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Entrance for Studies in Finance

経済産業省幹部によるインサイダー取引事件の悪質性

2012年1月12日の逮捕で明らかになった経済産業省幹部(KM氏 東京大学経済学部卒業後1981年通商産業省入省 犯行当時は商務情報政策局担当審議官 その後資源エネルギー庁次長を経て逮捕時は経済産業省官房付)のインサイダー取引事件は、経済産業者の役人がその職務を通じて得た情報で個人の利殖を図ったということだが、過去に同様のインサイダー事件があったにも関わらず、事件防止にかける同省の姿勢の甘さが事件を引き起こしたといえる。本来、インサイダー取引の土壌を絶つためには経済産業省の全職員とその家族に株式取引の自粛を求めるべきであるのに、同省はこの自粛通知をおこたってきた。その姿勢の甘さが、今回の事件の土壌になったといえる。
 これまで行っていたのは2005年に2年間の本人取引の自粛(2005年7月から2007年6月)。その後は、担当する業種の本人取引を禁止。やむを得ず取引した場合は届け出るというもの。そのため家族名義取引は事実上はなんら制約がなく、審議官をこの甘さを利用して妻名義のインサイダー取引をおおっぴらに行っていた。そして事件が表面化したあとも、取引主体は妻だと言いぬけようとした。しかし2011年6月の証券取引等監視委員会の強制調査開始から半年経過後の逮捕は、事件の重要性に鑑みた慎重な裏付け捜査と容疑事実の確定を物語っている。
 この人物は、エルピーダメモリーに改正産業活力再生特別措置法(2009年4月成立)により公的資金を注入救済した計画(2009年6月22日適用申請 6月30日適用認定(適用1号) 日本政策銀行が第三者割当増資で優先株300億円引き受け発表。政策投資銀行と民間銀行による1100億円協調融資など再建計画決まる。2009年9月 協調融資実行 780億円の公募増資もおこなわれ財務基盤強化。 5月の上旬までに経済産業省で内部決定)の立役者の一人。エルピーダの再建計画に深く関与していた。また職務上、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジーの経営統合の情報(2009年4月27日公表 4月上旬報告受ける)を知りうる立場にあった。にもかかわらず、経済産業省の甘い自粛通知を悪用して、妻名義でエルピーダメモリーの株式とNECエレクトロニクスの株式を購入(エルピーダ株の購入は2009年2月から5月。NECエレの購入は統合発表の直前1週間)。1年2ケ月ほどの間に800万を超える利益を上げていた。事実が発覚したあと、この人物は、取引主体は妻であったとか、一般的情報(公知の情報)を利用しただけとか、公表前の重要事実を逐一知りうる立場になかったなどの「言い訳」を行っているようだが、倫理的にも落ちるところまで落ちているとしか形容の余地がない。
 エルピーダは1999年12月 NECと日立がDRAM製造事業を統合して設立。2003年3月に三菱電機の同事業を引き継ぎ国内唯一の専業メーカー。しかし2008年ノリーマンショック後経営不振に陥る。経済産業省は同社の再建を重要案件として位置付けた。
 そもそも経済産業省の自粛通知によれば自身売買できない担当業種の株取引であるから、妻名義にしたことは状況的には明確。
 今回の事件を反省するなら、経済産業省は、その全職員とその家族にすべての株式取引の無期限かつ全面的な自粛を求めるべきだろう(2011年末の再発防止策は当面の自粛にとどまる)。また今回逮捕を受けて、この幹部を即時懲戒解雇するべきだ。経済産業省の役人が自ら立案した産業政策を個人の私腹を肥やすために(私利私欲のために)利用しているとすれば、産業政策に協力したり信頼するものは誰もいなくなるだろう。経済産業省は、その全職員とその家族にすべての株式取引の無期限かつ全面的な自粛を求めるべきだ。

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