膨大な国際比較データを駆使して編まれた労作。
数量化された変数を検証することなしに、貧困を、社会保障を論じることは、大きな錯誤につながる。数量データがすべてではないとしても、本書は、そのことを教えてくれる。
たとえば、高齢者の相対的貧困率は高い、という思い込み。長期にわたる所得の不平等の蓄積、現役時代の所得に応じた老齢年金の格差から、当然と思われがちだが、実は、日本をはじめとした特殊な傾向性でしかないことを、データは教えてくれる。
日本社会では、有業のひとり親世帯、有業の単身世帯、夫婦共働き世帯において、当初所得(市場所得)レベルよりも、税と社会保障による再分配後の可処分所得レベルの相対的貧困率が高くなる。阿部彩さんの『子どもの貧困』でも強く指摘されたこの倒錯が、OECD諸国においていかに特殊なことなのか、これまたデータが明確に示している。
実質所得が低下し、非正規雇用が急増するなか、最低賃金はフルタイムで働いても生活できない低い額にはりつき、応能負担から応益負担への転換が推進され、社会保障は、生活を保障するどころか、逆に破綻させるに至っている。
このような国家レベルでの逆機能を招来した自公政権への国民の支持率の高さは、当の国民が関与する、企業、自治体、学校、病院等のガバナンスの逆機能をうまく説明してくれる。あらためて、絶望を深く感じざるをえない。
詳細なデータを駆使し、一九八〇年代以降の生活保障システムを分析。貧困や地域格差といった偏ったお金の流れが、ジェンダーと深くかかわることを明らかにし、現代日本の社会・経済の脆弱性を浮き彫りにする。誰もが社会で認められ、働き、所得を得て、暮らし続けていくことができる、包摂社会への視座を与える力作。
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