Entrance for Studies in Finance

米政府によるシティの救済とその経営への疑問(2008年11月)

 2008年11月23日 アメリカ政府はシティグループ(傘下にシティバンク スミスバーニーなど)に対する200億ドルの追加の資本注入、不良資産3060億ドルの政府保証などを発表した。シティは10月28日にも250億ドルの資本注入を受けている

 苦境にあるはずのシティは2008年9月29日にはワコビアを救済合併して規模拡張をしようとしたり、日本で個人向けに円建て外債を発行しようとしたり、きわめて見苦しい醜態を演じてきた。なぜこのような金融機関を救済する必要があるのだろうか。
 そもそもワコビアの救済合併は、巨額の損失を抱える自らの経営破たんを隠して米金融界トップになろうとする馬鹿げたもの。さらに日本での円建て外債発行は、財務上破たんしている金融機関が金利につられる日本の無知な個人投資家相手で資金調達をするとんでもないものである。
 公的な救済を受けるほど財務が傷んでいるシティが、事業を拡張して業界トップを目指したり、リスクが高い債券で一般市民から資金調達するのはまったくおかしい。リストラを進めて、経営再建に努め、自らの財務の立て直しを急ぐべきである。
 
 2008年6月。シティGは日本の消費者金融事業からの撤退を決めた。これは2008年5月9日に採算が悪い非中核事業の資産を世界で4000億ドル(41兆円)減らすと発表したことを受けたもの。今後1年以内に有人店舗と無人店舗を廃止、事業の宣伝も中止する方針。しかしシティが消費者金融を行っていたことは、シティの品格を下げる行為だったので撤退はシティのためにも良いことではある。
 このほか日本では2月に天王洲のシティグループセンターをモルガンに450億円あまりで売却。2009年春の日興アセットマネジメントの上場により持ち株を処分することでやはり数百億円の売却益を見込んでいる。
 日本のシティに資産の切り売り以外にすでに収入源はないのかもしれない。
 シティはサブプライム問題とその余波で、欧米金融機関としては最大の460億ドルの損失を計上した(08年4月)。他方で290億ドルの増資を実行したものの、利益率の改善には資産圧縮が不可避となった。
 2007年末のシティの総資産は約2兆2000億ドルとされる。日本を含めて世界での資産圧縮は総資産の2割近くに及ぶ。
 しかしシティの損失はその後も増加。2008年7月段階での過去1年の累計損失は500億ドルを超える巨額となっており、業績回復のめどは全くたっていない。

そのシティが日本でサムライ債を個人向けに発行するとしたときには、個人投資家保護をないがしろにした行為として、私はこの腐りきった金融機関に憤慨せざるを得なかったが、ワコビア買収には本当に驚いた。財務の悪化している金融機関が規模を拡大し世界の頂点を目指す構想だからだ。しかもそれを米政府や監督機関が認めたことを意味するからだ。それは極めて高い政治的なレベルでシティが力を残していたことを示している。
 しかしおそらく議会からの反発もありワコビア買収は成立しなかった。サムライ債の発行が中止され、ワコビアはウエルズファーゴによる買収が固まったのは当然である。
2008年11月の政府決定で資本注入総額は累計で520億ドルに達する(250+200+70) 。歴史上前例のない巨額であり、シティが金融機関としていかにひどい経営をしてきたかがうかがえる。日米金融監督当局はシティに対して毅然とした態度をとり、経営の健全化を強く求めるべきである。
 
 2007年3月  日興コーデイアルGの子会社化を正式発表 国内では過去最大規模のTOB
 2007年4月  大規模なリストラ1万7000人削減
        日興株TOB成立(子会社に みずほFG持ち株処分で流れつくる)
 2007年7月  東京支店を現地法人化してシティバンク銀行に
 2007年10月2日 シティ 日興コーデイアルGの完全子会社化を発表
 2007年11月 アラブ首長国連邦アブダビ投資庁 75億ドル(約8000億円)
 2008年1月  145億ドルの大規模増資(機関投資家シンガポール政府投資公社GIC,クエート投資庁などに145億ドルの優先株発行 20億ドルの公募増資)
 2008年1月18日 交換比率決定 日興1株に0.602株 海外企業が自社株を使った初めての三角合併
 2008年1月23日 日興 上場廃止
 2008年1月29日 シティ・日興株 交換(日興コーデイアルG 米シティの完全子会社に)
 2008年2月  傘下の証券会社の統合を決める(個人向けの日興コーデイアルと法人向けの日興シティG証券)       
 2008年3月  住宅ローン事業のリストラ発表
 2008/03/11 5月1日付けで完全子会社の日興コーディアルと、日本法人シティCJHの両持分株式会社が合併して日興シティGHを設立すると発表
 2008/04/29  優先株発行           60億ドル
         普通株公募増資         30億ドル
        リース部門をGEに売却 
 08/04/30 公募増資額を30億ドルから45億ドルに増額
 08/05/09 採算が悪い非中核事業の資産を世界で今後2-3年で4000億ドル(41兆円)減らすと発表。
08/09/29 ワコビア(米預金量4位)の銀行業をシテイG(同3位)が救済買収へ。ワコビアは06年にS&L2位のゴールデンウエストファイナンシャル買収で損失抱える。シティは普通株100億ドル増資 21億ドルをワコビアに払う。 ローン債権3120億ドルから発生する損失を420億ドルまで負担し、それを超えた分はFDICが負担する損失負担契約をFDICと結ぶ。FDICは見返りにシティの優先株と株式購入権をあわせて120億ドル分購入する。合併後 シティは預金量で全米首位になる(1兆2000億ドル規模)。
 08/09/30 シティが日本で円建て外債を発行を延期(募集10日から29日 3150億円 年3.22% 発行予定9月30日)。7月発行分と合わせ5000億円を日本でいずれも個人相手に調達するもの。欧米市場と機関投資家を避けて募集。
 08/10/03 米金融安定化法成立
08/10/03 ワコビアの全部門はウエルズファーゴが買収へ変更。FDICも承認。買収額151億ドル。総資産規模1兆4210億ドルの巨大銀行誕生へ。
08/10/15 日興コーディアルと日興シティグループ証券の合併計画延期報道
 08/10/16 7-9月期決算発表 28億1500万ドルの赤字 最終赤字は4四半期連続
信用収縮に伴う損失92億ドルを計上
 08/10/28 米財務省 金融安定化法にもとずき250億ドルの資本注入を発表
 08/11/17 全従業員の15%にあたる5万2000人の削減して30万弱へ(ピーク時2007年末比では2割削減)。経費も年500-520億ドルに削減(2007年実績比で2割削)。との追加リストラ策。証券化商品をはじめ800億ドルを超える不良資産を時価評価の対象から外す方針を明らかにする(←アナリストが批判 時価評価凍結によりシティの経営実態は不明になる)。1兆ドルを超える簿外資産と報道される。
 08/11/21 シティ株 終値4ドル割れ
 08/11/22 日興コーディアル証券 40歳以上の従業員対象に希望退職の募集始めたとの報道流れる 
 08/11/23 財務省とFRB 200億ドルの追加資本注入(中核自己資本は14.8%程度) 不良資産3060億ドルについて政府が保証(当初損失290億ドルをシティが負担 その後の損失の9割を政府が負担:財務省が50億ドル その後100億までFDIC その上はFRB) 保証料として優先株70億ドルを政府が引受などを発表 資本注入総計は520億ドル(250+200+70) 簿外資産は1兆2000億ドルと報道される。
08/11/29 日興シティ信託銀行(08/09末 信託財産約6兆円 従業員136人)の売却を決めたとの報道流れる
 08/12/01 日興シティ信託銀行売却に、三菱UFJ信託銀行、住友信託銀行、みずほ信託銀行などが応札か。

資料
買収資金の調達 シティとソフトバンク
三井住友FGによる日興コーデイアル買収
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

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