Entrance for Studies in Finance

公的資金の投入問題(1997-2009)

金融機関に対する公的資金の投入
 2004年末のまとめではバブル後の公的資金の投入は総額35.8兆円(回収8.3兆円)。資本注入が12.4兆円(3.3)。破綻処理が23.1兆円(4.8)。資産買取が9.3兆円(4.8)、金銭贈与が13.8兆円(0)。このほかに健全金融機関からの資産買取が0.3(0.2)。
 回収方法は、銀行からの返済、債権回収など。(優先株については普通株に転換して市場で売却したり、買入れを求めることもある。買入れ株式は償却あるいは金庫株) 3割弱回収(04年度末) 5割回収(05年度末)7割回収とも(08年末)

破綻時の金銭贈与
 1997 北海道拓殖銀行の破綻 3.3兆円
 1998 日本長期信用銀行の破綻・一時国有化 4兆円
 1999 日本債券信用銀行の破綻・一時国有化 3.5兆円 

公的資金の注入
金融機関に対するもの
預金保険法(危機対応勘定 金融機能強化勘定)
金融機能強化法
金融システムの安定を目的 金融機能安定化法など 1998年から経営が悪化した大手金融機関など 優先株 劣後ローンなど
主要行に対して一斉注入 1998年 1999年 12.4兆円
1998年 金融機能安定化法により大手銀行など21行に一斉注入 1.8兆円 奉加帳方式
1999年 早期健全化法により大手銀行など15行に一斉注入 7.4兆円 風評被害を防止するには一斉に優良行にも資本注入した 予防注入
2003年6月 りそなHDに預金保険法により1.96兆円(2003年5月金融危機対応会議 実質2%程度におちていた自己資本比率を10%を上回る水準に回復させた)  実質国有化

公的資金注入問題の再登場(2003年ー2004年)
2004年8月 金融機能強化法が施行 地域金融機関がリスク融資にいどめるように自己資本を厚くする(合併支援などを想定) 財源2兆円
金融機能強化法 04年8月施行。地域金融機関に機動的に公的資金を注入する仕組みとして導入。しかし08年3月で申請期限切れ。過度な行政介入が嫌われ利用は2件のみ。改正法案を提出しない見込み(07年12月段階)
金融機関自身が金融庁に申請(予防注入) 
経営強化計画(収益目標 ビジネスモデルの転換など)を提出 
金融庁は第三者機関の金融機能強化審査会で審査 
公的資金注入後は3年以内に計画を達成 未達は経営責任 
申請時に4%未満→代表取締役の退任 合併を伴わない場合は配当の抑制 
コア業務利益は業界上位3割程度 15年内の返済など
05年4月 ペイオフの全面解禁
06年4月 豊和銀行(大分県)への公的資金注入報道 金融機能強化法の初適用
その後紀陽HD。

時期的に公的資金返済の加速期に重なった(2004-2005年)
 経営健全化計画を通じた国の経営監視が経営の自由度を損なうとの不満が背景にある。返済後は、収益力の強化や顧客・株主への利益還元など(こっそりと役員報酬の引き上げも実施)が課題。
 返済後は、政府の支えがなくなった分、配当で株価を守る必要性があるとされる。他方で依然として中核的自己資本が海外大手に比べて低く(9%⇔5-7%) 配当性向も低い(40%⇔10%)など、返済の加速に進むには問題もある。

2004年1月 住友信託銀行が公的資金完済(2000億円)
2004年3月 みずほFG 地方銀行4行・Gが劣後債・劣後ローンの一部返却。
金利負担の上昇避ける。今後は優先株に焦点移る。
きっかけは2003年8月に3割ルールを厳格適用 15行グループに金融庁が業務改善命令を発動したこと。
2004年8月 横浜銀行 公的資金(99年に2000億円 2004年3月末に500億円 4月上旬に500億円 残額が優先株1000億円)完済 当初は買入れ償却と説明。ところが2004年4月 残額の700億円分の市場売却を要請して批判受ける。市場で普通株を売却すると株式の希薄化が生ずる。⇔買入れ償却には自己資本の減少を招く問題がある。優先株のまま転売する方式もある。

預金保険機構による新ルール導入(2005年10月末)
 預金保険機構では国民負担の軽減を名目として、株価上昇で保有株の時価が上昇しているときには、これまでどおり銀行からの返済申請を求めるが一定の条件を満たした場合は、銀行からの返済申請がなくても自主判断で優先株を普通株に転換して売却できるようにこの時点でルールを変更した(10月28日)。
 この預金保険機構のルール変更により、預金保険機構が保有する銀行の優先株は従来以上に株式市場にとり押し下げ圧力として働くことになった。
 新ルール登場について、預金保険機構の狙いは返済の加速(株価が一定回復する中で返済判断をしない金融機関に返済を迫ること)にあるとされるが、金融機関側は自主的長期的な返済計画を立てにくくなった。

絡み合う持ち合い株売却問題
 以上の優先株売却問題に重なるのは、預金保険機構が旧長銀から買取った長銀保有株(00年3月約2兆2000億円)、旧日本債券信用銀行から買取った日債銀保有株(00年8月6700億円)である。日本銀行が2002年から2003年にかけて(2兆円)、また銀行等保有株式取得機構が2003年から2006年9月末まで(05年末までで1兆6000億円)、金融システム安定のために銀行から買い取った持ち合い株もある。これらの公的部門保有株も、株式市場の重しとなっていた(2005年末)。

06年6月 2006年上期返済を掲げた三菱UFJFGが公的資金完済(残額5040億円 預金保険機構保有の優先株 普通株に転換の上 大半を市場で売却 残りを三菱UFJが自社株取得 5月に2066億円は普通株に転換後、自社株取得 残りの2974億円は普通買うに転換のう国内市場で個人投資家に売却09年6月5日完済) 中国銀行への出資(2006夏)0.2%200億円程度 本支店間振込み手数料無料化(三菱東京は早く返したが2005年10月のUFJとの経営統合で再び1兆5000億円の公的資金を抱え、その完済が当初から経営課題になっていた)
 2008夏 ユニオンバンカル完全子会社化
 2008年10月モルガンスタンレーに9000億円出資
 
06年7月 2006年9月期 みずほFG(公的資金当初は2.949兆 04年3月(直前に劣後債で5000億円を調達)には国からの劣後債・劣後ローンの5750億円を返済 04/8に0.24兆円 優先株のまま買入れ償却 さらに05.3には25兆返却 05/3には残額が1.48兆円になる) 05.08にも優先株買取り償却0.6164(0.6930で買取り)残額は0.85に 2005年秋に自社株売り出しで得た資金で2500億円返済。メガバンクのなかでは最初に完済計画。組織再編でみずほHDが保有する、みずほ銀行 みずほコーポレート銀行の株式を評価替えするという手法による利益など その後前倒しで06年7月完済。 2006年9月 みずほコーポが韓国の新韓銀行と資本業務提携 06年11月 NY上場。
2008初め メリルリンチに1300億円出資

06年10月 06年1月に公募増資などで6000億円の資本増強。2006年度内の返済を掲げた三井住友(1999年に優先株式で受けた1.5兆円) 逐次減らして 06年9月時点で残りは約0.7兆円 10月までに普通株に転換されたものを自己株式として買い入れ返済する リース事業の再編
 2008年7月にバークレイズに1000億円出資 資本業務提携
 2008年10月末 韓国のKB(国民銀行)フィナンシャルグループと資本業務提携

公的資金の贈与
金融機関が破綻したとき 預金を保護するために債務超過を穴埋めする金銭贈与

米国で公的資金注入問題が登場(2008年10月)
 米国でも2008年10月3日に金融安定化法が成立して資本注入始まる7000億ドル用意して。当初は不良資産買取を予定。しかし価格算定の困難から資本注入へ。まず大手9行に1250億ドルの資本注入(08年10月)。AIGに注入、シティに追加注入(08年11月)。保険、自動車大手などにも広がった。2008年末までに政府に裁量権のある3500億ドルをほぼ使いきったとされる。
 オバマ政権のガイトナー財務長官は3月23日に金融安定化法により1000億ドルを出資。民間の資金、FDIC、FRBの保証・融資を組み合わせて最大1兆ドルの不良資産買取プログラムを発表した。
 ハートフォードへの資本注入34億ドルが決まった09年5月半ばの公的資金枠の残りは返済見込み額を除いて1100億ドルとされる。
 他方でゴールドマンサックスやバンクオブアメリカは、公的資金返済の動き(09年04月)。大手金融機関10社が総額680億ドルを返済する見通し(09年6月)背景には横並びで注人されたことへの不満。政府による経営への関与を嫌う問題。などがある。
ゴールドマンサックス
JPモルガンチェース
USバンコープなど
シティ、バンクオブアメリカヘの米政府監視は続く

日本での公的資金注入問題の再々登場(2008年末)
 新しい金融機能強化法(08年12月施行 08年12月ー12年3月 注入枠12兆円)
金融機関への予防的注入が再度問題になった。
 今回の裏付けの法律は、金融機能強化法改正案 2008年12月施行。今回は地方銀行がターゲット。株式の希薄化は株主利益を害する 資本増強に見合った利益増は困難 中小企業向け融資を増やすなど経営を制約される
札幌北洋 南日本 福邦に公的資金入る。中小企業向け融資拡大には矛盾も。申請期限2012年3月末。
 経営に過度に介入しない 優先株 優先出資証券 定款で発行枠を設けることが必要(株主総会承認手続きに1-2け月かかる)

一般企業に対する公的資金投入問題の登場(2008年12月)
 まったく同じときに一般企業に対する公的資金の投入が議論されていた。これには、既存の制度の延長上にある融資の問題。
 具体的には日本政策投資銀行を通じた融資 危機対応融資 2008年12月に政府が企業の資金繰りのため設定。日本政策金融公庫がリスクを補完して、政策投資銀行が審査・融資する。関連政省令の通知(09年1月30日)。
 08年度09年度各1兆円の融資枠。2009年6月末で残高2兆6650億円(前月末比5509億円増)。資金繰り支援のためのCP買取残高は」3510億円。
 日産自動車に500億円融資。
 日産 オリックス
 日本航空(当初は最大2000億円融資 すでに2008年春に政策投資銀行などを引受け先とする優先株発行で約1500億円を調達)航空機購入などのため2009年秋以降に資金不足懸念。2009年7月1日 政策投資銀行が約600億円融資(うち融資額の8割の480億円について損害担保契約付く 民間銀行とあわせ約1000億円調達)。公的支援の代わりに国土交通省の監督下に。今後は路線縮小や人員削減を迫られる。2010年3月期に社債償還などで約2000億円必要とされる。
 全日空は同じ7月1日に1500億円の公募増資をすると発表して、日本航空との財務体質格差を見せ付けた。
  日産自動車 三菱自動車、いすず自動車なども融資要請を検討。
政策投資銀行 1999年10月に日本開発銀行と北海道東北開発公庫とが合併してできたのが日本政策投資銀行である。この銀行は特殊法人で特殊銀行であるが、2008年10月に100%政府出資の株式会社になり5-7年かけて民営化にすすむはずだった(資金コストの上昇する民営化後は投資銀行業務を強化。これまで国内で実績のあるプロジェクトファイナンスや協調融資の面で、海外業務に展開する意欲が語られていた)。ところが2008年末以降 企業の資金繰り支援への低利融資やコマーシャルペーパー買取をむしろ国内業務を急拡大した(半年ほどで貸出金と有価証券の残高は1兆4000億円以上急増した)。危機対応には、公的金融機関の存在が不可欠であることを政府も認識することになった。そこで2009年6月に与野党の合意で成立した改正日本政策投資銀行法では完全民営化の時期を延期。完全民営化の撤回もふくめて2011年度末までに見直すことになった。
 市場主義的民営化路線が現実と全く対応していないことがあきらかで、小泉政権下で進められた市場至上主義的政策の見直しが必要である。

政策投資銀行によるCP買取(09年2月)
09年2月24日より企業から公的資金で2兆円を上限にCPを購入する(この時点で自己資金で3100億円取得すみ)。状況により3兆円までの拡大を検討。(日銀でも1月に銀行からCPを買取る支援策導入 また3月からは社債を買取る 政策投資銀行についても社債買取りを検討)。

政策投資銀行からの公的資金注入制度の導入(09年4月)
 改正産業活力再生法(産業再生法)09年4月22日成立により、政策投資銀行が企業に資本注入できるようになった。(産業再生法は1999年に2003年3月の時限措置として導入。産業活力再生時別措置法。2003年 2007年にも改正延長。今回は改正の上 正式名称も産業活動の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法と改称されたことにより略称も産業活力再生法となった)
 選定基準 破綻すれば地元経済雇用に影響が大きい地域の中核企業 技術力があり将来性もあるのに一時的に資本不足に陥った企業 省エネルギー投資資金が一時的に不足する企業など 日本政策金融公庫経由日本政策投資銀行をはじめとする指定金融機関から出資(損失は5-8割を日本政策金融公庫が補填保証 優先株を引き受けるなど)⇔出資の損失が保証されることで投資判断が甘くなるとの批判がある。
 要件①売上高が四半期で20%か半期で15%減少。財務制限条項に抵触して新規借入が難しくなるか自己資本が25%減少。②国内従業員が5000人以上か、そうした企業に代替困難な基幹部品を3割以上供給しているか。③民間金融機関が出融資を協調的に実施する。④3年間で企業価値を向上させる事業計画をたてる(ROEを2%以上向上させるなど)。
 要件をすべて満たして産業再生法の認定を受けると、日本政策銀行が融資株や優先出資証券を引き受ける 出資規模は2兆円に積み増し。
 第一号はエルピーダメモリ 優先株出資で最大300億円(2009年6月30日認定。出資決まる 実際の出資は8月頃)。しかし官民の組み合わせで全体の支援規模は2000億円規模とされる。政策投資銀行からの融資が100億円程度。別途国際協力銀行から200-300億円、銀行団からの協調融資が1000億円規模。(このほか設立予定の産業革新機構からの出資、台湾当局が設立準備中の台湾メモリーTMCから200億円程度の出資を見込む) 
 2009年8月7日投資契約締結を発表(8月31日優先株で第三者割当増資 転換は2011年2月以降 転換すると普通株の16.72%)。なお産業革新機構も出資を検討とある。
 エルピーダは2009年3月27日にも取引先を相手に総額458億円の第三者割当増資を実施したばかりで(09年3月期は500億円規模の赤字)、財務基盤の急速な劣化が伺える。
 パイオニア(300億円出資) 日立が活用検討(09年4月) ルネサステクノロジーなどの名前があがっている。

官製ベンチャーファンドの導入
 同じく09年4月成立の改正産業再生法(再生産業活力法)で導入されたもの。
 産業革新機構(09年7月27日発足) 出資枠 2年間で2000億円 
政府が全体の90%にあたる820億円を出資する。民間から8000億円を政府保証付で借入れて投資する。先端技術の事業化などに投資する。埋もれた先端技術や特許の事業化を推進 線引きや出口戦略に課題。知財ファンドへの出資。セカンダリーベンチャーファンド。大企業の技術・事業の再編会社への出資。

参考 民間企業への公的資金注入の前例
 産業再生機構 2003年4月発足、2007年3月解散。2003年5月から05年3月までの4年間で41件(カネボウ、ダイエー、大京、三井鉱山、ミサワホーム、ダイア建設など) 10兆円の資金枠 過剰債務企業 産業再生委員会が再生の可能性を審査 銀行の不良債権処理。
 金融機関には債権放棄を求める、資産査定をして金融機関から債権を買取り、資産売却などリストラも実施、再生のための出資、融資、債務保証もする。大株主の権限を利用して、事業(不採算部門)の売却、他社との合併などM&Aも活用。債権者(主力行)に債権放棄の協力をえられるかが鍵。不良債権の処理の加速化。融資団をまとめ、スポンサー企業を見つける。
 いわゆる再生ファンドビジネスが日本で定着する契機となる。うまくいった背景として民間出身者が職員の大半を占めたことが指摘されている。
三井住友:カネボウ 三井鉱山 ダイエー
UFJ:大京 ミサワホーム ダイエー 
りそな:ダイア建設

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.6, 2009. Reposted in Oct.22, 2014





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