2019年4月、イベント・ホライズン・テレスコープの観測データからブラックホールの影が初めて撮影されたというニュースが世界を駆け巡りました。
しかし、発表当初から間違いではないかという話がありました。
イベント・ホライズン・テレスコープは世界中の電波望遠鏡をつなぎ合わせて地球サイズの電波望遠鏡とする国際的な研究グループによるプロジェクトです。
超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometry: VLBI)という技術を使っています。
遠く離れたところにある複数の電波望遠鏡を同時に同じ方向に向けて観測したデータを解析することで地球サイズの口径の電波望遠鏡になるというものです。
過去には1997年に日本の宇宙科学研究所がミューⅤ(M-V)ロケットで打ち上げた電波天文衛星「はるか」を使った地球よりも大きいサイズのスペースVLBI実験が行われたこともあります。
離れた場所では観測している天体からの距離が違うので電波の届く時間がわずかに変わります。
この時間差の情報からどの方向から来た電波なのかを計算できます。
方向と強度がわかれば2次元の強度分布=画像を得ることができます。
「電波干渉計」とありますが直接干渉させている訳ではなくそれぞれの望遠鏡のデータの相関を取って同じ信号が来ている時間のずれを計算しています。
観測しているアンテナは口径によってきまる観測範囲の電波を測定しています。
上記のデータの相関から距離の離れた複数のアンテナの時間差を計算するとアンテナの持っている空間分解能(観測範囲)よりもはるかに細かい方向がわかることになります。
それはアンテナ間の距離が長ければ長いほど分解能を上げることができます。
VLBIについて解説されているところがあります。
上記だけだと「なぜ分解能が上がるのか」が理解できると思えなかったので絵を作ってみました。
(説明が間違っているかもしれないのでお気づきの方はコメント欄にお願いします)

離れた2か所のアンテナAとBで同じ方向の電波を受信します。
(絵は違った方向に見えますが本当はものすごく遠いところなのでほぼ同じ方向になります)
それぞれのアンテナで受信できる範囲はグレーの色を付けた部分でこれがそれぞれのアンテナの分解能になります。
アンテナで受信できる範囲に1と2の電波源があるとします。
上記リンクの説明でAとBのアンテナで受信した電波の中に相関のある信号(同じ波形の信号)があるとその時間差で方向がわかります。
電波源1と電波源2の方向が違うので相関のある信号を検出して行くと時間差の違う相関のある信号が出てきます。
時間差の違いでアンテナの分解能以上の分解能で電波源1と2が別の位置にあることがわかります。
アンテナ2つでは方向の違いはわかりますが位置まではわかりません。
アンテナが3つあれば位置が特定できます。

カーナビの位置検出と逆の計算をやっているようなものになります。
一か月ほど前、日本の国立天文台、理化学研究所、神戸大学の研究グループが2019年の人類最初のブラックホールの影を撮影したという元データに対して独自の解析を行った結果を論文にしたものが発表されました。
その結果はリング状の画像にはならなかったということです。
日本の研究グループの主張は国際研究グループの解析が狭い範囲のデータを使っていることでリング状の結果が出てきたという話になっています。
望遠鏡の画像なのになぜこのような話になるのかは上記の「信号の相関から時間差を求め方向を計算する」というところにあり、それぞれの電波望遠鏡の受信した電波強度を直接画像にしている訳ではないからです。
相関を求めるための計算のやり方で結果が違ったということのようです。
うまく例えにできるものが無いので説明が難しいですが天体の画像処理をやっていると似たようなことがあります。
惑星を撮影した画像にウィナーフィルターや最大エントロピー法による画像復元 、アンシャープマスクやウェーブレット変換等の画像処理をすることで模様を鮮明にすることができます。
しかし、設定が悪いと見えないものが見えることになってしまいます。
アストロアーツさんのステライメージというソフトを説明しているページに参考になりそうな画像がありました。
「3.画像を鮮明にする 1. 画像復元」 の 「画像復元の手順(1回目)」の右側上の土星の画像は設定が悪いため元の画像とかけ離れた画像になっています。
一番最後に木星の画像処理前後の画像が並べられています。
画像処理をしたものは模様が鮮明になっていますが本当なのかという気もしてきます。
ブラックホールの画像では手法は全く違うのですがこのような感じの「処理をしていく中で設定した条件次第」でリングが出たりでなかったりするということのようです。
日本のグループの発表により第三者が別の解析を行うと思われます。
その結果はどちらかの結果に近いか更に別のものになるかもしれません。
いずれにしても多くの研究者が違った手法で解析を行なった上で同じ結果が得られれば正しい結果であろうということができるようになります。
(すべて間違っている可能性も残ります)
最終的にどのような結論になるのでしょうか。