タイ国経済概況(2019年8月)


1.景気動向
(1)2019年通年の経済成長率について、各機関が予測値を下方修正している。タイ中央銀行は3月時点の+3.8%から6月に+3.3%へと引き下げたほか、タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)も2月時点で+3.5~4.5%としていた見通しを5月に+3.3~3.8%へと引き下げている。タイの民間経済団体である商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)も4月時点の+3.7~4.0%から、7月に+2.9~3.3%へと下方修正した。世界銀行とアジア開発銀行も同月、それぞれ+4.1%と+3.9%から、+3.5%へと下方修正したことを発表。タイ財務省のラワロン財政政策局長は政府による景気刺激策等を理由に、少なくとも3%は達成できるとの予測を示している。

(2)タイ工業連盟(FTI)が7月18日に発表した6月の自動車生産台数は、前年同月比▲8.5%の17.3万台で、2ヵ月連続で減少した。内訳は国内向けが同▲5.1%の8.9万台、輸出向けが同▲11.9%の8.4万台。2019年上半期(1~6月)の累計生産台数は、前年同期比+0.9%の106.6万台となった。また6月の国内販売台数は前年同月比▲2.1%の8.6万台、輸出台数は同+2.4%の9.8万台。2019年上半期(1~6月)では、累計販売台数が前年同期比+7.1%の52.4万台、累計輸出台数は同▲0.4%の56.0万台だった。国内販売台数が30ヵ月ぶりに前年同月を下回ったが、FTIは2019年通年の生産台数目標215万台は達成可能との見方を示している。

(3)FTIが7月18日に発表した6月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲11.0%の20.4万台だった。内訳は完成車(CBU)が同▲16.6%の15.8万台、完全組み立て部品(CKD)が同+15.1%の4.6万台分。2019年上半期(1~6月)の累計生産台数は、前年同期比▲4.0%の125.8万台となった。また、6月の国内販売台数は前年同月比+16.2%の15.0万台、輸出台数は同+19.7%の8.5万台で、輸出は5ヵ月連続でプラスを記録。2019年上半期(1~6月)の累計販売台数は前年同期比▲4.4%の89.4万台で、累計輸出台数は同+9.8%の49.3万台となっている。


2.投資動向
(1)7月18日、FTIのスパン会長は連立与党による最低賃金引き上げの動きに対し、企業活動への悪影響の懸念を表明。その後、同党のソンティラット幹事長(エネルギー相)は、関係者と協議しつつ4年間で段階的に最低賃金を引き上げる方針を示した。国民国家の力党は総選挙時の公約として、最低賃金を現行の308~330バーツから、400~425バーツへの引き上げを掲げており、新政府の本件に関する方針に注目が集まっている。

(2)タイデジタル経済振興機関(DEPA)は7月31日までに、9都県20都市がスマートシティー開発計画を申請したことを明らかにした。申請した9都県のうち、ヤラーとナコンラチャシマ以外のプーケット、チェンマイ、コンケン、バンコク、チョンブリ、ラヨーン、チャチュンサオの7都県10地域ではすでにスマートシティー化が進められている。タイ政府としては2020年までに24都県30都市を、2022年までに100都市をスマートシティーに開発したい考え。対象地で特定の条件に合致した投資には、タイ投資委員会(BOI)に申請することで法人税免税等の恩典が付与される。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2019年6月末時点の金融機関預金残高は19兆9,530億バーツ(前年同月比+3.8%)、貸金残高は18兆7,369億バーツ(同+4.5%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(7月の回顧)
7月のバーツ金利は米金利にともない低下、特に長期ゾーンは大幅に低下し、タイ10年物国債利回りは2%割れとなった。月初、タイ中銀は7月の短期証券の発行額を600億バーツ減額するとアナウンス。それを契機に1年超のゾーンに外国人投資家の資金が流入し、バーツ金利を圧迫。米6月雇用統計の結果が良好であったことから、米国の大幅利下げ期待が後退し米金利が反発したことで、バーツ金利も一時的に反発するも長続きせず。中旬に実施された、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言での7月利下げ示唆、フィッチがタイの格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」に上方修正したこと等がタイ国債のサポートとなり、バーツ金利は続落。その後も米金利動向を眺めながらバーツ金利は低下。タイ国債10年物利回りは1.73%台、同5年物利回りは1.63%台と、それぞれ前月末対比0.28%、0.14%の大幅な金利低下となった。

(2)(8月の展望)
7月末の米利下げは予想通りであったが、月初早々に米国が対中輸入関税第4弾の発動を表明したことから米中間の緊張が高まり、リスクオフとなったことでバーツ金利も大きく低下。さらにタイ中銀の予想外の利下げで、全ゾーン一段と金利低下。次回9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)、タイ中銀金融政策委員会(MPC)に向けてデータ確認の時間帯になるものと考える。

〈為替動向〉
(1)(7月の回顧)
7月のドルバーツ相場は小動き。31.0台を回復する局面が瞬間的にあったが、概ね30台後半のレンジ内での推移に留まった。タイ中銀は、月初に海外投資家の投機資金流入によるバーツ高対策として、1年以内の短期証券発行減額をアナウンス。2年前にも同様の措置を取ったが、当時と同様に目に見える成果は確認できず、30.50‐60台での推移。米6月雇用統計の結果が良好であったことから、米国への大幅利下げ期待が後退したことでドルバーツは30.8台に上昇。中旬に行われた米議会証言においてパウエル米FRB議長が利下げを示唆したことで、ドルバーツは再び30.6台に戻した。12日にタイ中銀がバーツ高対策として非居住者口座の上限減額をアナウンスしたことで、ドルバーツは再び上昇。下旬にドルバーツは一時31.0台前半まで戻す局面も。26日の欧州中央銀行(ECB)理事会後の総裁会見を受けて、過度な緩和期待が後退し欧州金利が上昇、これにともない米金利も上昇したことでバーツだけでなくアジア通貨全般に対ドルで弱含んだが米FOMCを前に調整でドル売りとなり、ドルバーツは30.7台半ばでクローズ。

(2)(8月の展望)
7月末の米FOMCでは、事前予想通り0.25%の利下げが決定された。今回の利下げは“予防的”なものであり、今後については連続利下げの始まりではないが今回限りでもないとの見解が示された。7日のタイ中銀MPCでは、予想外に0.25%の利下げが決定された。米中通商貿易問題、世界景気動向等を確認する時間帯になると予想される。


5.政治動向、その他
(1)7月10日、プラユット新首相が提出した新内閣の閣僚名簿をワチラロンコン国王が承認。同月16日、国王宣誓式を経て正式に新内閣が発足した。同月25日には首相による所信表明演説が行われ、福祉政策の改善、世界経済の変動への対応、労働者の能力向上、農家支援と技術革新、汚職の撲滅、麻薬撲滅と深南部の治安回復等、12項目の施政方針が示された。基本方針は軍政下で掲げられた「20年国家戦略」から引き継がれている。

(2)バンコク都市鉄道、MRT(Mass Rapid Transit)ブルーラインの延伸区間の一部にあたる、フアランポーン駅―タープラ駅間で7月29日から試運転が始まった。同区間において、MRTはチャオプラヤー川の下を通過する初めてのトンネルを走る。延伸区間全体となるフアランポーン駅―ラクソン駅間(全長15.9キロ)は、9月に正式開通予定。


(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。


情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.

 
 
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