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本と音楽とねこと

苦情はいつも聴かれない

サラ・アーメッド(竹内要江・飯田麻結訳),2024,苦情はいつも聴かれない,筑摩書房.(1.17.25)

「美しく書かれ、すっかり惹きこまれた。まさに今、私たちに必要なテキスト。」――アンジェラ・Y・デイヴィス
「感動的であり、連帯の源でもある。抗議し、変化のために闘う勇気を与えてくれる。」-ジル・クロージャー、教育社会学
「強くお薦めする。上級学部生から教員、専門家まで。」――『チョイス』誌
「大学における権力とその濫用についての、慎重かつ洗練された分析。」-バハラク・ユセフィ、カレッジ&リサーチ・ライブラリー

組織内のハラスメント、性差別、人種差別に対して声を上げた人々は何を経験するか。本書では大学に苦情を訴えた学生や教授陣など60名以上への調査をもとに、組織・制度・権力が苦情を阻止し無力化するメカニズムを解き明かす。進まない手続き、見かけだおしのポリシー、同僚からの警告、孤立、加害者とのお茶会、暴力のエスカレーション、「あなたの空想でしょう」、罪悪感、自分を信じられなくなること、そして連帯。膨大で痛みをともなう苦情の物語が伝えるのは、繰り返される歴史であり、組織や権力のはたらきについての学びであり、変革に向けての「すりきれた希望」だ。つぶさに耳を傾けることで生まれた貴重な記録。

 組織内でのハラスメントや差別は、しばしば握り潰される。

 自らが受けた被害について「苦情」(complaint)を申し立てた際に取られる、さらなる抑圧と隠蔽工作が幾多の事例から明らかにされる。

 苦情を隠蔽しうる「耳ざわりのいい」ポリシーはいたるところに存在している。それが多様性やインクルージョンであれ、SDGsであれ、キャッチーな言葉に組織のコミットメントを代弁させるという戦略は政策の場や組織のステートメントに頻繁に現れる。美々しいポリシーは確かに効果的だ(主に資金獲得において)。しかし、そのようなポリシーを作成することは大して難しくないというのもまた事実なのだ。そこで、本書で繰り返し用いられる「ノンパフォーマティビティ」という語の重要性が浮かび上がってくる。フェミニズムやクィア理論に親しい人びとであれば「パフォーマティビティ」という言葉、つまり「物質的効果をもたらす言説の力」(Butler,1993)について見聞きしたことがあるだろう。ノンパフォーマティビティは反対に、ある発話が提示する物事をおこなわないことで成立する。つまり、発話に効果をもたせないという効果を引き起こす仕組みがノンパフォーマティビティなのである。「わが大学はセクシュアル・ハラスメントを深刻な問題だと考えています」「わが大学は多様性を尊重します」といった声明は、(実際はそうでないのに)問題解決に取り組んでいる組織の姿勢を喧伝するには非常に有効なのだ。言葉を無効化させるこのような仕組みをアーメッドは痛烈に批判する。組織が想定している人物とは異なる存在であること、差異を持っていること自体が組織にとって都合のいい多様性要員として扱われてしまうとすれば、耳ざわりのいいスローガンは容易に「主人の道具」(Lorde,1984)と化す。(後略、「訳者解説」、pp.516-517)

 アーメッドは、詩的言語を自在に駆使する表現者であるゆえ、文章は読みやすいとは言えない。
 
 しかし、500ページを優に超える冗長な表現に辛抱強く付き合えば、泣き寝入りせずに「苦情」を申し立てる、とくに同様の経験をもつ他者と連帯し、コレクティブとして立ち向かっていくことの大切さを理解できることだろう。

目次
第1部 組織の力学
隙間にご注意を!―ポリシー、手続き、その他のノンパフォーマティブ
止められることについて
第2部 苦情の内在性
真っ只中で
使用中
第3部 このドアが話せたら閉ざされたドアの向こう側で―苦情と組織的暴力
ドアを押さえる―権力、昇進、前進
第4部 結論
集合的な結論(レイラ・ウィットリー、ティファニー・ペイジ、アリス・コーブル、ハイディ・ハスブロック、クリッサ・エスディロリア他)
苦情のコレクティブ


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