Yuumi Sounds and Stories

シンギング・リン®️セラピスト「藍ゆうみ」のブログ。日々の覚え書き、童話も時々書いています💝

お話妖精ルーモと風さんモンゴル③

2020-05-17 14:01:43 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月3日(水)新月の夜 モンゴル

今夜は新月。月のない夜です。ルーモと風さんは、月がないかわりに星が一段と輝きを増すロシアの夜空を散歩していました。すると南の方から風に乗って草の香りがしました。

「風さん、これは何の香り?」
「これはロシアの遥か下にあるモンゴルの大地一面に生えている草の香りだね」

次の目的地はモンゴルに決まりました。
風さんは草の香りのする方向へとゆっくりとルーモを運びます。
その間ルーモは通り過ぎていく星に手を振ったり微笑んだり話しかけたりしました。



降り立ったところは低い山々に囲まれた広々とした草原で、たくさんの牛や馬やヤギがのんびりと草を食べていました。その近くには白いテントのようなおうちがたくさんあります。大きな白いテントの中には、ベッドが2つありました。それはお父さんとお母さんが寝る大きなベッド。もう一つは双子の男の子のベッドでした。今、ちょうどおやすみ前のお話が始まるところです。今夜の語り手は、お父さんでした。

~昔な。山のように大きなからだをして、たくさんの頭をもつマンガスという怪物がいたんだ。マンガスは家や財産をうばいとって人々を苦しめる恐ろしい怪物だ。マンガスの得意技は相撲だ。これまでも何人もの勇者がマンガスに戦いを挑んだが、勝ったものはいなかった。そのたびにマンガスはこういうんだ。

「すもうはどうせおれの勝ちだからな」とさ。みんなはそれを聞くたびに悔しい思いをするんだ。

ある日、男の双子の子供が湖に水を汲みに行った。この双子もマンガスに苦しめられたことがある。どうにかして、マンガスを退治できないかと思っていた。水を汲もうとすると、湖の底の方に何か赤と青の布のようなものがゆらゆらしているのが見えた。ずっと見ていているとそれはだんだん浮かび上がって双子の方に流れてきた。掬い上げると、それは相撲用の衣装、帽子(ジャンジン・マルガイ)とベスト(ゾドク)、それからパンツ(ショーダク)にブーツ(グダル)が二人分だった。着てみると双子にぴったりで、体の中からむくむくと力が湧いてきて強くなる気がした。

双子は意を決してマンガスに戦いを挑んだ。双子には衣装だけでなく秘策があった。

「マンガース!おいらと戦え!まいりましたと言わせてやるぞ!」
「うっはっは!俺に勝てるわけがない。すもうはどうぜ俺の勝ちだからな!」

そうして戦いが始まった。モンゴルの相撲には土俵がなく、決着がつくまで戦い続ける。
ずっしーん!どっしーん!両者は互角にぶつかりあい、三日三晩相撲を取り続ける。マンガスが投げれば、こちらも負けずに投げ飛ばす。マンガスがうんと力を入れれば、こちらも同じくらいの力で立ち向かう。不思議な衣装は本当にすごい力を授けてくれた。そして、そんなに戦えたのは双子の一人がテントの裏で隠れていて、疲れたらマンガスに気づかれないように入れ替わるからだった。それが双子の秘策だった。

ずっと一人で戦い続けているマンガスは5日目の朝、もうへとへとに疲れてしまい、とうとう「まいりました!」と言った。

「もう、悪さはしないか!?」と叫ぶと、疲れ果てたマンガスは地面に消えるようにいなくなってしまった。双子の男の子は初めてマンガスに勝った勇者となった。二人は相撲の衣装を授けてくれた湖に感謝して、それから毎年湖のそばで村の力自慢たちが相撲祭りをすることにしたんだとさ。~

なんて、勇ましく面白いお話でしょう!ルーモは、自分も相撲を取ったような気がして目がパッチリと冴えてしまいました。勇気も湧いてきて草原を走り出したい気持ちです。聞いていた男の子たちもルーモと同じ気持ちでした。でも、男の子たちは草原に走り出す代わりに、ベッドの中からモンゴルの空を吹き渡る風の音にじっと耳を澄まし、マンガスと空で相撲をとっている姿を想像しました。二人の目には勇気の炎が優しく燃えていました。

お話上手のお父さんはあくびをしてベッドにもぐりこみました。
男の子である風さんも、自分のお父さんを思い出したようです。




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