メリー・デイリー、キャサリン・レイク(杉本貴代栄監訳),2009,ジェンダーと福祉国家──欧米におけるケア・労働・福祉,ミネルヴァ書房.(8.26.24)
私的領域と公的領域においていまだ継続する男女間の不平等。福祉国家はこのジェンダー関係をどのように形成してきたのか。本書は、欧米の8か国を取り上げ、ケア・仕事・福祉(制度)という3つの観点から、ジェンダーと福祉国家間の因果関係を理論的、実証的に解き明かしていく。
イエスタ・エスピン=アンデルセンの比較福祉レジーム論が日本に紹介されたのは、欧米に遅れること10年の、2000年前後だった。
福祉国家の態様を、自由主義レジーム(米国、カナダ、1980年代以降の英国、アイルランド等)、コーポラティズム=保守主義レジーム(ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー等)、社会民主主義レジーム(スウェーデン、デンマーク等)に分類する、エスピン=アンデルセンのその考え方は、リチャード・ティトマスによる、残余モデル、産業的業績達成モデル、制度的再分配モデルに対応するものであり、エスピン=アンデルセンは、「脱商品化」、「階層化」という変数を用いて、実証的な比較福祉レジーム論を展開したのであった。
その後、エスピン=アンデルセンは、フェミニズムサイドからの批判を受けて、新たに「脱家族化」という基準変数を取り入れて、比較福祉レジーム論としての精度を向上させた。
メリー・デイリーとキャサリン・レイクは、本書において、粗雑といえばそのとおりのエスピン=アンデルセンによる分類ではなく、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、米国、英国、スウェーデンを比較する福祉国家論を展開する。
福祉国家間の比較は、共約困難な差異を明らかにしてくれるが、反面、福祉国家の態様を分化させる因子の特定が困難になってしまう。
メリー・デイリーとキャサリン・レイクの意図は、あくまで、主として賃金と時間資源のジェンダー間での不平等の程度を、国家間で比較することにあった。
家族の経験的な面を詳しく見る過程で福祉国家と私的領域におけるジェンダーの力関係についていくつかの見識を得ることができる。私たちの分析は,国をまたがる強い相似性を示してきた。それは、女性の低いもしくはまったくない個人的資源が標準化されていることと,福祉の源として家族に結果的に依存することである。スウェーデンでさえも、女性の個人的資源はつつましいと言えるほどに低い。可能な限り最悪の所得リスクから女性を保護してはいるが男性がもつ経済的特権への道は閉ざされている。家族は民主的制度になっており平等な関係で成り立っている(Giddens 1992;Beck and Beck-Gernsheim 1995)という理論上の前提と矛盾して、私たちのデータは、国々の夫婦の大部分がかなりの資源不平等を経験しているということを示唆している。資源不均衡は必然的に夫婦間の力の不均衡を育てる。そして女性と男性が享受する役割と地位の限定化をもたらす。女性,とくに母親は家族の依存者役割を占めることが多い。一方男性のもつ所得へのより大きな独自のアクセスは,家族によって多様性はあるが,男性に支出管理や財政的決定権を与え、離婚や別居のリスクも低くする。ジェンダーの力関係における資源不均衡の直接的な影響は、重要な一局面である。資源不均衡は、人生全般をとおして女性と男性が享受する役割と地位も制限する。女性と男性がお互い意義深く平等な関係を形づくる機会は、資源不均衡と家族再分配過程での女性の不均衡な「服従」によって、深刻なまでに抑制されている。
(pp.145-146)
福祉国家間の比較は、隠されたジェンダー間不平等を明らかにするためにも有効である。
ジェンダリングされた社会福祉を批判的に分析するには、本書のような、マクロレベルでの研究も必要だ。
目次
第1章 福祉国家研究とジェンダー―先行研究から得られる洞察
第2章 分析枠組み
第3章 ジェンダーとケアの供給
第4章 ジェンダーと仕事
第5章 福祉・家族とジェンダー関係
第6章 個人の資源と世帯内の再分配
第7章 各国の形態と国際比較によるパターンの説明に向けて
第8章 結論とまとめ
統計的補論