思い切って言いました。
「ママ、前にしてくれたマトリョーシカのお話して」
お母さんは、ため息をついて、
「ママももうくたくた、まだやらないとならないことがあるし、ママだって早く寝…た…」
ルーモがそばにいると、人は少しだけ優しい心を取り戻すことが出来ました。お母さんは、大きく息を吸ってゆっくりと息を吐き、口元にかすかに笑みを取り戻し、小さな椅子をベッドのそばに寄せて、
「わかった、短いお話だけどね」ニコッと笑って話し始めました。笑顔にまだあどけなさが残るお母さんでした。その日もお母さんはとても忙しかったし、ちょっと悲しいことがあったのですが、ルーモの力が本来のお母さんにさせてくれました。
~このマトリョーシカはね、あなたがママのおなかの中に来てくれた時に、おばあちゃんからもらったの。マトリョーシカは良い子が生まれるように守ってくれるの。それからいつでもママがあなたの素敵なママでいられるようにも導いてくれるのよ。ママは最近忙しくて善いママじゃなかったね。ごめんね。マトリョーシカの一番小さなお人形があなたの中の神様。とても大切な優しい心。神様に息を吹きかけて願い事をすると叶うのよ。さあ、今夜も素敵な願い事をして休みましょう。~
そう言ってママはマトリョーシカを開け、最後の一番小さなお人形を取り出し、男の子の目の前に出しました。
「さあ、願い事を考えて。ママと一緒に」
二人とも願い事を胸に目を閉じました。そして、1,2,3、でふっ~と息を吹きかけました。ママは男の子を見てニコッと笑いました。男の子は満足して目を閉じました。ママはマトリョーシカを元の場所に戻してお部屋を出ていきました。短いお話でしたが、男の子の胸は幸せで満たされていました。ママも久しぶりに男の子と気持ちが通じて幸せでした。そして、ルーモの心の中もあたたかい光がともり、初めて見たマトリョーシカ人形は忘れられない思い出になりました。
みんなの心も体もほんわり温かくなれたのは、風さんがちょっぴり南風の熱を持ってきてくれたのもあったみたいです。