写真は、角川版の『聊斎志異』ですが、たしか中学生くらいに買って、いままだ読んでいる本です。
この挿絵は井上洋介さんですが、面白い絵で、つい眺めてしまいます。
この井上洋介さんが描かれた東京大空襲の絵があると知り、先日、初めて目の当たりにしました。
展覧会場の一角を占めるその作品群はいずれも大きな油絵で、素晴らしく、しかし、とても怖しい、ショッキングな経験となりました。
ある絵からは眼が離れず、しばらく棒立ちになってしまいました。
それは行列、焼き尽くされた街を大勢の人が歩いてゆく、行列の絵でした。
絵の中から、とても黒い轟音が迫るような、眼がすべて凄まじく光る人の無限の行列に見えました。
ご自身による解説文には「ただただ 千葉の方に向かって その行列はつづく」とあり、反射的に、祖母と父から繰り返し聞いた空襲の話が重なりました。
いいえ東京でなく、大阪の大空襲での話でしたが、火の海の大阪から奈良に向かって歩いて逃げた日の話を何度も何度も聞いていて、そのなかにも、どこまでも続く行列の話があったのでした。その話をするときの祖母は眼つきがいつも少し怖くもあり、、、。
そんなことから始まって、いつしか空襲とは無関係なことまで、世の中の、また、個人的に、忘れられないいろいろ沢山が、絵の前にいると蘇りました。震災の夜に長い行列に並んで歩いた記憶も蘇りました。少し頭痛さえしました。
絵には、記憶を掘り起こしてゆくような力がありました。
回顧展でしたから、生前のお住まいの様子やスケッチの数々、サド漫画や有名な『くまの子ウーフ』をはじめとする原画を、楽しく見たあとだったから、心の揺れ方が激しかったかもしれません。
この絵からは確かで異様なエネルギーが放たれていて、絵の前に特殊な場所が生まれているような錯覚さえ起きそうでした。
描かれている情景は東京大空襲なのだと知りながらも、それはそこだけに収まらないのです。
人間が生きるなかで出会う、これをこそ「かなしみ」というのでしょうか、どう言えば良いか、言葉を失いましたが、、、。
井上さんの根っこにある大切な何かがぎゅっと込められているに違いない、と、すごく感じました。