導かれて 萩原慎一郎『歌集 滑走路』
萩原慎一郎の『歌集 滑走路』に導かれた。
手を伸ばし足を伸ばして転がれる真夜の孤独を何と呼ぼうか
この街で今日もやりきれぬ感情抱いているのはぼくだけじゃない
曇天にメスを入れたし開きたし暗い未来を取り除かんと
現実は重すぎるから空想の世界にひたる電車のなかで
きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい
(萩原慎一郎『歌集 滑走路』角川文庫)
増刷を重ねた本を読まぬまま逝ってしまったきみの宿題
いじめっこその連中も血を吐いて悔やんでいるか この本読んで
派遣には定年制が無いのです おしゃべりだけの社員も居るに
一日をメール覗いて過ごすひと 人事評価は人並みのB
うつむいてまた顔上げて繰りかえす 凝っただろうね君の首筋
鬱病か適応障害なんだって? 被害者だけが病院通う
ストレートしっかり受けるキャッチャーは何人もいた、そう何人も
どこでもドア 君が叩いたそのドアは 君のねがった自由へ開(あ)くよ
口語ならこんな題でも歌えるよ たとえばきみがオナラしたこと
副賞に聖書一冊添えてくれ 生をついばむ孤独の鳥に
詩人とは書いたその詩を生きる人 君の短歌はきみの命だ
もしきみが六十五歳の夜迎え何詠むだろう 読みたかったよ
●ご訪問ありがとうございます。
短歌を始めて萩原慎一郎という歌人を知りました。すでに彼はこの世にいないことも。享年三二歳。もっと歌を詠み、生き抜いてほしかったと悼みます。いじめにも派遣業務の厳しさにも負けないで。