Entrance for Studies in Finance

日本の淡水化技術と水処理ビジネス

海水淡水化そして排水処理
海水淡水化の英訳は、sea water purificationあるいはdesalinationとしておく。  
淡水化量は毎年10%以上のペースで増えており、今後も上昇が続くとみられる。温暖化による渇水や人口増加の問題がある。淡水化の技術として伝統的には蒸発法がある。これは海水を加熱して水に変えるものである。
 海水淡水化が重要であるのは地球上の水資源約14億立方キロメートルのほとんどが海水で淡水は1%未満であること。地球全体では人口増加が進み淡水需要が増加するなか、淡水資源は偏在していること。加えて新興国で淡水の汚染が進行しているなどの問題が背景として知られる。
 現在の主流は膜処理法。逆浸透膜reverse osmosis membrane(RO膜)と呼ばれる微細な穴が多数開いた膜でろ過する。1990年代以降、技術開発が進み処理コストが下がったが、ここで日本の技術が注目されている。
 海水淡水化技術は、原子力発電所や原子力潜水艦などでも使われているが、中東諸国が実際に大規模に活用されている事例として有名である。中東湾岸ではすでに生活・工業用水の8割を海水淡水化で確保するほど、淡水化に依存している。しかも中東地域は急速に人口が増えている。淡水化の巨大設備の建設が相次いでおり排水処理のニーズも高く、水処理ビジネスが活発に展開されている。深刻な環境汚染が伝えられ、産業排水や農業排水の浄化が課題となっている中国も水処理ビジネスの市場として注目されている。
海水淡水化におけるRO膜、排水処理におけるUF膜
逆浸透膜は、高分子化合物の特殊樹脂でつくられ、1ナノ以下の小さな穴(数マイクロナノから数ナノ ナノは10億分の1m マイクロは100万分の1)で海水を真水に変える海水淡水化プラントや排水処理の最終工程で使われる。米国のダウケミカルが最大手。しかし日本勢も強く、日東電工(RO膜で世界2位)、東レ(海水淡水化用RO膜で世界最大手)、東洋紡の日本の3社で世界の半分以上を生産しているとよくいわれる。このほか旭化成は浄水用精密ろ過膜で世界2位。西島製作所は海水淡水化用ポンプで世界シェア上位。三井物産はメキシコ、タイで上下水道運営事業。丸紅は中国や地理で上下水道運営事業。
 半導体の製造工程で大量の純水が必要でそのため水処理膜技術が1980年代の日本で発達することになった。
 海水を真水にするときに使う逆浸透膜はRO膜と呼ばれる。また業界関係者の間では、ナノ単位のフィルターが使われているということからNF膜nanofiltration membraneとも呼ばれている。
 東洋紡は中東(海水温が高く微生物が発生しやすい 東洋紡の製品は塩素への耐性が高く、微生物を塩素殺菌しながら飲料水を作れるとのこと)で50%以上のシェアをもっている。東洋紡は、伊藤忠商事、それにサウジの水処理関連企業と組んで、サウジアラビアのラービグ市にフィルター組みたて工場を建設して2011年3月に生産を始める。また工業排水を飲料水レベルまで浄化できるろ過膜を開発したとされる(2009年6月報道)。
膜式あるいは膜分離式活性汚泥法(MBR:membrane bio reactor)で使われるのはUF膜など廃水処理用膜(技術論文を読むと水質や環境による膜の使い分けが議論されている)。これは高度下水処理で使われるもので、排水中の有機物を微生物で分解しながら、直径o.4マイクロメートルほどの穴を通すもの。下水処理の一般的方式である活性汚泥法に比べて設備スペースが小さくてすむメリットがある。こちらの世界トップは水関連メーカーの買収を進めた米GE。そして世界2位が日本のクボタ。
 このように基幹技術の優秀さの半面、水ビジネスは管理運営のノウハウを含めた総合力が求められている。
 日本は淡水化技術では、世界的に高いシェアをもっているものの、上下水道の運営の受注では、GDFスエズ、ヴェオリア・ウオーター、テムズ・ウオーターなどの海外企業による寡占化が進んでおり(3社で市場の8割を抑えている)、運営にまでいかに食い込むかが課題になっている。米GE、ドイツのシーメンスが活発に買収を進めているほか、2009年には米IBMが水ビジネスへの参入を表明した。
急がれる総合力の強化
 インフラ投資のなかでも、水関連は最大規模の投資が予測されている(2025年に100兆円とも)。飲料水の不足、排水・河川の浄化、下水処理など課題は多い。日本の企業は技術はあるものの総合力が不足しているとされる。
 上下水道の整備は、発電、交通などの整備とともにインフラの整備、その事業はインフラ事業と呼ばれる。新興国の経済成長や人口増加とともに市場の安定した拡大が見込まれている。こうした水ビジネスは現在の60兆円(2005年推計)から2025年には100兆円規模に膨れ上がるとみられる。なお日本自身の水道も水道管の更新が必要で、自治体財政の圧迫・急激な料金引き上げが懸念されている。そこで日本の上下水道についても民間の力の活用やPFIが静かに進んでいる。ただ長期的にこのビジネスに食い込むには、運営面での受注が必要だとされる。
 日本ガイシと富士電機HDが2008年春に水処理事業を統合したり(メタウオーターの発足)、東レが排水処理技術に強い日立プラントと水処理事業で提携したり(2010年2月)、荏原の水処理会社(荏原エンジニアリングサービス)に日揮と三菱商事が出資する(2010年3月)のも、海外企業にならって総合力を強化することで、受注する力を上げようとするもの。水処理の設備の建設から運営までを請け負う総合力、コストを引き下げるうえでは特定メーカーと関係を固定しない柔軟性も求められる。
日本メーカーとしては在原は国内250ケ所で上下水道の運営管理で国内2位(1位は日本ヘルス工業)をてがけており、それは財産だが海外経験にとぼしい。三菱商事は国内20ケ所で上下水道運営管理をてがけるほかフィリピンで大手水道事業者に出資、日揮もシンガポールの水処理大手と組んで中国で海水淡水化事業をすすめている。
 三菱商事 日揮 荏原が合弁による水道事業で合意 2010年2月23日
 三菱商事による豪州水道事業会社買収(2010年5月11日)
 三井物産 ハイフラックス(シンガポール)が合弁で中国の水道事業に参入 2010年8月2日
 注目されているのは、日本の自治体に蓄えられたノウハウである。大阪市がベトナムの国営水道に水質浄化や漏水防止のノウハウを提供、川崎市がオーストラリアで水リサイクルのノウハウを、さらに北九州市がアジア中心に水道の運営管理ノウハウ供与など。こうした自治体のノウハウ提供が、日本企業の受注につながることが期待されている。
 
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Nov.27, 2008.
Corrected and reposted in Oct.21, 2009, Mar.8, 2010 and October 17, 2010.

参考
「日東電工 膜で世界の水不足に挑む」『エコノミスト』2009.10.27, pp.34-35
"Silver threads of life" The Economist, Oct.23, pp.88-89

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