タイ国経済概況(2019年7月)

1.景気動向
(1)タイ中央銀行が6月28日に発表した5月の経済報告書によれば、タイ経済は前月から減速した。民間消費がけん引したが、民間投資、政府支出はともに縮小。輸出入額と外国人旅行者数も減少となった。民間消費指数は農家所得の改善等により、前年同月比+4.2%と拡大。輸出額は同▲7.2%と減少したものの、エアコンやテレビ等の家電製品、果物等の農産品、自動二輪車、タイヤの輸出は好調だった。外国人旅行者数は中国と欧州、特にドイツとロシアからの観光客減少が影響しマイナスに転じた。

(2)タイ工業連盟(FTI)が6月13日に発表した5月の自動車生産台数は、前年同月比▲6.1%の18.1万台で、8ヵ月ぶりにマイナスとなった。内訳は国内向けが同▲3.8%の8.7万台、輸出向けが同▲8.1%の9.4万台で、1~5月の累計生産台数は前年同期比+2.9%の89.3万台。FTIは、2019年通年の生産台数目標である215万台は達成可能との見方を示している。また、5月の国内販売台数は前年同月比+3.7%の8.8万台で、1~5月の累計販売台数は前年同期比+9.1%の43.8万台。5月の輸出台数は前年同月比▲3.6%の9.5万台で、主要市場であるオセアニアと、中南米、アフリカ向けが減少した。1~5月の累計輸出台数は前年同期比▲0.9%の46.2万台となっている。

(3)FTIが6月13日に発表した5月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲6.6%の21.0万台で、3ヵ月ぶりにマイナスに転じた。内訳は完成車(CBU)が同▲8.8%の17.0万台、完全組み立て部品(CKD)は同+3.5%の4.0万台分だった。1~5月の累計生産台数は、前年同期比▲2.5%の105.4万台。また、5月の国内販売台数は前年同月比▲4.4%の16.1万台で、1~5月の累計販売台数は前年同期比▲1.6%の74.3万台。5月の輸出台数は前年同月比+4.5%の7.4万台で、4ヵ月連続のプラス。1~5月の累計輸出台数は前年同期比+7.9%の40.8万台となっている。


2.投資動向
(1)2019年6月25日、外国人事業法の規制業種リストに記載される「奨励で定められたサービスを除くその他のサービス」から、関連会社およびグループ会社に対する事業(①タイ国内関連会社・グループ会社への金銭貸付、②関連会社・グループ会社への事業所スペースの賃貸(含むユーティリティサービス)、③経営管理/マーケティング/人事/情報テクノロジー(IT)分野についての関連会社・グループ会社へのアドバイザリー業務)を除外するタイ商務省の省令が官報に公示され、同月26日に施行となった。これにより、上述の事業は外国人事業許可証(FBL)無しで行えることになる。

(2)タイ国家統計局の発表によれば、6月の全国の失業率は0.9%(速報値)で、4ヵ月ぶりに改善した。失業者数は36.3万人で、前月から14.8%の減少となった。労働力人口は3,882万人、就業者は3,838万人といずれも前月から増加。就業者の業種内訳は商業・サービスが1,654万人、農業が1,318万人、製造業が865万人だった。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2019年5月末時点の金融機関預金残高は19兆9,997億バーツ(前年同月比+4.0%)、貸金残高は18兆6,961億バーツ(同+5.0%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(6月の回顧)
6月のバーツ金利は米金利にともない低下、特に長期ゾーンは大幅低下となった。月初から米金融当局者の利下げ発言により長期ゾーンを中心に低下。米国に対メキシコ追加関税の計画があることが示され、その後すぐに無期限停止が発表されたものの、マーケットのセンチメントは悪化しバーツ金利の低下も継続となった。米連邦公開市場委員会(FOMC)では事前予想通り政策金利は据え置かれたが、声明文が修正され、それまで政策金利の見通しを示していた「政策決定に辛抱強くいられる」との文言は削除、「見通しに不確実性が増した」との判断に加えて「適切に行動する」との文言が追加となり、利下げの可能性が示唆された。これを受けて米10年物利回りは2016年以来の2%割れとなり、またこれにともないバーツ金利も低下。米FOMCの翌週に開催されたタイ中銀金融政策委員会(MPC)では政策金利は据え置かれ、政策スタンスも中立的なものであった。しかし、外部環境の影響の方が勝りバーツ金利は反発とはならず、むしろさらに小幅低下。タイ10年物国債利回りは2.03%台、同5年物国債利回りは1.77%台と、それぞれ0.27%、0.19%と大幅な金利低下となった。

(2)(7月の展望)
マーケットの注目は米金融政策、特に利下げの時期と利下げ幅となっており、バーツ金利は米金利動向に連動しやすい状況は継続するものと思われる。米利下げをすでに十分以上に織り込んでいることや、タイ政策金利は当面据え置きとの見方がコンセンサスであることから下げ余地は限定的であり、むしろ反発の可能性もあるものと考える。

〈為替動向〉
(1)(6月の回顧)
6月のドルバーツ相場は続落。特に月後半からの下げがきつかった。月初ドルバーツは米金融当局者が利下げの可能性に言及したことで大きく下げてオープン。また、その後発表された米経済指標が軟調であったことから米中通商問題による米国景気への影響が懸念され、ドルバーツは上値重く推移。さらに米国の対メキシコ追加関税賦課の計画が示された後、すぐに無期限停止が発表されたもののマーケットセンチメントは悪化。米FOMCでは、事前予想通り利下げはなかったが、声明文の文言が利下げを示唆する内容に修正されたことを受けてドルバーツは大きく下落し、約6年ぶりに31を割り込み30台に。タイ5月貿易統計では3ヵ月連続で輸出減となったことでドルバーツが上昇するも、上値は極めて限定的。その後、日程を変更して行われたタイ中銀MPCでは政策金利は据え置きとなり、政策スタンスも中立が示された。今年に入ってから緩和姿勢を打ち出す中銀が増えており、タイ中銀は比較的、タカ派的と捉えられドルバーツはさらに下落。月末の米中首脳会談への思惑でアジア新興国通貨が買われた中バーツも買い進まれ、ドルバーツは30.6台後半でクローズ。月間では約1バーツのバーツ高となった。

(2)(7月の展望)
先月、外国人投資家からの資金流入が大きかったこともバーツ高要因となっていることから、タイ中銀は今月の短期証券発行を600億バーツ減額すると発表。マーケットには一定の警戒あるが注目は米金融政策であり、利下げのタイミングと利下げ幅が注視される。マーケットでは早ければ7月30、31日に開催される米FOMCでの利下げが期待されている。


5.政治動向、その他
(1)6月20日から23日にかけてバンコクで開催されたASEAN首脳会議で、独自の外交戦略「インド太平洋構想」が採択された。同構想では米中の両国が影響力の拡大を競うインド太平洋地域において、ASEANが中心的役割を担うことを強調。対立に代わり、対話と協力のあるインド太平洋地域を目指す。また、環境を守るための海洋ごみ削減に向けた「バンコク宣言」も採択され、加盟国間で連携し取り組んでいくことを確認した。

(2)6月28日、安倍総理とG20大阪サミット出席のため訪日していたプラユット首相が日・タイ首脳会談を行った。両首脳による会談は2018年10月ぶりで、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の年内妥結、EEC(Eastern Economic Corridor/東部経済回廊)の開発等について意見交換が行われた。



(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。

投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。



情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.




 
 
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