Entrance for Studies in Finance

政府系ファンド(SWF)

ソブリン・ウエルス・ファンド(SWF:sovereign wealth funds) 

ノルウエー政府年金基金(資産は80兆円超 8300億クローネ87兆円)は2013年末で3兆7000億円に及ぶ日本株を保有している(保有銘柄は1284銘柄 上位ハトヨタ自動車1613億円 ソフトバンク1205億円 ファナック1170億円 三菱UFJFG1027億円 ホンダ629億円など なお日本国債は2兆4000億円)。2012年比で1兆8300億円増えたとのこと(2011年までは1兆5000億前後)。SWFは長期保有で知られ株式相場の下支え要因として歓迎されている。

なお2012年末では運用資産約60兆円(3兆8160億クローネ) 全体の6割が世界の株式。日本株に1兆9400億円(1244億クローネ)1243銘柄。トヨタ879億円、三菱UFJ666億円、三井住友FG491億円、国際石油開発帝石417億円、ホンダ397億円など。

サウジアラビア通貨庁SAMAは2013年9月末で約2300億円の日本株を保有(カシオ計算機 大塚商会など60銘柄強)。

SAMAの保有比率が高い企業(2013年3月末) 安川電2.5%  五洋建設2.5% ツムラ・良品計画・前田建設 いずれも2.2% 島津・クレハ2.1%

GICの保有比率の高い企業(2013年3月末) セガサミー1.7%  クレセゾン1.2%

中国の場合 容認する元高(年率5%ほど)を上回る運用成績がドル資産の目減りを減らすには必要

 国家が資金を増やそうと投資活動をするファンド。石油や天然ガスなどの販売収入を管理運用する資源型。外貨準備の一部を運用する外貨準備型。世界では2兆ドル。ヘッジファンドの規模(1兆5000億ドル)をすでに上回っているとも指摘されている(N07/11/06)。30以上のファンドが存在し運用資産規模は300兆円前後(NE08/02/27)。 

 サブプライム問題で欧米の金融機関の資本不足を中東やアジアのSWFが補ったことから、リスクマネーの担い手(リスク負担者)としてのその役割が注目が集まっている。また1兆ドルを越したとされる日本の外貨準備の運用の効率化については、従来から議論のあるところだが、それを専門に運用する日本版SWFの設立を求める声もある。

  設立 運用資産規模(1) (2)  2012年9月末
アブダビ投資庁(ADIA) 1977年 8750億ドル 6250億ドル 6270億ドル
政府年金基金Norges(ノ)   3412億ドル 3220億ドル 6562億ドル
サウジアラビア通貨庁SAMA     3000億ドル 5328億ドル
GIC(シンガポール政府投資公社)  1981年  3300億ドル 2150億ドル 2475億ドル
クエート投資庁(KIA) 1953年 2500億ドル 2130億ドル 2960億ドル
中国投資有限責任公司CIC 2007年 2000億ドル(資本金) 4820億ドル
安定化基金(ロ)     1275億ドル 1497億ドル
テマセク(シ)   1592億ドル 1080億ドル 1575億ドル
カタール投資庁     600億ドル  
リビア投資庁     400億ドル  


米モルガンスタンレー推計      N07/12/30(1)
英スタンダードチャータード銀行推計 NE08/01/12 N07/11/29(2) 

アブダビ投資庁 6250億ドル 米シティGに75億ドル出資
クエート投資庁 2130億ドル 仏ソシエテジェネラルへ投資?
カタール投資庁 600億ドル クレディスイスに出資か
ムバダラ開発公社 170億ドル カーライルGに追加出資か

2012年9月末 世界の政府系ファンド資産残高計6兆1350億ドル(約)420兆円 2013年末には6兆ドル強(600兆円) この5年で5割増える(米調査会社SWFインステチュート) 2007年末では3兆ドル程度だった。

N08/02/21
 

外貨準備型 背景 米国債中心の運用から脱却 株式や不動産へ
  韓国2005年 韓国投資公社
  中国2007年9月 中国投資有限責任公司
  中国の外貨準備 世界一1兆4336億ドル(07/09末)6割以上とされるドルの比  率をさげることが課題
  ロシアの外貨準備も4800億ドルとされ巨額である。

ドル安 ドル不安 ユーロ高
 1999欧州単一通貨ユーロの成立(シンガポールやタイはすでに外貨準備の3割から4割にユーロにしている)。
 サブプライム問題表面化後の金利が低下している。
 湾岸諸国や香港などドルペッグ諸国はドル安の進行で自国通貨価値が下がる矛盾に直面している。そこでこれらの国々が一方ではドル防衛の動きをする。資金難に陥ったアメリカの金融機関に投資するのはまさにそうした政治的な動き。しかし他方ではこれまでドル資産に安住していた国が、ドル以外の資産に資産を分散する動き強めている。これはの動きがSWFの活発な投資に影響している。

世界の外貨準備に占める比率

  1999年 2006年

ドル
71% 65%
ユーロ 18% 26%

  
  
 債券中心から株式組み入れ比率を上げる。通信や航空など国家が関わる分野への投資。安定運用から自国産業の成長に役立つ投資へ。自国の戦略企業が外国政府に乗っ取られるとの警戒もささやかれる。米政府やEUなどは監視を強化している。
 リスク運用とともにヘッジファンドの領域と競合。ヘッジファンドの客ではなく競合相手に。

ヘッジファンドとは異なる点
しかし政府系ファンドはヘッジファンドと姿勢に異なる点がある。まず投資姿勢は比較的長期運用である。また外交問題への配慮から敵対的買収や経営権の取得を避けるところがある。つまり<物を言わないが>リスクを負担する、友好的な投資家になる可能性が高い。テマセクの会長は3つの原則を挙げている。①相手国を象徴する企業の買収や経営権の取得のための投資は控える。②協調投資する地元投資家を探す。③相手国を代表する企業など微妙な企業に投資する場合は少数株主になる(N07/11/24)。

バーニーズ買収でファーストリテイリングの国際展開と衝突
ドバイ首長国のイスティスマールはバーニーズの取得でユニクロ(ファーストリテイリング)と争って勝っている。親会社のジョーンズアパレルGから8億2500万ドル(1000億円)で取得で2007年6月に合意している。イスティスマールは2006年10月にスタンダードチャータード銀行株2.5%を10億ドルで取得している。

すでに日本の石油元売会社の大株主
 2007年9月 コスモ石油がアラブ首長国連邦が100%出資する国際石油投資会社に第三者割当増資をする形で900億円の資金を受け入れたことは衝撃的だった。間接的とはいえ外国政府が上場企業の筆頭株主になるということである。
 なおこれと似た関係は昭和シェル石油と、サウジアラビア政府が100%出資する石油会社サウジアラムコとの間にすでにある。ただし昭和シェルの筆頭株主はロイヤルダッチシェル。アラムコは現在の出資比率15%(2004年出資)の引き上げを検討中とされる。
 国内石油販売元売り大手5社の中で昭和シェルとコスモ石油の業績は比較的手堅い。UAEとサウジが競って、対日原油販売の拡張に乗り出す動きとみてよいだろう。

  2006年度国内ガソリン販売シェア

元売り会社名 販売シェア 前年比増減
新日本石油ENEOS 23.2% -0.4%
エクソンモービル 19.1 -0.2
昭和シェル石油 16.1 +0.5
出光興産 14.2 +0.1
コスモ石油 11.3 0
その他 16.1 0


 新日本石油は旧日石三菱が2002年7月に社名変更したもの。新日本石油はコスモ石油と1999年10月に、出光興産とは2002年12月に、さらにジャパンエナジーと2006年6月に提携を結び、業界のガリバーの位置にある。サウジがコスモに関心をもっているとの噂が流れ、アブダビはサウジとの対抗もあり、コスモへの出資を急いだ。2006年度の日本の原油輸入相手国は一位がサウジアラビアで29.0%。2位がアブダビを含むアラブ首長国連邦UAEの26.2%。3位イラン11.3%。4位カタール10.4%。5位クエート7.1%となっている。
 コスモ石油としても財務体質の強化や石油油田の権益確保の必要からアブダビ政府との関係強化を必要としていたとされる。

 カタール投資庁はロンドン証券取引所株の15%保有。北欧・バルト諸国の証券取引所を運営するOMX株の10%保有で注目されている。

サブプライム問題沈静化におけるSWFの貢献
 2007年11月 アブダビ投資庁ADIAが米シティグループに75億ドル(8000億円)出資するとして話題を呼んだ。ドル危機の連鎖に歯止めをかけることで自身の保有資産がドル安で目減りすることを避けようとする意図があるとされる。シティは前身のシティコープが1991年に危機に陥った際、サウジの王族アルワリード・ビンタラール王子から8億ドルの出資を受けて再建した経緯がある。なおその後の報道によればシティGは2007年10-12月期にサブプライムに絡んで235億ドル(2兆5000億円)の損失を計上した。これはこの問題で欧米金融機関が出した損失でも最大規模であり、シティがいかにリスクの高い経営をしていたかを示すものである。これまでに計上した損失を合わせると同行の損失は300億ドルに達している。この損失を補うため145億ドルにのぼる大規模増資を実施する一方、配当の削減もきめた。シティに出資するものはこのほかクエート投資庁、シンガポール政府投資公社(GIC)などSWFが含まれる。
 同じく巨額損失を抱えたメリルリンチについては、テマセクが最大62億ドルを出資。クエート投資庁、韓国投資公社、みずほコーポレート銀行なども。
 このほかモルガンスタンレーには中国投資有限責任公司が50億ドル。 
 最後に2007年12月に報道されたシンガポールのGIC(シンガポール政府投資公社)によるスイス最大手銀行USBに対する出資は、われわれを驚かすに十分な98億ドルという巨額であった。2008年2月 われわれはこのGICが目黒のウエスティンホテル東京について、モルガンスタンレーとの間で770億円での買収に合意したことを知る。モルガンは2004年にサッポロHから501億円で買収。4年ほどで270億円の利益を上げたことになる。
 GICは2007年3月には福岡市のホークスタウンを約1000億円で買収しているほか2007年末にはUBSやシティGへの出資を決定してい。またREIT価格が下落して利回りが5%前後になったことを受けて日本のREITへの投資も始めている(N08/02/07)。
 しかしこのようなSWFの活躍は、SWFへの社会的関心を一層高めることになっている。

参考文献
ヘッジファンドについて
ファーストリテイリング
soverein wealth fund (wikipedea)
The world most expensive club, The Economist, May 24, 2007.
The invasion of sovereign-wealth funds, The Economist, Jan.17, 2008.

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

original version in Aug.3,2008

reposted in Oct.24, 2014

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