結
年が明けて、入試も無事済んだ。
進学する大学も決まった今、ぽっかりとヒマになってしまった。
去年のあの合格祈願の後から、毎日をバタバタと過ごしてあっという間に本番、合格発表。
ベルトコンベアでバーッと運ばれてしまったようで、何も考える余裕がなかった。
あの神社の夜のことも。
あれから、私から連絡してない。
余裕もなかったし、怖かったから。
こんなに連絡しなかったのは、初めてだ。
本当は、会って聞きたいことが山ほどあった。
なんで、抱きしめてくれたの?
ごめんって何?
なんでキスしてくれたの?
キスのことを思い出して、そっと唇に触れた。
優ちゃんの唇はやわらかくて…
私の唇を摘まむような、キスだった。
心臓が信じられないくらい暴れて、その場に倒れるんじゃないかと思った。
唇を離すと、優ちゃんの両手が私の肩を擦ってくれて、手を取って歩きだす。
何も話さなくて…話せなくて。
歩いているけど、ずっとふわふわしてた。
家の前まで送ってくれて手を振った。
けれど、優ちゃんが遠ざかったらハッて我に返った。
神社での2人は、何だったんだろう。
何が起こったんだろうって。
でも、それからは考えたくても、無理だった。
勉強に打ち込まなきゃいけなかったから…
自分の部屋に籠っていてもしようがない。
ベッドに転がっていた体を起こし、買い物にでも行こうと思った。
でも、その前に。
一応、進学先くらいは優ちゃんに知らせておこう。
地元の駅から五駅過ぎると、大きなターミナル駅。
デパートがあって、駅チカのショッピングモール、居酒屋が集まってる繁華街もある。
それに…優ちゃんの会社。
あの、神社も。
通学用の服でも見ようかな。
そう思って、ショッピングモールの方へ足を向けたとき。
「優の生徒さんの結ちゃんだっけ?久しぶりね」
振り返ると花火大会のときの…
「三原さん…?」
「そうよ、覚えててくれて嬉しい!」
駅前の人が行き交う広場で、思わず手を取り合った。
「ね、これから買い物?良かったらちょっとお喋りしない?」
「ほんとですか?します、します」
明るくてサバサバした三原さんと、また会えたのは嬉しかった。
三原さんと入ったのは、モールの5階にあるカフェ。
ファッションメーカーが経営するカフェで、内装、メニュー、働いている人達の制服…どれをとってもお洒落。
だからか、客の殆んどが女性だ。
テーブルに運ばれてきたふわふわのパンケーキを前にして、私達は色んなことを話した。
「結ちゃん、今年大学生だよね。すっかり大人になったね」
「はい、花火大会のときは、まだ高2だったので…」
「もう、行く学校決まったんでしょ?」
「決まりました。もう、ほんとホッとしましたよ~」
「おめでとう~そうよね、解放されてホッとするよね」
ニコニコして話を聞いてくれる三原さんは、長い髪をふわっとまとめていて、ナチュラルメイクが似合ってる。
大人でキレイな人だけど、サバサバしていて何でも話せる気がした。
…三原さんなら、このモヤモヤを聞いてくれるかも。
優ちゃんの言葉の意味も。
花火大会の時の事情。
初めて家庭教師に来てくれた優ちゃんを、好きになったこと。
でも、彼女がいるのを知ったから、せめて生徒としてメッセージをいれてたこと。
なのに、自分のことが原因で別れたと聞いたこと…
「優ちゃんと彼女さん、結局私のことが原因で別れたみたいで…それがショックだったんです。でもそれよりショックだったのは、優ちゃんが私の好きな気持ちを、違うよねって言ったことで…」
もう去年のことなのに、思い出すと鼻の奥がツーンとしてくる。
「やっぱり、迷惑なんだって悲しくなって。やけになって、好きってこと、言っちゃったんですけど」
「それで?優はどんな反応をしたの?」
「そーっと肩を抱いて、泣きながら言わせてごめんって…それで…」
「あ、もしかして」
「…はい…」
それを言った途端、三原さんがバタバタテーブルを叩いた。
「三原さんっどうしたんですか?」
「も~優ったら正直なヤツ」
「え?どういう…?」
パンケーキを食べていたフォークを置いて、三原さんに聞いた。
「結ちゃんに取ったら、あくまでも先生のスタンスだった優が、そんなことしてきてビックリだったんじゃないの」
バタバタを、やめて優しく私を見て言ってくれる。
「そうなんです…なんだか、聞きたいことだらけで…」
「きっと優の中ではまだまだ子供だと思ってたのね、結ちゃんのこと。だから、花火大会の時も結ちゃんの告白にも心がぐちゃぐちゃになったんだよ。それで、本能的に自分に正直になったんじゃないの。きっと優にとっては、結ちゃんは特別な存在だと思うよ」
「そう…なんですかね…」
「聞きたいことは、優に直接聞いたら?あ。」
「どうしたんですか?」
「そろそろ合格したか分かるはずなのに、連絡来ないって寂しがってたわよ」
「そうだったんですね。私、ちょっと意地になってたかも…でも一応、進学先は知らせました、さっき」
「さっき?そっか。これから、結ちゃんから連絡取ってみてもいいんじゃないの」
「そうですね…学校始まる前に連絡してみます」
連絡来なくて寂しいだなんて。
だったら、優ちゃんからくれればいいのに。
不貞腐れた気持ちになったけれど、三原さんと色々な話が出来たのは良かった。
外に出たら、もう夕方。
モールの前で三原さんと別れて、駅ビルで服を眺めてぶらぶらする。
服、欲しいけど迷うなあ。
結局、七分袖のシャツを買って店を出たときに、スマホが震えてるのに気づいた。
…優ちゃんから、メッセージだ。
私が、進学する学校を知らせたからかな…
近くのベンチに座って画面を見る。
それは、意外な誘いだった。
え、進学祝い?今日、今から?
待ち合わせに指定された時間までもう、一時間もない。
行きますとだけ返事をして、待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所の駅前に着いたら、もう優ちゃんが立っていた。
「優ちゃん!」
4ヶ月ぶりの優ちゃんは、ちょっぴり疲れてるように見える。
「結、急に呼び出してごめん。週末の方が都合が良いかと思って」
「気にしないで。出てたからちょうど良かったの」
「進学祝いと思って、いい店を探してみたんだ。行こう」
優ちゃんのそばにたつと、神社でのことを思い出す。
…ここで聞いてもしようがないよね。
優ちゃんと並んで、歩きだした。
年が明けて、入試も無事済んだ。
進学する大学も決まった今、ぽっかりとヒマになってしまった。
去年のあの合格祈願の後から、毎日をバタバタと過ごしてあっという間に本番、合格発表。
ベルトコンベアでバーッと運ばれてしまったようで、何も考える余裕がなかった。
あの神社の夜のことも。
あれから、私から連絡してない。
余裕もなかったし、怖かったから。
こんなに連絡しなかったのは、初めてだ。
本当は、会って聞きたいことが山ほどあった。
なんで、抱きしめてくれたの?
ごめんって何?
なんでキスしてくれたの?
キスのことを思い出して、そっと唇に触れた。
優ちゃんの唇はやわらかくて…
私の唇を摘まむような、キスだった。
心臓が信じられないくらい暴れて、その場に倒れるんじゃないかと思った。
唇を離すと、優ちゃんの両手が私の肩を擦ってくれて、手を取って歩きだす。
何も話さなくて…話せなくて。
歩いているけど、ずっとふわふわしてた。
家の前まで送ってくれて手を振った。
けれど、優ちゃんが遠ざかったらハッて我に返った。
神社での2人は、何だったんだろう。
何が起こったんだろうって。
でも、それからは考えたくても、無理だった。
勉強に打ち込まなきゃいけなかったから…
自分の部屋に籠っていてもしようがない。
ベッドに転がっていた体を起こし、買い物にでも行こうと思った。
でも、その前に。
一応、進学先くらいは優ちゃんに知らせておこう。
地元の駅から五駅過ぎると、大きなターミナル駅。
デパートがあって、駅チカのショッピングモール、居酒屋が集まってる繁華街もある。
それに…優ちゃんの会社。
あの、神社も。
通学用の服でも見ようかな。
そう思って、ショッピングモールの方へ足を向けたとき。
「優の生徒さんの結ちゃんだっけ?久しぶりね」
振り返ると花火大会のときの…
「三原さん…?」
「そうよ、覚えててくれて嬉しい!」
駅前の人が行き交う広場で、思わず手を取り合った。
「ね、これから買い物?良かったらちょっとお喋りしない?」
「ほんとですか?します、します」
明るくてサバサバした三原さんと、また会えたのは嬉しかった。
三原さんと入ったのは、モールの5階にあるカフェ。
ファッションメーカーが経営するカフェで、内装、メニュー、働いている人達の制服…どれをとってもお洒落。
だからか、客の殆んどが女性だ。
テーブルに運ばれてきたふわふわのパンケーキを前にして、私達は色んなことを話した。
「結ちゃん、今年大学生だよね。すっかり大人になったね」
「はい、花火大会のときは、まだ高2だったので…」
「もう、行く学校決まったんでしょ?」
「決まりました。もう、ほんとホッとしましたよ~」
「おめでとう~そうよね、解放されてホッとするよね」
ニコニコして話を聞いてくれる三原さんは、長い髪をふわっとまとめていて、ナチュラルメイクが似合ってる。
大人でキレイな人だけど、サバサバしていて何でも話せる気がした。
…三原さんなら、このモヤモヤを聞いてくれるかも。
優ちゃんの言葉の意味も。
花火大会の時の事情。
初めて家庭教師に来てくれた優ちゃんを、好きになったこと。
でも、彼女がいるのを知ったから、せめて生徒としてメッセージをいれてたこと。
なのに、自分のことが原因で別れたと聞いたこと…
「優ちゃんと彼女さん、結局私のことが原因で別れたみたいで…それがショックだったんです。でもそれよりショックだったのは、優ちゃんが私の好きな気持ちを、違うよねって言ったことで…」
もう去年のことなのに、思い出すと鼻の奥がツーンとしてくる。
「やっぱり、迷惑なんだって悲しくなって。やけになって、好きってこと、言っちゃったんですけど」
「それで?優はどんな反応をしたの?」
「そーっと肩を抱いて、泣きながら言わせてごめんって…それで…」
「あ、もしかして」
「…はい…」
それを言った途端、三原さんがバタバタテーブルを叩いた。
「三原さんっどうしたんですか?」
「も~優ったら正直なヤツ」
「え?どういう…?」
パンケーキを食べていたフォークを置いて、三原さんに聞いた。
「結ちゃんに取ったら、あくまでも先生のスタンスだった優が、そんなことしてきてビックリだったんじゃないの」
バタバタを、やめて優しく私を見て言ってくれる。
「そうなんです…なんだか、聞きたいことだらけで…」
「きっと優の中ではまだまだ子供だと思ってたのね、結ちゃんのこと。だから、花火大会の時も結ちゃんの告白にも心がぐちゃぐちゃになったんだよ。それで、本能的に自分に正直になったんじゃないの。きっと優にとっては、結ちゃんは特別な存在だと思うよ」
「そう…なんですかね…」
「聞きたいことは、優に直接聞いたら?あ。」
「どうしたんですか?」
「そろそろ合格したか分かるはずなのに、連絡来ないって寂しがってたわよ」
「そうだったんですね。私、ちょっと意地になってたかも…でも一応、進学先は知らせました、さっき」
「さっき?そっか。これから、結ちゃんから連絡取ってみてもいいんじゃないの」
「そうですね…学校始まる前に連絡してみます」
連絡来なくて寂しいだなんて。
だったら、優ちゃんからくれればいいのに。
不貞腐れた気持ちになったけれど、三原さんと色々な話が出来たのは良かった。
外に出たら、もう夕方。
モールの前で三原さんと別れて、駅ビルで服を眺めてぶらぶらする。
服、欲しいけど迷うなあ。
結局、七分袖のシャツを買って店を出たときに、スマホが震えてるのに気づいた。
…優ちゃんから、メッセージだ。
私が、進学する学校を知らせたからかな…
近くのベンチに座って画面を見る。
それは、意外な誘いだった。
え、進学祝い?今日、今から?
待ち合わせに指定された時間までもう、一時間もない。
行きますとだけ返事をして、待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所の駅前に着いたら、もう優ちゃんが立っていた。
「優ちゃん!」
4ヶ月ぶりの優ちゃんは、ちょっぴり疲れてるように見える。
「結、急に呼び出してごめん。週末の方が都合が良いかと思って」
「気にしないで。出てたからちょうど良かったの」
「進学祝いと思って、いい店を探してみたんだ。行こう」
優ちゃんのそばにたつと、神社でのことを思い出す。
…ここで聞いてもしようがないよね。
優ちゃんと並んで、歩きだした。