今回の追加的金融緩和策は2008年秋、国債やMBS(住宅抵当証券)を購入することで凍りついた金融市場に流動性を供給し、バーナンキFRB議長の評価を高めた量的緩和政策QEに続く量的緩和策だとして第二次量的緩和策QE2とも呼ばれ始めている。現在この2008年の措置は経済恐慌の緩和に役だったは評価されている。では今回2010年の措置はどう評価されるのか。
2010年の量的緩和策QE2が発表される前の記事だが、以下のイギリスのエコノミストは、同誌としてはめずらしい論調だが、アメリカの経済政策について景気のためには財政政策が出番であることを主張している。"America's economy"in The Economist, October 30, 2010, p.14.
また発表されたQE2は米国内外で批判にさらされた。米国での金利低下により資金流入に見舞われたアジア諸国はインフレを抑制しようと金利を引き上げたが、それがさらなる資金流入をもたらす矛盾に直面した。金利の上昇は企業の借入コストにつながる矛盾もある。問題の資本規制capital controlに求める国も増えている。アジアの国々は経済政策をワシントンから自立させようとしているのだ。
Shamim Adam,"Asian Leaders at G-20 Brace for a Flood of Dollars"in Bloomberg Businessweee Nov.15, 2010, pp.15-16.
中国側の主張は中国の対米貿易黒字は両国の産業構造の違いによるもので、米国の金融政策はドル安や新興国への資金流入、インフレにつながる。これは米国が負うべきコストを他国に転嫁するものだという批判である。
「批判を強める中国の政府、学者」『エコノミスト』2010年11月30日, p.14.
・FRBが6000億ドルの長期国債を購入する量的緩和策
月間750億ドルペース 2011年6月末までに追加的に6000憶ドルの米長期国債を購入する
2011年半ばまで6000億ドルの長期国債を購入する量的緩和政策QE:quantitative easingである。しかしこれについてBernankeはcredit easingといい。FOMCは資産買い入れプログラムasset purchase programといい、量的緩和政策という表現を避けているとのこと。これを第2次量的緩和というのは報道の側の言い方であり、資産買い取りプログラムasset buying programがFRB側とのこと。Bernankeはquantitative easingというのはliability sideに現れるとみている。民間の銀行が中央銀行(連銀)に置く準備(連銀の負債)を増やすものとして(increasing reserves)。 すでに1兆ドルを民間の銀行は保有している。Bernankeはそれをslumpと闘う正しいやり方とは認めない。credit easingは満期まで2年から10年の国債を購入する。国債の利回りを低下させることで、投資家のマネーを社債、抵当担保証券など国債より高利回り証券に誘導するpositive effect生じるか。さらには金利上昇→資産価格減少といった副作用は生じるかといった論点があるとのこと。以下を参照。Peter Coy, "The Bernanke Code" in Bloomberg Businessweek, Nov.8, 2010, pp.12-14.
2008年秋以来の1.5兆ドルの資金の増加につぐもの。
・2010年8月 保有するMBSの元本償還金の長期国債購入にあてる決定 この措置の継続も決定)
・政策金利FF金利の誘導目標0-0.25%の維持
デフレ回避のために決断
政策金利から資産購入規模に政策の尺度は変化
すでに2008年秋の金融危機のあと
雇用(悪化懸念) 物価(日本型デフレ化=金融緩和がさらなる物価低迷を招く 懸念)
(米国)失業率2010年9月9.6%(2009年平均9.3%) 物価CPI2010年9月前年同月比1.1%(2009年平均前年比マイナス0.4%)
2010年9月 10年国債利回り2.51%(2009年平均3.84%) TB3ケ月0.16%(2009年平均0.06%)
失業率は高く、物価の上昇率は低いところにある。金融市場は2年前 2008年秋に比べると改善され、逆に流動性の追加で経済が浮揚する可能性は低い。むしろ資産価格の上昇、ドル安等の弊害(燃料価格、商品価格の上昇など国内物価の上昇要因)が懸念される。しかしドル安には輸出企業を支援する面はある。国内のインフレが懸念される以上にデフレが懸念された。ドル安による輸出拡大の景気浮揚効果は、家計の借入余力のなさや州や自治体政府の財政引き締めにより相殺されてしまう可能性がある。連邦議会も赤字の拡大に慎重である。
(日本)失業率2010年9月5.0%(2009年度平均5.2%) 物価CPI2010年9月前年同月比マイナス1.0%(2009年度平均前年度比マイナス1.6%)
2010年9月末 10年国債利回り0.930%(2009年度平均1.395%) コールレート翌日物0.091%(2009年度平均0.102%)
2008年11月 MBS 政府機関債の購入開始決定
2008年12月 政策金利引き下げ 事実上のゼロ金利政策に
2009年3月 長期国債の購入決定
2009年10月 長期国債の購入終了
2009年秋以降 購入を順次終了 出口を模索
2010年3月 MBSなどの購入終了
2010年8月 保有するMBSの元本償還金の長期国債購入にあてる決定
(11月3日にこの措置の継続も決定)
2010年9月21日 米FOMC 米国の景気雇用回復の遅れが物価低迷につながることに懸念表明
2010年10月15日 バーナンキ議長 ボストンでの講演で追加的金融緩和政策を強く示唆
2010年11月 ゼロ金利政策の継続、追加的緩和政策(量的緩和政策への移行)
考えかた 大胆な量的緩和でデフレへの進行を阻止 個人企業の前向きな消費・投資拡大を期待
⇔日本の失敗は量的緩和のスピード、規模がゆっくりしていたことにあるという認識
⇔デフレは予防が大事
米経常収支の赤字は国内総生産比3%前後で推移
海外からの資金流入が前提 ⇒ 維持できるか
低金利の背景 海外からの資金⇒米国債
副作用 新興国・商品市場への資金流入 インフレ・バブル
⇒資源高 資源産出国の発言力拡大?
利上げ 資本流入規制 ドル買い介入⇒通貨安競争?
国債通貨体制 不安定化?
⇒ ドル相場に関連している ドル安政策とも
2010年11月3日の決定に対して国際的批判起こる
低金利 銀行を助ける
年金保険は運用困難
企業は延命
しかしもしも企業銀行が余剰資金を積み上げるだけなら経済の回復に結びつかない
海外野新興国、商品市場に向かい、資源高は企業収益を圧迫する
デフレ心理を解消するために
物価上昇率 あるいは物価水準を目標とする考えかた(price level target)もある
(目標とする物価水準への到達にこだわる 水準を目指して金融緩和を継続する)
こうした考え方はリフレ(インフレ喚起)政策と呼ばれる
⇔中央銀行は物価安定を目指すべきという考え方
⇔中央銀行の信認に影響する
⇔ドルの急落リスクがある
⇔インフレの抑止が困難になる
米国10年国債の利回りは11月3日以降 上昇を続け12月初めには3%(危険ゾーン)を超えた。これを放置すると銀行のバランスシートを圧迫する。景気回復なら長期金利上昇を受け入れるべき。しかし金融危機を再燃させるおそれのある金利上昇は望ましくない。
参照
"Bond Investors Detect a Whiff of Inflation "in Bloomberg Businessweek, Nov.22, 2010, pp.23-24.
"Fed under fire"in The Economist, Nov.27, 2010, pp.16, 19, 41-42.
"On the Dollars, Traders back Bernanke"in Bloomberg Businessweek, Nov.29, 2010, p.55.
Rich Miller, "The Partnership: Tim Geithner and Ben Bernanke"in Bloomberg Businessweek, Dec.6, pp.68-76
「危険水準に達する米国長期金利の上昇」『エコノミスト』2010年12月21日, pp.15-16
"The rise in bond yields does not solve a long-running dilenma"in The Economist, Dec.18, 2010, p.136
吉川雅幸「米国発の過剰マネーは新興国に」『エコノミスト』2011年1月4日,pp.27-28
加藤出「QE2の副作用がにじみ出始めた」『エコノミスト』2011年1月4日, pp.32-34
originally appeared in Nov.18, 2010.
corrected and reposted in Nov.26, 2010.
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