4,母さんはエンジェル、父さんは宇宙人
母さんは、町の小さな病院の看護師で副師長さんをしています。
高校を卒業し、すぐに准看護師見習いとして就職し、正看護師になってからもずっと勤め続けていることを、母さんは言わないけどとても自慢にしています。
「本当は東京に出て、大病院のナースになって、英語勉強して海外青年協力隊員になりたかった。そこでかっこいい正義感の強いドクターとめぐり逢って大恋愛の末結婚して、途上国の小さな村の医療に人生をかけるのが、母さんの夢だったんだ~。だからさ、藍には海外に行ってほしいのよ。母さんの夢をかなえてよ。母さんは、星野で頑張るからさ!」
星野ってのは、母さんの勤める「星野胃腸科病院」のこと。
母さんのこの口癖を私は全く気にも留めなかった。
母さんの夢はどこまで行っても、母さんのもの。
私のものじゃないことが、はっきりとわかっていたから。
母さんの口癖は続く。
「母さんがナースになったのは、おばあちゃんが母さんが子供のころから病弱だったからなの。おばあちゃんをなんとかしてあげたくてね」
「それで星野病院で頑張ってたら父さんが入院してきて、お互いに若かったから、藍が生れたの。それで母さんの夢は終わった…」
口癖の三段階は、いつも私のせいで終わる。
私が母さんの夢を取っちゃったんだ、って悲しい気持ちになる。
そして、最後は
「でも母さん星野で頑張るからさ!」
なんか、違うなっていつも思うのだけど、言い返せない理由がある。
それは父さんが宇宙人だから・・・。
父さんは、不思議な人です。
いつも家にいません。というか、一年に何度かしか帰ってこない。
毎年、クリスマスからお正月の時期には、お父さんが帰ってくるのか来ないのかハラハラスリリングです。普通の時でも突然帰ってくる父さんをどう迎えたら良いのか困ります。私はいつも緊張します。
帰ってくれば嬉しいけど、母さんと必ず言い合いになるから、それも含めてスリリングです。
そんな時はおばあちゃんとおばあちゃんの部屋でテレビのボリュームをあげてやり過ごします。でも、今年からはくうもその一員になったので心強いです。
父さんは悪い人ではないのだけれど、家に居られない同じ仕事に就けない人のようです。
お話がとても上手で、私が小さい頃はいつも寝る前にお布団の中でいろんなお話をしてくれました。
私は『セント・レオナルド寺院』というイギリスの昔話が大好きでした。
それから発明発見の才能があるみたいで、新しい考えや新しい機械や電化製品をちょくちょく買っては家に持ち込んでいました。楽しいクイズや不思議な話もたくさんしてくれて、人が集まると人気者でもありました。
子どもにとっては面白いお父さんでしたが、母さんには本当にため息の出る存在だったみたい。
だから、「藍が生れて、お母さんの夢は終わった・・・」
その口癖を否定できない私がいます。
母さんも父さんも大好き。
おばあちゃんも大好き。
みんなが悲しまずにいられますように・・・。
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