わるくち
私は言った。私は自分の道に気をつけよう。私が舌で罪を犯さないために。私の口に口輪をはめておこう。
(旧約聖書「詩篇」三九篇)
1
わるくちって気持ちがいい
いつでもどこでも大きな口を開けたがっている
きょうもなんどもあけてしまったな
わるくち という口
2
犬も猫もわるくちを言わない
にくしみ、さげすみ―そのシミをもつニンゲンだけ
くやしさ一杯だから いやらしさに気づけない
わるくちが自分らしさ なんて!
3
わるくちには重さがない 空中にフッと飛ばされる
だが心に沈むと 澄んだ湖を泥沼に変えてしまう
言った口にも 聞いた耳にも
くろずんだ藻がからみつく
4
ひとを悪く言うとき蛇のような眼をしている
―妻からそういわれた
自分だってたくさん失敗しているのに 赦(ゆる)せないのね
―妻からそう言われた
5
ひと言のわるくちの前に
千のわるい思いがある
くやしさ、腹立ち、ねたみ、さげすみ、復讐心
敗北感と劣等感と優越感と その他ごちゃごちゃだ
6
コンクリートミキサーのように邪念をかき混ぜ
たったひとつの口から無念を吐き出す
それでスカッーとするみたいに
口臭に 唾に さらに邪気までふりまいて
7
口にチャックするのはつらい
くやしい! という心にふたをするのは簡単じゃない
けれど せっかくの口だ、ひとつしかない
せめて 美しくない言葉のふさぎ口になれたらいいな
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