Entrance for Studies in Finance

EU首脳会議 包括戦略 秩序だったデフォルトで合意(2011年)

EU首脳会議 包括戦略 秩序だったデフォルトで合意(2011年10月27日)
解決の道が見えないユーロ問題
  自動調節作用のない域内固定相場のユーロ(1999年11ケ国で導入)の矛盾
 →経済の弱い国の破たん
  国債を保有する金融機関の破たん → 欧州全体の混乱
  政治・財政の統合の前に通貨だけを統合したこと自体が誤りだったのでは
  結果として重くなるECBの立場と責任
key words: contagion and orderly defaults
田坂圭子「欧州銀行バランスシート収縮は2兆ユーロにも」『金融財政事情』2011年10月31日, pp.68-73によると、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルクなど一部の国を除くとユーロ圏の銀行は預貸率が100%を超える。つまり市場性資金を借り入れ長期投資を行う構造。その中身として米国あるは英国の銀行(非ユーロ圏の銀行)からの与信が大きい。またいずれの国も銀行部門の総資産規模がGDPの2倍から4倍といった規模(イタリア2.5倍 ドイツ3.2倍 フランス4.1倍など)にあり、銀行部門の存在が与える影響が大きい。資本の増強を急ぎユーロ圏の銀行の信用を回復することが急がれる。

ギリシア支援から問題は波及拡大
 2001年にユーロ導入。低金利借入 企業も政府も。
 2010年5月 EU 12兆円の支援を決定(ユーロ諸国 ECB IMFが3年間で1100億ユーロの支援で合意 さらに総額7500億ユーロの金融支援策で合意)=いわゆる一次支援
 2011年4月 ECB(欧州中央銀行) 0.25%の利上げ(2年9ケ月ぶり)実施
 2011年5月 ECB 金利引き上げず(4月のユーロ圏消費者物価指数は前年同月比2.8%上昇) ギリシャの国債利回りは15%超える
他方 7月に入り スペイン イタリアの国債利回りが急上昇
ギリシャからスペイン イタリアに波及する第一のコンテイジョンcontagion=伝染問題
→ ユーロ共同債導入論
→ 独仏は反対 ⇔ 個々の国の財政規律低下するのではないか
キプロスへの危機波及がささやかれる

2011年7月21日 ユーロ圏首脳会議 ギリシャ2次金融支援で合意
2011年7月 総額1600億ユーロ:18兆円規模の追加支援(第二次金融支援)決定(7月21日欧州首脳会議)→公務員の既得権剥奪 年金改革 増税等は困難 緊縮財政は経済を下振れさせる可能性大きく 今後の財政改善の展望は見通し困難       
       格付け会社がデフォルト宣言したときにEU(欧州連合)がギリシャ国債を保証し
       ECB(欧州中央銀行)がひき続きギリシャ国債担保に資金供給できることに
   欧州金融安定基金EFSFに国債買い入れなど新たな機能を持たせる(機能の拡充)方針でユーロ圏首脳が一致
    国債を購入
    域内銀行の公的資金注注入に活用
    資金繰りが懸念される国への予防的融資
2011年7月22日 フィッチが2次金融支援の発動をデフォルトとみなすとの見解示す
   7月25日 ムーディーズが2次金融支援の発動をデフォルトとみなすとの見解を発表 ギリシャの債務格付けを3段階引き下げCa(CC相当)
ギリシャのデフォルトによりフランスやドイツの大手金融機関の経営がゆらぐという第二のコンテイジョン=伝染問題  
7月27日 ムーデイズがキプロス政府債務格付けをBaa1(triple B+)に2段階引き下げ
7月29日 ムーデイズがスペインの格付けをAa2から引き下げ方向で見直すと発表

ECBによる国債購入が再開されるも状況は悪化 (2011年8月) 
8月4日  日銀金融政策決定会合 追加金融緩和を決定 円売り介入 資産買い入れ
基金の規模を10兆円拡大して50兆円に
8月4日  ECBが3月以来の国債購入に踏み切る(再開したことを示唆) 対象はアイルランドとポルトガルの国債
     7月に3ケ月ぶりに0.25%引き上げた政策金利1.5%は据え置き
     EUのバローゾ委員長が欧州金融安定基金EFSFの再強化(当初の2500億ユーロから4400億ユーロに引き上げる方針は決定済み)を訴える書簡をEU各国に書簡
8月5日夜 イタリア ベルルスコーニ首相が財政再建前倒しを表明
8月8日(月)  ECBがイタリアとスペインの国債購入に踏み切る(前週末6%超えの利回りは5.3%前後にまで急落)
8月11日 フランス イタリア スペイン ベルギーは金融株空売りを12日から15日間禁止した
8月15日(月) ECBの先週1週間の国債購入は220億ユーロ(2.4兆円)に達したことが明らかになった
8月16日(火) 独仏首脳会談(メルケルーサルコジ)は具体策を提示できず
     →国内世論への配慮から具体策出せず
     →リーダシップ欠く
     共同債構想(イタリア トレモンティ財務相らの提案) 即刻導入を否定
     欧州安定基金の規模か拡大(バローゾ欧州委員長の提案)も否定
     域内の規律を強める中期の改革(ユーロ圏首脳会議の定例化 憲法に財政規律を明記 金融取引税の導入 法人税の一本化など)を前面に出す

ギリシャのデフォルト宣言を見込む最悪の状況(2011年9月)
9月2日(金) ギリシャ政府 GDPの落ち込み幅予想の3.5%を上回り5%にまで拡大しそう(⇒税収の伸び悩み) 赤字削減目標は困難と発表 南欧財政への不信が拡大する
9月6日(火) ギリシャでゼネスト
9月6日(火) スイス国立銀行は1ユーロ 1.20スイスフランを上限として目標達成まで無制限で介入決める(スイスフラン急騰を受けた措置)日本の株価は大震災後の最安値(3月15日 8605.15円)を下回り8600円割れ(8590.57円)2年4ケ月ぶりの安値水準
9月7日(水) 日銀金融政策決定会合 政策金利を0.0-0.1%とするゼロ金利政策の継続 資産買い入れ基金の50兆円規模の据え置き 金融政策の現状維持を決定
9月7日(水) ギリシャ国債10年物利回り 一時20%超える イタリアは5.3%程度
9月9日(金) 欧州中央銀行でシュタルク専務理事が退任の意向示す 国債購入策への不満か
9月9日(金) G7(フランス マルセイユ) 欧州の財政再建・金融市場の安定への決意を再確認して閉幕(欧州不安を抑える具体策に踏み込まず) 各国中央銀行は市場に潤沢な資金供給続ける(財政支出の余地に乏しく 金融政策による刺激策出つくす
 新興国はインフレ不安)⇒ 具体策描けず

    米日では株安・債券高(国債に資金集中)⇒長期金利低下
9月12日(月) レスラードイツ副首相がドイツの新聞で「秩序だった国家破産の道を用意すべきだ」と発言
9月12日(月) ギリシャ政府 追加的財政再建策発表 不動産税の増税など 赤字削減目標の達成示す姿勢示すが 税収確保は危ぶまれ不安残る 懸念される第1次金融支援1100億ユーロの着実な実行 ギリシャ政府の発表は第一次金融支援継続の形式的条件を整えたがその実行可能性を疑われる展開 すでに誰もがギリシャのデフォルトを確信する展開に陥った デフォルト宣言とともに世界経済は大きな混乱が予想される
  これで第六弾の追加融資80億ユーロは実行か。
  第七弾融資50億ユーロは大丈夫か。
  来年の2次融資にたどりつけるか(フィンランドが担保を要求)。
  2011年の財政赤字をGDP比で約7.5%に圧縮するとの目標⇒市場ではデフォルト説高まる 資金繰りは10月まで。
   ⇒ デフォルト宣言近い
9月13日(火) ギリシャ2年物国債利回りは80%台後半に一時上昇(1年物)は100%超える 市場はギリシャのデフォルトをすでに見込む
     イタリア10年物国債利回り 一時5.7%に上昇  
9月14日(水)夕方 メルケル サルコジ パパンドレウ 3者会談 対ギリシャ 赤字削減要求 ギリシャは約束の履行を述べ ギリシャのユーロ圏離脱を否定
9月15日(木) 日米欧の主要中央銀行(欧州中央銀行 イングランド銀行 スイス国立銀行 日本銀行 米連邦準備制度理事会)が声明 10月 11月 12月に各1回 固定金利 担保があれば無制限に 3ケ月のドル資金を無制限に供給
9月16日(金)ー17日(土) 欧州連合 非公式財務相会議 対ギリシャの10月融資実行では一致 政策余地乏しく新たな対策打ち出せず
9月19日 S&Pはイタリアの国債の格付けを1段階引き下げAとした。A+→A(日本はAA-)
9月19日ー20日 EUとIMF ギリシャ政府と金融支援の継続について電話協議
9月22日 ワシントンでG20財務相中央銀行総裁会議
     仏独は投機抑制(商品市場の規制強化)金融取引課税導入を提案
9月27日 ギリシアのパパンドレウ首相 ベルリンでメルケル首相と会談 財政再建努力を説明 メルケル 支援を約束
9月29日 ドイツ連邦議会 EFSFの機能拡充に関する採決

欧州連合 包括戦略 秩序だったデフォルトを選択 2011年10月
10月2日 ギリシャ政府が2011年の財政赤字がGDP比8.5%に達すると発表 EUとの約束(7.5%)を1%上回る 経済成長率ガマイナス5.5%となるため
10月3日 ユーロ17ケ国財務相会議 EFSFの規模拡大で合意 政府保証枠を増やさず実質的に融資能力を増やす(国債購入の損失を保証するなど)
10月4日 Moodys イタリア之長期債務格付けをAa2からA2に3段階引き下げ(格付け変更は2002年9月にAa3からAa2に引き上げて以来
10月4日 フランスとベルギーの金融当局 デクシア(ギリシア イタリア スペイン ポルトガルなど重債務国の国債を中核的自己資本を上回って保有⇒程度の差はあるが欧州銀行に共通した問題 アイルランド含むPIIGS国債保有比率 対中核的自己資本の比率 独コメルツで64.9% BNPパリバで64.2%)に公的保証を与えるなど救済措置に踏み切る方針決定 バッドバンク設立か
10月6日 欧州中央銀行における銀行の預金 2290億ユーロ(23兆5000億円)まで積み上がる
10月7日 Moodys ベルギーの政府格付けをAa1から引き下げ方向で見直す
10月10日 フランスベルギー系大手銀行デクシアを解体 不良資産を切り離すなど総額10兆円規模の救済策決まる
     デクシアは2008年ノリーマン破たん後ゆきつまり フランスベルギールクセンブルグ3ケ国から公的支援受ける
     今回は保有するギリシャ国債の評価損から経営悪化の懸念 株価下落 4日にはベルギーフランス両国が資金繰りで公的支援を決めた
10月11日 EUとIMF ギリシャ政府と同国の財政・経済政策で合意。3万人の公務員削減・不動産関連増税等の財政再建努力を評価。11月に第6段融資80億ユーロ実行へ。
10月14日ー15日 パリでG20財務相中央銀行総裁会議 日本政府 欧州金融安定基金債の追加購入を表明
10月19日 欧州中央銀行 フランクフルトでトリシェ総裁退任式 同じ場所で独仏首脳会議
10月19日 ギリシャ議会 追加的な財政赤字削減策を定めた基本法案を可決
10月20日 EU加盟27ケ国 域内銀行の資本増強で基本合意 5%を9% 今後6-9ケ月以内
10月22日 EU財務相理事会(27ケ国) 
欧州銀行の大幅な資本増強を進める方針で一致 最大1000億ユーロ(10兆6000億円)狭義の自己資本で9% 前提は厳格な資産査定
7月の査定では普通株と内部留保で5%を基準 今回は9%に引き上げ
ギリシャ イタリア スペインの国債下落 ドイツ国債値上がり など厳格に反映評価
自力、各国政府、EFSFの3段階 対象は約90行
民間負担21%(7月の2次支援)から5-6割に引き上げる案でユーロ圏17ケ国で調整。
 ⇔ CDSの支払いが増え保険を引き受けた金融機関破たんリスク高まるかも
欧州金融安定基金EFSF 特別目的会社方式と債務保証の拡大とで実質的に規模拡大
10月23日 欧州首脳会議 17ケ国首脳会議 
包括戦略で大枠合意 → 焦点はギリシャに次ぐ公的債務(GDP比120%)を抱えるイタリアに
欧州銀行の資本増強規模は1000億ー1100億ユーロ(ギリシャ アイルランド ポルトガルの銀行が約460億ユーロ フランス ドイツなどそれ以外の銀行が600億ユーロ程度)
10月24日 イタリア 臨時閣議 財政再建策を協議 年金支給開始年齢引き上げ 国有不動産・国有企業株の売却 など 年金改革に合意できず
10月26日 ドイツ連邦議会 欧州安定基金強化に関する採決
10月26日 欧州首脳会議「包括戦略」決定 
欧州金融安定基金EFSFの規模を実質的に拡大するために国際通貨基金や政府系ファンドに協力を求める方針
銀行自己資本9%で合意 期限2012年6月末
また資金繰りを支援 ECBによる短期資金供給 政府保証 ECBによる社債発行支援
貸付債権売却など資産売却などドル資金入手、あるいは資産圧縮の動き広がる
銀行のCDS保証料率が高水準
10月27日未明 欧州連合による金融安定のための包括合意して閉幕
民間負担の拡大
ギリシャ債務の大幅再編(秩序だったデフォルト 50%の削減に応じる(EU側が60%に対し民間銀行側は40%を主張
最後は国際金融協会IIFを説得) 減免額は約1000億ユーロ 自発的に応じるところがミソ(全員が応られるかは疑問) 強制であればCDS支払い
民間負担の割合拡大 7月に21%カット受け入れ)⇒とくにギリシャの金融機関に大きな影響
金融機関の自己資本強化(5%から9%に引き上げて実施)
銀行の自己資本増強 大手銀行に対して来年2012年6月末までに総額1000億ユーロ(主要70行で1060億ユーロ) 現在5%のコア自己資本比率tier1を来年6月末までに9%に引き上げる(欧州は銀行資産がGDPに占める比率が高いので影響大きい)
欧州金融安定基金EFSFの拡充 融資能力総額4400億ユーロを実質1兆ユーロ規模に拡大(具体策未定)
  EFSFの4400億ユーロを元手 使途確定分あり使えるのは2500-3000億ユーロ これを外部資金で5倍増やす
  民間投資 IMF 政府系ファンド など外部資金を使って 対応力高める
  ⇒ 資金が集まるか 1兆ユーロで足りるか 中国はEFSFの損失補てんに条件をつけたとも(最初の20%の損失に責任もつ)
過去のストレステストとの違い



2010/072011/072011/10
対象909090程度
銀行数7870
総額35億ユーロ25億ユーロ1060億ユーロ

 2011年7月の査定では資本不足は8行で総額25億ユーロだった(8行は年内 ギリギり合格の16行は2012年4月までに資本増強の計画だった)。ところが合格したはずのデクシアが破たん。査定の信ぴょう性が疑われる事態に。問題。
 データが2010年末時点のもので古かった。
 南欧の国債の価格下落を全面的に反映していなかった。など

(11月1日 欧州中央銀行総裁にイタリア中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏が就任)
(11月3日-4日 フランス・カンヌでG20首脳会議)

デフォルトそして秩序だったデフォルトorderly defaultsについて
デフォルトとは、契約に定められた期日に元本あるいは利息の支払いが履行されないこと(格付け機関の見解)である。
しかし今回 ギリシャのケースで明らかなようにデフォルトには不履行の範囲について債権者が合意する
秩序だったデフォルトも存在する。

      突然の支払い(返済)停止宣言moratorium, uncontrolled defaults
      債権者の合意による元本削減
      債権者の合意による金利減免あるいは返済猶予
      合意があっても格付け機関はdefaultと判断する方針(その影響は未知数)。
      合意の上のデフォルト 秩序だったデフォルトorderly defaults, controlled defaults
      どこまでをCDS行使の条件とするか(あいまいであった)credit default swap
債権者の合意のところまでdefault(行使条件)とすると CDSを引き受けた金融機関の破たんが
      懸念されたので 今回 債権者が合意したときは CDSの行使条件としない合意が
      成立する見込み
      すでに存在したものとしてDDS DESで債権者に不利なものも
      秩序だったデフォルトの一種といえるのではないか。

 この秩序だったデフォルトでは、民間部門が損失を負担していること。そしていざというときのために購入しておいた
CDSが発動されない。銀行に負担をしわ寄せする結果となっている。


民間部門に損失の一部を負担させる仕組みPSI:private sector involvementと呼ばれている。
orderly default
以下の松井謙一郎さんの原稿は、この問題がアルゼンチンの破たんのケースでも議論されているとして3つの問題を挙げている。
すなわち
1)ソブリン債務のリストラsoverign debt restructuring
2)民間部門の損失負担、つまり民間部門の関与private sector involvement(いわゆる投資家の自己責任による負担)。
ただしこれは銀行の資産圧縮さらに景気悪化につながる可能性がある。
3)最後に破たん時の意思決定の方法をあらかじめ定めておく集団行動条項collective active clause
このような問題がアルゼンチンのデフォルトに始まることについては以下を参照。松井謙一郎
アルゼンチンについて

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Sept.8, 2011
corrected and reposted in December 12, 2011

このあとの展開
2011年12月9日 EU首脳会議 財政規律強化のための新条約づくりで合意
2012年1月13日 S&P ユーロ圏9ケ国を格下げ
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