発作ゼロ・再発ゼロを目指す「心房細動」治療(桑原大志著)
幻冬舎新書、2016年
心房細動に関する書籍は山下武志Dr.(「不整脈で困ったら」「心房細動に出会ったら」両者ともメディカルサイエンス社)以降、たくさん目にするようになりました。
これは治療としての抗凝固剤の発展、カテーテルアブレーションの発展とパラレルです。
さて、今回読んだ本も非常にわかりやすい啓蒙書です。
日進月歩の心房細動治療の今を知るには格好の書だと思いました。
四半世紀前の口訣は「心房細動は根本的に治すことはできない。症状の強い心房細動が持続性に移行したら、患者をなだめすかしなさい。そのうち、不規則な脈拍になれて症状はなくなる、とね」でしたが、1990年代後半以降、心房細動のメカニズムの解明が進むとともにカテーテル・アブレーション法が発展して、根治可能な病気になりました。
私自身、いろいろ情報を集めていますが、それでもこの本で初めて知ったこともいくつかありました。
また、カテーテル・アブレーションの実際を、入院期間、検査内容、時間経過まで実況中継のように記載されているので、考えている人には不安を軽減してくれます。
<備忘録>
□ 心房細動起源と心房細動基質
・心房細動起源:1分間に500〜600回という高頻度で興奮する、異常な心房筋で数mm以下の点として存在する。これがほかの心房を高頻度(減衰伝導により200〜300回/分)に興奮させることにより心房細動を引き起こす。房室結節に到達した電気興奮は心室に伝わる際に100〜200回/分まで頻度が落ちる。
・心房細動基質:一旦始まった心房細動が停止せずに持続する心房の電気的特徴。ダメージを受けた心房筋では電気刺激が正常よりゆっくり進んだり回転したりするようになり、一旦生じた心房細動が持続しやすくなる。
心房細動起源/基質ともに加齢による心房筋の変性でつくられる。
□ 心房細動有病率
50歳代:1%、60歳代:2%、70歳代:3%、80歳代:4%
□ 心房細動と高血圧
高血圧は心臓にストレスをかけ、心房細動の直接&間接原因になる。心房細動患者の6割に高血圧がある。
□ 心房細動と飲酒
多量飲酒(1回3単位以上)の60%は心房細動を発症する。
節度ある飲酒とは、アルコール1単位まで。たとえ連日飲酒したとしても、この程度なら心房細動を含めて健康被害はまぬがれる。
★ アルコール1単位とは、純アルコールで20g。ビールなら中瓶1本(500ml)、日本酒は1合(180ml)、焼酎0.6合(110ml)、ウイスキーはダブル1杯(60ml)
□ 心房細動と遺伝
心房細動そのものは遺伝しない。しかし1親等以内に心房細動患者がいると、その人が心房細動になる可能性は、そうでない人に比べて1.4倍高くなる。その理由は、心房細動の原因となり得る、高血圧・糖尿病・肥満などが遺伝するため。
□ カフェインと心房細動
通常の摂取量(100〜300mg/日、ドリップ式コーヒーで1〜3杯/日)では心房細動を引き起こすことはない。
□ 心房細動と心房性期外収縮
心房性期外収縮は心房細動の予兆として現れる例がある。心房性期外収縮と心房細動の発症のメカニズムは類似しており、変性などによって生じた異常な心筋細胞が興奮することにより発症する。心房細動では異常心筋細胞の高頻度興奮が一定時間持続するが、心房性期外収縮では単回もしくは数回程度続くだけ。
心房性期外収縮は数が多いほど将来心房細動になる可能性が高くなる。ホルター心電図で1日の総計が700〜800拍以上の人は、15年後に心房細動になる可能性が90%以上。
□ DOAC(Direct oral anticoagulant)
ワルファリンはビタミンK拮抗作用を介していくつかの血液凝固因子を阻害するが、DOACは1つの凝固因子を阻害する。
・ダビガトラン(プラザキサ®):1日2回服用のカプセル剤。トロンビンを阻害する。腎臓で代謝される。
・アピキサバン(エリキュース®):1日2回服用の錠剤。Xa因子を阻害する。腎機能が悪くても服用可能。
・リバーロキサバン(イグザレルト®):1日1回服用。Xa因子を阻害。腎機能が悪いと使いにくい。
・エドキサバン(リクシアナ®):1日1回。Xa因子を阻害する。日本製。腎機能低下患者でも使用可能。
□ リズムコントロール薬(抗不整脈薬)
・シベンゾリン(シベノール®) ・・・ 1回頓服量100mg、最高血中濃度到達時間:1.5時間
・ピルジカイニド(サンリズム®)・・・ 1回頓服量100mg、最高血中濃度到達時間:1〜2時間
□ レートコントロール薬
・ビソプロロール(メインテート®)
□ 高周波カテーテル・アブレーション
・脇腹に貼った対局板とカテーテル先端に付いている電極との間に電気を流し、発生した熱で心筋が火傷をする(直径5-8mm/深さ5-8mm)。
・心房細動起源の誘発方法:高用量イソプロテレノール負荷(通常使用量の20倍)により心房細動患者の90%で心房細動が誘発される。
・すべての心房細動起源を100とすると、肺静脈起源は85%、それ以外が15%に存在する。発作性心房細動患者の4人に1人は肺静脈以外にも心房細動起源を有している。15%のうち7-8%は上大静脈に存在する。
・肺静脈隔離術:肺静脈の付け根を円周状に焼却し、電気的に隔離する方法で、「個別」「広範囲」「ボックス」法の3つがあり、現在は広範囲肺静脈隔離法が世界標準となっている。
・上大静脈隔離術:上大静脈の真横を横隔膜神経が上下に走行しており、合併症として横隔膜麻痺が問題になる。横隔膜神経の近くを焼却する際に、、カテーテルの先端を前方、もしくは後方に向けることでこの合併症を起こさずにすむ。
・肺静脈隔離しか行わなければ、60-70%の患者しか心房細動は治癒しない。
・世界中のデータを集めると、発作性心房細動はカテーテル・アブレーションにより80%で治癒する(薬剤では30%)。
□ 横須賀共済病院でのカテーテル・アブレーションの成績を左右する因子
①心房細動がイソプロテレノールによって誘発されるか否か
②誘発された心房細動起源を同定できるか否か
③心房細動期限の数は一つか複数か
④心房細動起源は心筋の浅いところにあるか、深いところにあるか
□ 横須賀共済病院でのカテーテル・アブレーションの成績
・1回の治療で1年後に70%、5年後に60%
・再発した患者に再度アブレーション施行すると、最終アブレーション後の1年後に90%、5年後に80%が治癒
幻冬舎新書、2016年
心房細動に関する書籍は山下武志Dr.(「不整脈で困ったら」「心房細動に出会ったら」両者ともメディカルサイエンス社)以降、たくさん目にするようになりました。
これは治療としての抗凝固剤の発展、カテーテルアブレーションの発展とパラレルです。
さて、今回読んだ本も非常にわかりやすい啓蒙書です。
日進月歩の心房細動治療の今を知るには格好の書だと思いました。
四半世紀前の口訣は「心房細動は根本的に治すことはできない。症状の強い心房細動が持続性に移行したら、患者をなだめすかしなさい。そのうち、不規則な脈拍になれて症状はなくなる、とね」でしたが、1990年代後半以降、心房細動のメカニズムの解明が進むとともにカテーテル・アブレーション法が発展して、根治可能な病気になりました。
私自身、いろいろ情報を集めていますが、それでもこの本で初めて知ったこともいくつかありました。
また、カテーテル・アブレーションの実際を、入院期間、検査内容、時間経過まで実況中継のように記載されているので、考えている人には不安を軽減してくれます。
<備忘録>
□ 心房細動起源と心房細動基質
・心房細動起源:1分間に500〜600回という高頻度で興奮する、異常な心房筋で数mm以下の点として存在する。これがほかの心房を高頻度(減衰伝導により200〜300回/分)に興奮させることにより心房細動を引き起こす。房室結節に到達した電気興奮は心室に伝わる際に100〜200回/分まで頻度が落ちる。
・心房細動基質:一旦始まった心房細動が停止せずに持続する心房の電気的特徴。ダメージを受けた心房筋では電気刺激が正常よりゆっくり進んだり回転したりするようになり、一旦生じた心房細動が持続しやすくなる。
心房細動起源/基質ともに加齢による心房筋の変性でつくられる。
□ 心房細動有病率
50歳代:1%、60歳代:2%、70歳代:3%、80歳代:4%
□ 心房細動と高血圧
高血圧は心臓にストレスをかけ、心房細動の直接&間接原因になる。心房細動患者の6割に高血圧がある。
□ 心房細動と飲酒
多量飲酒(1回3単位以上)の60%は心房細動を発症する。
節度ある飲酒とは、アルコール1単位まで。たとえ連日飲酒したとしても、この程度なら心房細動を含めて健康被害はまぬがれる。
★ アルコール1単位とは、純アルコールで20g。ビールなら中瓶1本(500ml)、日本酒は1合(180ml)、焼酎0.6合(110ml)、ウイスキーはダブル1杯(60ml)
□ 心房細動と遺伝
心房細動そのものは遺伝しない。しかし1親等以内に心房細動患者がいると、その人が心房細動になる可能性は、そうでない人に比べて1.4倍高くなる。その理由は、心房細動の原因となり得る、高血圧・糖尿病・肥満などが遺伝するため。
□ カフェインと心房細動
通常の摂取量(100〜300mg/日、ドリップ式コーヒーで1〜3杯/日)では心房細動を引き起こすことはない。
□ 心房細動と心房性期外収縮
心房性期外収縮は心房細動の予兆として現れる例がある。心房性期外収縮と心房細動の発症のメカニズムは類似しており、変性などによって生じた異常な心筋細胞が興奮することにより発症する。心房細動では異常心筋細胞の高頻度興奮が一定時間持続するが、心房性期外収縮では単回もしくは数回程度続くだけ。
心房性期外収縮は数が多いほど将来心房細動になる可能性が高くなる。ホルター心電図で1日の総計が700〜800拍以上の人は、15年後に心房細動になる可能性が90%以上。
□ DOAC(Direct oral anticoagulant)
ワルファリンはビタミンK拮抗作用を介していくつかの血液凝固因子を阻害するが、DOACは1つの凝固因子を阻害する。
・ダビガトラン(プラザキサ®):1日2回服用のカプセル剤。トロンビンを阻害する。腎臓で代謝される。
・アピキサバン(エリキュース®):1日2回服用の錠剤。Xa因子を阻害する。腎機能が悪くても服用可能。
・リバーロキサバン(イグザレルト®):1日1回服用。Xa因子を阻害。腎機能が悪いと使いにくい。
・エドキサバン(リクシアナ®):1日1回。Xa因子を阻害する。日本製。腎機能低下患者でも使用可能。
□ リズムコントロール薬(抗不整脈薬)
・シベンゾリン(シベノール®) ・・・ 1回頓服量100mg、最高血中濃度到達時間:1.5時間
・ピルジカイニド(サンリズム®)・・・ 1回頓服量100mg、最高血中濃度到達時間:1〜2時間
□ レートコントロール薬
・ビソプロロール(メインテート®)
□ 高周波カテーテル・アブレーション
・脇腹に貼った対局板とカテーテル先端に付いている電極との間に電気を流し、発生した熱で心筋が火傷をする(直径5-8mm/深さ5-8mm)。
・心房細動起源の誘発方法:高用量イソプロテレノール負荷(通常使用量の20倍)により心房細動患者の90%で心房細動が誘発される。
・すべての心房細動起源を100とすると、肺静脈起源は85%、それ以外が15%に存在する。発作性心房細動患者の4人に1人は肺静脈以外にも心房細動起源を有している。15%のうち7-8%は上大静脈に存在する。
・肺静脈隔離術:肺静脈の付け根を円周状に焼却し、電気的に隔離する方法で、「個別」「広範囲」「ボックス」法の3つがあり、現在は広範囲肺静脈隔離法が世界標準となっている。
・上大静脈隔離術:上大静脈の真横を横隔膜神経が上下に走行しており、合併症として横隔膜麻痺が問題になる。横隔膜神経の近くを焼却する際に、、カテーテルの先端を前方、もしくは後方に向けることでこの合併症を起こさずにすむ。
・肺静脈隔離しか行わなければ、60-70%の患者しか心房細動は治癒しない。
・世界中のデータを集めると、発作性心房細動はカテーテル・アブレーションにより80%で治癒する(薬剤では30%)。
□ 横須賀共済病院でのカテーテル・アブレーションの成績を左右する因子
①心房細動がイソプロテレノールによって誘発されるか否か
②誘発された心房細動起源を同定できるか否か
③心房細動期限の数は一つか複数か
④心房細動起源は心筋の浅いところにあるか、深いところにあるか
□ 横須賀共済病院でのカテーテル・アブレーションの成績
・1回の治療で1年後に70%、5年後に60%
・再発した患者に再度アブレーション施行すると、最終アブレーション後の1年後に90%、5年後に80%が治癒