月夜のでんしんばしら 宮沢賢治 ある晩、恭一はざうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らな所をあるいて居りました。 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出てゐたら、一ぺんになぐり殺されてしまつたでせう。 ところがその晩は、線路見まはりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあひませんでした。そのかはり、どうもじつに変てこなものを見たのです。 九日の月がそらにかゝつてゐました。そしてうろこ雲が空いつぱいでした。うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとほつてよろよろするといふふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴつかりぴつかり顔をだしました。 恭一はすたすたあるいて、もう向ふに停車場のあかりがきれいに見えるとこまできました。ぽつんとしたまつ赤なあかりや、硫黄のほのほのやうにぼうとした紫いろのあかりやらで、眼をほそくしてみると、まるで大きなお城があるやうにおもはれるのでした。 |
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