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我々はどこから来て、今どこにいるのか?

エマニュエル・トッド(堀茂樹訳),2022,我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上・下,文藝春秋.

 全篇にわたって、大胆な発想と圧倒的な博覧強記ぶりが展開されている。
 たしかに、直系家族の伝統(日本やドイツ)は、相続による富の集積やそれによる持続的な設備投資、高度な知識や技術の継承に有利であったし、共同体家族の伝統(ロシアや中国)は、家父長の権威と家族構成員の平等を旨とするゆえ、共産主義と親和的であった。なるほど。身も蓋もない理屈だが、これで歴史の不思議はかなり消える。
 それ以外にも、ルター派(スウェーデン)とカルヴァン派(イギリスとアメリカ合衆国)の違いが理解できれば、高負担高福祉の社会民主主義と、ネオリベラリズムが席巻した自由主義レジームとの分岐の背景要因がいっそうクリアになる。 
 また、トッド人類学は、トランプ現象やブレグジットをものの見事に解明してみせる。これには、他説を凌駕する説得力がある。

エマニュエル・トッド(堀茂樹訳),2022,我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上──アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか,文藝春秋.(12.23.23)

ホモ・サピエンス誕生からトランプ登場までの全人類史を「家族」という視点から書き換える革命の書!人類は、「産業革命」よりも「新石器革命」に匹敵する「人類学的な革命」の時代を生きている。「通常の人類学」は、「途上国」を対象とするが、「トッド人類学」は「先進国」を対象としている。世界史の趨勢を決定づけているのは、米国、欧州、日本という「トリアード(三極)」であり、「現在の世界的危機」と「我々の生きづらさ」の正体は、政治学、経済学ではなく、人類学によってこそ捉えられるからだ。上巻では、これまで「最も新しい」と思われてきた「核家族」が、実は「最も原始的」であり、そうした「原始的な核家族」こと「近代国家」との親和性をもつことが明らかにされ、そこから「アングロサクソンがなぜ世界の覇権を握ったか」という世界史最大の謎が解き明かされる。

目次
序章 家族構造の差異化と歴史の反転
第1章 家族システムの差異化―ユーラシア
第2章 家族システムの差異化―先住民たちのアメリカとアフリカ
第3章 ホモ・サピエンス
第4章 ユダヤ教と初期キリスト教―家族と識字化
第5章 ドイツ、プロテスタンティズム、世界の識字化
第6章 ヨーロッパにおけるメンタリティの大変容
第7章 教育の離陸と経済成長
第8章 世俗化と移行期の危機
第9章 イギリスというグローバリゼーションの母体
第10章 ホモ・アメリカヌス

エマニュエル・トッド(堀茂樹訳),2022,我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下──民主主義の野蛮な起源,文藝春秋.(12.23.23)

下巻では、「民主制」が元来、「野蛮」で「排外的」なものであることが明らかにされ、「家族」から主要国の現状とありうる未来が分析される。「核家族」―高学歴エリートの「左派」が「体制順応派」となり、先進国の社会は分断されているが、英国のEU離脱、米国のトランプ政権誕生のように、「民主主義」の失地回復は、学歴社会から取り残された「右派」において生じている。「共同体家族」―西側諸国は自らの利害から中国経済を過大評価し、ロシア経済を過小評価しているが、人類学的に見れば、少子高齢化が急速に進む中国の未来は暗く、ロシアの未来は明るい。「直系家族」―「経済」を優先して「人口」を犠牲にしている日本とドイツ。東欧から人口を吸収し、国力増強を図るドイツに対し、少子化を放置して移民も拒む日本は、国力の維持を諦め、世界から引きこもろうとしている。

目次
第11章 民主制はつねに原始的である
第12章 高等教育に侵食される民主制
第13章 「黒人/白人」の危機
第14章 意志と表象としてのドナルド・トランプ
第15章 場所の記憶
第16章 直系家族型社会―ドイツと日本
第17章 ヨーロッパの変貌
第18章 共同体家族型社会―ロシアと中国
追伸―リベラル・デモクラシーの将来

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