一病息災〜心房細動とその周辺

心房細動の治療は日進月歩。目に留まった記事の備忘録です。
他に、生活習慣病や自分に関係ありそうな健康問題も。

高次脳機能障害の「診断基準」と「認定基準」

2024年12月19日 07時24分52秒 | 加齢現象

前石原東京都知事の言動があやふやなことから「高次脳機能障害」という病名が有名になりました。

そして最近、知人が「高次脳機能障害」と診断されました。

外見からはわかりにくいこの病名・病態です。

その周辺の記事を拾ってみました。

 

▢ 鑑別が難しい高齢者の高次脳機能障害と認知症

濱口裕之(メディカルコンサルティング代表医師)
2024/08/01:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 

 高次脳機能障害は、頭部外傷の中でも重い後遺症の1つです。人間は「考える葦」ですから、認知機能の障害は日常生活に多大な悪影響を及ぼします。しかも、骨折による変形治癒などと異なり、目に見えない障害なので客観的な評価がしにくいことが特徴です。
 自賠責保険では、頭部外傷後遺症の後遺障害等級は、1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級に分けられています。1級に認定されるのは遷延性意識障害、いわゆる植物状態がほとんどです。私たちの経験上、高次脳機能障害で認定される等級は、大体3~9級です。
 後遺障害慰謝料には、5級1400万円、7級1000万円と大きな差があります。しかし後遺障害認定基準をみると、5級は「きわめて軽易な労務」にしか就けない、7級は「軽易な労務」にしか就けないと記載されており、明確な線引きはありません。したがって、高次脳機能障害の後遺障害認定は係争に発展しやすいです。
 そして、高齢者の頭部外傷では、高次脳機能障害以外にも加齢や事故による環境変化によって発症する認知症という問題があります。高次脳機能障害と認知症は、認知機能障害という同じような症状であるケースが多いため、鑑別が難しいです。
 認知機能障害の原因が、高次脳機能障害なのか加齢による認知症なのかによって、賠償金額は雲泥の差です。このため、認知機能障害の原因が争いになるケースは少なくありません。どのようなケースが問題になるのか、考えてみましょう。

▶ 高次脳機能障害は受傷時の症状が最も重い

 脳神経外科や脳神経内科以外の医師にとって、高次脳機能障害は非常に分かりにくい病態です。恥ずかしながら、私も交通事故診療に深く関わるまで、高次脳機能障害は脳脊髄液減少症と同様に定義が曖昧な傷病名だと思っていました。
 高次脳機能障害は、交通事故や脳卒中などで脳組織の一部が損傷して発症します。そして高次脳機能障害は、思考、記憶、行動、言葉、注意など脳の様々な機能に問題を引き起こします。外見からは分かりにくいですが、主な症状として以下の4大症状が挙げられます。

・記憶障害
・注意障害
・遂行機能障害
・社会的行動障害

 高次脳機能障害の4大症状は、全てが必ず出現するわけではありません。脳の損傷部位によって、障害される機能が異なるからです。ただし、どの症状が現れようとも、受傷前のような日常生活を送ることは難しくなります
 高次脳機能障害の特徴は、受傷時の症状が最も重いことです。高次脳機能障害が完全に回復するケースは少ないですが、半年から1年ほどかけて少しずつ改善していきます。認知症のように、加齢とともに症状が悪化していく傷病とは根本的に経過が異なるのです。

▶ 経時的に悪化する症状は加齢性変化の可能性が高い

 交通事故の賠償実務では、高齢者の頭部外傷が問題になるケースが多いです。その理由は、高齢者は認知症を発症しやすいからです。そして、高齢者の認知機能障害は、交通事故による高次脳機能障害なのか加齢による認知症なのか見極めるのは困難です。
 加齢による認知症は、もちろん自動車保険の補償対象外です。極端なケースでは、高次脳機能障害であれば数千万円の賠償金が得られるのに対し、認知症ならゼロになる可能性さえあります。このため、保険会社はシビアに認知機能障害の原因を精査します。
 私たちのグループには、高齢者の頭部外傷事案の鑑別依頼が後を絶ちません。最もよくあるのは、頭部外傷を負った高齢者の認知機能が、退院後に少しずつ低下するパターンです。家族は当然ながら、交通事故が原因で認知機能障害が生じたと考えます。
 しかし、頭部外傷による高次脳機能障害は、医学的には受傷時の症状が最も重く、少しずつ回復していくケースが多いです。少なくとも、高次脳機能障害が経時的に悪化することはないため、認知症を併発している可能性が高いと類推できます。
 この場合、認知機能障害の原因は交通事故と直接関係ないため、自賠責保険では後遺障害に認定されません。家族の立場では、交通事故後に認知障害を併発したのに補償されないという不満が残る結果となります。

▶ 高次脳機能障害と認知症の切り分けが難しいケースも…

 交通事故時の頭部外傷によって高次脳機能障害が残った上に、外傷に伴う廃用が重なって認知症を併発する事例も散見されます。受傷時から高次脳機能障害が存在しているものの、経時的に悪化したように見えるため、保険会社は高次脳機能障害ではないと主張しがちです。
 しかし、頭部外傷に骨盤骨折や大腿骨近位部骨折も合併した高齢者は、日常生活動作(ADL)が大幅に低下するため、認知症を併発しやすいです。認知機能障害の原因は高次脳機能障害ではないものの、交通事故が一因になっていることは疑いようのない事実です。
 ここまで見てきたように、高齢者の頭部外傷後に認知機能障害を来す事例には様々なパターンがあります。高次脳機能障害と認知症の切り分けが難しいケースが多いため、家族や保険会社の双方に不満が残る結果となりがちです。
 賠償実務では、認知機能障害の原因が高次脳機能障害か認知症かを見極めた上で、交通事故の寄与度を探ることが必要になります。頭部外傷を負った高齢者の認知機能障害は、回復が難しく様々な問題が生じ得ることを、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。

 

主に交通事故後の症状を扱った記事です。

高齢者が交通事後にあった後、認知機能障害が残った・・・

家族は交通事故が原因と考えるのは当然です。

しかし、くわしく経過を観察すると、ある程度鑑別できるようです。

「高次脳機能障害」は受傷時の症状が最も重く、その後改善に向かう、

一方「認知症」は徐々に悪化していく・・・。

 

高次脳機能障害の「診断基準」と「認定基準」には雲泥の差!

濱口裕之(メディカルコンサルティング代表医師)

2024/12/03:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 高次脳機能障害をご存じでしょうか。脳の損傷によって記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など、様々な認知機能障害を引き起こす傷病です。これらの目に見えにくい障害は、社会生活を送る上では大きなハンディキャップとなります。このため、リハビリテーションや就労・就学支援といった医療・福祉サービスが不可欠です。公的な支援を受けやすくなるよう、厚生労働省は高次脳機能障害の「診断基準」を定めています。
 一方、交通事故で高次脳機能障害を負った場合、手厚い行政サービスとは異なり、自賠責保険から厳しい対応をされるケースが珍しくありません。自賠責保険で高次脳機能障害が後遺障害と認定されるには、厳しい「認定基準」をクリアする必要があるからです。
 「診断基準」と「認定基準」……よく似た字面なので、同じようなものだろうと考えがちです。しかし、実際には天と地ほどの差があるケースも珍しくありません。・・・一体どんな違いがあるのでしょうか、詳しく見てみましょう。

▶ 高次脳機能障害の「診断基準」は行政支援が目的

 高次脳機能障害を持つ人には、障害の特性に応じたリハビリテーション、就労・就学支援などの医療・福祉サービスが必要です。これらの公的サービスをスムーズに受けられるよう、厚生労働省は「高次脳機能障害診断基準」を作成しました。

表1 高次脳機能障害の診断基準

I 主要症状等
1)脳の器質的病変の原因となる疾病の発症や事故による受傷の事実が確認されている。
2)現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

II 検査所見
脳MRI、頭部CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは医学的に十分に合理的な根拠が示された診断書等により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

III 除外項目
1)脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2)発症または受傷以前から有する症状や検査所見が存在する場合には、発症または受傷後に新たに現れた症状や検査所見に基づき診断し、それらが十分とは言えない者は除外する。
3)先天性疾患、発達障害、進行性疾患、周産期における脳損傷を原因とする者は除外する。

IV 診断に際しての留意事項
1)I〜IIIを全て満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2)高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後に行う。
3)神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

 この診断基準は、医学的な診断基準とは少し異なります。医学的な高次脳機能障害は、脳損傷によって起こる失語、失行、失認、記憶障害などの認知機能の障害を指します。一方、こちらの診断基準では、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害の4つの障害を高次脳機能障害としています。失語症に関しては、身体障害者手帳の申請が可能なため、厚生労働省の診断基準には含まれていません。

▶ 高次脳機能障害の「認定基準」は適正な賠償が目的

 一方、自賠責保険の「認定基準」は、厚生労働省の「診断基準」とも異なります。自賠責保険は、高次脳機能障害の認定基準を公開していませんが、過去に認定された事案から推測すると、以下の3つの要件を満たす必要があると考えられています。

1)脳外傷の傷病名がある
2)脳実質損傷の画像所見がある
3)受傷直後に一定期間持続する意識障害があった


 自賠責保険で高次脳機能障害に認定されるためには、脳挫傷、びまん性軸索損傷、急性硬膜下血腫などの傷病名が必要です。これらの傷病名の事案の場合、画像所見と意識障害の続いた期間によって、高次脳機能障害の有無が判定されます。

 私たちの経験では、明らかに高次脳機能障害の症状が残っているにもかかわらず、自賠責保険で後遺障害に認定されない事案は珍しくありません。自賠責保険で高次脳機能障害が後遺障害に認定されるハードルはかなり高いと言えます。

 この現象は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)とよく似ていると感じます。CRPSは早期治療が重要なので、臨床現場では診断基準をゆるくして、できるだけ多くの患者を拾い上げようとします(関連記事:治療期間の長いCRPSが後遺障害に認定されにくい理由)。一方、自賠責保険は傷病名にかかわらず、限られた金額の中でできるだけ適正な賠償が行えるよう、認定基準を厳しくしています。

 このように、同じ病態を見ているにもかかわらず、高次脳機能障害の「診断基準」と「認定基準」では、結果が異なる事例が多く見られます。臨床的には高次脳機能障害と考えられても、必ずしも自賠責保険で認定されるわけではない……とても残念な現実ではありますが、知っておくと患者にあらかじめ説明でき、トラブル回避に役立つかもしれません。

 

一人の人間の病状を評価する際、立場により基準が異なる、という内容です。

かたや手助けをする、かたや保証金を払う・・・。

昔、テレビのドキュメンタリーでアメリカの保険審査医を取りあげていました。

「以下に保険金を払わずに済むか」

をあぶり出す仕事です。

成績を上げると(つまり保険金申請を却下するほど)給料が上がるしくみ。

ふつうに勤務医をしているより高給取りなんです。

そこで働く医師の葛藤を描いていました。

「自分は病気で困っている人を助けるために苦労して医師になったのに・・・」

「こんな仕事のために勉強してきたんじゃない」

とその医師は辞めて臨床医に戻りました。


睡眠薬の使われ方と効果

2024年10月11日 06時31分38秒 | 加齢現象

前項目で、

「不眠症とは何か?」

「睡眠薬とは何か?」

を扱いました。

 

この項目では、

「実際に使われている睡眠薬は何か?」

「睡眠薬の効果は?」

について考えます。

以下に引用する記事を紹介します。

 

<ポイント>

・不眠症に対する初回治療薬としてガイドラインで推奨される睡眠薬(スボレキサント、ラメルテオン、エスゾピクロン、ゾルピデム、トリアゾラム)による単剤療法を行った患者を解析。

・主要アウトカムは「単剤療法の失敗」とし、ガイドラインで推奨される睡眠薬による単剤療法を開始してから6ヵ月以内に睡眠薬の変更または追加を行った場合と定義した。副次的アウトカムは「単剤療法の中止」とし、単剤療法が失敗しなかった後、6ヵ月以内に2ヵ月連続で睡眠薬を処方しなかった場合と定義した。

・6ヵ月間のフォローアップ期間中に単剤療法を失敗した患者は約10%。

・エスゾピクロンと比較し、ラメルテオンは単剤療法の失敗例が多く、ゾルピデム、トリアゾラムは失敗例が少なかった。スボレキサントとエスゾピクロンでは、有意な差が認められなかった。

 → 有効性は、ゾルピデム/トリアゾラム>エスゾピクロン/スボレキサント>ラメルテオン?

・単剤療法が失敗しなかった後、睡眠薬を中止した患者の割合は約85%。

・エスゾピクロンと比較し、ラメルテオン、スボレキサントは中止例が多かった。ゾルピデムまたはトリアゾラムとエスゾピクロンでは、有意な差が認められなかった。

 → 離脱可能例は、ラメルテオン/スボレキサント>ゾルピデム/トリアゾラム/エスゾピクロン?

 

・・・ポイントと思われる文章を拾っても、よくわかりませんね。これが医学論文です。

単剤失敗例 → 有効率が低い、

離脱可能例 → 依存性が少ない、

と読めばいいのかな?

すると、単剤失敗例が少なく、離脱可能例が多いのが「優秀な睡眠薬」と考えられるということ。

 

 もう少し砕いて説明を試みると、扱った薬剤と効果は、

スボレキサント(商品名:ベルソムラ)オレキシン・ハイポレクチン受容体拮抗薬、短時間作用型

 → 単剤失敗例はそこそこ、有効例の中で休薬できる例が多い。

エスゾピクロン(商品名:ルネスタ)非ベンゾジアゼピン系、超短時間作用型

 → 単剤失敗例も、離脱可能例も平均的。

ラメルテオン(商品名:ロゼレム)メラトニン受容体拮抗薬、超短時間作用型

 → 単剤失敗例が最多だが、有効例で休薬できたのも最多。

ゾルピデム(商品名:マイスリー)非ベンゾジアゼピン系、超短時間作用型

 → 単剤失敗例は少なく、離脱可能例は平均的。

トリアゾラム(商品名:ハルシオン)ベンゾジアゼピン系、超短時間作用型

 → 単剤失敗例は少なく、離脱可能例は平均的。

 

私が注目したラメルテオン(ロゼレム®)は「有効率が高くないけど、離脱できる例は多い」という評価、つまり「効けばラッキー」な薬?

結論として、単剤失敗例が少なく、かつ離脱可能例が多い「理想の睡眠薬」は存在しないということに・・・

 

▢ ガイドラインで推奨される睡眠薬、日本の臨床で有用なのは?

ケアネット:2024/05/15)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 不眠症のガイドラインでは、いくつかの睡眠薬が推奨されているが、臨床現場において最も有用な睡眠薬は明らかとなっていない。秋田大学の竹島 正浩氏らは、不眠症に対する初回治療薬としてガイドラインで推奨される睡眠薬による単剤療法の失敗リスクが低い薬剤、単剤療法後の中止率の高い薬剤を特定するため、本研究を実施した。JAMA Network Open誌2024年4月1日号の報告。

 2005年4月~2021年3月の日本医療データセンターレセプトデータベースのデータを用いて、レトロスペクティブ観察コホート研究を実施した。対象患者は、不眠症に対する初回治療薬としてガイドラインで推奨される睡眠薬(スボレキサント、ラメルテオン、エスゾピクロン、ゾルピデム、トリアゾラム)による単剤療法を行った成人患者。データ分析は、2022年12月24日~2023年9月26日に実施した。主要アウトカムは、単剤療法の失敗とし、ガイドラインで推奨される睡眠薬による単剤療法を開始してから6ヵ月以内に睡眠薬の変更または追加を行った場合と定義した。副次的アウトカムは、単剤療法の中止とし、単剤療法が失敗しなかった後、6ヵ月以内に2ヵ月連続で睡眠薬を処方しなかった場合と定義した。・・・

 主な結果は以下のとおり。

・不眠症に対する初回治療薬としてガイドラインで推奨される睡眠薬による単剤療法を行なった患者23万9,568例(年齢中央値:45歳、四分位範囲:34~55歳、女性の割合:50.2%)が本研究に含まれた。
6ヵ月間のフォローアップ期間中に単剤療法を失敗した患者は、2万4,778例(10.3%)であった。
エスゾピクロンと比較し、ラメルテオン(調整ハザード比[aHR ]:1.23、95%信頼区間[CI]:1.17~1.30、p<0.001)は単剤療法の失敗例が多く、ゾルピデム(aHR:0.84、95%CI:0.81~0.87、p<0.001)、トリアゾラム(aHR:0.82、95%CI:0.78~0.87、p<0.001)は失敗例が少なかった。スボレキサントとエスゾピクロンでは、有意な差が認められなかった
単剤療法が失敗しなかった後、睡眠薬を中止した患者の割合は、84.6%であった。
エスゾピクロンと比較し、ラメルテオン(調整オッズ比[aOR ]:1.31、95%CI:1.24~1.40、p<0.001)、スボレキサント(aOR:1.20、95%CI:1.15~1.26、p<0.001)は中止例が多かった。ゾルピデムまたはトリアゾラムとエスゾピクロンでは、有意な差が認められなかった

 著者らは、「本コホート研究では、制御されていない交絡因子があるため、これらの結果に基づきガイドライン推奨の睡眠薬の薬理学的特性に関する結論を導き出すことはできない」とし、「慢性不眠症と急性不眠症の診断、不眠症および精神症状の重症度、睡眠薬処方に対する医師の態度など、交絡因子を検討したさらなる研究が求められる」としている。


睡眠薬の正しい飲み方

2024年10月10日 22時13分43秒 | 加齢現象

人間は歳を取ると共に眠れなくなります。

私は61歳ですが、40歳頃からずっと睡眠不足気味。

 

一時期、睡眠薬を飲んだこともありますが、

夜もポケベルで呼び出されるブラックな仕事なので、

「睡眠薬を飲んでいるので夜は働けません」

という診断書を提出したら、

「じゃあ、おまえはもう要らない、辞めろ」

と言われ、独立起業せざるを得なかった過去があります。

 

まあ、そのおかげでストレスが減り、

私の健康にとってはよい選択になりましたが。

 

ということで、睡眠には興味があります。

よく話題になるスタンフォード大学。

そこの先生が睡眠薬の飲み方について書いていた記事を見つけたので紹介します。

 

<ポイント>

・不眠症とは、睡眠時間をちゃんととっている(横になっている)にもかかわらず、眠れない状態のこと。かたや、十分な睡眠時間を確保していないのが睡眠不足。日本人の場合は不眠症というより睡眠不足の人が多い。実は睡眠とか不眠症についてはあまり医学部でも教えない。

・眠れない状態が3カ月未満で、放っておいたら勝手に治るようなものを急性不眠症や短期不眠症といい、3カ月以上続くなら慢性不眠症という。

・日本人は「短時間でも深く眠れてスッキリ」というパターンが好きだが、深く眠るためにはある程度長く寝ることが必要で、量を確保しないことには質がついてこない。

・人間の体は一定の時間がくると覚醒モードと睡眠モードが自動的に入れ替わるようになっている(概日リズム)。ただし、人間の体は生き延びるために睡眠モードより覚醒モードが優先されるようにできている。何らかの理由で覚醒モードが強くなりすぎると、覚醒と睡眠のバランスが崩れ、覚醒モードに傾いた「過覚醒」の状態になる。

・不眠症の原因には実にさまざまな要素(身体疾患、睡眠関連疾患、精神疾患など)がからまりあっている。

・睡眠薬にできることは、覚醒と睡眠のバランスを一時的に正すことだけ。対症療法的には効くが、不眠症そのものを完治させることはできない。だから不眠の本当の要因にまったくアプローチをしないまま睡眠薬だけを飲んでいると、薬をやめた途端、また同じような不眠症が戻ってくる。睡眠薬の正しい飲み方というのは実はなかなか難しい。

・睡眠薬には大きく分けて「睡眠を増強する薬」と、「覚醒を抑える薬」の2種類がある。今までは前者が主流だったが、後者のほうが、副作用が少なく安全性が高いという報告があり、最近はそちらがよく処方されるようになった。現在は、睡眠薬の大量服薬で自殺することはほとんど不可能。

・昔の「睡眠薬=危ない」というイメージは、「睡眠を増強する薬」の副作用が大きかったことからきている。具体名をあげると、バルビツール酸(フェノバルビタール)というグループの薬で、これは人を眠らせると同時に呼吸中枢の働きも抑制するため、飲みすぎると死に至ることがあった。その後、バルビツール酸に比べれば安全なベンゾジアゼピン系という薬が出たが、大量服薬するとやはりまだ呼吸抑制が起こる可能性があり、そこで非ベンゾジアゼピン系という薬が登場し、一世を風靡した。

・非ベンゾジアゼピン系という薬は、睡眠を増強させるだけで覚醒を下げてくれない。覚醒が高いまま睡眠を上げると、パラソムニア(睡眠時随伴症)といって本人も知らないうちにおかしな行動をとることがある。そのため現在はこちらの薬も避けるようになっていて、代わりにオレキシン・ハイポレクチン受容体拮抗薬が処方されるようになっている。

・夜はしっかり眠くなり、それでいて翌朝は眠気が残らずスッキリするという、正反対の作用を睡眠薬に期待しても、人間の薬物生理、薬物動態からいってほぼ無理。

 

・・・昔、私に処方されたのは「リスミー」という薬・・・

おっと、これは現在は処方されなくなった「ベンゾジアゼピン系」ですね。

 

不眠症と睡眠不足の違い、

睡眠薬はとりあえず眠れるようにしてくれるけど、

その背景にある病的状態は治してくれないので、

それを解決しない限り止めれば再発するのは当たり前、

などが確認できました。

 

▢ 「睡眠薬で爆睡し翌朝スッキリ覚醒する」は無理な注文

…スタンフォード式の睡眠薬の正しい飲み方危ない飲み方

 風邪薬と頭痛薬の併用は危険…大事な商談の記憶が飛んでしまう

(プレジデント 2024年7月5日号)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 

▶ 不眠症とは何か? 睡眠不足との違いとは

・・・

 そもそも不眠症とはどういう状態をいうのでしょう? ただの睡眠不足とはどう違うのでしょうか。

 簡単にいうと不眠症とは、睡眠時間をちゃんととっている(横になっている)にもかかわらず、眠れない状態のことです。かたや、十分な睡眠時間を確保していないのが睡眠不足。私は通常、成人であれば7時間半から8時間くらいの睡眠時間を推奨しています。しかし仮に8時間、ベッドで横になっていたとしても、5〜6時間しか眠れず、そのせいで昼間、頭がボーッとするとか疲れがとれないといった症状があれば、不眠症ということになるでしょう。

 ただし、大事なプレゼンの前日の晩など一時的に眠れないだけなら、あまり問題になりません。逆に、不眠のトリガーになるような大きなイベントがないのに不眠が続くようであれば、不眠症の疑いがあります。

 眠れない状態が3カ月未満で、放っておいたら勝手に治るようなものを急性不眠症や短期不眠症といい、3カ月以上続くなら慢性不眠症といいます日本人の場合は不眠症というより睡眠不足の人が多いので、まずは睡眠時間が確保できているかどうかを確認してください。

 そのとき大事なのは、「質より量」という考え方です。睡眠時間が足りていないのに、「睡眠の質を上げることで量を補ってやろう」という人がたまにいますが、睡眠に関してはまず量を確保しないことには質がついてきません。なぜか日本人は「短時間でも深く眠れてスッキリ」というパターンが好きなのですが、深く眠るためにはある程度長く寝ることが必要です。

 では、なぜ人は不眠症になるのでしょうか。通常、人間の体は一定の時間がくると覚醒モードと睡眠モードが自動的に入れ替わるようになっています(概日リズム)。ただし、人間の体は生き延びるために睡眠モードより覚醒モードが優先されるようにできています。敵に襲われそうなのに睡眠が優先されてはサバイブできないからです。

▶ 不眠症の原因は人によって違ってくる

 だから何らかの理由で覚醒モードが強くなりすぎると、覚醒と睡眠のバランスが崩れ、覚醒モードに傾いた「過覚醒」の状態になってしまいます。過覚醒を引き起こす要因は多岐にわたり、それが図のシーソーのまわりにある6つの因子です。

【図表】覚醒と睡眠の構図とその因子

 たとえばシーソー左下の「身体疾患」が不眠の原因になっている場合、体のどこかに痛みがあるケースが考えられます。慢性的な腰痛があるだけでも、過覚醒になってしまうのです。

 あるいは右上の「睡眠関連疾患」。この典型が睡眠時無呼吸症候群で、肥満や顎が小さかったりして気道が狭くなると、睡眠中に数秒間呼吸が止まり、眠りが浅くなってしまうことがある疾患です。このような場合は睡眠専門医にかかることをお勧めします。

 もしくは右下の「精神疾患」です。うつ病になると眠れなくなることはよく知られていますし、そこまでいかなくても、子供の受験が心配だとか、会社の資金が足りないとか、そんな「寝ている場合じゃない」状況に陥ると、過覚醒=不眠が引き起こされます。

 つまり不眠症の原因には実にさまざまな要素がからまりあっていて、「上司と揉めているのが50%、家族の悩みが30%、腰痛が10%、その他10%」といった具合に、人それぞれ原因も割合も違います。だから「こうすればあなたは眠れる」とズバッと言えないのが、医師にとって悩ましいところなのです。

 

▶ 睡眠薬は眠れるが不眠症自体は治せない

 そして睡眠薬にできることは、覚醒と睡眠のバランスを一時的に正すことだけ。まわりの6つの要因には効きません。睡眠薬は対症療法的には効きますが、不眠症そのものを完治させることはできないのです。

 だから不眠の本当の要因にまったくアプローチをしないまま睡眠薬だけを飲んでいると、薬をやめた途端、また同じような不眠症が戻ってきます。不眠の本当の要因を突き止めるには時間がかかりますし、突き止めたところで、なかにはいかんともしがたい要因もあります。そこは医師とよく相談し、心理的なものが原因なら心理士による非薬物療法を試すなどして解決を目指すことになります。

 ですから、睡眠薬の正しい飲み方というのは実はなかなか難しい。ただし「これだったら医師として安心して見ていられるな」という場合もあって、それは短期の不眠症の場合です。たとえば仕事で一晩徹夜をしたら、うまく眠れなくなってしまった。でも明日はベストの体調で臨みたい。だから今夜だけ睡眠薬を飲むけれど、それ以外のときは飲みません、というような飲み方であれば、それほど心配せずに見ていられます。

 「睡眠薬は怖い」というイメージを持っている人は多いかもしれませんが、医師の指導のもとで正しく使えばそれほど無闇に怖がるものでもありません。睡眠薬には大きく分けて「睡眠を増強する薬」と、「覚醒を抑える薬」の2種類があります。今までは前者が主流でしたが、後者のほうが、副作用が少なく安全性が高いという報告があり、最近はそちらがよく処方されます

 少し前のドラマや小説には、登場人物が睡眠薬を大量に飲んで自殺する場面がよくありました。しかし現在は、睡眠薬の大量服薬で自殺することはほとんど不可能になっています。なぜなら、いまの薬は人間の胃袋に入る以上の量を飲まないと死ねないように作られているのです。もちろん、そうでない睡眠薬もまだありますが、一般的に用いられるような薬ではありません。

 昔の「睡眠薬=危ない」というイメージは、「睡眠を増強する薬」の副作用が大きかったことからきているのでしょう。具体名をあげると、バルビツール酸(フェノバルビタール)というグループの薬です。これは人を眠らせると同時に呼吸中枢の働きも抑制するので、飲みすぎると死に至ることがありました。そのため、すでに睡眠薬として使われなくなっています。

その後、バルビツール酸に比べれば安全なベンゾジアゼピン系という薬が出ましたが、大量服薬するとやはりまだ呼吸抑制が起こる可能性がありました。そこで非ベンゾジアゼピン系という薬が登場し、一世を風靡したのです。

 ただしこの薬は、睡眠を増強させるだけで覚醒を下げてくれない。覚醒が高いまま睡眠を上げると、パラソムニア(睡眠時随伴症)といって本人も知らないうちにおかしな行動をとることがあります。特に高齢者にそれが起こりやすいとわかってきました。

 しかも高齢者の場合、寝ぼけて歩くと転んで骨を折りやすい。子どもの骨折と違って治りにくいので、寝たきりになってしまう。そうすると、どんどん全身の機能が低下して、そのままお亡くなりになるようなことも起きかねません。そのため現在はこちらの薬も避けるようになっていて、代わりにオレキシン・ハイポレクチン受容体拮抗薬が処方されるようになっています

 

▶ 耐性ができるのは事実 長期服用は医師と相談

 ほかにも睡眠薬として用いられる薬として抗ヒスタミン薬があります。これは花粉症や乗り物酔いの薬などにも使われる市販薬で、飲んだら眠くなるのは、使ったことのある人であれば体感としてわかるでしょう。最近、花粉症の薬では「昔の薬と比べて眠くなりにくい」ことをアピールするものも出てきていますが、これも用量が多ければ眠くなります。

 どんな薬にもいえることですが、副作用のない薬はありません。何回か試してみて、その用量で大丈夫だったら、その人にとっては大丈夫だといえるでしょう。ただしほかの人にもそうだとはいえないので、「これ飲んですごくよかった。君も飲みなよ」と他人に薦めることは絶対にやめてください。医師の指導のもとで定期的に血液検査などを行い、「腎臓も肝臓も、副作用は出ていませんね」と確認しつつ服用するのが一番安全です。

【図表】睡眠薬一覧と作用時間

 おそらく多くの人が恐れているのは、「睡眠薬を飲んだら、ずっと飲み続けていなければ眠れなくなってしまう」ということではないでしょうか。つまり、薬に耐性ができてしまう。これは実際によく起こります。

 でも、それは人間の体の正しい働きでもあります。薬を飲むというのは、ある受容体に効く成分を外から取り入れるということ。そうやって外から取り入れる量は、人間の本来の作用で出てくる量をはるかに凌駕します。すると体は「これは多すぎる」と判断して、その薬に対応する受容体の量をちょっとずつ減らしていく。これが「耐性ができる」ということです。だから睡眠薬も毎晩飲んでいると受容体の量が減っていくので、効かなくなってきます。

 でも薬を飲むのをしばらくやめたら、受容体の量はまた元に戻る。これを「休薬」や「ドラッグホリデー」といいます。適切な休薬の期間をとるためにも、睡眠薬の長期服用には医師の指導が欠かせません。

 

▶ 睡眠薬は眠くするだけ スッキリ起きられない

 睡眠薬への期待といえば、「睡眠薬を飲んでも翌朝はスッキリ目覚めたい」という要望がとても多いです。こういう意見を聞くたびに、変な話ですが、私は睡眠薬に同情してしまいます。夜はしっかり眠くなり、それでいて翌朝は眠気が残らずスッキリするという、正反対の作用を同時に期待されるというのは矛盾した話です。本来、睡眠薬ができるのは人を眠くすることだけ。その作用が朝には消えていてほしいというのはなかなか二律背反した命題で、両立させるのは難しい。

 では製薬会社がどうやってこの無茶な要望に応えているかというと、薬の作用時間を短くすることで対応しています。昔は効果がダラダラと長く続く薬が多かったのですが、そうすると、「持ち越し効果」といって、朝起きたときにまだ薬が抜けきっておらず、ボーッとすることがよくありました。最近はそれがないように、作用時間を極端にギュッと縮めた薬がほとんどです。たとえばメラトニン受容体作動薬などは「超短時間作用型」なので、すぐに入眠できても、夜中に目が覚めてしまうこともありえます。

 つまり、しっかり眠くなるけれど、時間が経ったらスパッと効き目がなくなってほしいというのは、人間の薬物生理、薬物動態からいってほぼ無理です。睡眠薬を飲んだ翌朝のちょっとボーッとする感じは、ある程度は仕方ありません。睡眠薬の服用中は日中の居眠りに気をつける必要があります。

 こういうと、「やっぱり睡眠薬は怖いですね。それよりサプリや栄養補助食品などのほうが安全ですよね」と言われますが、これらはあまり効き目が強くないようにできています。ということは持ち越し効果もあまりないので、パッチリ目が覚めます。

 ただ、眠くなるかどうかといえば、そこは効く人と効かない人がいます。万人に確実に効いたら薬になってしまうので、興味のある人は試してみるしかないでしょう。

 それ以外にも眠くなるようなものは、けっこうあります。代表的なのがお酒。ほかにもリラックス効果があるとして最近流行っているのが、大麻から危険な成分を除いたCBDカンナビジオール)です。これらは人をリラックスさせる効果はあるので、リラックスできないことが不眠の主な原因という人には効果があるかもしれません。

 一方、お酒というのはアルコール中毒で亡くなる方がいるように、大量に飲むと呼吸中枢を抑制し、場合によっては呼吸が止まる物質です。もちろん急性アルコール中毒の状態になるまでには、相当強いアルコールを大量に飲まなければいけません。ただ問題は、お酒は薬ではないため、用量が決まっていないこと。だから、「ここまではいい」「ここからはダメ」といったことがなかなか言いづらいのです。「お酒と睡眠薬は一緒に飲まないでください」としか言いようがありません。

 風邪薬や頭痛薬など眠くなる成分の入った市販薬と睡眠薬を併用するのもやめたほうがいいでしょう。たとえばずっと睡眠薬を服用している人が、どうも風邪気味なので、いつもの睡眠薬と一緒に市販の風邪薬も飲んだとしましょう。そのあとすぐに「ちょっと今から車を運転してコンビニに行ってくる」というのはやっぱり危ない。その後、記憶が飛ぶというようなこともありうるので、大事な商談があるときなども服用はやめたほうが無難でしょう。

 なぜ記憶が飛ぶかというと、脳の記憶をためる部分(海馬)は機能停止したのに、一方では脳の会話を司る部分はまだ動いているというように、脳の部分によって機能停止のタイミングがちょっとズレることがあるからです。お酒を飲んで普通にしゃべっていたのに途中から記憶がないという人がいますが、それはこういう理由からです。

 私たちのような脳神経内科の人間にとっては面白い現象ですけれども、非常に危ない現象でもあります。薬の作用や飲み合わせを覚えて判断するということができないと、やっぱり死に直結することがあるのは事実です。

 

▶ 難しいのが病院選び 根気よく探すしかない

 今は「睡眠外来」というような専門の病院もありますが、不眠があって睡眠薬を処方してほしいという場合、最初の病院選びが難しいかもしれません。先に述べたように、不眠の原因は一つではないからです。

 短期の不眠症で、2〜3日睡眠薬を飲んで、あとはもう使いません、というような飲み方であれば、近所の内科で処方してもらってもかまわないと思います。しかし50〜60代ともなると人生が複雑になっていますから、不眠の要因も複雑です。さらに、うつ症状や不安も多くみられるようになります。

 明らかに精神的なものが原因で眠れない場合は精神科の医師にかかったほうがいいでしょう。うつ症状や不安を治療することで不眠症もよくなることが期待できます。

 しかし、誰が「あなたは別の病院に行ったほうがいいですよ」とアドバイスするかというと、そこがなかなか難しい。睡眠専門医が、「あなたは○○科へ行ってください、あなたは○○科がいいでしょう」と振り分けられればいいのですが、実は睡眠とか不眠症についてはあまり医学部でも教えないのです。したがって、「どうして眠れないのか」を自分で考え、自分に合った医師を探していくしかないこともあります。

 トライアル・アンド・エラーを繰り返すしかないかもしれませんが、根気よく探してみてください。

 

 


テストステロンの真実 〜謎多き男性ホルモン〜

2019年11月10日 12時38分45秒 | 加齢現象
 NHK-BS1で2019.9.25に放送された番組です。

 少し前に、同じNHKの番組で夫婦の危機に関する内容を見たことがあります。
 その時に印象的だったのは、妻の方が経済的優位に立ち、家も仕切っている夫婦の血液中テストステロン値を測定したところ、なんと妻の方が多かった、という衝撃的事実。
 確かに、その妻は草食系のおとなしそうな夫を叱り飛ばしていて、一般夫婦のイメージと逆になっていました。

 女性でも男性ホルモンであるテストステロンが分泌されていることは知っていましたが、微量であり、男性を上回ることがあることは知りませんでした。

 今回番組を見て、世界中の研究者がテストステロンの正体を見極めようと現在進行形で研究中であることがわかりました。
 研究者のコメントは断定的ではなく、「こういうデータがある」と紹介するパターンが多く、煮え切らない印象がありました。
 様々な可能性を検証しつつ、結局「テストステロンの作用は単純ではない」というどっちつかずの結論でした。

 ・・・その中でもとくに「!」と感じたのは・・・

「内臓脂肪はテストステロンをエストロゲンへ変えるので、テストステロン値は低下する」

 とりあえず、肥満はよくない、ということは確定。



内容紹介
 ドーピングで話題になるテストステロンだが、実は複雑な働きをしていることがわかった。筋肉だけでなく精神面にも作用するという謎の男性ホルモンに、最先端の科学で迫る。
 筋肉隆々のボディと結び付けられるテストステロン。男性ホルモンの代表で、スポーツ界のドーピングでも話題となるが、実際には、肉体だけでなく精神や行動に複雑な影響を与えることがわかってきた。テストステロンが多いと、気前が良くなるという実験結果も!しかしそれは善人になるわけではないらしい。さらに、脳の発育や言語能力にも関係するなど、欧米の最先端の科学的知見から、テストステロンの真実に迫る。



 印象に残ったことをメモしておきます。


テストステロンの分泌
・男性:精巣(ライディッヒ細胞)95%、副腎皮質5%
・男性の分泌は思春期になると急増し、その後はあまり変わらない。
・正常範囲:8-12nmol/ml
・女性は男性の10%程度。

テストステロン欠乏症
・テストステロンを使ったホルモン補充療法では、精子がうまく作れなくなる可能性がある。下垂体からのFSH、LHの刺激で精子が作られるが、外からテストステロンが補充されるとFSH/LHが分泌されず、精子が作られなくなる。
・子どもを望む場合は補充療法にゴナドトロピン(FSH、LH)を用いる。するとテストステロン生成と精子形成が可能になる。

テストステロン過剰症
・攻撃性/支配欲が増す(?)。

動物の観察研究:攻撃性とテストステロン分泌の関係
①チンパンジー(オス優位の社会)
・トップのオスがより攻撃的になり、それを周囲に示すようになったときに上昇
・妊娠可能なメスが集団に突然は行ってきたときに上昇
②ボノボ(メス優位の社会)
・オスはテストステロンが少ない方がメスと出会いやすい。

ヒトではテストステロンがどう行動に結びつくかよくわかっていない。
・攻撃性と関係あるという報告と、逆の報告が混在する。
・テストステロン=攻撃性、と単純ではないようだ。
・テストステロンが男性らしさと関係するというのは俗説で、データはない。

テストステロンは社会的ホルモンである。
・投与実験において、投与群では攻撃的になるほか、気前が良くなる、行動が寛大になることが判明。
・テストステロンは社会的地位を維持する行動に向かわせる。報酬系と呼ばれる脳の部位と関係があるようだ。
・他者への信頼とそれに対する反応を調べた実験では、投与群では社会性のある行動を取る傾向がある(利他的である)。社会性の発揮は権力の行使と捉えることもできる。

テストステロンは骨の成長に関与する。
・骨はテストステロンとエストロゲンの影響を受ける。

□ テストステロンの男女差
・羊水中のテストステロン濃度は、男児の方が女児よりはるかに多い。妊娠の早い段階からテストステロンの脳の発達への影響が始まっている。
・羊水テストステロン濃度が低いほど、2歳時の語彙が少ない。

テストステロンと父性
・子どもと楽しく遊んでいるときの父親のテストステロンは低下している。
・仲のいい夫婦の男性はテストステロンが低い。

男性更年期とテストステロン
・男性は若い頃と同じレベルのテストステロンを80歳まで分泌する能力があるので、女性と同じような更年期は存在しない。
・内臓脂肪はテストステロンをエストロゲンに変えるので、テストステロン値を低下させる(ほかにインスリン抵抗性、高血圧などを引き起こす)。生活習慣を見直し、内臓脂肪を減らすと元に戻ることが確認されている。

コルチゾール(副腎皮質ホルモンのひとつ)はテストステロンの影響が行動につながることをブロックする。
・デュアルホルモン仮説。

視力と認知症

2019年10月06日 13時36分37秒 | 加齢現象
 認知症を扱うテレビ番組で、「聴力が落ちると認知症のリスクが上がる」と解説していました。
 そのカラクリは、

・聴力が低下すると、脳の聴覚野への刺激が減り、その部位が脳萎縮をきたす。
・脳萎縮は認知症の陸スとなる。

 というものでした。

 では視力はどうなんだろう?
 と素朴な疑問を持ちました。

 それに関する記事を見つけました。
 思った通り、視力低下は認知症の発症リスクが2〜3倍上昇する、とありますね。

シニアに必要な視力の健康
ケアネット:2019/10/01
視力が弱ると認知症も増える
 講演では飯田 知弘氏(東京女子医科大学医学部眼科 教授)を講師に迎え、「人生100年時代を生き抜くための『眼の健康』」をテーマに、高齢化に伴う眼の疾患について説明した。
 これからの人生は100年時代であり、政府も「いくつになっても学び直しができ、新しいことにチャレンジできる社会」を目指し、シニアのさまざまなチャレンジを後押ししていると説明し、そのためには「健康」であることが重要と述べた。
 健康を保つポイントとして、健康寿命と平均寿命には差がある(男性9.13年、女性12.68年)ことを示し、この差を短くすることが重要と指摘した。また、シニアにとって認知症は大きな問題である。世界保健機関(WHO)が策定した「認知症予防指針」によれば、「有酸素運動」「多量の飲酒を避ける」「血圧を維持」「血糖コントロール」「体重を一定に保つ」「適度な休息」など12項目があり、わが国も認知症施策推進大綱を発表し、本格的に取り組みを開始したことを説明した。同じく、認知症の発症関連リスクとして「難聴」「高血圧」「肥満」「喫煙」「うつ」など9つの因子があり、これらの抑制ができれば発症を35%抑制できると語った1)。
 一方で、視力と認知症の関係について研究した藤原京スタディにも触れ、加齢とともに視力不良と認知症が増加し、視力不良の患者では認知症の発症割合が約2~3倍高いことを指摘した2)。
シニアは気を付けたい白内障、緑内障、加齢黄斑変性
 次に眼の働き、仕組みについて触れ、わが国の視覚障害の原因疾患は、緑内障(28.6%)、網膜性色素変性(14.0%)、糖尿病網膜症(12.8%)、黄斑変性(8.0%)、 脈絡網膜萎縮(4.9%)の順で多く、その中でもシニアの視力障害では、「白内障、緑内障、加齢黄斑変性」の3つが挙げられると同氏は指摘した。
 「白内障」は、水晶体が濁ることで起きる視力障害で60歳を過ぎると80%以上、80歳を過ぎると100%で症状が認められる。主な自覚症状として、かすみ目、明るいところで見えにくい、ピントや眼鏡が合わない、2重3重に見えるなどがある。
 「緑内障」は、眼圧が高くなり、視神経が障害される疾患。主な自覚症状として、視野が狭くなったり、部分的に見えなくなったりする。正常眼圧でも起こるケースもあり、日本人に多いという。自覚症状に乏しく、気付きにくいため、定期的な眼科受診が勧められる。
 「加齢黄斑変性」は、50歳以上で、加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が起こる疾患。欧米では成人の失明原因の1位となっている。主な自覚症状として、視野の中心部が歪む変視症や視野の中心部が黒くなる中心暗点がある。
 これらの疾患の治療では、手術が必要となるが、白内障手術により視力が回復することで、認知機能の改善が認められた報告3) もあり、健康の維持には、視力の維持も重要であると指摘した。
 同氏は、まとめとして100歳まで健康な視力を維持するために、「病気のことをよく知る」「定期的に眼科受診」「早期発見、早期治療が大切」と3項目を示し、「『人生100年時代』生き生きとした生活を送るためには眼の健康が大切」と強調し、講演を終えた。

■文献
1) Livingston G, et al. Lancet. 2017;390:2673-2734.
2) Mine M, et al. Biores Open Access. 2016;5:228-234.
3) Ishii K, et al. Am J Ophthalmol. 2008;146:404-409.