Yuumi Sounds and Stories

シンギング・リン®️セラピスト「藍ゆうみ」のブログ。日々の覚え書き、童話も時々書いています💝

お話妖精ルーモと風さんの冒険ケニア⑳

2020-04-30 14:24:50 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月20日(土)立待月の夜 ケニア

ピラミッドを守る風さんの友達はお別れの時、ルーモにこう言いました。

「動物たちのお話を聞いてごらん。サバンナに住む野生の動物は君の世界を広げてくれるに違いない」

風さんとルーモは、アフリカという大地のケニアという国に向かいました。

ケニアの空に入るとつむじ風がやってきて、ルーモと風さんを後ろからひっくり返しました。そのままルーモは転げるように地上に落ちて行ったのですが、気がついたら岩の上に横になっていて、そばにはケニアの子供が立っていました。

その子は人間なのですが、ルーモを見ることができました。
ルーモを見ることが出来るのは心に深い寂しさを持つ者だけでした。
でも、その子に寂しさや悲しさは感じられません。
人間の子であるけれど妖精の目を持っていたからです。

ルーモはすぐにその子と仲良しになりました。
その子の名は、ギデオンと言いました。
ルーモが、
「動物さんたちのお話が聞きたい」
とお願いするとギデオンはちょっと微笑んですぐに歩き出しました。
草原をしばらく歩き気がつくと、ギデオンの周りにはたくさんの動物がいました。

象の親子、キリンの親子、ライオン、シマウマ、サイ、フラミンゴやミーアキャット、ネズミのような小さな動物も。ギデオンが立ち止まると動物も立ち止まりました。
ギデオンが言いいました。

「誰かこの子にお話をしてあげてくれないか?」
するとキリンが、
「ゾウの《星のしずく》のお話がいいね」
と言いました。
「あのお話は最高だ」
とサイも言いました。

ゾウはちょっと牙を上に向けてから、歌うようにゆっくりと話し始めます。

~われらは星のこどもたちなり。
昼はお日様の光の下で半分眠る。
そして、夜。
星の下、目覚めて大きくあくびするのだ。
夜、われらの目は輝き、大きく見開いて星の光を一心に吸い込む。
星のしずくは目から喉を潤し、われらの生の営みをしばし休ませる。
しずくはわれらの心を温め、腹に力を宿し、手足までよどみなくいきわたり、明日もサバンナを駆ける力となす。
しずくはそれから大地に染みて、われらの大地を深く潤す。
大地の声がわれらにも響きわたる。
われらは星のしずくによりて大地とつながり、いつの日か大地に溶け込み星となる。
サバンナの空に幾千と輝く星々は、
幾千年もサバンナを見つめ、幾万もの晩、われらを愛おしむ。~

ゾウのお話は、短く強き詩でした。
ルーモの心にとても心地よく響き、
これから夜空を見上げるときにきっと思い出すだろうと思いました。
それから、キリンもサイも順番にお話をしてくれました。
それぞれが、短かく美しい詩でした。
ルーモの心にいくつもの星が降りたような気がしました。

風さんがひとりごとのように言いました。

「動物が何も考えないと思うかい?何も感じないと思うかい?人間たちが一番偉いとでも?」

「すべてに等しく愛を持てる存在、ルーモ。
人になるのは、大きな試練・・・」

風さんのひとり言は、ルーモの耳には届きません。

その晩は、広い大地の上で眠りながら、
星に囲まれているようにキラキラキラキラした夢を見ました。




お話妖精ルーモと風さんポルトガル㉑

2020-04-29 14:41:31 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月21日(日)居待月の夜 ポルトガル

ケニアで動物たちから『星のしずく』のお話を聞き、星々に抱かれて眠りに落ちたあと、目覚めるとルーモは、雲の上で揺られていました。

ふと顔をあげて星空を見上げると、空からキラキラとピンクや黄、青色の星がキラキラ、ゆらゆら落ちてきて、一つがルーモのお口に入りました。それはすぐにシュッと溶けましたが、なんとも甘くて美味しいものでした。その甘さは長い旅の疲れを一瞬で癒してくれました。

ルーモは言いました。
「風さん、甘い食べ物、人間が良く食べるお菓子って食べてみたい」
風さんは、
「美味しいお菓子がたくさんあるポルトガルに行ってみようか」
と早速ルーモを空の高いところを吹くポルトガル行きの流れに風に乗せました。

気がつくと、ルーモは若いお母さんと女の子が台所でお菓子を作っているそばにいました。

お母さんはお菓子作りが大好きで、これから女の子とパォン・デ・ローを作ろうとしています。日本のカステラのルーツとして考えられているのがパォン・デ・ローですが、日本のカステラの方がしっとりとしています。

パォン・デ・ローは卵をたくさん使います。女の子はお母さんに言われて卵をボウルに割って入れました。3つ割ったところで、女の子の手はすべって卵の入ったボウルを床に落としてしまいました。卵は台無しになりました。女の子は悲しくなって泣き出してしまいました。ところがお母さんはちっとも怒ったり慌てたりしません。

笑いながら「大丈夫、大丈夫」と言って、こんな歌を歌ってくれます。

「できたら嬉し、できなくても嬉し、ダメでもいいよ、良くてもいいよ、あなたは私の可愛い娘、一緒にできれば幸せいっぱ~い、それが楽しいお菓子作り♬」
と歌って、泣きべそをかく女の子のお口に何かを入れてくれました。
それはコンフェイトという小さな星型の砂糖菓子です。
日本の金平糖はポルトガルのコンフェイトが始まりです。

それはあの空からキラキラ降ってきてルーモのお口に入った甘いものに似ていました。
お母さんの優しさと甘いコンフェイトが女の子を一瞬でにこにこ顔にしました。
そして、もとの元気さで言いました。

「も一つ、ちょうだい。コンフェイト!」

コンフェイトで気分の変わった女の子は台所をスキップしたりジャンプしたり踊ったりしました。

その間に、お母さんは手早くパォン・デ・ローを作り、オーブンに入れました。それからついでにエッグタルトも作ってしまいました。そして、女の子と一緒にコンフェイトをお口に入れて、さっきの歌を鼻歌で歌いながらパォン・デ・ローが焼けるのを待っています。

良い匂いが漂ってくると二人とも幸せを感じながら、さっきの歌を一緒に歌います。
「できたら嬉し、できなくても嬉し、ダメでもいいよ、良くてもいいよ、あなたは私の可愛い娘、一緒にできれば幸せいっぱい~、それが楽しいお菓子作り♬」

この歌を聞いただけでルーモは甘いお菓子をたくさん食べた気がしておなかがいっぱいになりました。

幸せなお母さんと女の子のことを甘くて美味しい香りとともに記憶に残しました。

風さんもコンロの火と共に小さな風になり、甘いお菓子の良い匂いを楽しんでいました。


お話妖精ルーモと風さんイギリス

2020-04-28 14:43:04 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月22日(月)寝待月の夜 イギリス

風さんはルーモが大好きでした。
ルーモを背中に乗せて旅するのが嬉しくてたまりません。
いろんなところをたくさん見せてあげたいし、いろんなことを体験させてあげたい。
そして、風さんがルーモに一番見せたかったのは風さんの故郷でした。
それはイギリスにあるネス湖という湖でした。

ネス湖にはネッシーという恐竜がいるといわれています。

ネス湖はイギリスで一番大きな湖で、細長い形をしており最も深いところは230メートルもあります。まわりは深い森と山に囲まれた美しい湖です。そのそばには半分崩れていますが、アーカート城というお城もあります。昔、ここに王様やお姫様が住んでいたのでしょう。

ルーモと風さんはアーカート城の岬の北の端に残るグラント・タワーの頂上に立ちました。
湖が見渡せてとてもいい気持ちです。

風さんは言いました。
「ルーモ、ここはぼくの故郷。ぼくの家族を紹介するね」

すると風さんはぐるぐる回りはじめ、しだいに竜巻になりました。竜巻は湖の水面をざわざわと動かし、水を空へと吸い上げます。周りが水しぶきで白く霧のようになり、あちらこちらに小さな虹ができました。とても素晴らしい水のイリュージョンにルーモはぱちぱちと手を叩き喜びました。

すると、その竜巻の中から、恐ろしくも神々しい龍が現れました。細長い体には鋭い爪を持った手足があり、尻尾は身体と同じくらいの長さで先端がぐるりと丸まっています。顔はとがって大きな口の周りには長いひげ、黄金に光る大きな鋭い目は恐ろしく光っています。頭には目と同じ色の黄金の角が生えてまばゆいばかりに輝いていました。ルーモはお話の中で龍やドラゴンという生き物のことを聞いたことがありますが、本物を見たのは初めてでした。

その龍は、湖の上を雲のようにゆるゆると漂ってこちらを伺っているようです。気がつくと風さんはもとの風さんにもどって、ルーモのそばにいました。そして、言いました。
「あれが僕のお父さんだよ」
風さんは龍の息子だったのです。

すると、その大きな龍はあっという間にルーモのそばにやってきてルーモを黄金の目で見つめました。その目の迫力に、ルーモは全身をくまなく見通されたような気がしました。

龍の鼻息がルーモをあっという間に背中に乗せました。龍は一度天空に飛び上がり、真っ逆さまに湖にダイブしました。ルーモは落とされないよう必死で龍の背中に生えた無数のひげにしがみつきました。どこまで潜ったかわからないほど深く深く沈み、そして時間を超えました。もう、意識もなくなり眠りそうになった頃、あたりが少し明るくなりました。ぼんやりと周りを見てみると、そこにはお父さん龍と同じくらいの龍が何匹もいて、ルーモと風さんを優しく見つめていました。いくつもの黄金の目に囲まれるのは不思議な感じでした。

それは風さんのお父さん、お兄さん、お姉さん、おじいさん、おばあさんでした。皆からとても穏やかで力強く、優しいパワーがルーモに流れ込んできました。そこで、ルーモとみんなは魂の交流ができました。
「よく来たね、これからもよろしくね」
といった温かい気持ちに満たされました。言葉はありません。光と音に包まれたような気もします。その時間は長いような短いような説明のつかいない時でした。気づくともう龍さんたちの姿はありませんでした。そこにいるのは、ルーモと風さんだけでした。


さっき、風さんのお母さんがいなかったことに気づいたルーモは聞きました。
「風さんのお母さんはどこなの?」
とルーモが聞くと、
「僕のお母さんは春風だから、いつも世界のどこかに春を届けているのさ」
と言いました。
風さんは、
「それより大丈夫だった?お父さんったら、あんな猛スピード出して!ルーモが振り落とされるんじゃないかってハラハラしたよ」
「がんばってしがみついたから、大丈夫だった!」
2人は笑いました。

ネス湖の湖底、龍の住処。
そこは、水の中なのに虹色の光にあふれて、なにかいい香りのするとても心地いい場所でした。

風さんが湖底のあちこちを案内してくれました。

美しい人魚の住む街、水の中に生きる妖精や魔物の街、人間に似た生き物の住む人口的な建物の街、朝日と夕日がいつも替わりばんこに繰り返し夜のない海辺・・・。こんな不思議な場所がここにはたくさんあるのだそうです。

そして、ルーモと風さんは金と銀の泡でできたサイダーのように爽やかなベンチに座り、一休みしました。

風さんは話してくれました。
「ぼくはもう少し大きくなったら、風のままでいるか、龍になるかを選ぶことができるんだ」
ルーモはだまって聞いていました。
「どちらを選んでもかまわない。お父さんのような立派な龍になってネス湖を守るか、このまま風としてお母さんのように世界中に風を届けるか。ぼくは決めなきゃならない」
ルーモは言いました。
「どちらも素敵ね」
風さんは、ルーモを見つめて言いました。
「その時は僕のお嫁さんになってくれる?」

いきなりの風さんの申し出に、ルーモは驚きました。
この旅のいろんな体験は、ルーモを6歳の女の子から13~4歳の少女へ、そして、今は、18歳の女性に成長させていました。

風さんも初めは10歳くらいの風の子でしたが、今は素敵な青年に成長し、プロポーズもお似合いの二人です。

ずっと優しくしてくれた風さんをルーモは信頼していました。
ルーモは、微笑んで風さんをみつめて言いました。
「こたえは、この旅が終わる時でいいかしら?」


お話妖精ルーモと風さんアイスランド㉓

2020-04-27 14:45:08 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月23日(火)宵月の夜 アイスランド

「火と氷の国」と呼ばれるアイスランドは一年を通して寒い土地です。
氷河の山がいくつもありますが、火山の島でもあるので冬でもそれほどに寒くはなりません。こんな土地の人々は優しく親切です。

この国には昔から代々伝承されてきた妖精や隠れ人、巨人やトロールそして幽霊のお話がたくさんあって、今でもアイスランドの人々の心の支えになっています。

風さんは、お話語りのおばあさんの家にルーモを連れていきました。

おばあさんはアパートメントの小さな部屋に一人暮らしでした。
昔は大家族に囲まれて暮らしていましたが、みな大きくなってそれぞれの生活を持ち始めたので、今は一人です。

おばあさんの楽しみはこの国の民話を近所の保育園の子供たちに聞かせることでした。そのために今夜もお話の練習をしています。ルーモはそばによっておばあさんのお話を聞かせてもらいました。

「さあ、今日は遠くからいらしたお友達のために妖精のお話をしようね。
(私のことがわかったのかな?とルーモは嬉しく思いました)

アイスランドのお話には妖精がよく登場するんだよ。
彼らは美しく着飾って人間と同じような容姿をしている。
しかし、彼らは常に人間には見えない。

彼らは自分たちに害を与えないひとにはとても親切だ。
昔の人は尊敬される妖精は天国に住んでいると思ってた。
今の人は、多くの妖精が大きな岩や丘、険しい岩山に住んでいると思っている。

いなかの農夫であろうと政府の技術者だろうと、アイスランドの人々は妖精や隠れ人が住んでいると知られている場所を壊すようなことはしない。

例えば、道路を通すとき、妖精が住んでいる岩があれば道を大きく迂回させて岩を壊したり取り除いたりはしないんだ。

隠れ人というのは妖精に似た存在だ。
自分たちに敬意を払ってくれる人には親切だが、どんな事でも自然に害をもたらす人に対しては恐ろしいほどの復讐をする」

ルーモは、妖精や隠れ人を信じて大切にしてくれる人の住むこの国が大好きになりました。


「さて、オーロラの話をしよう。この国ではオーロラという美しい光の雲を見ることができる。今は多くの人に美しいと喜ばれているオーロラだが、昔の人はオーロラを悪いことが起きるしるしだとも思った。それほどにオーロラは美しすぎて神秘的だからね。

昔、オーロラの精に恋をした男がいた。オーロラのあまりの美しさに虜になってしまったんだ。そして、男はオーロラの見える夜はずっと空を見上げ続けた。そうしているうちに、男は目が見えなくなってしまった。だが、男は悲しんだりしなかった。

男の心には美しいオーロラがはっきりと刻み込まれ、目が見えなくなったことで他の何も見る必要がなくなり、自分の目をオーロラに捧げられたと思って嬉しかったんだ。でも、人々はオーロラの光が男の目の力を奪ってしまったのだと考え、オーロラを見ると目が悪くなるとか、悪いことが起きるとか、言うようになったんだよ。

さあさ、今夜のお話はこれで終わりだ。
明日の晩までお蔵の底でグ~すかピ♪」

おばあさんのお話の最後は面白い言葉で終わりました。

そのあと、風さんはルーモに本当のオーロラを見せてくれました。
オーロラは素晴らしく美しくて、幻想的でルーモもすっかり心を奪われました。
そして、男がオーロラに恋をしてしまった気持ちがわかったような気がしました。

ルーモが風さんに
「恋って絶対に手の届かない者への憧れなのかもしれないわね」
と言ったら風さんは、
「きみ、大人になったね」と優しい目をして言いました。



お話妖精ルーモと風さんニューヨーク㉕

2020-04-25 14:47:31 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月25日(木)有明月の夜 アメリカ ニューヨーク

ニューヨークは世界最大の都市。
高いビルがたくさん立ち並んでいます。
夜になると夜景がとても美しく、まるで宇宙の星の輝きを全部集めたほど綺麗です。

この町にはものすごく豊かな人ととんでもなく貧しい人がいます。ルーモや風さんが大切にする豊かさと貧しさは心の中のことでした。高いビルの豪華な部屋の中にも路地裏のさびれた片隅にも、心の貧しい人と豊かな人がおりました。お話を語れる人は、心の豊かな人です。


ルーモは耳を澄まします。
すると優しく心豊かな人の語るお話が聞こえてきます。今夜は、低くて古いビルの一番上の小さな部屋に住む男の人のお話を聞きます。この男の人は、小さな犬と二人で住んでいました。男の人は絵を描くお仕事をしています。その仕事を心から愛していて、次に愛しているのはそばにいる犬でした。男は、鼻歌を歌いながら、犬を抱き抱えると一人がけのソファーにねそべりました。

~さあ、今日のお話は、ニューヨークに住む白い魔女と赤い魔女のお話。

ダウンタウンの雑貨屋に、貧しくて美人とはいえないけれど心の豊かな少女がいた。少女には大きな夢があった。それは大きくなったら花屋になることだった。

「私、見た目が美しくないのはわかってる。だから、一生美しい花に囲まれて生きるの」
と、心に固く決めていた。

そして、その雑貨屋の三軒先の靴屋には、見た目はとても美しいが心の貧しい少女がいた。この少女にも夢があった。

「私はこの美貌でお金持ちの男性と結婚し、ニューヨーク一高いビルのペントハウスに住んで一生遊んでくらすわ」

この二人は友達だった。
光と闇、陰と陽が裏表で引き合うように二人は引き合った。
互いに、互いの違いをよくわかっていた。

10年後、雑貨屋の娘は本当に花屋になっていた。ただでさえ美しい花をアレンジしてより美しくし、ニューヨークの町を花で飾っていた。みんなは彼女のアレンジする花が大好きだった。彼女は自信に満ち溢れていた。

靴屋の少女は、もうすでにたくさんの男とつきあっていたが、金持ちと結婚することはできなくて、心は悲しみと不満でいっぱいだった。自分はこんなに美しいのにどうして不幸なのだろうと周りを憎んでばかりいた。

二人はひさしぶりに会うことになった。待ち合わせは自由の女神だった。少女の頃、自由の女神は二人の心のシンボルで、
「女でも一生自由に強く楽しく生きていこうね!」
と誓い合ったことがあった。

さて、自由の女神には、白い魔女と赤い魔女が住んでいることを知ってるかい?
この魔女たちは女同志の絆をより良く深くすることができるんだ。そのためならどんな魔法でも使うことができる。

魔女たちは、自由の女神にやってくる様々な女たちを上から見下ろして、彼女たちの運命を観るんだ。で、品定めする。
「ふん、うわべだけのつきあいだね、臭い、臭い」
「心から互いを大切にしている、美しい香りがする」
こんな具合にね。
そして、うわべだけの付き合いには別れを、美しい友情にはさらなる幸運をもたらす魔法をかけるんだ。

今日、やってきた花屋と靴屋の娘二人のことも見下ろしていた。

花屋で成功した娘は、今上手くいっていない靴屋の娘の気持ちが良く分かった。嫉妬、憎しみ、悲しみ、寂しさ、混乱、恥ずかしさ・・・。浮かない顔の娘にかける言葉が見つからない。なぜ、彼女の気持ちがわかるか。それは、花屋の娘が昔味わったことだからさ。

醜い娘は、いつだって綺麗な娘の引き立て役だったし、自分が好きな男の子がいつも見つめるのは綺麗な娘の方だった。どんなにつらい涙をこぼしたかしれやしない。

2人の光と闇、陰と陽は、10年たった今では、すっかり逆転した。花屋の娘は、人生は決して見た目だけではないということを学んでいた。だから、靴屋の娘に心からの愛を持てることが出来たんだ。

魔女たちは、二人の心をすっかり見抜いていた。

「花屋の娘は満ち足りているが、靴屋の娘は今まさに崖を転がり落ちようとしている。これまでも誰かに頼ることで幸せになろうとばかりしてきた。花屋の娘は靴屋の娘を心から愛している。靴屋の娘も花屋の娘を心の底では信頼している。この二人の心の底には運命的な強い絆と互いを想う光がある。靴屋の娘が自分で幸せを手に入れるように自由の女神の光を与えよう。これはたった一度きりのチャンスだ」

そして、赤い魔女が自由の女神の持つたいまつに火を入れた。靴屋の娘が自由の女神を見上げると、たいまつの優しい炎が娘の瞳、そしてその奥のハートに流れ込んだ。固く冷たく閉ざされた娘の心が、優しく温かく素直に和らいだ。

そして、白い魔女は花屋の娘が語る言葉に魔法をかけた。

暗く沈んだ靴屋の娘に花屋の娘は優しく語った。どうやって今の成功を手に入れたか、これまでの苦労や辛さ、靴屋の娘に本当は嫉妬していたし憎んでもいたことも、見た目の悪さをどれほど悲しんだか…。でも今は自分の花を喜んでくれる人との温かい交流や本当に花が好きで自分の仕事を誇りに思っていること…。花屋の娘は白い百合のように潔く凛と語った。これでわかってもらえなければ、二人の友情が終わっても良いと覚悟していた。それは、靴屋の娘の心に深く響き、靴屋の娘は、自分の力で夢をかなえることの大切さを知った。

白い魔女と赤い魔女の魔法が人を幸せにしたとき、自由の女神は優しいパステルピンクに染まる。それをニューヨーク中の妖精や魔法使いたちが見て、人の心に優しい魔法をかけることを思い出すんだ。

数年後、靴屋の娘は平凡だけれど優しい男の妻になり、可愛い子どもたち5人に恵まれている。花屋の娘は、今も花で人の心を満たしている。二人は、どんな時も助け合う美しい友情をはぐくんでいる。

さあ、お話はおしまい。~

お話が終わった時、男の横で犬は心地よさそうないびきをかいて眠っていました。
「こいつ、いびきかいてやがる」
と笑って、カーテンをめくり自由の女神に目をやると、自由の女神は美しいパステルピンクに染まっていました。

ルーモはこのお話に感動していました。
私も素敵な女友達がほしい、きっと、大切にするわ。

と思いながら、自由の女神を眺めました。


お話妖精ルーモと風さんキューバ㉖

2020-04-24 14:48:43 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月26日(金)有明月の夜 キューバ

メキシコ湾、北大西洋、カリブ海に囲まれた島、キューバ。
海が美しい島です。

約500年前スペイン人が支配する前は、シボネー族という昔からの人たちが住んでいました。シボネー族の呼び名であるクバナスカンから、キューバという名になったそうです。シボネー族は絶滅し、アフリカ人の奴隷やスペイン人たちが暮らすようになりました。

国としては、スペインのものであったり、アメリカのものにならないかといわれたり、だれのものでもなくキューバとして独立したいという思いから、何度も戦争や国どおしのいざこざを続けてきました。そして、今この国は変わろうとしています。これまで入らなかったアメリカのお金が入るようになるからです。そうすると、いろんなものが急速に変わるでしょう。多分、昔なつかしいものがなくなっていくことになるのです。

この国に来たのは、風さんのわがままです。風さんは、この国のクラシックカーが見たくてルーモにお願いしました。

「僕は車が好きなんだ。あのピカピカ光るボンネット、がっしりしたバンパー、長い車体、それがエンジン音をブルブルならして悠々と道路を走る。あの乗り物、しかも、古くて昔の匂いのする車が好きなんだ。あの車が見れなく前に一度キューバにいかなくちゃ」

風さんに道先案内をしてもらっているルーモは、もちろんOKしました。
車には全く興味はありませんでしたが、

「どうぞ、風さんの行きたいところに行ってちょうだい。これまでいろんな所に連れて行ってもらったもの。今度は風さんの番よ」
「ありがとう。ルーモには綺麗な海と昔ながらの美しい自然に案内するね」

そういって、風さんはクラシックカーを見に街へ、ルーモは自然の綺麗な場所を見に海へと分かれました。

ルーモは本当に何色ものブルーがグラデーションする美しい海と白い砂浜にびっくりしました。白いビーチパラソルの下で海を眺める男性がいたので、そばにスッとたちますと、その人は歌を作る音楽家でした。今、素敵な歌詞を考えているところです。ルーモは少しお手伝いしたくなってちょっとだけ魔法をかけました。

すると海の精のインスピレーションがその人のこめかみからハートに入りはじめ、あっという間に素敵な海の歌ができました。海の美しさ、その強さ、深さ、優しさ、豊かさを称えた歌です。その人はとてもうまい歌詞が思い付いたので嬉しくなって海に飛び込みました。ルーモもその嬉しさと一体になって一緒に海と戯れました。

人の喜びや嬉しさがルーモの心に光を灯します。そのとき、海の精が教えてくれました。

~心が大きくなるとはこういうことだよ、きみはこの旅で哀しみ、寂しさ、儚さを知ったね。それが土台になって喜びや楽しさも深く強く感じることができるようになったろう。何度も何度もそそれを繰り返して、心がどこまでも大きくなっていくんだ~

ルーモは、ネパールのエベレストで山男が言っていたことを思い出しました。妖精には心がない、心が豊かになることもないと。でも、私は心を持ち、それは今大きくなっている。私は、妖精とはちょっと違ってきてるみたい。そして、海の精に質問しました。

「妖精が心を持ったらどうなるの?」

~次は人間に生まれ変わるのさ~

「どうすれば人間になれるの?」

~本当になりたいなら、強く、強く、願ってごらん。願いを持つことからすべては始まる~

素晴らしいブルーのグラデーションの海の上にぷっかり浮かんで、ルーモは自分が人間になることを夢みました。

人間になったら、あのポルトガルのカステラやコンフェイトが食べられるのかな。
人間になったら、スペインで見たあのフラメンコという踊りが踊ってみたいわ。
人間になったら、友達が欲しい。
人間になったら、中国の二胡っていう楽器が弾けるといいな。
人間になったら、鎧さんを怖いと思ってドキドキするのかな。
人間になったら、誰かと恋もしてみたい。
そうして、誰かと結婚して、私にも赤ちゃんができるのかしら?
そうしたら、その赤ちゃんに私はお話を語るのかしら?

ルーモの想像はとめどなく、海の波のようにゆらめいていました。


お話妖精ルーモと風さんメキシコ㉗

2020-04-23 14:49:58 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月27日(土)二十六夜 メキシコ

アメリカ中部、ユカタン半島にはマヤという謎に包まれた文明が存在していました。マヤ人は星々の動きやその働きをよく知っていたようです。マヤ人の石の棺には、宇宙船を運転する人のような絵が描いてあったり、天王星や海王星という最近知られるようになった星をすでに知っていた、など不思議なことがたくさんあります。そこからマヤ人は宇宙人と友達だったとか、宇宙からやってきたのではないかと思われたりしています。

しかし、それとともに恐ろしい話もあります。いけにえの儀式が盛んにおこなわれていたということです。人が殺されて神様に捧げられるのです。そのために、他の部族と戦っていけにえのための人を連れてきたそうです。

ルーモがそんな話を風さんから聞いてククルカン神殿の近くを散歩していると、美しい花嫁衣装に身を包んだ少女がやってきました。この少女はもうこの世にはいない人でした。ルーモは妖精ですからそんな存在を見ることが出来ます。

少女はルーモに話しかけました。

「私ね、雨の神に捧げられたの」

「どうして?」

「ひでりが続いて作物が枯れ始めたからよ。雨の神ユムチャクの怒りをおさめるためにね」

「私の最期の時の話を聞いてくれる?」

ルーモはこれから始まる少女の最期の時の話に神妙に耳を傾けました。

少女は話し始めました。

~今から800年も前のことよ。

生け贄の儀式は、夜明けとともに始まったわ。

何十段もある急な石段をゆっくり下りていくと、聖なる泉に続く4百メートルほどの石畳に出るの。私はいすに腰掛けたまま、神輿をかつぐように若いお供連中に運ばれていったの。その行列に音楽の列も加わり、太鼓の音、笛の音、雨の神を讃える歌などとともに、大勢の人々の見守る中、密林の中の聖なる泉に向かってゆっくり行進してね。石の道が終わる頃には、周りはうっそうとしたジャングルに入り込んだわ。

朝もやの中に聖なる泉が現れ、青黒い水面が不気味だった。そこで、すべての音楽は鳴り止み、祭司長の雨の神を敬う祈りの声だけが響きわたったわ。それが、終わると、再び音楽が始まり、祭司長の合図とともに、私は連れ出された。

6人の祭司が私を前後に揺さぶって、太鼓の音、笛の音がクライマックスに達した瞬間、私は暗い泉の中に投げ込まれたの。大きな弧を描いて何十メートルも落下してゆき、大きな音と水しぶきとともに暗い水中に沈んだの。私が覚えてるのはそこまでよ。~

話し終えると少女はすーっと消えてしまいました。

少女の魂は、自分の最期の時の想いを抱えたまま、今もまだこの地に残っているようでした。ルーモは、この少女に何と言ってあげたらよいか何も浮かびませんでした。少女が最後に泉に落ちていく姿が目に浮かびました。

この時、ルーモの心に初めて生まれた感情。

それは、怒りでした。
怒りはルーモの心を熱く重くし、同時に、ルーモの目から水がほとばしり出ました。
ルーモは初めて怒りが悲しみとなり、涙になることを知りました。

そばですべてを見ていた風さんは、ルーモが怒りを学んだことを悟り少し寂しげな表情でした。

泉の底には、青年男女の痛ましい骸骨が今でも多数発見されています。



お話妖精ルーモと風さんペルー㉘

2020-04-22 14:51:17 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月28日(日)有明月の夜 ペルー

メキシコと同じように、ペルーもその昔栄えた都市がありました。
インカ帝国といいます。やはりピラミッドに似た石でできた神殿があり、今でも多くの不思議な話があります。

ペルーの人は伝統的な服を着て帽子をかぶります。
高い山の中腹に住んでいて、浅黒い肌に赤い頬をしています。
一見無口ですが、とても優しく心の温かい人ばかりです。

今夜はそんなペルー人らしいおばあさんの話を聞くことができました。
おばあさんが語るお話はペルーの神話です。

~ペルーの神話にパリアカカという神様がいる。

この話は、パリアカカの成長物語というものかのぉ。

コンドルコトの山頂に5つの大きな卵が現れた。やがて卵は、5羽の鷹となった。4羽は立派な姿の男、最後の1羽は弱々しく醜い男に生まれた。 それがパリアカカだ。

パリアカカは、いつも立派な兄弟と比べられ寂しくて悔しかった。だが、自分の持つ力に自信があり、いつか、ワリャリョ・カルウィンチョという火の神と戦いに勝てば、本物の勇者になれると信じていた。青年になったパリアカカはワリャリョ・カルウィンチョを探しに、旅立った。

旅の始めに、ワガイウサという村にさしかかると、ちょうど祭のさなかであった。村人は弱々しく醜い姿のパリアカカを見下し冷たくあしらった。食べ物も飲み物もよこさなかった。

彼は怒りをこらえて黙っていたが、1人の少女だけがパリアカカにチチャというトウモロコシの酒を勧めた。パリアカカは喜び少女の優しさに感動した。

パリアカカには、この村がこれから5日後、豪雨と暴風で洪水が起こり滅びることを知っていた。村人の冷たさにがっかりしたパリアカカは、娘にだけ逃げるように勧め、他の者へは話さないよう口止めした。

5日後、村人は洪水により全員が死に、あの少女だけが助かった。パリアカカはそのまま村を立ち去った。


次にパリアカカが通りかかったのは、後にサン・ロレンソと呼ばれるコパラのアイリュだ。道端でチョゲ・スソという女が泣いている。理由を聞いたところ、日照りのために畑のトウモロコシが枯れていることを嘆いていた。

彼女の美しさを気に入ったパリアカカは、助けるから妻になってくれと言った。彼女は自分の畑だけでなく村中の畑も助けてくれと頼んだ。その優しさと賢さにパリアカカはさらに心惹かれた。

村では近くのシエナカカ山の泉から水を引いていたが、コカチャリャの谷からなら、ここまで十分な水が引けるとパリアカカは考えた。 パリアカカは神の力で動物を呼び集め、水道を作り始めた。できあがった水門からは豊かな川の水が畑に流れ込み、トウモロコシはみるみる元気になっていった。

村人は皆、この成果に感心した。

パリアカカとチョゲ・スソは結婚し、ヤナカカの岩で暮らし始めた。村人はパリアカカに感謝し、とても大切にした。二人は仲良く幸せに過ごしたが、チョゲ・スソが病で死んだ。死ぬ前に、「死後もここにいたい」との願いを聞き入れ、パリアカカは、死んだ彼女を岩に変えて残したという。

そして、パリアカカは最初の望みであったワリャリョ・カルウィンチョとの戦いに向かった。

ワリャリョ・カルウィンチョのいる山は海に沿った高く雄々しい山だった。 水や嵐などを武器とするパリアカカ。炎を武器とするワリャリョ・カルウィンチョ。二人は三日三晩激しく戦った。力はどちらも互角で、最後に二人の力は溶け合い融合し、そのエネルギーは天まで達した。とうとう、パリアカカは雪山パリアカカとなり、ワリャリョ・カルウィンチョは火山になった。

お話はこれでおしまい~

ルーモは、ふと前に聞いた日本の神話を思い出しました。
スサノオノミコト・・・。
そういえば、日本の神様にもパリアカカみたいな勇猛果敢が神さまがいたわ。とても、似ている、と思いました。

日本の神話など知らないおばあさんに教えたくなりました。


お話妖精ルーモと風さんアルゼンチン㉙

2020-04-20 14:52:10 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月29日(月)有明月の夜 アルゼンチン

ルーモと風さんの旅はあと2日となりました。
最後から二番目の国はアルゼンチンです。
アルゼンチンは南アメリカの下の方にあって、雄大な自然はたくさんの世界遺産になっています。

例えばケブラーダ・デ・ウマワーカという山。
ロス・グラレシアスという大きな氷河。
高さが何十メートルもあります。
南極大陸やグリーンランドに次ぐ氷河地帯です。
イスチグアラスト/タランパジャ自然公園の山も世界遺産です。

そして、あの愛らしいペンギンも世界遺産の一つです。

アルゼンチンの一番南端にあるウシュアイアという島はペンギンだらけの島です。そこにルーモと風さんはやってきました。

島は本当にペンギンだらけ。
大人のペンギン、子供のペンギン。

どれもよちよち歩きでゆっくり、のんびりとそこらじゅうを散歩していたり、遊んだり、眠ったり。見ているだけでこちらの気持ちものんびりしてきます。

そんなペンギンたちを見ながらルーモは、この旅のことを思い返して風さんに言いました。

「世界中のいろんなお話を聞いてとても楽しかった。私は何かが変わったみたい。」

「何が変わったの?」

「これまでは考えなかったことを考えるようになった」

「どんな?」

「こうなりたい、という気持ちかな?」

「そう。どうなりたいと思ったの?」

「私……、人間になりたい…かも」

人間になりたいと思う妖精なんていません。
だって、人間は妖精とは全く別の世界のものです。

それに人間はとても大変なのです。魔法も使えないし、食べなければ生きていけないし、いろんな思考や感情を持て余し、それに振り回されるとても厄介な生き物です。

でも、風さんはルーモの答えに驚いたりはしませんでした。

「どうして、そう思った?」
「私も直接お話を聞いてみたくなったの。それに私も大好きな誰かに優しくお話を語ってみたい。そのときの気持ちを味わってみたい。その人の目をしっかりと見つめてね。この気持ちが何なのかはわからないわ」

言わなかったけれど、風さんにはそれが何かわかっていました。

ルーモはおはなしの旅に出発した8月1日の夜よりも大きくなって、もう18歳くらいのお嬢さんになっています。心が芽生えた妖精ルーモは小さな女の子から少女へと成長したのです。様々な思いがルーモを大人にしました。

「君気づいているかい?君はもう子供の妖精ではないよ。素敵で美しいレディ妖精さ。別にこのままでもいいんだよ。永遠に誰かが話すお話をそばで楽しめばいいじゃないか。僕のお嫁さんになってさ、イングランドのネス湖の女王にもなれる。それなのに、人間になるなんて。人間になったら生まれたら必ず死ぬし、もう妖精には二度と戻れない。僕のことも忘れるよ」

風さんは真剣でした。
風さんのルーモを好きだという気持ちが伝わって、ルーモの瞳がうるみ、水の玉がほとばしりました。

それでも、ルーモはきっぱりと言いました。

「わたし、やっぱり人から直にお話がききたい。ちゃんと目をみて、微笑まれたいの」

風さんも目を潤ませながら、こうなることはわかっていたというように、うっすらと笑いながら

「そうだね。ちゃんと目を見て微笑まれたいよね」

とうなづきました。


お話妖精ルーモと風さんハワイ㉚

2020-04-19 14:53:26 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月30日(火)暁月の夜 ハワイ

風さんはルーモを背中に乗せて太平洋上空を吹く南東貿易風に乗りました。そして、次に目指すのはハワイです。ハワイはいくつかの島からできています。火山活動でマグマを噴出しているキラウエア火山は有名です。日本の富士山よりも高い4170mのマウナロアという山もあります。

風さんとルーモはハワイ島の大地に流れるマグマを上からながめました。赤からオレンジに光り、周囲の煙を紫色に染める景色はとても幻想的です。ルーモにはこれまでみた何よりも神秘的な風景でした。じっと見つめていると吸い込まれそうです。

すさまじい力強さ。なんの混じりけもなく、すべてがそこにあるという気がします。地球のお腹、深いところからマグマを吹き出し、それはこうして今も大地を作り続けています。地球という星の偉大さを感じずにはいられません。

風さんとルーモが火山上空を漂っていると、グオァという大きな音と共に目の前にマグマが吹き出しました。マグマは、オレンジ色の龍に姿を変えルーモと風さんを真正面から睨みました。それから目を反らすことも逃げることもできず、魔法にかかったように固まってしまいました。そのオレンジ色の龍の眼の中に二人は強い強い光を見ました。触れたら熱くて溶けてしまうはずのマグマに吸い込まれ、すっぽりと包まれました。熱くもないし何も感じません。すると、どこからか声が聞こえます。これはマグマの龍が語っているのかもしれないし、別の何か、もしかしたら宇宙の大いなる存在の声かもしれません。

「世界を旅した風と妖精…
世界の広さと美しさ、命の息吹、この星と宇宙の壮大さ、素晴らしさ、不可思議さ…、人の心の柔らかで繊細な周波数…。
そこに触れ目覚めたエネルギーは次のステージへと進む倣い。

妖精の願いは進化の証、
妖精を愛した風の祈り、
今聞き届けた。

今こそ、その階層から出でよ !新たな扉へとすすめ!」

そんな叫びを頭のどこかで聴きながら、

二人は、どんどん温かく包まれて気持ちよくなっていきました。ゆらゆら揺れているような不思議な気分です。それから、オレンジ色だったはずの周りが、少しづつ暗くなり、やがては四方八方満点の星空、宇宙空間になっていました。そこで二人はすでにルーモでも風さんでもなく一体になってゆらゆらと揺れています。

でも、二人の考えはまだ今までのように語り合うことができましたので、ルーモは風さんに話しかけました。

「私たちどうしたの?これからどうなるの?これは夢?」
「心配することはないさ。もう前には戻れないかもしれないけど」

ルーモは少し不安になりましたが、風さんが一緒だと思えば気持ちが軽くなりました。

「さっきの声は何だったの?」
「たぶん、テラの声だろう。きみの願いが叶ったんだよ。」
「私の願い?」
「人間になれるのさ。願っただろう?」
「テラはなぜ叶えてくれた?」
「さあ…?」

ルーモはあの声の大事なところを聞き逃していました。
(妖精を愛した風の祈り、聞き届けた)


ルーモは、直感でこれから始まる新たな力強いパワーを感じました。
ルーモの願いはルーモだけのものではなく、大きな大きなテラの愛の力とつながっているのでした。

人間になるということは、そういうことなのです。

テラは「愛」の周波数に呼応するのです。
「愛」を持ったものしかこの世界には生まれては来れない。
そして、テラが感じ取った「愛」は、ルーモだけでなく風さんのルーモへの深い想いでした。