2020年から小学校でプログラミング教育が必須になるようです。そこで注目を集めているのが、MITメディアラボが開発している言語 Scratch です。Scratchは、バージョンが 3.0 になってから、HTML、CSS、JavaScript で記述されているので、ブラウザがあれば利用できます。Scratch は Google と提携しているので、使用するブラウザは Google Chrome ですね。
ところで、Windows7 が2020年にメンテナンス終了ということで、世の中に Windows7 が動いているノートパソコンが多量に廃棄されることになりそうです。しかし、子供向けに Scratch だけ動けば良いと考えれば、これらのノートパソコンもまだまだ使えそうです。
そこで、古いノートパソコンを使って、小学校低学年でも Scratch でプログラミングできるようになれば面白そうだと思いました。家に古いノートパソコンがあれば費用は限りなくゼロに近いのでお得です。
Windows7はもう使えないので子供用といえどもお勧めできないので、OSは最新のものが使えて無料の Linux がよさそうです。そこで、子供用にLinuxマシンを使えるようにするにはどうするかを考えてみました。
使用した古いノートパソコンは、
プロセッサーが AMD E-450 1.65GHz で、メモリ 2GB
のものです。
OSは、軽量の Linux ディストリビューションということで Xubuntu にしました。その下で動くブラウザはもちろん Google Chrome ですね。
https://xubuntu.org/ から ISO イメージをダウンロードしてインストールします。今回試したバージョンは 18.04 です。インストール方法は色々なところで書かれているので省略します。
(例えば、こちら。 https://kb.seeck.jp/archives/11949 )
そのときユーザを登録しますが、そのユーザが管理者となります。このユーザを管理者または保護者が使うわけです。
Xubuntu がインストールできたら、先ほど登録したユーザでログインします。
最初に Google Chrome をインストールします。Xubuntu にログインして、ブラウザから Google Chrome をダウンロードします。64bit 版なら、
google-chrome-stable_current_amd64.deb
というファイルがダウンロードされます。このファイルのアイコン(「ホーム」の中の「ダウンロード」の中にあります)をダブルクリックするとインストール用の、【google-chrome-stable】ウィンドウが開きますので、「インストール」をクリックすればインストールが始まります。
Google Chrome がインストールできたら、いよいよ Scratch を使えるように設定を行います。
このマシンを小学校低学年でもつかえるようにするためには、
・ 電源スイッチを入れて、簡単にログインできる。
・ ログインしたら自動的にブラウザを開いて Scratch サイトを開く。
・ 簡単にシャットダウンできる。
・ 日本語入力はキーボードに書いてあるかなによる入力。
にしておくのがよさそうです。早速設定してみます。
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まずは、新たに子供用のユーザ名を設定しましょう。OSは Linux ですから、子供がノートパソコンを使用していてもネットワークから ssh でログインして制御可能です。子供用と管理者のユーザ名は分けておくのがよさそうです。
1)画面左上のアイコンをクリックして、「設定」→「ユーザとグループ」を選択して【ユーザの設定】ウィンドウを開きます。
2)「追加」をクリックして、【新しいユーザの作成】ウィンドウを開きます。
「名前」にログイン画面に表示される名前を、「ユーザ名」は、Linux で使うユーザ名です。名前を指定したら、「OK」をクリックします。
3)【ユーザのパスワードの更新】ウィンドウが開いたら、念のために、「パスワードを手動で設定する」を選んで、「新しいパスワード」と「パスワードの確認」に同じパスワードを設定します。パスワードは通常通り複雑にしておきます。ここで、子供向けに「ログインの時にパスワードを尋ねない」を有効にします。これで子供用ユーザ名はパスワードなしでログインできます。
4)【ユーザの設定】ウィンドウに戻って、「アカウントの種類:」の右側の「変更」をクリックすると、【ユーザ・アカウントの種類を変更】ウィンドウが開くので、「デスクトップ・ユーザ」を選びます。これは、他のユーザに影響を与える変更は出来ない、設定だそうです。最後に「閉じる」をクリックしてウィンドウを閉じます。
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ここからは、子供用アカウントでログインします。パスワードなしでログインできます。
5)初めてログインすると、Google Chrome は左上のアイコンをクリックしてメニューを表示しても見当たりません。検索窓で google といれると、Google Chrome が見つかります。アイコンを右クリックして、「ディスクトップに追加」と「パネルに追加」をクリックします。生成されたディスクトップのアイコンはダブルクリックで開き、画面上部のラインであるパネルの右端に表示されるアイコンはクリックで開きます。低学年の子供はパネルの方がよさそうです。
6)最初に Google Chrome を開くと、「Chrome を規定のプラウザにする」と「使用統計データと障害レポートをGoogleに自動送信します」の指定の確認画面になるので、決めたら「OK」をクリックします。
7)もし、「新しいキーリングのパスワード設定」の画面が表示されたら、何もしないでそのまま「続行」をクリックします。
8)「Chromeへようこそ」タブの右横をクリックして「新しいタブ」を表示させ、「Chromeへようこそ」タブを消します。"scratch" と検索して、Scratch のホームページ、
Scratch - Imagine, Program, Share
( https://scratch.mit.edu/ )
を開きます。自動的に日本語画面になります。
9)Scratch のホームページを開いたら、ここで Chrome を開くと自動的に Scratch の画面が開くように設定します。
Scratchのページを表示したまま、右上の「縦の…」アイコンをクリックして、メニューから「設定」をクリックします。 chrome://settings というタブが開きます。この画面の一番下の方に「起動時」の設定があります。そこで、「特定のページまたはページセットを開く」を選択すると、「現在のページを使用」を選択できるようになるのでそちらを選択すれば、Scrachの URL が表示されます。
10)Chrome を再起動して設定を確認したら、全画面表示にしてから終了すると、次回も全画面表示になります。子供向けにはこちらの設定が良いと思います。これで Chrome の設定は完了です。
11)小学校低学年の子供のために、ログインしたら Chrome が自動的に起動するように設定します。実行できれば全画面表示になりますので、市販されている Scratch の本の通りになるので分かりやすいです。
「設定」をクリックして「セッションと起動」をクリックすると、【セッションと起動】ウィンドウが開きます。
まず「一般」タグで、「ログアウトの設定」の「ログアウト時に受動的にセッションを保存する」を選択し、「ログアウト時に確認する」を外します。
「自動開始アプリケーション」タグで「追加」をクリックすると、【アプリケーションの追加】ウィンドウが表示されます。「名前」に Google Chrome 、「説明」に Chrome ブラウザ 、「コマンド」に
/usr/bin/google-chrome -stable %U
を指定して、「OK」をクリックします。ログアウトして再度ログインして設定を確認してみましょう。パスワードなしでログインすると、すぐに Scratch が使えるようになりました。
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さて、Linux で子供にとってやっかいなのはシャットダウンです。ここは、電源ボタンを押すと自動的にシャットダウンできるようにする設定を選びました。Xubuntuでは次のような設定でそれを実現できます。
12)管理者用のユーザでログインします。「設定」から「電源管理」をクリックすると、【Xfes電源管理】ウィンドウが開きます。「電源ボタンがおされたときシャットダウン」を選択して、【閉じる」をクリックします。シャットダウンできることを確認しましょう。
この設定で問題点は、chrome を実行したままシャットダウンすると、次回ログインして chrome を実行すると、復元に関するメッセージがでることです。子供用には難しいので、
使用時に「必ず右上の「×」ボタンをクリックして chrome を終わらせてから、電源ボタンを押して電源停止(シャットダウン)する」ように教えましょう。その際、「このサイトを離れますか?」と表示されることがあるので、「このページを離れる」(青い部分)をクリックするように教えれば良さそうです。このように Xubuntu で chrome を使っていて予期しないメッセージが出ると大抵漢字を含んでいるので、使用開始直後は各メッセージを確認して、この場合はここをクリックするなどの注意点をまとめておきましょう。
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Scratchではメッセージが表示できますが、メッセージを日本語で入力する必要がでてきます。そのとき、小学校低学年の子供にローマ字漢字入力は難しいので、ノートブックのキーボードに刻印されているひらがなによる入力がよさそうです。
13)「設定」をクリックして、「Mozcの設定」をクリックすると、【Mozcプロパティ】ウィンドウが開きます。「一般」タグの中で、「ローマ字入力・かな入力」で「ローマ字入力」になっているところを「かな入力」に変換して、「OK」をクリックします。これでキーボードのかなによる入力ができるようになります。
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以上で、古いノートパソコンを Scratch 用のコンピュータにする設定は終了です。Chrome のインストールと設定以外、Xubuntu の提供する「設定」機能だけですべての作業ができました。Linux をあまり意識しなくても作業できるわけです。
小学校低学年の子供用には、Scratch の「作る」をクリックして現れる「プロジェクトをつくる」のブロックもひらがなにする必要があります。地球儀のようなアイコンをクリックして、メニューから「にほんご」をクリックしましょう。この選択は保存されるので、次回からはひらがなのブロックになります。
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使用する子供にコンピュータの電源の入れ方と終了方法を教えて、実際に使わせてみましょう。最初に教える必要があるのがマウス操作です。
ノートパソコンはタッチパッドが付いているので、両手操作が良いかもしれません。
・「カーソル」を教えて、右の人差し指によるカーソルの移動を教えます。場所によってカーソルの形が変わることも説明します。
・「カーソル」による「クリック」の仕方は、カーソルを移動して左の人差し指で左ボタンを押すというのはどうでしょう。これで「チュートリアル」の「×」をクリックしてチュートリアルを閉じることができます。
・ブロックで大切なものは「ドラッグ」操作です。カーソルを移動して、左の人差し指で左ボタンを押しながら右の人差し指でカーソルを移動して、所定の場所で左ボタンから指を離すことでドラッグ動作を教えるのも良いかもしれません。
Scratch プログラムで特に教える必要があるのは、メッセージや数字の入力方法です。ノートパソコンの場合は、
・ブロック中のメッセージや数字のますの中をクリックします。
・「Delete」キーを押して内容をすべて消してカーソルをますから外します。
・数字や英文字の場合はそのまま、ひらがなは「半角/全角」キーを押して、画面上のアイコンが変化するのを確認して入力してみます。入力できたら最後に「Enter」キーを押すと下線が消えることを説明します。
・濁点・半濁点の付け方を教えます。カタカナに変更するには、[Tabキーで選択]と表示されるのを確認して、「Tab」キーを何回か押してカタカナ[[全]カタカナ]を選択して入力できます。
・小文字の「っ」などの入力方法も教えます。
Scratchの本などではプログラムの保存を説明しています。保存されたプログラムは、/home/ユーザ名/ダウンロード ディレクトリ(ディスクトップのアイコンでいうと、「ホーム」アイコンの中の「ダウンロード」アイコンの中)の下に、
Scratchのプロジェクト(n).sb3
のような名前のファイルとして保存されます。ここで、nは通し番号です。必要に応じて名前の変更も可能です。
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Xubuntu では標準で sshd は動いていません。ssh でネットワークからこのマシンにログインするために、管理ユーザでログインして、sshd をインストールします。
$ sudo apt install openssh-server
これで、ncurses-term,openssh-server,openssh-sftp-server,ssh-import-id
がインストールされ、sshd がデーモンとして実行中になります。管理ユーザだけが ssh でログインできるようにするには、
/etc/ssh/sshd_config ファイルの中で、
AllowUsers ユーザ名 ユーザ名 ........
の行を追加すれば、許可するユーザを指定できます。この修正を反映するには、systemd で sshd のリスタートが必要です。
# sudo systemctl restart sshd
許可されないユーザでログインしようとすると、/var/log/auth.log にログが残ります。
日時 sshd[...]:User ユーザ名 from IPアドレス not allowed becase not listed in AllowUsers
子供の使用でノートパソコンを長く使うと目が悪くなると心配されますので、声を掛けても終了したがらない場合は、ssh でログインしてシャットダウンすることも可能です。
# sudo shutdown -h
Chromeを実行した状態でシャットダウンされるので、次回はメッセージが表示されて対応が必要になります。
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大学入学共通テストの英語試験で経済格差の影響が論議されていますが、小学校のプログラミング教育もコンピュータやネットワークが必要で、経済格差が心配です。ここはボランティアによる古いノートパソコンの活用によって、学童保育の場に配布するなどして、誰でも Scratch が気軽に使えるようにすると良いかもしれません。Linuxなので、学童保育などで休日に管理ボランティア(一週間無茶な使い方をして想定外の動作をするものを元に戻すなど)などすると色々知見が得られるのでなにかと役立ちそうです。