Entrance for Studies in Finance

迅速な情報開示と虚偽記載の禁止

企業内容等開示制度の概要について 有価証券報告書 有価証券届出書 大量保有状況報告書
有価証券通知書について
株券等の大量保有の状況に関する開示制度の概要について
内部統制ルールの導入について

大量保有報告書制度で虚偽情報流布の危険性表面化
2008年1月25日午後4時12分に、川崎市に本社を置くテラメントなる企業が、EDINETを通じて、トヨタ自動車、ソニー、NTT、三菱重工業、フジテレビジョン、アステラス製薬の6社の株51%を取得したと発表した。この取得に要する資金は約20兆円。当初から真偽に疑いをもたれ、金融庁は直ちに調査に入った。
 金融庁は虚偽を確認した1月27日に28日までに訂正報告書の提出を命じた。大量報告書についての訂正命令は初めてとされる。が、テラメントはこれを拒否、虚偽の報告書が閲覧できる異例の事態になった。金融庁は訂正報告書の不提出と大量報告書の虚偽記載を重くみて刑事告発の検討に入った。また再発防止策も検討された。
 その結果、現行のシステムは内容面のチェックがなく、このような虚偽報告の受付自体は排除できないが、虚偽の疑いがでた段階で「調査中」と明示、虚偽が認定されたら訂正報告書提出を命じ、従わない場合は報告書を削除できる規定を金融商品取引法に盛り込むことになった。大量報告書の提出は現在年2万件あり、内容を検閲してから掲載することは、情報開示の迅速性(利便性)の観点から避けることになった。また虚偽記載を自動的に検出できるソフトの開発にも取り組むとした。
 さらに抑止策として、金融商品取引法を改正して大量報告書についても課徴金制度を導入するとした。
 この事件はネット社会のなかで、EDINETのような開示システムが虚偽記載の犯罪の舞台になりかねないことを示した。
 なお大量保有報告制度とは企業の発行済み株式のあらたに5%超を取得した場合、取得後は1%以上保有比率を変動させた場合、5営業日以内に届けなくてはならないというもの(EDINETを通じて公開)。毎年届出件数は伸びており2005年に1万6000件(前年比26%増 法人84% 個人16%)2006年の届出は1万9000件(前年比17%増)。制度の導入は1990年。ブーン・ピケンズによる小糸製作所株買占め騒動がきっかけとされる。
 証券会社やファンドなどに対しては3ヶ月に1回の報告という特例報告制度が制度導入当初からあったが、これが市場の透明性を妨げているとして問題になった。おそらく頻繁に売買することから、その時々の短期的な保有比率を問題にする意味はない(不要な情報が膨らむ)という考え方もあるだろう。しかしファンド側がこの制度を悪用して買収目的に制度を使うとこの考え方は成立しない。たとえば2004年のニッポン放送株買収でインサイダー取引で摘発を受ける村上ファンドは、法律知識を悪用して、2006年春阪神電気鉄道株買収を純投資だとして進め、実際には取締役の過半数の選任を要求した。
 村上ファンドは自らの行為を、コーポレート・ガバナンスにおけるアクティビスト・ファンドになぞらえ正当化した。しかもこの正当化に一部のマスコミ・評論家・弁護士・経営者が加担し、すべての人が村上ファンドを正しく批判できないという面もあった。  
 しかし村上ファンド事件の経験を通して、こうしたファンドの行為を監視することが必要だという社会的合意が成立したとみるべきだろう。ファンド側が自らの行為を正当化するのは言論の自由であるけれども、それがファンドの利益追及であり、企業の長期的な経営や発展と矛盾することは理解されるべきであろう。しかもファンドにはいわゆる裏社会(暴力団など)のブラックマネーも入り込んでいるとされている。そうしたファンドが、正当な経済活動をしている企業を脅かすとすればなげかわしい。
 そこで金融商品取引法制定に伴う施行令の改正において、純投資でなく重要提案行為などを目的とする場合は特例報告を認めない(06年12月13日)としたうえで、2007年1月1日から特例報告の頻度を2週間ごとにまとめて5営業日以内に強化した。また同日付けで会社型投信を報告対象に含めた。このように近年に迅速性が求められたことからも、検閲により迅速性を犠牲にする判断は出せなかったようだ。

カストディアン名義の限界
しかし大量保有報告制度によっても、機関投資家の保有はカストディアン名義になっていて実質株主が不明であることが多い。企業では、IR会社の株主判明調査を利用して、実質株主を割り出そうとしている。しかしこの調査には法律的な裏付けがなくコストの割りに結果は正確でないとされている。

ファンド規制へのなお残る遠慮は正しいのか
たとえば実質株主がある投資ファンド(投資事業組合)だと判明したとする。しかしファンドを実質的に支配するもの(ファンドに出資しているもの)までは分からないことが多い。
 2006年7月に成立した金融商品取引法は、ファンドに金融庁への登録・届出を義務付けた(届出義務は07年9月から)。しかし、東京市場の活性化という政治的課題への配慮、日本への投資を勧誘するべきだという建前論への遠慮から、出資者の開示規制は見送られた。一般投資家を対象とするファンドへの規制は強化されることになったが(出資者数50人以上は登録制、定期的に検査)、とくに機関投資家を対象としているものには極めて規制はゆるやかになった(出資者数49人以下は届出制、検査は必要と判断した場合のみ)。
 しかしサブプライム問題でも明らかなように市場に大事なのはなによりも透明性。東京市場を、闇資金が暗躍するブラックマーケットにして金儲けをしたい人々に遠慮する必要は全くない。なお証券会社・外資系金融機関に所属する人たちが、過剰な規制に反対されるのは立場上、当然である。しかしそうした発言が、自らの立場を離れた、日本経済や日本企業社会のあり方を考えての議論だとみる必要も全くない。

有価証券届出書(通知書)・有価証券報告書・四半期開示
 大量保有報告制度のほかにも、さまざまな情報開示制度に証券取引は支えられている。それだけにその情報の正確さ、信憑性の確保は重要である。 
そもそも証券を発行しようとする企業には、有価証券通知書あるいは有価証券届出書の届出義務がある。
 また上場企業については、有価証券報告書(年度・中間期)を事業年度終了後3ヶ月以内に届け出る義務があった。
 これに加えて上場企業は、四半期開示が2009年3月期から義務化された(期が終了してから45日以内)。
 なお東京証券取引所は2004年4月以降始まる会計年度から財務諸表を4半期ごとに発表することをすでに義務付けていた。しかし法定義務化(金融商品取引法2006年6月成立)により、開示内容が統一され開示が迅速化された。
 四半期開示で、開示されるのは貸借対照表 キャッシュフロー計算書 事業別地域別セグメント情報(売り上げ・損益など)、発行したストックオプションの概要、経営上の重大なリスク(継続企業の存続に関する注記)など。公認会計士の監査を受けることを義務。虚偽の業績の公開は懲役や罰金刑など刑事罰の対象となる。

 このような開示情報の記載については、虚偽記載を厳しく罰する方向にある。
法律名懲役罰金
証券取引法(虚偽記載など)5年以下500万円以下
金融商品取引法(06/07/04施行)10年以下1000万円以下


虚偽記載と内部統制ルール
 虚偽記載の防止に刑罰の厳格化が有効であるかは議論の余地がある。近年関心をもたれているのは、内部統制の整備である。金融商品取引法では、全上場企業を対象に2008年4月以降に始まる決算期から内部統制報告制度を義務付けた。
 経営者は、正しい決算書を作成するための手続きやルールを明文化し、毎期点検することが必要になった。評価結果を示した内部統制報告書を作成し監査法人(公認会計士)による監査をうけて、事業年度終了後3ヶ月以内に、提出(開示)義務がある。
 なおこのような報告書の作成、そして何より内部統制のためには、業務手順や管理体制の明確化。いつ、誰が、どこで、何を決めたかをデータとして記録することなどが必要だとされている。社内業務のマニュアル化、IT化が合わせて求められている。


虚偽記載と東京証券取引所の対応
 東京証券取引所(の自主規制法人が審査) 虚偽記載 市場や投資家に与えた影響の大きさで重大性を判断し(虚偽記載の規模、期間、経営陣の関与の有無など組織的、意図的だったかなどを重視)、大きいと判断すれば 上場廃止。小さければ上場維持。過去において東証証券取引所は、西武鉄道(2004年12月17日)、カネボウ(2005年6月23日)、ライブドア(2006年4月14日)について上場廃止の決断をしている。
 問題が明らかになった企業は監理ポストを割り当て。その後、約2ケ月間に上場廃止・維持の決断という流れである。なお上場廃止が決まると整理ポストに移され1ヶ月後に上場廃止となる。

日興上場維持決定は不透明
 西武鉄道の場合は、大株主の持ち株比率過少記載を40年以上にわたり行っていたこと、カネボウの場合は、5年間で2000億円以上という過去最大の粉飾で債務超過、といったそれ自体で上場廃止の要件になる事実を意図的に隠していたことが重く評価され上場廃止となった。ライブドアについては、虚偽記載と公益の保護、偽計取引と風説の流布で経営幹部が逮捕起訴されたことが理由となっている。
 これに対して、日興コーディアルG(監理ポスト入り06/12)、三洋電機(07/12 三洋電機については07/02にも報道がある)、IHI(07/12)など最近のケースでは、隠したことは債務超過とか赤字といったことではなかったとして、決算数値の修正により上場廃止は見送られている。この問題をめぐっては、上場廃止という決定が一般投資家に大きな影響をもつだけに、機械的に上場廃止を決定することに反対する議論もある。 
 しかし日興(SPCとEB債を取引して利益を水増し 子会社の特別目的会社についての不適切な非連結処理が背景 意図的な利益水増し行為 当初一社員の書類の偽造と主張)の場合は、修正金額が04年度237億円、05年度181億円と大きく、役員をはじめ経営幹部の関与が疑われ、また市場で模範となるべき大手証券会社の行為であるなど、上場廃止を決断してもよい要素がそろっていた。
 ところが東証は決定時期を延ばし、その中で日興がいまだ監理ポストにあるなかで、米シティがTOB実施を発表(07年3月6日)。3月12日に東証が上場維持を決定する展開となった。07年2月28日に日本経済新聞朝刊が日興上場廃止を伝える誤報を出したが、これはそれなりの根拠があったというべきだろう。
 06年12月18日に監理ポストに入れてから、通常2ヶ月の東証の決断が3ヶ月もかかった理由は、訂正有価証券報告書の提出が2月末になったためだが、2月1日に決算数値の修正を公表してから1ヶ月はかかりすぎ。日興の社内特別委員会が1月30日に「意図的な利益水増し」があったとしたにもかかわらずそれを参考情報にとどめ、訂正報告書をもとに審査するとしたのは、意図的に決定を遅らせるためだった疑いがある。
 日興が急速に顧客基盤を失い企業価値を減失するなかで、海外企業からTOBをかけられたから、日興のために上場維持を決定したという観測は現実性がある。
 日興のような悪質なケースについてまで上場廃止の決定をしなかった東証への信頼感が損なわれたことは無視できない。どのような場合に上場廃止がなされるのか、東証は基準を自ら不透明化させたといえる。
 多数の投資家に迷惑をかけるから上場廃止に慎重という言い方がある。日興の株主10万人に対し、ライブドアの株主は20万人(22万人)いた。ライブドアを切り捨てた東証が日興を守った理由は業界の論理以外のなにものでもないのではないか。
 なお東証の自主規制法人とは2007年10月17日に基本金30億円で設立され11月1日から業務を開始した東京証券取引所自主規制法人。2001年11月に株式会社化した東証に対しては自主規制のための組織を分離することが求められていた。そこで2007年8月に持ち株会社にまず移行し今回の自主規制法人発足となった。東証では、これで公益性と利益追求の矛盾は解消されたとして、2009年までの株式上場を目指している。しかし私自身は証券取引所は、本来、証券価格情報の提供者として高い公益性をもっていると考えており、効率性の追求はよいとしても利益追求を公然と進めるという議論には疑問を感じる。そもそも株式会社が、利益追求の機関だという考え方自体が、あまりにも時代遅れの資本主義観によるものではあるが。

虚偽記載と証券取引等監視委員会の対応
 証券取引等監視委員会 虚偽記載について 虚偽記載の書類をもとに行った資金調達について。課徴金の対象となるか判断。課徴金を科すとの判断になれば金融庁に勧告する。金融庁ではこの勧告を受けて課徴金を科すという流れである。 


Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
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