Entrance for Studies in Finance

松田千恵子「ファイナンスの理論と実務」きんざい2007年


研究室からたくさんのテキストブックを処分して本書はのこした。金融機関の立場からファイナンスを議論したもの。特徴があるうえに説明は洗練されていて、長い間に蒸留され澄み切ったものを感じる。現在でも企業金融のテキストとして大変すぐれたものの一つだと思う。

順にみてゆく。
融資の基本原則として、収益性、成長性、公共性、安全性、分散を上げている。ここでは公共性の指摘に注目したい。
つぎに信用リスクをクレジット・デフォルト・リスクと回収リスクにわけている。回収リスクは返済契約が破られたあと、どこまで損失を少なくできるかわからないリスクのこと。ここではリスクの分解と回収リスクへの着目に注意したい。p.14

金融における企業価値とは、その企業が、将来生成するであろうキャッシュフローの現在価値の総和である。p.25

企業全体・・・最低限のハードルレートとして・・・加重平均資本コスト(がある)p.29

事業リスク 将来安定的にキャッシュフローを生み出すか(容易に予測がつかないリスクのこと) p.39の内容をまとめた

1990年代に問題になったのは「過剰負債」・・・過剰負債、過剰設備、過剰人員を財務リストラの名のもと(日本)企業は削減してきた p.20

産業構造の変化を考えると(資金需要は減少するので)現在の状況は明らかにオーバーバンキング p.49

借金を返す方法として ①事業からの資金流入を増やす ②保有資産の売却 ③ 新たな資金調達 を上げている。注目されるのは、②と③への注目である。通常のテキストでは①だけに注目している。p.55, 60

信用リスク分析でストレスシナリオは必要 楽観シナリオは不要としている。基本シナリオは蓋然性の高い者。教室では学生によく楽観と悲観の幅で教示するのだが、リスクをみるわけだから、確かに楽観シナリオを議論するのは債権者側としてはお馬鹿さんだろう。pp.92,95

フリーキャッシュフローの定義
EBIT×(1-税率)+非現金項目ー設備投資額ー正味運転資金増分
FCCの使い先として
財務体質改善、株主還元、未来投資 を上げているp.107

企業価値について、永続的に継続する前提での価値を継続価値としている。p.126-127

インカム、コスト、マーケットという3つの企業価値評価法に比較(ここは標準的だがEVAやリアルオプションをインカムに組み込んでいる)p.130-131

負債と株主資本の違い。株主資本のリスクは株価リスクにあると指摘している(これもはっとした。株主のリスクを私は出資したお金が返済されないとおしえているのだが、松田は株価変動リスクと書いている。両者の企業に対するガバナンスの違いについて、松田が注目するのは企業の負債比率の違いで意味が違ってくること。非上場では負債比率が高いこともあり負債によるガバナンスが強く働く、負債によるガバナンスは、会社をつぶすことができること、経営者個人に対するものでなく会社全体に対する点でも特徴があるとしている。いずれも大変鋭い指摘ではっとさせられた)p.154-157

金融の形を企業金融(コーポレートファイナンス)と資産金融(アセットファイナンス)に分け、企業の信用力から資産の収益力に信用の源泉と違うこと 融資の形もリコースローン(遡及型融資)からノンリコースローン(非訴求型融資)となることが示される p.238-239 (この議論は私:福光も授業でやるのだが、アセットファイナンスとプロジェクトファイナンスを分けて、アセットファイナンスは既存の資産の流動化手法であり、プロジェクトファイナンスはこれからの事業についての流動化=資金調達方法であると説明している。この点で松田はアセットファイナンスとプロジェクトファイナンスを明確に区別していないように見える。)
    プロジェクトファイナンス(みずほ銀行の説明) 従来の企業金融とは異なり、プロジェクトごとの収益性、キャッシュフローが問題にされていること。ノンリコース方式が取られること。などに注意

#回収リスク #ハードルレート #過剰融資 #回収リスク #ストレスシナリオ #オーバーバンキング #アセットファイナンス #プロジェクトファイナンス
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