Entrance for Studies in Finance

タイの水害の日本企業への影響(被害拡大)について(2011年10月)

Hiroshi Fukumitsu

 タイには日系企業約7000社が進出している(タイの基幹産業は自動車 生産額はGDPの約1割 自動車生産台数で世界で12位 日系メーカーノシェアが約9割 2011年の生産台数は前年比11%減の145万台 しかし2012年には過去最高の200万台見込む タイのコンビニ最大手はセブンイレブン 今回の被災ではタイセコムが被災工場の見回りで活躍)。日本企業はアジアの輸出拠点の中核、リスク分散先の拠点としてこれまでタイを重視してきた。タイについては、政治面での不安定さはあるものの、充実したインフラ(道路など)・産業集積で高い評価が存在した。しかしそのタイで、2011年10月 水害が各地の工業団地におよび日系企業の被害が拡大、注目されている。その結果、中長期では、今回の水害で日本企業によるタイへの投資集中の流れに見直しが入るかも注目される。タイにとっても日本は最大の投資国である。しかし現地の報道をみて驚いたのは、現地の人々(従業員に加えて軍や付近の住民など)が必死になって、工場を守ろうとしている姿だった。結果として工業団地は冠水し、労働者には事前に退避命令が出されるのだが、このようなタイの人たちの努力を見ると、その努力を無にしないためにも、水害後、タイの工場のすみやかな復旧を進むことを期待したい。しかしそれと同時に、こうした水害を再発させない国造りが急がれる。というのもタイの水害は、毎年の恒例行事になっているからだ。タイの水害に示されたような天災への脆弱性は、あるいはほかのアジア諸国にも共通する問題だろう。自社工場は守れても、部品の供給先が被災すれば操業を停止せざるを得ないという問題が、今回の水害でも示された。この水害を機に反省すべきことは多い。タイ証券取引所は1974年の設立 2011年末で545社が上場 時価総額は268億ドル。代表的な株価指数はSET株価指数。メーンボードの全銘柄致傷 時価総額加重平均方式。
 1997年の通貨危機 タイのバーツ安 ⇒ 輸出基地へ
 リスク対策として周辺国からの部品調達拡大が課題

なお水害の拡大は、たまたま新政権発足直後。この政権に与える影響も注目点。
(7月3日に総選挙 タイ貢献党:低所得層・農民が支持が過半数 定数500中264 民主党:富裕層が支持は160にとどまる 8月5日発足 インラック政権 タクシン元首相の実妹のインラック・チナワット 法定最低賃金の引き上げ+法人税率の引き下げ ) 内需主導型経済への転換掲げる(現在は7割を輸出に依存 高い輸出はリスクが大きい)

今回の洪水については 天災と人災之複合が指摘されている。今回7月中旬から長期にわたる洪水 天災とされるのは、降雨量は例年の1.4倍 ダムが放流量増やす チャオプラヤ川下流で水害拡大 過去50年で最悪の洪水。でも昨年も過去数10年で最悪の洪水といっていた。See Reuters News Oct.27, 2010 つまり水害が常態化しているようだ。 今回は工業団地に被害が及んだことが特徴的で、防水堤が破られたことは衝撃的だったのではないか。
人災というのは、2006年の軍事クーデターでのタクシン(2005年6月に閣議決定したインフラ整備事業のなかで治水計画を立案)失脚以降 治水計画進まなかったこと 森林破壊(1961年には国土の51%が森林。しかし1985年には28%に低下。現在はカンボジアやミヤンマーで猛烈な勢いで森林が消えている。カンボジアでは年20万ha ミヤンマーで年40万haの勢いとも。)なども背景ともされる。

日本企業の被害の特徴:東日本大震災と同様に直接の浸水被害がなくても、部品供給の途絶などサプライチェーンの寸断により操業停止に追い込まれた。部品メーカーの集積度の高さ(効率性の高さ)が被害の拡大につながることが示された。なお幹線道路も寸断されており、う回路も渋滞なども生じた。

洪水のタイ経済自体への影響:産業界に大きな打撃。8月上旬に発足して間もないインラック政権に試練。また発足直後のインラック政権に課題:賃上げやコメ高値買取など人気とりでなく治水事業を求める声が高まろう。

2011年10月4日以降の経緯
 10月4日 サハラタナナコン工業団地(中小メーカーが入っている)が最初に浸水(丸順 芝浦電子 カルピスなど)
 10月4日  ホンダ アユタヤ ロジャナ工業団地に4輪車工場(年産24万台) 部品調達難で操業停止
 10月6日  ニコン 主力工場が浸水で操業停止 一眼レフの9割以上 レンズの6割以上を生産
       ⇒ 年末商戦に向け影響必至
       ⇒ 生産集中のリスクの露呈
 10月7日 ハイテク工業団地(中部アユタヤ県 キャノン HOYA ソニー 味の素など100社近い日系企業が入居) 浸水の恐れから事実上閉鎖
 10月7日 政府 米の高値買い上げ開始 従来に比べ4割高値で買い上げ 市場価格を押し上げか すでに7月上旬からの豪雨で 5月に比べ品種によっては35%程度上昇していた。⇒ 農家の収入を増やす半面 カンボジア ベトナムに米輸出のシェアを奪われるとの指摘もあり
 10月9日 バンコクの北70キロ ロジャナ工業団地(ホンダ ニコン パイオニア フジクラ 日立金属 OKI TDK 日本電産 ケーヒンなど日系企業135社が入居)(日本通運や近鉄エクスプレスの倉庫が浸水) 6.5mの防水壁乗り越え浸水(団地内 水位は最大で4M超 なお1M超上昇する見込み) 退避命令 被害は拡大 操業停止長期化 雨季の10月中の排水は困難 日本電産ではHDD用モーター工場などが被災 日東電工では工業用テープ生産工場が被災 東北パイオニアは車載用オーデイオ部品の工場が浸水により操業を全面停止
フジクラ:フジクラはスマートフォンなどに使われるフレキシブル・プリント基盤で世界3位(前工程の生産がタイに集中)
 ホンダ:シビックやシティを生産(設備の大幅な入れ替え必要 工場の再稼働は来年春か)
 ローム:ナワナコン(ロジャナから南に25キロ)にも工場。各種電源用IC カーオーデイオあるいはカーナビゲーション向け制御用LSIを生産 ⇒ 電子部品の不足 日本の自動車メーカーの生産に影響(東日本大震災時のルネサスの被災で車用のマイコンが不足した問題に似ている)
 10月9日 ホンダ 自社工場も浸水
 10月10日 トヨタ タイ工場操業休止(工場は3ケ所 2010年には世界生産の8% 63万台を生産)
 10月11日 ホンダ バンコクの2輪車工場のラインを停止 治水対策・部品不足
 10月11日 いすず自動車 操業停止
 10月11日 ソニー ハイテク工業団地にあるデジタルカメラ工場(レンズ交換式ミラーレス 一眼デジカメのほぼ全量を生産)の操業を停止→11月11日予定の新製品の発売開始は延期か
 10月11日 トヨタ タイ東部 タイ国内3工場(年産能力62万台)の操業の全面停止を公表
      中部アユタヤ県の2工業団地浸水で部品供給途絶
 10月12日 パナソニックのバンコク近郊の工場(冷蔵庫向け熱交換機を生産)が操業停止
 10月12日 中部アユタヤのハイテク工業団地(キャノン HOYA ソニー 味の素など100社近い日系企業が入居)(日本通運の倉庫も浸水) 防水壁破損 浸水
 10月13日 プロードプラソプ科学技術相がチョプラヤ川の防水堤が決壊したとしてバンコク北部等一部地域に避難警報をテレビ会見を通じ発令 → その後 プラチャ法相が政府は警報を発令していないと警報を取り消す
 Thailand floods threaten Bangkok, Oct.13, 2011 
 10月13日夜 三菱自動車 部品不足のため 完成車工場(チョンブリ県)の操業を停止
 10月14日 古河電気工業 ロジャナ工業団地にある光アンプ用レーザーの工場が浸水被害を受けたと発表。光ファイバー通信の安定を保つのに欠かせない部品でタイだけで生産。
 10月14日 バンガデイ工業団地でソニー SGホールデイングス 日本電産 東芝などが操業停止(操業停止要請による)
 10月14日 日野自動車 操業停止
 10月14日 タイ中央銀行は経済損失が1000億バーツ(2500億円)に達しさらに膨らむ恐れと発表。
 10月14日夜 バンパイン工業団地(中部アユタヤ県 入居84社 米ウエスタンデジタルほか 日系は30社 日本電産 帝人 明電舎 など)の防水堤壊れ浸水始まる 日本電産ではHDD(ハードデイスク駆動装置)の外装(トップカバー)の生産工場が被災 ウエスタンデジタルはHDD大手(世界シェア3割) 同社生産の6割占める中核工場が被災 そのほかのメーカーと合わせ世界のHDDの半分hタイで生産。
 ウエスタンデジタル:同社の生産の6割を占める主力工場が被災(被災前の生産能力に戻るには半年かかる。)⇒ノートパソコン 録画再生機 カーナビなどに影響
 10月15日朝 中部アユタヤ バンパイン工業団地全域が冠水(水位最大で1M)
 10月15日深夜 ファクトリー工業団地 防水堤壊れ水の侵入始まる


10月16日 ファクトリーランド工業団地(中部アユタヤ県 日系含む中小メーカーが入居)が冠水(中部アユタヤ県では県内の5主要工業団地すべてが冠水 300社を超す日系企業が被災)
10月17日朝 ナワナコン工業団地(バンコク北郊外パトムタニ県 東芝 パナソニック NEC等日系104社が入居)(郵船ロジステイクスの倉庫が操業停止)で防水堤壊れ浸水始まる
Floods force workers from Thai factory park, Associated Press, Oct.17, 2011
 10月17日 財務省 今回の水害被害はGDPを最大1.7%押し下げ(1%-1.7%)と発表
 10月17日 政府と労使が2012年1月に予定していた法定賃金引き上げの3ケ月引き上げ 引き上げ率の圧縮で合意(1日159-221バーツから300バーツを 一律40%に圧縮)(賃金の急上昇には企業業績の悪化による株式相場冷え込みをもたらし インフレとバーツ高を加速する懸念が指摘されていた)(→ 法人税の引き下げ案 現在30% 2012年23% 2013年20%に引き下げをどうするかは報道がない。)
 10月18日午後 ナワナコン団地 全域が冠水(最大2M)
Japanese factory flood in Thailand, Oct.18, 2011
 10月18日 マツダ フォードとの合弁工場を19日から操業停止へ。
 10月18日 ミネベア(現在は4工場が停止) アユタヤの2工場の操業を20日から部分再開。
 10月19日 ホンダ バンコク北部のラッカバン工業団地(日系企業49社が入居)にある工場での二輪車の生産を再開
 10月19日 バンコク(人口1200万人 GDPの25%を占める)の都知事が、バンコク東部地区に浸水の可能性を認めて住民に避難準備を求める
 10月19日 タイ中央銀行は利上げ見送りを決定(政策金利 翌日物レぽ金利を年3.5%に据え置き 2010年12月以来2011年8月まで7回連続利上げで消費者物価上昇率を抑え込んできたが 世界景気の減速 国内の深刻な洪水被害に配慮 6月7月8月は連続して0.25%ずつ引き上げ2.75%から3.50%に。)
 10月19日 アイシン精機 パントムタニ県の工場(エンジン部品を製造)で浸水を確認 操業停止
 10月19日 三菱ふそうトラックバスの工場は19日午前操業停止
      日産自動車は操業停止期間を28日までと決めた(同社工場は被害を受けていないが部品供給が困難)。
 10月20日 ソニー 11月11日に予定していたデジタル一眼カメラ7の発売日を未定に変更
 10月20日 タイ政府の発表によれば同日までに洪水による死者は330人に達した。
 10月20日夕方 インラック首相はバンコク市内の水門の開放(水門の閉鎖は北部の被害拡大や北部で水が引かない原因になっている)を指示。
 10月21日 ソニー バンカデイー工業団地にあるソニーの半導体工場屋内に浸水始まる 
 10月21日(土) バンコク北部で一部が浸水
 10月21日(土) 災害予防緩和法により首相が全指揮権を掌握(野党の民主党出身のスクムパンバンコク都知事は政府命令に反して運河の水門すべての開放を拒否)
 10月21日(土) HOYA(メガネレンズで国内で40% 海外で10%のシェア)(タイから世界に輸出していた) パトムタニ県にあるメガネレンズの主力工場を生産停止
 10月21日(土) 三菱自動車 チョンブリ県にある4輪車工場の操業を来週24日から29日までも操業停止とした。
      トヨタ 完成車3工場の稼働停止を28日までに延長することを決定。 
 10月22日 日系企業被害拡大のおそれ(Reuters News)
 10月22日(日)夕刻 バンコク 中心部の防水堤の一部が決壊 都心部の一部で浸水
 10月24日(火) 日本の外務省はタイバンコクへの危険情報を「十分注意」から「渡航の是非を検討」に引き上げ
10月25日午後7時 国内便に使われているDon Mueang空港の閉鎖が宣言された。
 10月24日 トヨタ自動車 タイ洪水の影響で日本国内の工場で残業をなくすなど生産調整 10月24日から28日まで トヨタ本体の4工場 グループ会社5社の工場
 10月26日(木) 三越伊勢丹HDはバンコク伊勢丹を27日ー31日休業すると一度発表。しかしその後、洪水の影響を見極めると修正。
10月28日(土) バンコクの水害は今週末に山場を迎えると思われる。
 10月26日(木) トヨタ自動車 タイ洪水の影響で北米で4工場の10月29日午前の操業停止を発表
 10月26日(木) トヨタ自動車 タイ洪水の影響で一部の部品在庫が月内にも切れる見通し公表(生産調整長期化か)
 10月28日(土) タイ中央銀行による経済見通し(7月から変更)
      2011年実質経済成長率 4.1% → 2.5%
2012年         4.2% → 4.1%

始まった操業正常化(2011年11月中旬)
11月7日
 東芝 冷蔵庫と電子レンジの生産をタイ東芝電子工業社(ノンタブリ県)で一部操業再開

11月14日操業再開
 三菱自動車(部品不足で10月20日から完全停止。14日初日からフル操業 想定を上回る早期回復) 日産自動車(一部車種から) マツダ(フォードとの合弁工場 21日からフル操業へ) 日野自動車
 早期復旧のカギ 部品共通化・設計共通化(車種車台共通化 代替ききやすい)(部品の代替 品質評価 搬送ルート決定)
11月21日操業再開
 トヨタ自動車(タイに3つの完成車工場 56秒に1台生産 豊田市にある堤工場なみの最速工場 全世界で工場約50あるなかで)
トヨタ自動車(最悪シナリオ回避)
 11月21日 タイの工場再開(完成車3工場 部品調達停滞により10月10日より停止 日本から代替調達 12月中旬めどに正常化) 日本の工場も通常稼働に戻る 19日までの影響台数はタイを中心に約19万台

 いすず自動車 

スズキ
 12月1日 タイの二輪車工場の操業を再開(部品調達停滞により10月12日より稼働停止 少しずつ操業度引き上げる予定)

ホンダ(ロジャナ工業団地 11月7日排水開始)が再開できていない
 10月4日操業停止。浸水被害受けた四輪車は復旧のメドつかず 排水作業は12月までかかり生産再開は2012年春か 日系8社のうち自社工場が浸水したのはホンダだけ 2012年4月再開方針 排水後 機械の入れ替え必要) 部品不足の影響で国内 マレーシア フィリピン 北米 ブラジルなど世界各地の工場に影響
 11月14日二輪車の一部モデルについて生産再開

日本電産(タイでHDD用モータの6割を生産 中国 フィリッピンなどで代替生産)
 11月14日 タイ国内で工場を借りて代替生産開始
 11月22日 ロジャナ工業団地の部品工場(10月8日に浸水 浸水しなかった2階部分)の操業を再開
 12月1日 最大のロジャナ工場が復旧(バンガデイ工場は復旧準備中)
 12月9日 中部アユタナ・バンパイン工業団地にあるHDD用小型精密モーター部品工場が生産再開(残る3工場もタイ内の他地区などで代替生産中)
12月15日 ロジャナ工業団地内電力供給回復(タイ国営電力公社より融通 団地内の火力発電所の復旧は2012年夏)

ローム(ロジャナ工業団地 自動車向け半導体) 稼働・生産回復は来春か。
 ナワナコンとロジャナに工場。12月に復旧。2012年2月のフル稼働目指す。フィリッピン・韓国の自社工場 国内の協力工場に代替生産を依頼。
 11月27日までに ナワナコン工場(パトムタニ県)で浸水免れた2-3階で生産再開 自動車用のLSI トランジスタなど電子部品
ロジャナ工場(家電向け電子部品生産)の生産再開準備進める

ニコン(ロジャナ工業団地)11月中にも水抜き作業完了。
 2011年11月末 タイ国内の協力工場でデジタル一眼レフカメラ(全体の9割をタイで生産)の代替生産開始
 2012年1月 部分再開
 2012年3月末 通常生産体制に復旧予定

タイ洪水の年末商戦への影響
ソニー ニコン キャノンの一眼レフが品薄に。キャノンのインクジェットプリンターも。洪水の影響を受けなかったセイコーエプソン売れる(エプソンはタイでの販売が減り 部品不足の影響も受けるとしている)。シャ-プのレンジ。東芝洗濯機。にも不足機種が。
  

水につかった機械は制御部分の故障 本体にサビが発生する。工場で化学物質が溶け出し 部品交換 大がかりな修繕も必要。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Oct.22, 2011
Corrected and reposted in Nov.28, 2011 and Dec.16, 2011

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