一病息災〜心房細動とその周辺

心房細動の治療は日進月歩。目に留まった記事の備忘録です。
他に、生活習慣病や自分に関係ありそうな健康問題も。

高次脳機能障害の「診断基準」と「認定基準」

2024年12月19日 07時24分52秒 | 加齢現象

前石原東京都知事の言動があやふやなことから「高次脳機能障害」という病名が有名になりました。

そして最近、知人が「高次脳機能障害」と診断されました。

外見からはわかりにくいこの病名・病態です。

その周辺の記事を拾ってみました。

 

▢ 鑑別が難しい高齢者の高次脳機能障害と認知症

濱口裕之(メディカルコンサルティング代表医師)
2024/08/01:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 

 高次脳機能障害は、頭部外傷の中でも重い後遺症の1つです。人間は「考える葦」ですから、認知機能の障害は日常生活に多大な悪影響を及ぼします。しかも、骨折による変形治癒などと異なり、目に見えない障害なので客観的な評価がしにくいことが特徴です。
 自賠責保険では、頭部外傷後遺症の後遺障害等級は、1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級に分けられています。1級に認定されるのは遷延性意識障害、いわゆる植物状態がほとんどです。私たちの経験上、高次脳機能障害で認定される等級は、大体3~9級です。
 後遺障害慰謝料には、5級1400万円、7級1000万円と大きな差があります。しかし後遺障害認定基準をみると、5級は「きわめて軽易な労務」にしか就けない、7級は「軽易な労務」にしか就けないと記載されており、明確な線引きはありません。したがって、高次脳機能障害の後遺障害認定は係争に発展しやすいです。
 そして、高齢者の頭部外傷では、高次脳機能障害以外にも加齢や事故による環境変化によって発症する認知症という問題があります。高次脳機能障害と認知症は、認知機能障害という同じような症状であるケースが多いため、鑑別が難しいです。
 認知機能障害の原因が、高次脳機能障害なのか加齢による認知症なのかによって、賠償金額は雲泥の差です。このため、認知機能障害の原因が争いになるケースは少なくありません。どのようなケースが問題になるのか、考えてみましょう。

▶ 高次脳機能障害は受傷時の症状が最も重い

 脳神経外科や脳神経内科以外の医師にとって、高次脳機能障害は非常に分かりにくい病態です。恥ずかしながら、私も交通事故診療に深く関わるまで、高次脳機能障害は脳脊髄液減少症と同様に定義が曖昧な傷病名だと思っていました。
 高次脳機能障害は、交通事故や脳卒中などで脳組織の一部が損傷して発症します。そして高次脳機能障害は、思考、記憶、行動、言葉、注意など脳の様々な機能に問題を引き起こします。外見からは分かりにくいですが、主な症状として以下の4大症状が挙げられます。

・記憶障害
・注意障害
・遂行機能障害
・社会的行動障害

 高次脳機能障害の4大症状は、全てが必ず出現するわけではありません。脳の損傷部位によって、障害される機能が異なるからです。ただし、どの症状が現れようとも、受傷前のような日常生活を送ることは難しくなります
 高次脳機能障害の特徴は、受傷時の症状が最も重いことです。高次脳機能障害が完全に回復するケースは少ないですが、半年から1年ほどかけて少しずつ改善していきます。認知症のように、加齢とともに症状が悪化していく傷病とは根本的に経過が異なるのです。

▶ 経時的に悪化する症状は加齢性変化の可能性が高い

 交通事故の賠償実務では、高齢者の頭部外傷が問題になるケースが多いです。その理由は、高齢者は認知症を発症しやすいからです。そして、高齢者の認知機能障害は、交通事故による高次脳機能障害なのか加齢による認知症なのか見極めるのは困難です。
 加齢による認知症は、もちろん自動車保険の補償対象外です。極端なケースでは、高次脳機能障害であれば数千万円の賠償金が得られるのに対し、認知症ならゼロになる可能性さえあります。このため、保険会社はシビアに認知機能障害の原因を精査します。
 私たちのグループには、高齢者の頭部外傷事案の鑑別依頼が後を絶ちません。最もよくあるのは、頭部外傷を負った高齢者の認知機能が、退院後に少しずつ低下するパターンです。家族は当然ながら、交通事故が原因で認知機能障害が生じたと考えます。
 しかし、頭部外傷による高次脳機能障害は、医学的には受傷時の症状が最も重く、少しずつ回復していくケースが多いです。少なくとも、高次脳機能障害が経時的に悪化することはないため、認知症を併発している可能性が高いと類推できます。
 この場合、認知機能障害の原因は交通事故と直接関係ないため、自賠責保険では後遺障害に認定されません。家族の立場では、交通事故後に認知障害を併発したのに補償されないという不満が残る結果となります。

▶ 高次脳機能障害と認知症の切り分けが難しいケースも…

 交通事故時の頭部外傷によって高次脳機能障害が残った上に、外傷に伴う廃用が重なって認知症を併発する事例も散見されます。受傷時から高次脳機能障害が存在しているものの、経時的に悪化したように見えるため、保険会社は高次脳機能障害ではないと主張しがちです。
 しかし、頭部外傷に骨盤骨折や大腿骨近位部骨折も合併した高齢者は、日常生活動作(ADL)が大幅に低下するため、認知症を併発しやすいです。認知機能障害の原因は高次脳機能障害ではないものの、交通事故が一因になっていることは疑いようのない事実です。
 ここまで見てきたように、高齢者の頭部外傷後に認知機能障害を来す事例には様々なパターンがあります。高次脳機能障害と認知症の切り分けが難しいケースが多いため、家族や保険会社の双方に不満が残る結果となりがちです。
 賠償実務では、認知機能障害の原因が高次脳機能障害か認知症かを見極めた上で、交通事故の寄与度を探ることが必要になります。頭部外傷を負った高齢者の認知機能障害は、回復が難しく様々な問題が生じ得ることを、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。

 

主に交通事故後の症状を扱った記事です。

高齢者が交通事後にあった後、認知機能障害が残った・・・

家族は交通事故が原因と考えるのは当然です。

しかし、くわしく経過を観察すると、ある程度鑑別できるようです。

「高次脳機能障害」は受傷時の症状が最も重く、その後改善に向かう、

一方「認知症」は徐々に悪化していく・・・。

 

高次脳機能障害の「診断基準」と「認定基準」には雲泥の差!

濱口裕之(メディカルコンサルティング代表医師)

2024/12/03:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 高次脳機能障害をご存じでしょうか。脳の損傷によって記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など、様々な認知機能障害を引き起こす傷病です。これらの目に見えにくい障害は、社会生活を送る上では大きなハンディキャップとなります。このため、リハビリテーションや就労・就学支援といった医療・福祉サービスが不可欠です。公的な支援を受けやすくなるよう、厚生労働省は高次脳機能障害の「診断基準」を定めています。
 一方、交通事故で高次脳機能障害を負った場合、手厚い行政サービスとは異なり、自賠責保険から厳しい対応をされるケースが珍しくありません。自賠責保険で高次脳機能障害が後遺障害と認定されるには、厳しい「認定基準」をクリアする必要があるからです。
 「診断基準」と「認定基準」……よく似た字面なので、同じようなものだろうと考えがちです。しかし、実際には天と地ほどの差があるケースも珍しくありません。・・・一体どんな違いがあるのでしょうか、詳しく見てみましょう。

▶ 高次脳機能障害の「診断基準」は行政支援が目的

 高次脳機能障害を持つ人には、障害の特性に応じたリハビリテーション、就労・就学支援などの医療・福祉サービスが必要です。これらの公的サービスをスムーズに受けられるよう、厚生労働省は「高次脳機能障害診断基準」を作成しました。

表1 高次脳機能障害の診断基準

I 主要症状等
1)脳の器質的病変の原因となる疾病の発症や事故による受傷の事実が確認されている。
2)現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

II 検査所見
脳MRI、頭部CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは医学的に十分に合理的な根拠が示された診断書等により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

III 除外項目
1)脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2)発症または受傷以前から有する症状や検査所見が存在する場合には、発症または受傷後に新たに現れた症状や検査所見に基づき診断し、それらが十分とは言えない者は除外する。
3)先天性疾患、発達障害、進行性疾患、周産期における脳損傷を原因とする者は除外する。

IV 診断に際しての留意事項
1)I〜IIIを全て満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2)高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後に行う。
3)神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

 この診断基準は、医学的な診断基準とは少し異なります。医学的な高次脳機能障害は、脳損傷によって起こる失語、失行、失認、記憶障害などの認知機能の障害を指します。一方、こちらの診断基準では、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害の4つの障害を高次脳機能障害としています。失語症に関しては、身体障害者手帳の申請が可能なため、厚生労働省の診断基準には含まれていません。

▶ 高次脳機能障害の「認定基準」は適正な賠償が目的

 一方、自賠責保険の「認定基準」は、厚生労働省の「診断基準」とも異なります。自賠責保険は、高次脳機能障害の認定基準を公開していませんが、過去に認定された事案から推測すると、以下の3つの要件を満たす必要があると考えられています。

1)脳外傷の傷病名がある
2)脳実質損傷の画像所見がある
3)受傷直後に一定期間持続する意識障害があった


 自賠責保険で高次脳機能障害に認定されるためには、脳挫傷、びまん性軸索損傷、急性硬膜下血腫などの傷病名が必要です。これらの傷病名の事案の場合、画像所見と意識障害の続いた期間によって、高次脳機能障害の有無が判定されます。

 私たちの経験では、明らかに高次脳機能障害の症状が残っているにもかかわらず、自賠責保険で後遺障害に認定されない事案は珍しくありません。自賠責保険で高次脳機能障害が後遺障害に認定されるハードルはかなり高いと言えます。

 この現象は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)とよく似ていると感じます。CRPSは早期治療が重要なので、臨床現場では診断基準をゆるくして、できるだけ多くの患者を拾い上げようとします(関連記事:治療期間の長いCRPSが後遺障害に認定されにくい理由)。一方、自賠責保険は傷病名にかかわらず、限られた金額の中でできるだけ適正な賠償が行えるよう、認定基準を厳しくしています。

 このように、同じ病態を見ているにもかかわらず、高次脳機能障害の「診断基準」と「認定基準」では、結果が異なる事例が多く見られます。臨床的には高次脳機能障害と考えられても、必ずしも自賠責保険で認定されるわけではない……とても残念な現実ではありますが、知っておくと患者にあらかじめ説明でき、トラブル回避に役立つかもしれません。

 

一人の人間の病状を評価する際、立場により基準が異なる、という内容です。

かたや手助けをする、かたや保証金を払う・・・。

昔、テレビのドキュメンタリーでアメリカの保険審査医を取りあげていました。

「以下に保険金を払わずに済むか」

をあぶり出す仕事です。

成績を上げると(つまり保険金申請を却下するほど)給料が上がるしくみ。

ふつうに勤務医をしているより高給取りなんです。

そこで働く医師の葛藤を描いていました。

「自分は病気で困っている人を助けるために苦労して医師になったのに・・・」

「こんな仕事のために勉強してきたんじゃない」

とその医師は辞めて臨床医に戻りました。