誰からも愛されない男がいた。
彼は布を愛した。
悲しい夜。寂しい夜。
人から与えられぬ温もりを与えてくれる掛け布を愛した。
彼は独りであったが孤独ではなかった。
彼の夜には布があった。
身体を包んでくれる布を彼は心から愛した。
愛するがゆえか。
彼は布を自ら織るようになり、すぐに街で評判の職人となった。
布は人の温もりを知る恋人達にも評判であったし
彼のように布以外の温もりを知らない者達にも評判であった。
彼の店は大きくなり、十分な財産を築き上げた。
それでも彼は誰からも愛されなかった。
あるいは愛されていたのかもしれない。
だが少なくとも男は布以外の温もりを知らずに生き続けた。
長い年月が過ぎた。
子が生まれ、孫が生まれる程に時が過ぎた。
彼は死んだ。
彼の布は多くの人々に愛されたが
彼自身は誰からも愛されずに死んだ。
死に顔は安らかだった。
彼は布に包まれて死んだのだから。
彼の遺書に従い店の布は全て無償で人々に配られた。
遺書に記された言葉は一行であった。
願わくば誰にも愛されぬ者がこの布によって愛されんことを。
彼は布を愛した。
悲しい夜。寂しい夜。
人から与えられぬ温もりを与えてくれる掛け布を愛した。
彼は独りであったが孤独ではなかった。
彼の夜には布があった。
身体を包んでくれる布を彼は心から愛した。
愛するがゆえか。
彼は布を自ら織るようになり、すぐに街で評判の職人となった。
布は人の温もりを知る恋人達にも評判であったし
彼のように布以外の温もりを知らない者達にも評判であった。
彼の店は大きくなり、十分な財産を築き上げた。
それでも彼は誰からも愛されなかった。
あるいは愛されていたのかもしれない。
だが少なくとも男は布以外の温もりを知らずに生き続けた。
長い年月が過ぎた。
子が生まれ、孫が生まれる程に時が過ぎた。
彼は死んだ。
彼の布は多くの人々に愛されたが
彼自身は誰からも愛されずに死んだ。
死に顔は安らかだった。
彼は布に包まれて死んだのだから。
彼の遺書に従い店の布は全て無償で人々に配られた。
遺書に記された言葉は一行であった。
願わくば誰にも愛されぬ者がこの布によって愛されんことを。