そのほうが愛情をこめて製作できるからです。オーダーの場合はクライアントの方が決めたり、お互いに意見を出し合って決めます。
一部オーダー以外で作る楽器があります、展示会やコンクール用の作品でそれは自ら名前を付けます。
その中の作品の一つが「Venezia(ベネチア)」でした。
イタリアでどの町が好きですか?と質問されるとかならず答えるのが「ベネチア」です。2001年ベローナに語学留学中も暇な週末は一人で列車に乗りベネチアを散策したりイタリアに住み始めてからも年に数回は訪れています。訪問回数は30回を超えるでしょうか。水のある風景が好きなのと迷路のような小さい路地に迷わずにはいられない非現実な世界に心躍ります、また歴史の面からも興味が尽きない町なのです。人生の中でたった1か月でいいから実際にベネチアに住んでみたいですね。
もちろん新婚旅行もベネチアから出発しました。
この町の名を冠したヴァイオリンを作ってみたいと思っていたところ裏板一枚のとても綺麗な材を見つけそれをベネチア共和国のドージェ(総督)のマントに見立て製作することになりました。ニスの色素にはベネチアンレッドを取り寄せ使用しました。
いつかベネチアを好きな方に弾いてもらえたらいいなぁ。と思っていたところ不思議なことが起こったのです。
ある朝ベネチアのホテルから電話があり宿泊中の新婚カップルが工房を訪問したいとの連絡を受けました。
お昼すぎにそのカップルが到着して事情を聞くと奥様がヴァイオリンを演奏されていて、そのご友人が主人の楽器を所有しておられて試奏されたところ気に入り、新婚旅行の思い出にヴァイオリンを持ち帰りたいとのことでした。あいにく工房に主人の楽器は一台もなく、コンクールに提出する予定の「Venezia」があるのみでした。
主人と仕事場は共にしておりますが、仕事内容はお互い独立して別々にしているので、主人の楽器を目当てにいらっしゃった方に自分の楽器をお見せするのは失礼かと思い黙っていましたが、新婚旅行の思い出にヴァイオリンを持ち帰りたい!!という強い思いが伝わってきましたし、何か他に楽器はありませんか?とリクエストされ、せっかくクレモナまで来て頂いたのにヴァイオリンを見ずにベネチアに戻られるのは可哀想な気がしたので、「私の作品で良かったら弾いてみてください」とお渡ししたところ気に入って頂き、またこの作品が「Venezia」という名前だということをお話すると、奥様は運命を感じられたそうです。
お話を聞いていると昨年結婚したということも私達と重なるし、新婚旅行はベネチアに是非来たかったということも共通していて私も「Veneziaを弾く方はこの人だなぁ。」とそして「ベネチアからお迎えが来たんだなぁ。」と悟りお渡しすることになりました。
運命だったのか、はたまた名前への思い入れが人を引き寄せたのか、一生の中で度々起こることはないロマンチックな話でした。
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