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Entrance for Studies in Finance

fraudulent accounting 不正会計

会計的利益の限界 粉飾決算window dressing, fraudulent accounting
Hiroshi Fukumitsu

 会計上の収益(利益)把握には、現在の会計制度からくる限界が一方にあり、他方で数字が粉飾されることがあとを断たないという問題がある。現在の状態を偽ろうとする動機は、企業内のさまざまなレベル、様々な場面で生じる。以下で述べる粉飾手法はまとめてfraudulent accounting不正会計ということができる。

会計制度そのものの問題
 現在の会計制度から来る限界というのは、たとえば費用・収益が発生主義(accrual basis)で把握されるため、実際の現金の動きでそのまま記帳する現金主義(cash basis)の数値とはずれるということ。商取引では信用取引(掛取引)が行われること(したがって会計上利益が出ていることと手元にキャッシュが残ることとは対応しない)はよく使われる。また固定資産について減価償却会計が行われることも、会計制度がもたらす問題として、よく引用される。
cash versus accrual accounting
 accrual accounting(発生主義会計):an accounting method that measures the performance and status of a company regardless of when cash transactions occur(investopedia)
cash accounting(現金主義会計)
売上の記帳を発生主義で行うことについては、どの時点で発生とするかは議論がある。契約が署名された時点という方法のほか、製品・サービスの配送時点(出荷時点あるいは引き渡し時点)、請求書invoiceの発送時点などが考えられる。企業会計基準委員会では、医薬品や商社などで使われる出荷時点を廃止して商品引渡時点に売上基準を統一する方針と伝えられる(『日本経済新聞』2009年9月18日 この移行を行うと、移行を行った企業では一時的に売上と利益が減少すると見込まれる)
 会計制度の問題としては、経費の配分問題もある。経費は一般に活動部門間にどのように配分allocationするかでさまざまな仮定や恣意性を排除できない。経費のうちたとえば、さまざまな間接経費overhead costは、仮定を設けて配分するがそこには一定の恣意性がどうしても入り込む。
 また多年度にわたり費用の時間配分accrualする場合はさらに恣意性は高まる。
 経費は、支出時点が明確な営業経費operating expenditureと、支出時点を多年度に配分すべき資本経費(投資)capital expenditure(capex設備投資、特許取得費など)とに大別される。いずれもさまざまな仮定によらざるを得ないため、そこで問題が生ずる。たとえば資本経費は貸借対照表に計上されるが、利益計算(損益計算)上は、減価償却費depreciationとして計上するものだけが、影響する。すると、利益はこの減価償却の仮定によって大きな影響を受ける。
depreciation makes accounting more complex, but more accurate.
 なお有形固定資産の減価償却をdepreciation。無形固定資産の減価償却をamortizationと英語では区別する。
 そして無形固定資産(特許 商標 などのほか ビジネスモデル 従業員のノウハウ など評価がむつかしいものを含む)の価値評価についてなお、統一された見解には至らないため、企業の価値として重要な無形資産価値が、十分評価されていない(実際に保有していても企業買収などで有償取得されないと資産として認識されない)。
 このような無形固定資産の重要性はいろいろな形で議論されています。特許はまだわかりやすいですが、会社のなかには、そのほかにも技術、素材、市場に関する様々な知識(経験)があります(intellectual capital)。それと関係しますが技術、能力、知識、などを蓄積している人を資産として考えるべきではないかということもあります(human capital)。また会社のなかの人の関係、あるいは外との人との関係。これがビジネスの基礎になっているともいえます(social capital)。そしてそれらを含んだ形で、ブランド価値といわれるものがあります。
人的資本の重要性の発見は新しいものです。それが一見同じ条件にある経済の発展程度が異なってゆく理由になっているのではと指摘されます。またヨーロッパや日本のように第二次大戦で大きな被害を受けた国が目覚しい復興を遂げるとき、そこには、人的資本の問題があるのではと考えられます。その基本は教育だともされます。
 
 資産の評価基準は原価基準(取得原価基準)を原則とし、時価基準(売却時価基準あるいは再調達価格基準)、低価基準が資産の種類や状況に応じて採用される。ちなみに金融商品については時価基準が原則となっている。

 損益計算書も貸借対照表は,会計原則と基準のもとに作成されている。会計原則の中で最高の規範とされるのは真実性の原則である。後述する粉飾はまさにこの原則に抵触する。
 財務諸表における項目の分類 配列にも基準がある。たとえば流動か固定かの区別は、企業本来の営業取引のサイクル内にある資産・負債を流動資産・流動負債とするものは正常営業循環基準(normal operating cycle basis)という。この営業循環基準を基本として、それに当てはまらないものは1年基準(one year rule)で(決算日の翌日から1年以内で入金あるいは支払期限が到来するか)行う。なお有価証券の分類については所有目的基準が優先適用される。
 資産・負債の各項目の中の配列は一般的には流動性配列法(流動性の高い科目から並べる)によるが、固定資産の多い企業の中には固定性配列法を採用する企業もある。

粉飾の問題 
 つぎに粉飾について述べる。
 粉飾は行おうとする誘引がある。営業の現場では売上をあげてノルマを達成する強い誘惑が働く。株主や金融機関に対して、財務担当者は、企業の実態をよく見せて、取引条件を維持改善したい強い誘惑が働く。逆に課税当局に対して、いかに収益が上がっていないかを強調して、課税額を少なくしたい誘惑も働くかもしれない。

 会計上の粉飾をいくつかにわけてみよう。まず粉飾は悪い状態をよく見せるという意味が基本である。税務対策上は、費用を多く計上してあるいはまた売上を少なく計上して所得(利益)隠しをすること(逆粉飾)もある。売上はごまかして、経費はしっかり計上というのは個人営業主にありがちな手法。英語ではskimmingという。

 最初は売上高をつくる行為。これは売上至上主義が生み出すともいう。営業現場ではどこでも売上高がノルマとされることが多い(その結果、商品単価(製造原価)を無視した受注(採算割れ)が行われがちになる)。ここで問題にする会計帳簿の上では、架空売上の計上はあまりに単純だが取引先・縁故先との共謀があれば取引先との間で帳簿の上だけで売買を繰り返した上で所有権が最終的に元の取引先に戻る「循環取引」により売上高を膨らませることはできる。これはまさに営業が円滑であるかに見せかけるわけである。
 これに対して、決算後、買い戻すことを約束して売るのは「仮装売買」とか「押し込み販売」という。これも売上高をつくる行為となる。また押し込み販売は営業マンの手法としても、決算期末に契約して実績を稼ぎ期明けに解約という形でよく行われている。あるいは名義借りで契約してその後解約というケースもあろう。多くの会社は営業マンに資金の回収まで義務付けてこうした行為を抑制しようとしている。
 なお英語でchannel stuffingというのは、実際には注文もされていない商品を発送して、発送伝票で売上を仮装することを指している。
 
 つぎは利益をねん出する行為。
 費用の計上方法の変更。たとえば減価償却の方法の変更。費用計上を少なくする行為がこれにあたる。関連会社などに保有不動産・有価証券を高値で引き取らせて利益をねん出する行為もみられる。これは関連会社からの利益の吸い上げになる。費用を過少につける行為はすべてこれにあたる。
 そして損失の処理・費用計上を遅らせる行為。
  長期売掛金を引当処理をしない 
  不渡手形の引当処理をしない
  長期不良在庫の評価減処理をしない
  有価証券の含み損を計上しない など。

粉飾を発見するには、どうすればいいか。財務諸表も大事だが、企業を訪問して関係者の話を聞き、直感を大事にとは、よく指摘されることだ。
以下では公認会計士の都井さんの指摘を引用してみる(都井清史『粉飾決算の見分け方 増補版』きんざい 2005年)。
 注意すべき数値
  架空売り上げもある
  翌期の売上の先取り 請求書の発送調整で操作できる
            売上の波で判別
            下期の売り上げ増加は期末操作を示す
  販管費の繰り延べ 未払い計上漏れ 
   関係会社向け売り上げの増加
  関係会社向け債権 → ゼロ評価とするべき 
  買い戻し条件付き売上は借入とみるべき
  仲間取引は資金融通の可能性大
  その他の営業収入の増加
  配達運送費の急減
  有価証券売却益 → 利益操作とみるべき
 経営悪化の兆候
  在庫の積み上がり 雑費の多さ(経営管理がルーズ)特別損失の多さ
  在庫   → 実地棚卸しているか確認
  滞留在庫 → 陳腐化評価損計上するべき
 経常利益に占める雑収入  70%以上は危険 利益を雑収入でつくっている
  特別利益を雑収入計上してもかまわない(会計原則注解Ⅰ)。会計士が入れば修正されるが、会計士が入らない会社は修正をうけずそのまま残っている。
 営業利益と比べた支払利息 70%以上は危険 営業利益が利息支払で消えている
中小企業については
 税務上の減価償却を行っているか(減価償却をストップするのは粉飾)
 在庫の水増し(在庫が増えるように操作すると売上原価が下がりみかけの利益が生まれる)
  売上高ー[(期首棚卸残高+仕入高)ー期末棚卸残高]=売上総利益
  →原価率の低下により判定する
 短期貸付金・短期借入金の増加
  →実態は短期でない可能性
  →知人などを相手にするものはあやしい
 その他流動資産 ゴミとみた方がいい
 税金支払い後の当期純利益が確保されているか

なお倒産に至りかねない危険な兆候の例示を十六銀行の黒木さんの著述から引用すると
  貸付金の増加多額化(不良債権化の可能性)
  投資などの多額化(無価値資産増加の可能性)
  売上の急激な伸び(社内体制、資金繰りが追いつかない可能性)
 また計画倒産の兆候としては
  借入金増加のなかでの支払手形・買掛金減少(借入で一般債務を減らしている可能性)
 最後に業務改善の兆候の例示としては
  在庫の減少
  借入金減少
  短期借入金の長期借入金へのシフト
 (黒木正人『わりやすい融資実務マニュアル』商事法務, 2007年, pp.36-37より)

鷲野健次さんの本から分析を拾うと。まずは 
 売上高の大幅な減少傾向⇒重大な事態の可能性 (減少要因の速やかな把握)
 売上高の大幅な増加(運転資金借り入れができているか)
 営業利益の赤字(=利息を支払えない状態にある 企業の存続条件を満たしていない 新規融資 新規取引は停止が必要)
(鷲野健次『与信管理の達人』きんざい, 2011年, pp.70-71)
 経常収支比率が100%割れしている場合(⇒粉飾の可能性 100%越えている場合も回転期間が業界平均より高くないか確認)
 キャッシュフロー比率(運転資金を除く借入金を返済するの何年必要か)が10年を超える場合
 支払手形の増加 そして急減
 当座比率が80%を切る場合
 インタレストカバレッジレシオ(利払い能力)が1を切る場合
 デットカバレッジレシオ(資金調達力)の100%越え
 回転期間分析turnover analysis
 売上債権trade receivables回転期間(業界平均に比べて長い:不良債権の内包の可能性 長期化:資金の固定化あるいは不良債権累積の可能性、無理な売上計上の可能性)
 棚卸資産inventories回転期間(長期化:不良品、仕損じ品の資産への混入 仕掛品の過大計上 不良棚卸資産の増加 販売不振に対する生産調整の遅れ 返品の増加 逆に:期末の大型受注、来期の売上のための仕入れなど良い兆候のケースもある)
 買入債務trade payables回転期間(売上債権回転期間とほぼ同時に長期化したときは融通手形*操作の可能性あり 棚卸資産回転期間と同時に長期化する場合は棚卸回転期間の長期化は期末の大型受注、来期の売上のための仕入れなど良い兆候のケースと判断される)
 (鷲野健次『与信管理の達人』きんざい, 2011年, pp.151-160)
 なお近年重視されるものに運転資本回転期間working capital turnover or cash conversion cycleがあります。
 これは棚卸資産回転期間+売上債権回転期間ー買入債務回転期間 で求めた値です。この値が近年重視される理由についてはまたあとで財務比率分析のところで述べることにします。

 しかし他方でそもそも中小企業を相手にするところではとくに決算書の分析などそもそもあてにならないという言い方もある。三和銀行にいた寺田さんはつぎのように述べる。「そもそも決算書はあまりあてにならない。決算書はあくまで過去の実績を示すものに過ぎないし、いくらでも操作できる。在庫の評価方法然り、売掛金や受取手形の中にどんな問題債権(問題企業が受け取った手形や、一触即発で不渡りとなりかねない金融手形など)が混じっているかも、すぐには分からない。固定資産勘定の中にも毎年減価償却はしていても故障になって使い物にならない機械設備が、そのまま計上されているかもしれない。巧妙に隠された簿外負債があるかもしれない。」融資において決定的なのはむしろ経営者の人となりだとする。そして債権の保全に必要なのは企業を生き物として見る技術だとして、かつての融資マンたちは、頻繁に取引先にでかけて、企業活動全体の観察につとめたものだと説いている。寺田欣司『銀行員という職業』近代セールス社, 2008年, pp.175-177.
(寺田さんは中小企業向け融資の実態を知らない金融庁が、金融機関に細かな規則を押し付け金融機関の融資活動を却って阻害しているという趣旨を述べている。寺田欣司 前掲書 pp.217-220.) 
 融通手形は商取引から発生したものではない手形で資金繰りのため銀行に振り出されて銀行に持ち込まれたものをいう。寺田さんによれば3つのパターンがあるとのこと。
 1)親しい商売相手に取引がないのに振り出してもらう(借り手形)。これを銀行で割り引く。商売相手には期日に金を払って決済する。
 2)資金繰りに困った同士が互いに同金額の手形を相手に振り出す(書き合い手形)。これをそれぞれの銀行に持ち込んで割り引いてもらうというもの。期日には別途資金を調達して決済する。
 3)金融業者が間に入った形での金融手形。この場合、金融業者は資金繰りに困った企業に対して自身を支払い人とする手形を振り出す。企業はこれを銀行に持ち込んで割り引いてもらい、金融業者には金を払って決済する。
 銀行にとって、これらの融通手形は資金繰りが苦しい企業が振り出すもので、不良化しやすいので、本来避けるべきものとされている。
寺田欣司 前掲書 pp.181-184.  

The Art of Accounting
goodwillbooking at inflatd prices
accounts payablesputting off paying bills
accounts receivablesrecording payments from customers who likely won't pay
Business Week, Nov.2, 2009, 26.

 そして逆粉飾は以上の逆であり利益の圧縮をする行為。売上を少なく計上する。単純には隠す行為。在庫の過大評価をはじめ、費用計上方法の変更など費用を過大に計上すること。このときに縁故先や関連企業を相手方にした取引の形をとることがある。たとえば架空の業務委託。また仲介料やリベートの代わりに、仕事の委託(実態の仕事がない架空委託、名目としては仲介手数料あるいは輸送原価)の形をとりそれが経費の上乗せとなることもある。

なお英語ではwindow dressing(fluffing the pillows;cooking the books;massaging the numbers)だと日本ではされている。それで間違いではないが個人的にはfraudulent accountingといった表現の方が好きである。window dressingは、そもそも言葉通り、窓周辺の装飾を意味することがあり、投資用語としては、mutual fundsを売りだすときに、悪い株を処分していい株に差し替えて涼しい顔で取り繕うことを意味することもある。おそらくwindow dressingという言い方がやや古めかしいのである。
粉飾決算の上品な言い方としてcreative accountingという言い方もある。

 記憶されるべきなのは、このように様々な意味で歪んだ会計数値をもとに、企業分析をせざるを得ないということである。
「いくら数字を精緻に分析してみても、それが粉飾に基づいた数字ならば、間違った結論しか出てこない。」「そもそも企業の決算書は間違いだらけ。」「粉飾にだまされないために必要なのは、支店長や担当者が顧客のもとに足しげく通うことに尽きる。」「銀行員は常日頃、取引先の経営者や財務担当者とよく話をしておく必要がある。」「取引先の会社の雰囲気、働いている従業員の人となり、お金がどう流れているのか、こういったことを詳しく知る必要がある」「若い連中は自分で考えない」「紙と鉛筆で決算書を分析したり、取引先の現場で実体験を積み重ねたりすることが必要だ。」'粉飾決算 感覚を磨かなければ融資はできない'『金融財政事情』2010年8月23日号, pp.54-55.

なお虚偽記載が判明した場合は、過年度の業績の修正を求められるとともに、金融庁などから課徴金の納付を求められたり、影響が重大な場合は上場廃止となる場合もある。2008年度から上場会社は四半期終了後45日以内に四半期決算の開示(貸借対照表、損益計算書、現金収支計算書、監査人による監査)を法律(金融商品取引法)により求められるようになった(取引所では自主ルールで2004年4月から四半期決の開示を求めていた。しかしこれは期限、罰則を伴わないものであるため上場会社の対応はさまざまであった。なお有価証券報告書は提出期限は3ケ月以内である)。
 なおすでに取引所では2003年3月期から継続企業going concernの前提に疑義がある場合の開示(経営継続リスクの開示)は適時開示の対象としている。また四半期決算と同じく上場会社にとって、2008年度からやはり金融商品取引法法定の義務となったものに年1回の内部統制報告書の提出がある。
 このような四半期報告書と内部統制報告書の法定義務化によって、企業経営の透明性が改善した半面、上場企業の負担が増え、新規上場や上場維持のハードルが高くなったとの指摘がある。これが一因になってIPO(新規株式公開)が減りMBO(経営陣参加による自社買収・非上場化)が増えているとの指摘もある。

リスク企業の見極め方
・継続企業の前提に関する注記が付いた企業(監査法人によるお知らせといえる)改善計画の実現可能性
・営業キャッシュフローの赤字化とその継続
・資金繰りのための増資 短期間に何度も繰り返される
・監査法人の交代(意見が対立した可能性)、業績予想の下方修正繰り返す
 
以下を参照
友田信男「取引先企業の倒産予兆の見極め方」『経理情報』No.1270, 2011年1月10日号


Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.25, 2008.
Corrected and reposted in Feb.13, 2013.
 
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