安全運転には神経質なまでのルールを設けるヤマトの社内免許をようやくパスし、
当時のセンター支店長と主管へ、面談及び乗務許可証を受けに行くことになりました。
会議室には主管支店長と安全課長がいました。
「最初はいくつ荷物を持たせるつもりか?」との主管支店長の問いに
センター支店長は、「80個ほど」という返答をしていましたが、
実際稼働して受け持った数は毎日100以上。
新人とて手加減はなく、毎日その日の全量を普通に持たされました。
こうして稼働して10日ほどたったある日、
まだ慣れない私は、ある家に午前中指定の荷物を19分遅れてようやく届けに行くことができました。
そこは沿岸部のある種「癖のある人達」が住む地域です。
インターホンを鳴らし、申し訳なさそうに荷物をお持ちしたことを伝えると、
応対した女性がすぐに玄関口に出てくるわけでもなく、誰かとなにやら話をしているのがインターホン越しに聞こえます。
何か嫌な予感がしました。出てきたのは年配の見るからに醜悪な小太りの男性でした。
時間に遅れたことを謝ると、時間を守らなかったことに対し烈火の如く怒り、
「お前の名前は何だ?」「歳は幾つだ?」質問を浴びせます。
ひたすら謝っているとそれがさらに火に油を注いだようで、
頭の先からつま先まで舐めるように値踏みするように見られ、
「見るからに40そこそこの様だが、
お前の歳で仕事もできない出来損ないは
俺の会社では即クビだ。上司を電話口に出せ。」
と言いました。
ひたすらにあやまる私でしたが、持っている携帯を寄越せ、と食い下がります。
私は仕方なく支店長に電話をし、事情を説明し、その男に携帯を渡しました。
この時私は何か取り返しのつかないことをしてしまったかのような錯覚に陥りました。
携帯を手にした男はこれまでの発言を同じように繰り返し、
自称会社社長であること、この後出張に出かけること、
「列車に遅れたら補償しろ」
と言い出しました。
これは普通に金品の要求、恐喝に当たります。
謝罪の強要も場合によっては強要罪に当たります。
時間指定配達はサービスの一環です。
たとえそれが遅れたとしても責任をヤマトが負う必要はないものです。
それは送り状の一枚一枚にも明記されています。
最終的には支店長が過失とも言えない事案に平謝りすることで客の気持ちを落ち着かせ収まった事件でしたが、
モンスタークレーマーというものの存在、正しいことも客に言えない事なかれ主義のヤマトの社風、
客扱いの難しさ、人間の醜さ、やりきれなさを思い知らされた最初の出来事となりました。
ちなみに私はこの家人から出禁となりました。