不穏な予兆は数日前から確実にあった。何者かが近づいてきている。影もなく姿さえない者が、足音を忍ばせながら自分を取り囲んでいくのを感じていた。
逃げ場は、ない。
何故こんな目に…
硬い床に膝をつき、自らの運命を呪った。閉め切った薄暗い部屋の一角では、砂嵐のような画像のテレビが意味もなく小さな雑音をたて、さらに苛立ちを駆り立てた。
生ぬるく不吉で重い空気を吸い込むのにさえ嫌気がさした。両の目はもはや追い詰められた獣のように血走っている。鼻の奥に鈍い刺激を感じ、目を瞬くと涙が滲んだ。
このままなす術もなく、迫りくる毒牙にかかるしかないのか-。
先ほどから固く握り締めたままの汗ばんだ手の内をおそるおそる覗き込むと、白く小さなカプセルが手の平に張り付いていた。
長く続いたこの苦しみからの解放や逃避のためではなく、運命に抗うため、私は飲もう。ただ手をこまぬいて襲いくる敵を待つだけでいるのは御免だ。
そう自分に言い聞かせると、カプセルを口まで運び一息に飲み下した。
と、まさにその時だった。
地響きが轟き、耳をつんざく雷鳴のような音をたてて背後の扉が叩かれた。私は思わず飛び上がった。
ついに奴が来た!
思いのほか早かった。迷っている余裕はなかったのだ。薬の効果はまだ表われない。一足遅かった。あと寸刻決断が早ければ…。
なおもノックされ続ける扉を、全身をもって必死で押さえる。
まだだ。
まだ開けるわけにはいかない。
しかし終末は必ずやってくる。
その場面は、実はもう以前から見えている。どんなに力を尽くしても、扉は破られ私は飲み込まれてゆく。間もなくしてこの部屋も、邪悪な侵略者に占拠されることだろう。
そう、わたしの悲痛なくしゃみを合図に-。
-やがて、再び静寂が訪れた部屋の片隅のテレビの中では、髪を短く刈り込んだ清々しい笑顔の青年が、朗らかに話していた。
「本日は全国的に暖かく、気温上昇が予測され、スギの開花も早まりそうです。」
『かふんサスペンス劇場』-終-
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今年は、飛散する量が少ないなんて聞いたけど、youyouさんには、量の多い少ないなんて、そんなに関係ないのかな???
私は、様々なアレルギー反応を起こすけど、花粉くんには反応しないんだ。
と言うわけで、そのツラさは、人から聞いたり見たりしたレベルでしかわからないけど。。。。
どうか、youyouさんの症状が、少しでも軽くて済みますように
夜中に笑わせていただきましたw
医学が進歩してるんだから、
そろそろ特効薬とか出てきてもいいのにね。
花粉に反応しちゃう体質を変える薬とかさ。
何はともあれ、お大事に!
程度の差こそあれ、少なくても反応はするねー。
でも、2年前の大量飛散時は呼吸困難になるくらい苦しかったけど、昨年はだいぶラクだったから、今年もそんな感じでよろしく頼むよ。て感じです。
>maruko
アハ☆ありがとう
シュールレアリスム世にも奇妙なヒッチコック風描写を目指してみました。(ウソウソw)
我ながら仕事中に必死で文章考えてる自分がくだらなくて泣けたよ
あと数年もしたら意外とあっさりそんな特効薬もできるんじゃないかと期待してます。
それまでは仕方がないので、毎年花粉症患者を募って暴徒と化し、杉林伐採しに行く夢(危険思想)を抱きつづけます。あ、これで続編いけますね。w
書いて書いて!!
面白かったよ、続編書いて♪ていうか何かに投稿してみたら?!
ダメダメ、世に言う"一発屋"だから(笑)
でも図らずも好評でなんか嬉しいです
低い鼻が少し高くなってます。ウフフ。